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【エピソード21〜発覚した️秘密〜】

Author: 水沼早紀
last update Last Updated: 2025-05-10 23:13:24

「ただいま帰りました」

「おかえり、紅音」

 あっと言う間に時は過ぎ、離婚まで残り七ヶ月となった。

 時間の流れは残酷だ。一日一日が本当に早くて、ため息が出そうになる。

「今日は、ちょっと肌寒くなってきたのでお鍋にしますね」

「お、いいな」

 季節は秋になり、秋の匂いがする。木々の葉は落ち、イチョウが咲く頃。もう少しもすれば、紅葉が見られるだろうな……。

 そっか……。もうそんな季節になってきたんだ。

「……紅音?どうした?」

「え?……あ、いえ、何でもないです」

 そっか、残り七ヶ月しかないんだな……。爽太さんと夫婦でいられるのは。

 最近では、暇さえあればそんなことばかりを考えるようになっていた。

「何か手伝うよ」

「あ、じゃあ……土鍋、出してもらってもいいですか?」

「お安い御用だ」

 優しい笑顔を向けて土鍋を棚から出してくれる爽太さん。その背中に、思わず見惚れてしまう。

「ほら、取れた」

「すみません。ありがとうございます」

 お礼をして土鍋の蓋をガスコンロにセットした。

「今日はなんの鍋だ?」

「今日は豆乳鍋にしようかと」

「いいな、豆乳鍋。美味いよな」

 その爽太さんの言葉に、私は「はい。豆乳鍋大好きです」と答える。

 そんな何気ない会話をしながら毎日を過ごすことは決して寂しいものではないけど、時々寂しい気持ちになるのは確かだった。

 私はもう少しで、爽太さんの妻ではいられなくなると分かっているから……。

「後は煮込むだけか」

「はい。しっかりと味が染み込むように、煮込みます」

 お鍋が出来るのを待っている間、私はお風呂のボタンを押してお風呂のお湯を沸かした。

 ふと爽太さんに視線を向けると、ソファに座って本を読んでいた。 その横顔を見つめながら私は、爽太さんと一緒にいられる時間が残り少ないことに不安を感じていた。

 私にはまだ、爽太さんに言えていないことがあった。

 だけどそれを言ってしまったら、私は爽太さんと一緒にいられる時間がもっと減ってしまうかもしれない。そう思って、言い出すことも出来ない。

 私って本当に、臆病だな……。ちゃんと言わなくちゃいけないとわかっているけど、怖いんだ。

 怖くて怖くて、仕方ない。

 そっと自分のお腹に手を当てながら、唇をそっと噛みしめる。

 この前体調不良で病院に行った時に発覚した。……私が、爽太さんの子を
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     その翌日には私も熱も下がり、いつも通りに朝早く起きて、朝ごはんを作っていた。 それに今日はとても目覚めが良かった。朝ごはんに食べる用の卵焼きを焼きながら、朝の天気予報をチェックする。【今日は天気も回復し、一日晴れるでしょう。洗濯物日和になりそうです】「ようやく天気が回復するのか……。よし、じゃあ洗濯物干さなくちゃ」 卵焼きを焼き終えてまな板にの乗せ、包丁で四つに切って小皿に乗せる。 昨日の夜から漬けておいたきゅうりの漬物も隣に乗せる。「やばっ!急がないと……!」 急いで鍋に水を入れて、そのまま火にかけてわかめを入れて戻していく。 その間に爽太さんのお弁当の用意をしていく。ご飯を詰めて、卵焼きやソーセージ、唐揚げ、ほうれん草の和え物などを詰めていく。「ふりかけ、一応入れておこうかな」 小さいふりかけもお弁当のフタに乗せてお箸を入れる。保冷剤も乗せて、ランチバッグに入れていく。「あ、お味噌……」 冷蔵庫から味噌を取り出し、お出汁も少しだけ入れて、そのまま鍋の中にお玉を入れて溶きほぐしていく。 味噌が溶けたのを確認し、火を止めた。 お味噌汁の味見している時、爽太さんが眠そうな顔をしながら寝室から出てきた。「爽太さん、おはようございます」「おはよう、紅音。 もう体調は大丈夫なのか?」 とコップを取り出しウォーターサーバーのレバーを押していた爽太さんは、私にそう問いかけてきた。「はい。おかげ様で、もう大丈夫です」「そうか。なら良かった」  爽太さんは微笑むと、私を後ろからギュッと抱きしめていた。「そ、爽太さん?」「紅音が元気じゃないと、俺も頑張れないから」 そう言って爽太さんは私の頬にそっとキスをした。「……ありがとう、爽太さん」「俺、顔洗ってくる」「はい」 爽太さんが洗面所で顔を洗っている間に、わたしは朝ごはんをテーブルに並べた。「お箸出そうか?」「じゃあ、お願いします」 爽太さんは二人分のお箸を持ってきて、並べてくれた。「食べようか」「はい。 では、いただきます」「いただきます」 二人で手を合わせ、朝ごはんを食べ始める。「うん。美味い」「良かったです」「……それにしても、大変だったな」 と、爽太さんは私に問いかけるように言ってきた。「え?」「熱出してたから、辛かっただろ? 体も痛いだろうし

