Masuk「──えっ!?」 髙野辺の言葉に、もみじはぎょっとして大きな声を上げてしまう。 そんなもみじに、髙野辺は焦って言葉を続けた。 「い、いえ!ですが、亜紀は俺にとって妹のような存在ですし、もし、万が一そんな話をされたとしても断るつもりです!須藤家との縁について、髙守の──俺の両親も、俺と同じ気持ちで須藤との縁は望んでいないです……!だから安心してください……!」 俺には、もみじさんだけ。 そう伝えてくれる髙野辺に、もみじは少しだけ心が軽くなり、安堵した。 ほう、と息を吐き出したもみじを見て、髙野辺も安心したように息をつく。 (こんなに焦って……、みっともない……) 髙野辺は自己嫌悪に陥り、その場にしゃがみ込む。 「あー……」とか「うー……」とか呻きながら髪の毛をぐしゃり、と乱しつつ目の前にあるもみじの手を優しく握った。 「その……本当に。本当に気にしないでください。……俺が好きなのはもみじさんだけで、もみじさん以外とこの先一緒に居たいとは思ってませんから」 必死な様子の髙野辺に、もみじは口元を笑みの形に変えると微笑んで見せた。 「ふふ……っ、ありがとうございます。大丈夫ですよ聖さん。聖さんの気持ちは十分伝わりましたから。聖さんの気持ちを疑いません」 ふわり、と微笑んだもみじに髙野辺も自然と笑みが浮かぶ。 良かった、と安心しきった2人は顔を合わせ、笑い合った。 そんな2人の仲睦まじい様子を、ある人物は恨めしそうに睨み。 ある人物は不愉快そうに眉を顰めていた事に、もみじも髙野辺も気がついていなかった。 ◇ 「ここが須藤グループのパーティー会場?」 「……おい、本当に体調は大丈夫なのか?」
「大切な女性って事は……」 「髙野辺社長の婚約者か?」 「という事は、結婚まで秒読みって事か……?」 「須藤家の娘との噂は、ただの噂だったって事か」 こそこそ、ひそひそ。 周囲からそんな噂話が聞こえて来て、もみじは眉を寄せた。 だが、髙野辺に紹介されたのだ。 もみじは髙野辺に倣い、自分の胸に手を当て軽く頭を下げる。 「──玖渡川です。本日はおめでとうございます。素晴らしい1年になる事を祈っております」 「……ありがとうございます」 もみじの言葉を、流石に無視は出来ない。 亜紀は不服そうにしつつももみじの言葉に返した。 だが、亜紀はムスッとした表情で不機嫌そうだ。 亜紀はじっと髙野辺を見つめていたが、先程まで自分が居た方向から「亜紀!」と名前を呼ばれ、悔しそうに唇を噛んだ。 「また、後ほどゆっくりお話しましょう。聖さん……それに、玖渡川さん」 亜紀はそれだけを口にすると、もみじや髙野辺の返事を聞かずくるり、と踵を返してパーティー会場を戻って行く。 亜紀の背中を見送ったもみじと髙野辺。 亜紀が戻って行った場所には、彼女の父と母だろうか。 中年の男女が居て、何やら亜紀に話しかけているのが分かる。 亜紀が両親に何かを言って、その両親が顔を上げ、髙野辺が居る方向に視線を向けた。 その光景を見た髙野辺は、申し訳なさそうにもみじに顔を向けるとこそりと耳打ちした。 「もみじさん、少し良いですか?」 「え?わ、分かりました」 「人が少ない場所に行きましょう」 煌びやかなパーティー会場内にも、落ち着いた雰囲気の場所はある。 照明が絞られ、薄暗い一角。
「本日は、須藤グループ主催、須藤 亜紀の誕生日パーティーにご参加いただき、ありがとうございます」 誰かの声が、マイク越しに会場に響く。 もみじと髙野辺に話しかけていた経営者は、それ以上話を続ける事が出来ず、2人に向かって軽く会釈をすると体の向きを変えた。 もみじと髙野辺も、軽くその男性に会釈を返す。 そして、ぴったりと体を寄り添わせると内緒話をするように声を潜めて会話をした。 「……始まるみたい、ですね」 「ええ。今年は随分力が入っているみたいだ……」 「去年は違ったんですか?」 「──俺も最初から参加していなかったので分かりませんが……、招待客は今年の方が多いように思います」 髙野辺の言葉に、もみじは「そうなんですね」と言葉を返し、前方に顔を向ける。 人だかりの向こう。 そこにはきっと、このパーティーの主役である須藤 亜紀本人が登場したのだろう。 