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第3話

Author: 紗々
晴奈がうっかり私の数学オリンピックの申込書を破いてしまったとき、洸平はそれを丸めてゴミ箱に捨てた。

「大丈夫だよ。琴音が先生からもう一枚もらえばいいんだから」

晴奈が私の服に落ちないインクを飛ばしてしまったとき、洸平は笑いながら彼女の涙を拭いた。

「大丈夫だって。この汚れ、むしろ柄みたいで悪くないし、まだ着られるよ」

晴奈が、母から入学祝いにもらったペンをなくしたとき、洸平は彼女の前に立ちはだかり、眉をひそめた。

「何が問題なんだよ。そのペン、もう3年も使ったんだろ。そろそろ買い替え時じゃないか」

私が少しでも嫌な顔をすると、洸平は決まって私の髪を撫で、優しい声で言った。

「ほらほら、琴音は晴奈と違って聞き分けがいいだろ。あいつと張り合うことないって」

今ではもう、洸平は私に代わって晴奈を許すことに、すっかり慣れてしまったようだった。

案の定、晴奈がまだ気にしているのを見ると、洸平はもう一度返信した。

【琴音は聞き分けがいいから、お前が思ってるほど心の狭い子じゃないよ】

私はそのメッセージを長い間見つめていた。

そしてようやく、その日初めてのメッセージを送った。

【洸平、私、そんなに聞き分けよくないよ】

LINEグループはしばらく静まり返った。

それまで何も発言していなかった陽介が、疑問符を一つ送ってきた。

直後、洸平から電話がかかってきた。

「琴音、どうしたんだよ。髪留め一つだろ。なんでそこまで晴奈を責め立てるんだ?」

「洸平、私は晴奈を責めてない」

「じゃあ、どうしたいんだよ?晴奈はお前の親友だろ。今までは何があっても大目に見てたのに、どうして髪留め一つでそんなにこだわるんだ?」

「前に洸平が言ったんじゃない。私にも、嫌だったって言う権利があるって」

洸平は言葉に詰まった。

そのとき、電話の向こうから晴奈の涙声がかすかに聞こえてきた。

「ごめんね。私のせいで二人の仲が悪くなっちゃった?私……今から琴音にちゃんと謝りに行く……」

私は戸惑った。

「二人とも、今一緒にいるの?」

洸平が晴奈を引き止めた。

そして、困り果てたような声で再び話し始めた。

「グループで晴奈にあんなことを言うから、心配になって様子を見に来たんだよ。それに、こんなことで何がそんなに嫌なんだ?晴奈だってわざと壊したわけじゃないだろ」

「じゃあ、私がわざと困らせてるって言いたいの?」

洸平はいら立った声を上げた。

「今日はどうしたんだよ。やけに突っかかってくるな。あれは俺が買ったものなんだから、どうするかは俺が決める。晴奈は弁償しなくていい。それで何が不満なんだよ?」

私は口を開いたものの、何も言えなかった。

電話の向こうで二人がしばらく小声で話したあと、晴奈が電話を代わった。

「琴音、今日、生理なの?それで機嫌が悪いんじゃない?生理のときはちゃんと体を大事にしないと……」

その向こうから、すでに落ち着きを取り戻した洸平の声が聞こえた。

「琴音は今日じゃないよ。ただ拗ねてるだけ」

拗ねているだけ。

私はうなずいた。

もう、どうでもよかった。

どうせもうすぐ離れるのだから、二人のことも私には関係ない。

電話が切れる直前、洸平が晴奈に言った。

「もう相手にしなくていいよ」

……

私はベッドのそばに長い間座っていた。

外がすっかり暗くなった頃、スマホを開き、4人のLINEグループから退会した。

翌日、卒業前にもう一度先生へ挨拶しようと大学へ向かった。

研究室のドアを開けると、そこには洸平と晴奈もいた。

洸平は意外そうに私を見た。

「琴音も来たのか?」

晴奈が説明した。

「昨日、LINEグループで先生に挨拶しに行く人がいるか聞いたんだけど、琴音から返事がなかったから、来ないのかと思ってた」

二人はまだ、私がグループを抜けたことに気づいていなかった。

私は先生に花束を渡した。

先生は笑顔で受け取り、私たちに卒業後の進路を尋ねた。

洸平と晴奈は、どちらも東央市で働く予定だと答えた。

私の番になると、洸平が代わりに答えた。

「琴音も俺と同じです」

先生は笑いながら、何かをほのめかすように言った。

「高梨さんのSNSに、最近は二人の写真が全然載っていないから、もう江口くんとは別れたのかと思っていたわ」

洸平は気にも留めなかった。

「そんなわけないですよ。琴音は内向的で、人前で仲のいいところを見せたがらないだけです」

私は何も言わなかった。

以前は、SNSに洸平との日常を投稿していた。

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