  • 私たち期限付き夫婦でしたが愛に包まれ最高の愛を手に入れました。   【エピソード18〜初めての看病〜】

     それから二週間が過ぎようとしていた、ある日のことだった。「小田原さん、大丈夫? なんか、顔色悪くないですか?」「え? あ、そうですか……?」 なんだかここ何日か、確かに体調が悪い日が続いている。 普段あまり風邪などを引かない私だが、時々頭痛もあるのだ。 こんなことあまりないのに、どうしたんだろう……。「小田原さん、もし体調悪かったら無理しないで大丈夫だからね」「ありがとうございます」 確かに昨日は、少し微熱も出ていたけど……。体調が悪い時は仕方ないかと思って、あまり気にしていなかった。「小田原さん、今日はもう帰りな」「……え?」「無理して働いて悪化したら、大変だから」  佳奈美さんが優しくそう言ってくれた。そして「もし本当に辛くなったら、ちゃんと病院に行きなね?」と言ってくれた。「はい。 分かりました」「明日はシフト入ってないし、ゆっくり休んで」「ありがとうございます。……すみません」 私は佳奈美さんに「じゃあ……今日は早退させて頂きます」と言って勤怠を押して帰宅した。「はあ……」 帰宅するとなんだか、頭がボーッとする気がしたそれになんだか、風邪っぽい症状もある気がする。「ご飯、作らなくちゃ……」 立ち上がると、クラッとしてまた座り込んでしまった。「あれ、私……どうしたん、だろっ……」 段々と意識が遠のいていていく……。 「あれっ……」 そして私はそこで、意識を失った。* * *「…………。あれっ、私……?」 目が覚めると、私はベッドの上にいた。「紅音、目が覚めたか?」 目の前にいるのは、正真正銘爽太さんだった。 「爽太さん……? なんで、私……」「紅音、すごい熱だったんだぞ?」「熱……?」 私、熱が……?「びっくりしたよ。帰ってきたらリビングで紅音が倒れててさ……。抱き上げたら体がすごく熱くて、焦ったよ、マジで」 爽太さんは心配そうな目で私を見ていた。「すみません……。ご心配をおかけして……」「気にするな。ゆっくり休んでいろ」 爽太さんは私の頭を優しく撫でてくれる。「……ありがとう、ございます」 お礼を言うと、爽太さんは枕元にあった体温計を取り出し「よし、体温測ってみるか」と言った。「ほら、おでこ出して」「は、はい……」  おでこに体温計を当てると、すぐにピッという音が鳴っ

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    「どれにしようかな……」 掃除機を買うと言っても、種類がたくさんありすぎて迷ってしまう……。今の掃除機は性能がいいものばかりだし、吸引力もずば抜けていいから、迷いどころだな……。「これもいいけど……」 と思いながら値段を見る。約七万……。 爽太さんは値段は気にしなくてもいいと言うけれど、やはり気になるよ……。 有名なメーカーのヤツは、やっぱりそのくらいするよね……。「んー……迷う」 これはこれで軽くて使いやすそう。しかも持ち上げやすいから、階段とかの掃除もしやすそう。 私的には、これはすごくいい気がするんだけど。でもやっぱり、そのくらいするよね……。「軽さとか使いやすさ的には、これだな……」 軽くて持ちやすいっていうのも魅力だし、しかも女性人気、No.1か……。 うん、これにしよう。値段はまあそこそこするけど、これに決めた。 店員さんを呼び【これにします】と伝え、レジへで会計した。「では2000円のお釣りと……こちら領収書になります。保証が五年付いておりますので、何か不具合等ごさいましたら、こちらの保証書をお持ちください」 「はい。ありがとうございます」 配達サービスも同時にお願いして、会計を済ませた私は、爽太さんに電話をした。「もしもし、紅音です」「どうした?」  電話越しの爽太さんの声はとても落ち着いていて、少しだけキュンとした。「あの、掃除機、買いました」「そうか」「ちょっとあの、値段が高かったんですけど……」 と言うと、爽太さんは落ち着いた声で「家電製品が高いのは、仕方ないさ。気にするなって言っただろ?」と言ってくれた。「……ありがとうございます。運べなかったので、配達サービス、お願いしました」「分かった。わざわざ連絡くれてありがとう」「いえ! お仕事中、すみませんでした」 私がそう言うと、爽太さんは「ちょうど休憩中だから、大丈夫だ」と言ってくれた。「じゃあお仕事、頑張ってください」「ああ」  私は電話を切ると、そのまま家電製品売場から出て駅までの道のりを歩いた。「でも、良かった」 いい掃除機が買えたのも、爽太さんのおかげだ。 爽太さんに感謝、しなくちゃね。 次の日の朝、新しい掃除機が届いた。「ご苦労様でした」「では、失礼します」 「ありがとうございました」 今日は私たちは二人と

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