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第3話

Author: 招福すずね
私は彼らに向かって、深く頭を下げた。

ありがとう。

死んだ私に、最後まで人として接してくれて。

それにしても、死んだあとまで他人の手を煩わせるなんて、申し訳ないな。

魂には涙がないらしい。それでも胸の奥は、雨水で満たされたように冷たく、重かった。

このまま消えていくのだと思った。

けれど、そうはならなかった。

わずかに残った未練が鎖となり、とうに嫌いになったこの世へ、私を固くつなぎ止めていた。

見届けたかった。

あの人たちが、聞き分けの悪い私のことを、いつ思い出すのか。

……

半月後、母はようやく異変に気づいた。

私に電話をかけても、電源が切れている。

LINEを送っても、既読にならない。

少しずつ不安になっていったはずなのに、口調は相変わらず強気だった。

「あの子、本気で私に意地を張るつもりね。いつまで続くか見ていようじゃない」

母は蒼真に電話をかけた。

「蒼真くん、最近、日和に会った?あの子、もう半月も帰ってこないし、電話もつながらないの」

蒼真の声には、かすかな後ろめたさがにじんでいた。

「おばさん、俺も会ってません。あの日以来、日和からは連絡がなくて……」

「恩知らずな子!」

母は怒鳴った。

「今まで育ててもらっておいて、こんなことで家出するなんて!」

そばにいた小春が、切った果物を載せた皿を持ってきた。

「おばさん、そんなに怒ったら体に悪いよ」

そう言ったあと、彼女は何かをためらうように視線を揺らした。

「小春、何か知っているの?」

母はすぐに食いついた。

小春は下唇をかみ、しばらく迷うそぶりを見せてから、小さな声で答えた。

「実は……何日か前に、日和さんを見かけた気がするの」

「会ったの?どこで?」

母と、電話の向こうの蒼真が同時に問い返した。

「駅前のショッピングモール。声をかけようと思ったんだけど……」

小春はますます声を落とした。

「日和さん、男の人と一緒だったの。すごく親しそうで……」

「え?」

母の声が一気に大きくなった。

「私に気づいたら、すごく怒った顔をして、その人の腕を引いて行っちゃった。やっと私たちから解放された、新しい人生を始めるんだって……そんなことも言ってた気がする」

小春の声は泣き出しそうに震えた。

「おばさん、ごめんなさい。私、言わないほうがよかった?日和さん、きっとまだ私を恨んでるんだよね。私さえいなければ、家を出たりしなかったのに……」

「あなたのせいじゃないわ!」

母は厳しい声で遮り、小春を抱き寄せた。

「悪いのはあの子よ。自分が恥知らずなことをしておいて、あなたのせいにするなんて!」

電話の向こうで、蒼真は黙り込んだ。

顔を見なくても、どんな表情をしているか想像できた。きっと顔をこわばらせ、こめかみの青筋をぴくぴくさせているに違いない。

支配欲の強い彼が、私がほかの男と一緒にいると聞いて、平静でいられるはずがない。

「おばさん、心配しないでください」

蒼真の声は冷え切っていた。

「俺が必ず見つけます。どこの誰と一緒にいるのか、この目で確かめてやりますよ」

電話を切ったあとも、母は誰もいない空間へ悪態をつき続けた。

「恩知らずにもほどがあるわ。男と逃げるなんて、自分がどれほどのものだと思ってるの。小春はこんなに体が弱いのに、少しくらい譲ってあげることもできないなんて」

私は宙に浮かんだまま、黙って聞いていた。

お母さん。

あなたの本当の娘は、私なのに。

少しでいいから、私を見てほしかった。

きちんと愛してほしかった。

それだけを願った私が、いったい何を間違えたのだろう。

小春の体が弱いことを心配するなら、一度でも考えてくれたことはある?

あなたの娘は、もうとっくに冷たい灰になっているんだよ。

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