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第6話

Author: ゴマたれ
晴子は見送りの運転手を断り、足を引きずりながら、よろよろと家に戻った。

この胸を刺すような痛みだけが、私に骨身に染みるほどの傷を忘れさせないだろう。

絶対に許さない。

数時間後、ようやく家に着いた。

駐車場を通る時、晴子は見覚えのある赤いスポーツカーが目に入った。

吸い寄せられるように、スポーツカーに近づいていく。

そして、車の中で絡み合う二つの人影を目撃した。

車体は激しく揺れ、その揺れはまるで鋭い刃物で晴子の心を深く抉るかのようだ。

九死に一生を得てやっと逃れたばかりなのに、彼らはそんなに待ちきれないほど飢えているのか?

晴子はもう何も感じないと思っていたのに、目の前の光景に、やはり胸が締め付けられる痛みを感じた。

ズキズキ痛む胸を押さえ、まるで抜け殻のように部屋へ戻った。

ベッドに腰を下ろし、改めて部屋を見回すと、急にどこもかしこも目障りとなり、特に時男があつらえてくれたクローゼットは、ひときわ目に痛い。

晴子は突然、狂ったようにクローゼットから時男に贈られた服やバッグ、アクセサリーをすべて引っ張り出し、使用人に命じてゴミ捨て場へ運ばせた。

そして同時に、時男の家にある自分の大切な物を、すべてスーツケースに詰め込み、誰にも悟られないよう海浜市へ配達した。

すべて終え、彼女はベッドに戻った。

就寝前、晴子はメッセージを受け取った。

数枚の浅子と時男が死に物狂いで抱き合っている写真には、【彼はあなたを愛してない。あなたはただの身代わりよ。分をわきまえて、早く彼のもとを離れなさい。さもないと、最後には自分が惨めになるだけ!】というメッセージが添えられていた。

晴子は心を乱されることもなく、静かにスマホを閉じた。

生で見てしまった以上、今となっては、これらの写真に心を痛めることなど、もうありえない。

物思いに沈んでいると、再び電話が鳴った。

景伍からだ。

二十数日ぶりに、景伍から電話がかかってきた。

晴子は慌てて身を起こし、高鳴る胸を抑えながら、おそるおそる電話に出た。

「もしもし……」

「晴子」電話口の声は、冷たく、低く、少しばかり嗄れていた。「一週間後の結婚式当日、ホテルの裏口に黒いワゴン車が迎えに行く。メイク室には隠し通路があり、そこから直接裏口に出られる。メイク担当は手配済みだ。彼女がうまく立ち回ってくれるはずだ。

覚えておいて、出発する時は必ずきっぱりと。決して迷わないで」

「はい、分かった。ありがとう」

晴子の心臓は激しく鼓動していた。それはまるで、世間を震撼させる大事件を画策しているようだ。

電話を切ると、彼女は心の中で呟いた。ようやく、すべてが終わる……

しばらくして、部屋のドアがカチャリと音を立てて開いた。

時男が、ようやく帰ってきたらしい。

入ってくるなり、彼は晴子のもとへ歩み寄り、眉を寄せて尋ねた。「晴子、使用人たちがいろんな荷物を運んだりして、一体何を捨てているんだ?お前の指示か?」

晴子は一瞥もくれず、そっけなく答えた。「大したものじゃないわ。古い服を処分してただけ。結婚したら、全部新しいのを買ってちょうだい」

「いいよ!お前の欲しいもの、全部買ってあげる!」時男はそう言って彼女を抱きしめ、申し訳なさそうに話を続けた。「悪かった、今日は構ってやれなくて。怒ってるんじゃないだろうね?」

晴子は無表情のまま首を横に振った。

時男は彼女の体をしげしげと見ながら、眉をひそめて尋ねた。「晴子、今日逃げ出した時、足を引きずっていたようだけど、どこか怪我でもしたのか?」

晴子は顔を上げて彼を見つめた。心配そうな表情は、演技のようには見えない。

彼にどれほどの真心があって、どれほどの嘘があるのだろうか、彼女には判断がつかなかった。

少し間を置くと、晴子は掠れた声で「大丈夫、ちょっと足をくじいただけだから、もう治ったよ」と答えた。

「それはよかった!」時男は安堵の息を漏らし、再び彼女を抱き寄せた。「晴子、あと一週間で結婚式だ。くれぐれも、何か問題が起きないように気を付けてくれ。知ってるだろう、俺がこの日をどれだけ待ち望んできたか!」

その甘い言葉とは裏腹に、晴子の心は全く感動せず、むしろひどく滑稽に感じられた。

彼は一体どんな神経で、こんなことを平然と言えるのだろうか。

彼女には到底理解できないし、もう深く考えるのをやめた。

今、晴子の心にある考えはただ一つ、果たして時男は浅子を説得できたのか、そして一週間後の結婚式は彼女によって邪魔されるのだろうか、ということだ。

その時、ふと、彼女の脳裏に一つの考えがよぎった。

どうせ替え玉だったから、一週間後の結婚式に、いっそのこと本物にやらせたらいいんじゃない?
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