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第4話

Author: 招福すずね
私が「家出をして、男と逃げた」という話は、母と蒼真の胸に刺さった棘になった。

母の私への罵りは、日に日にひどくなっていった。

ある日、彼女は私の部屋へ乗り込み、正気を失ったように、持ち物を次々と廊下へ放り出した。

「出ていきなさい!全部、家から出してやる!私にこんな娘はいない!」

服も、本も、アルバムも、乱暴にごみ袋へ押し込まれていく。

蒼真は暗い顔で、部屋の入口に立っていた。

止めようとはしなかった。その沈黙は、母への同意と同じだった。

小春は母の後ろで、心にもない言葉を口にした。

「おばさん、やめて。全部、日和さんの大切なものだよ……」

「日和なんて、もう知らない!私に娘はいない!」

母は目を真っ赤にして、小春を指さした。

「これからは、あなたが私の娘よ」

小春の瞳に歓喜が走った。けれどそれは、すぐに悲しげな表情の奥へ隠された。

「おばさん……」

母の手が、淡いピンク色のフォトフレームの前で止まった。

私が18歳の誕生日に、蒼真と撮った一枚きりのプリクラが入っている。

頬を寄せ合って、二人とも馬鹿みたいに笑っていた。

いちばん大切な思い出だったから、ずっとベッド脇に飾っていた。

「本人が出ていったのに、こんなものを残しておく必要なんてないわ!」

母はフレームをつかみ、床へたたきつけようとした。

蒼真の瞳が大きく揺れた。反射的に止めようと、口を開きかける。

そのときだった。

玄関のドアをたたく音が、室内にはっきりと響いた。

三人とも、その場で動きを止めた。

母はフレームを振り上げたまま固まり、小春の悲しげな表情も凍りついた。

「誰ですか!」

母が苛立たしげに声を張った。

返事はない。ただ、もう一度、ドアをたたく音がした。

「まったく、何なのよ」

母はフレームを置き、怒りに任せて玄関を開けた。

そこに立っていたのは、厳しい表情を浮かべた小谷警部補だった。

その眼差しには、隠しきれない痛ましさがあった。

火葬の日に、白い菊を供えてくれた人だ。

姿を見た瞬間、胸が強く締めつけられた。

小谷警部補は母の肩越しに、散らかった室内を見渡した。最後に、蒼真と小春へ目を止めた。

「こちらは、水城日和さんのお宅でしょうか」

母は警戒するように、彼を上から下まで眺めた。

「そうですけど。どなたですか?日和ならいません」

「所轄署の小谷です」

小谷警部補は警察手帳を示し、透明な袋に入った運転免許証を取り出した。

母の顔色がわずかに変わった。

「あの子なら、男と逃げたんです。うちとはもう関係ありません」

「男と逃げた?」

小谷警部補が眉を寄せた。

信じていないと思ったのか、母はむきになって声を張り上げた。

「そうです!恥知らずな子です。水城家には、もうあんな娘はいません!あの子、外で何か問題でも起こしたんですか?借金なら、うちには関係ありませんからね。身内だからって、肩代わりするつもりはありません!」

母は自分の体面を守ろうと、必死で私との関係を否定した。

その頭の中では、私がどんな厄介事を持ち込んだのかと、もう計算を始めているのだろう。

私は宙に浮かびながら、思わず笑いそうになった。

お母さんの想像力って、本当にそれくらいなんだね。

小谷警部補は騒ぎ立てる母に取り合わなかった。

しばし沈黙したあと、かばんから書類を取り出した。

「日和さんが家を出たというお話ですが、それは事実ではありません」

母の前に、死亡診断書の写しと身元確認に関する書類が差し出された。

「日和さんは半月前、交通事故に遭いました。病院へ搬送されましたが、死亡が確認されています」

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