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第807話

Auteur: 風羽
慕美は一度、必死に身を捩った。

だが、男女の距離というものは――抗えば抗うほど、かえって余計な熱を生む。

震える声で、彼女は押し出すように言った。

「離して」

もちろん、澪安が手放すはずもない。

ようやく捕まえた相手だ。

腕に抱き込んだ瞬間、彼は自覚した――自分は彼女が欲しくて、気が狂いそうなくらい恋しかった。

触れたい、感じたい、聞きたい。

そんな飢えた本能が、喉奥で低く唸る。

彼はそっと耳元へ唇を寄せ、抑えきれない欲望を、我慢も理性も忘れた声音で囁いた。

男という生き物は、こういうとき妙に雄弁になる。

慕美は唇を噛み、聞くたび頬が熱く染まる。

心臓は落ち着かず、指先まで震えてしまう。

短い時間の身体の攻防だけで、澪安はすでに臨界点近く。

欲望は理性を押し流しそうになっていた。

だが、思い出してしまうのだ。

二人は喧嘩したままだ。

だから彼は、ぎりぎりのところで体裁を取り戻す。

耳に触れる距離で、甘く低く求める。

「いいだろ?なぁ、いいって言えよ」

「だめ」

声は震え、拒否の言葉なのに、どこか弱く揺れている。

だが、この状況で「ダメ」が通じ
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