ざわめく気配と、人々の垣根が割れるのが見える。 そして、多くの招待客達が避けた道から可愛らしい容姿の年若い女性が現れる。 一見しただけでも上等なドレス。 可愛らしい顔立ちに良く似合ったメイク。 背も低く、正に「女の子」と言った言葉が似合う可愛らしい女性。 歩いて来る女性が、このパーティーの主役、須藤 亜紀なのだともみじもすぐに分かった。 亜紀の歩みは止まらず、どんどん距離が縮まっており、もみじは狼狽えた。 亜紀を照らすスポットライトが、近付いて来る。 亜紀はただ只管に何か──「誰か」を一心に見つめていて。 亜紀の視線を辿ると、もみじの隣に立つ髙野辺に行き着いた。 「──ぇ」 「──ああ、くそっ」 もみじの困惑した呟きに被さるように、隣から低い声が聞こえた。 もみじはびっくりして髙野辺を見上げる。 驚き見上げていると、もみじの視線に気がついた髙野辺がバツが悪そうに苦笑した。 そして、どこか申し訳なさそうに眉を下げると、口早に髙野辺がもみじに告げる。 「すみません、もみじさん。巻き込む」 「え」 「──聖さん!」 髙野辺の言葉に、もみじが疑問を口にした時。 歩いて来ていた亜紀が嬉しそうに表情を綻ばせ、髙野辺に向かって走り寄って来た。 まるで隣にいるもみじなど、目に入っていないような態度の亜紀。 亜紀は真っ直ぐ髙野辺だけを見つめ、そのままの勢いで両腕を広げ
パーティー会場に入ったもみじと髙野辺は、招待客達と談笑していた。 招待客の中には、TK株式会社の取引先の社長や、髙野辺やもみじと顔見知りの経営者、デザイナーなども居たのだ。 「まさかここで玖渡川デザイナーや髙野辺社長とお会い出来るなんて!」 そんな風に、嬉しそうに話しかけてくる人がいて。 その招待客と談笑していると、もみじと髙野辺の周りに自然と人が集まり、人が人を呼ぶ。 沢山の人に囲まれて、和やかに談笑していると周囲にいた招待客も自然と集まり、話が弾む。 集まって来た招待客の中には、もみじの事を知っているデザイナーもおり、もみじを尊敬するような態度で、賞賛を送るような言葉を聞いて、髙野辺のただのパートナーだともみじを侮っていた経営者や他社の社長がもみじの事を知り、話の輪に入る。 それが繰り返されて、もみじと髙野辺の周囲には沢山の人が集まっていた。 「TKの新商品が玖渡川デザイナーのデザインだとは!」 「あのシリーズ、私の娘も好んで使ってますよ」 「今ではどこでも売り切れで、手に入れるのに苦心してますよ!」 誰も彼もがもみじを褒めそやし、もみじは恐縮していく。 「有難いお言葉、ありがとうございます」 「はははっ!そんなに恐縮しないでください、玖渡川デザイナー!あなたのデザインはどれも素晴らしい!」 恰幅の良い男性が、もみじの剥き出しになっている肩に目を細め、じっとりとした目線を向ける。 そして、もみじの肩に自分の手を伸ばした時。 「もみじさんは素晴らしいデザイナーでしょう?私も公私共に助けてもらっていますよ」 髙野辺がもみじの隣に寄り添い、自然な動作で彼女の肩を抱く。 すっと目を細めた髙野辺に真正面から見据えられ、恰幅の良い男性は冷や汗をかきながら愛想笑いを浮かべつつ、もみじから距離を取った。 その様子を横目で見つつ、髙野辺は不機嫌そうに「全く」と呟く。 「もみじさん、触れられそうになったらハッキリ断って大丈夫ですから。ああいった人間はどこにでも居る。多少強い言葉で断ってもらっても大丈夫です」 「ありがとうございます、聖さん」 「全く……俺が隣にいるのが見えていないのか」 不機嫌そうにブツブツ呟く髙野辺に、もみじは苦笑いを浮かべる。 そんなもみじと髙野辺、2人の仲睦まじい様子に、近くに居た招待客達のほとんどは、2人の
須藤家の一人娘、須藤 亜希の誕生日パーティー当日はあっという間にやって来た。 髙野辺に招待状が届いており、パートナーとして一緒に参加してもらいたいと頼まれていたもみじは、髙野辺のスーツと揃いの色のダークグレーのドレスを身に纏っていた。 落ち着いた色合いで、主役である亜紀を引き立て、邪魔をしないドレスではあるが、もみじの美しさを際立たせ、ぴったりと体に合ったドレスはどこか色気を感じさせた。 「もみじさん、パーティー会場では俺から絶対に離れないでくださいね」 ドレスを纏ったもみじを見た瞬間、髙野辺は心配そうにもみじに告げるくらい、とても似合っているのだ。 余計な虫がもみじに寄って来そうだ、と髙野辺の眉間には普段よりも深く皺が刻まれている。 そんな髙野辺にもみじは苦笑して、分かったと頷く事しか出来ない。 今日は、パーティー会場があるホテルにほど近い別のホテルにもみじと髙野辺は泊まる予定だった。 招待客は多い。 もみじも、髙野辺も。仕事上、縁を繋げておきたい人は多く居る。 恐らくパーティー会場を遅く出る事になるだろう事から、今日は最初からホテルに泊まる事に決めていた。 そのため、もみじの祖父母には予めその予定を告げ、待たずに寝ていて欲しい事を伝えてある。 パーティー会場があるホテルに到着したもみじの視界に、沢山の招待客がぞろぞろとホテルに入って行く姿が映る。 先に車から降りたもみじは、入って行く人達を見て著名人の多さに驚いた。 ホテルのスタッフに車を預けた髙野辺が、もみじの隣に並び、腰に手を回す。 「どうしました、もみじさん」 「いえ……招待客には、芸能関係者も多く居るんだ、と驚いて……」 もみじの言葉に、髙野辺は「ああ」と納得したように頷いた。 「須藤家は芸能関係の事務所も経営していますからね。顔が広いんですよ」 「そうだったん、ですね」 よくよく見てみれば、もみじも知っている有名な俳優や、モデルの姿も見受けられる。 須藤家が、それほどの人脈を持っていたなんて、ともみじは呆気に取られつつ髙野辺のエスコートに促され、足を進める。 だが、どれだけ容姿の良い俳優やモデルを見ても、自分の隣にいる髙野辺が誰よりも格好いい。 ちらり、と髙野辺を見上げていたもみじはそう感じた。 「──どうしました?」 もみじの視線に気がついた髙野辺
一方、胡桃達と鉢合わせてしまった場所から離れ、耕三とルリが待っている待合にもみじと髙野辺は戻ってきていた。 「どうした、2人とも。険しい顔をしているぞ?」 戻ってきた2人の表情を見て、耕三が心配そうに声をかけてくる。 ルリももみじと髙野辺を気遣うように見ていて、もみじは表情を切り替えると笑みを浮かべた。 「ううん、何でもないよおじいちゃん」 「そうか……?」 まだ納得がいってなさそうな耕三だったが、名前を呼ばれてしまい、そこでこの話は終わった。 ◇ 診察を終え、帰宅した一行は髙野辺の自宅に帰ってきていた。 病院の待ち時間は長く、疲れてしまったのだろう。 耕三とルリは部屋で少し休むと言った。 髙野辺から部屋に呼ばれたもみじは、今はそちらに居た。 「おじい様の怪我、順調に治ってきていて良かったですね」 2人でソファに並び、一息ついていると隣に座っていた髙野辺がぽつりと零す。 その言葉に、もみじは頷いてから答えた。 「ええ、本当に。聖さんもお休みの日なのに、付き合ってくださってありがとうございます」 「もみじさんの身内の方なんですから、当然です。今後もおじい様の通院の時は俺が車を出すので言ってくださいね」 「ふふ、ありがとうございます。頼らせていただきます」 和やかに話をしていたが、耕三の話が終わると自然と胡桃と桔梗の話になる。 「それにしても……まさか胡桃と病院が一緒になるとは思わなかったです」 「確かにそうですね……。どうしますか?おじい様の転院が済んだばかりですが……また鉢合わせる可能性を考えると、また転院した方が……」 気遣うように提案してくれる髙野辺に、もみじは首を振った。 「ありがとうございます。だけど、病院を転院しても……同じ地域に住んでいる以上、これからも顔を合わせてしまう事はあると思うんです。今回避けても、会う事を先延ばしにするだけですから」 「……では、病院内を移動する時、もみじさんは絶対に1人で行動しないようにしてくださいね。……嶋久志 胡桃はもちろん、義母の嶋久志 桔梗。あの女性も、もみじさんに対して何か仕出かしそうな雰囲気でしたから」 「ええ、分かりました。本当に色々とありがとうございます、髙野辺さん。いつも助けていただいて、助かってます」 「いえ、当然の事ですよ」 2人は顔を合わせると自然







