FAZER LOGIN私――小倉梨々香(おぐら りりか)は雲の城でいちばん有名な「尽くし系」だ。 風間朔(かざま さく)の後ろを追いかけること、丸10年。 いちばんひどいときなんて、彼に人前で「犬かよ」と罵られても、私は反射的に「ワンワン」と二度鳴いてみせた。 そして、ついに私は彼の隣に立つことができた。 最初は私なんて眼中になかった朔も、やがて呆れたように私を受け入れ、最後には私と結婚してくれた。 結婚式で私を見る朔の瞳には、小さな星が浮かんでいるようだった。 その夜、私は彼に無理やり指切りをさせた。 「梨々香は、10年間ずっと朔を追いかけてきた。だからこれからは――朔が梨々香を裏切っていいのも、10回まで。 10回使い切ったら、梨々香は絶対に、何の未練もなく朔のもとを去ること」 朔は笑いながら、私の小指に自分の小指を絡めた。 結婚して7年目、朔の初恋の相手――野原結奈(のはら ゆいな)が帰ってきた。 結奈が帰国したその日、朔は泥酔するまで酒を飲み、何度も何度も「結奈……」と彼女の名前を呼び続けている。 私は慌てた。そして朔の肩をつかみ、昔の「10回の約束」を何度も繰り返した。 「いい?もし私と結奈のどちらかを選ぶことになって、10回結奈を選んだら、その瞬間、私は朔と離婚するから」 1回目。朔は、たいして気にした様子もなかった。 「あと9回も残ってるだろ」 そして、2回目、3回目…… 9回目の時、ようやく朔の顔から余裕が消えた。彼は私の手をつかみ、何度も確かめた。 「梨々香、俺と離婚しないよな?」 私は静かに彼を見つめた。そして最後には、うなずいた。 それを見て、朔はようやく安心した。 だから、彼は迷いなく、最後の10回目を使った。 そして私は振り返る間もなく、国の機密機関に入っていった。 門が閉ざされた瞬間、そこから先の私たちの人生は、もう別々のものになった。
Ver mais結奈は狂った。ついさっきまで、彼女は記者会見の場で堂々と話し、華やかなスポットライトを浴びている。それなのに次の瞬間、警察が会場へ駆け込み、彼女に手錠をかける。そして、集まったすべてのメディアが見守る中、そのまま警察署へ連行されていく。私は、そんなことにはまったく興味がない。ただひたすら、科学研究に打ち込んでいる。そして5年後。新たな研究成果の発表会で、私は朔と再会する。朔は、ずいぶんと老け込んでいる。髪にも白いものが混じっている。けれど、何より驚いたのは――彼が車椅子に座っていることだった。体が不自由になったの?神様、なんていいことを……いや、待って。科学を信じよう。恩師から一通りの話を聞いて、私は初めて知る。結奈は刑務所に入れられ、自分の人生が完全に終わったことを悟ったらしい。そのうえ、朔に助けを求めたものの、朔は助けるどころか、刑務所の中で彼女が苦しむように手を回したという。そこで結奈は、もう後には引けないとばかりに、とんでもない行動に出た。ひそかに隠し持っていた金で、末期がんを患っていた患者を買収した。そして、その男に車を運転させ、朔のマイバッハへ突っ込ませた。自分もろとも、朔を道連れにするために。幸い、朔は命だけは助かった。ただ、体が不自由になっただけだ。そこまで話すと、恩師は思わず小さく笑う。私も何とも言えない気持ちになり、二人で少し笑いながら話したあと、そのことを頭の隅へ追いやる。発表会が始まる。私は壇上に立ち、堂々と研究成果について語っている。人の波の中に座る朔は、私をほとんど貪るような目で見つめている。まるで、ようやく見つけ出した、失われた宝物でも見るように。「梨々香、待っててくれ」朔が唇だけを動かして、そう言っているのが見える。私は視線を逸らし、彼をまるで空気のように扱う。発表会が終わる。朔は助手の力を借りながら、急いで私のもとへ向かってくる。けれど、私から1メートルほどのところで、警備員に止められる。朔は呆然とする。それでも諦めず、必死になって私の名前を叫び続ける。私に振り向いてほしい。少しでいいから話をしたい。そんな思いをぶつけるように、何度も私を呼ぶ。けれど、二言、三言と声をかけただけで、また警備員に容赦なく制止される
「荷物を全部捨てたって、私があの女の目の前で平手打ちしたって、朔は何も言わないわよ」許可が出たと分かると、ボディガードたちはすぐに動き始める。屋敷はあっという間に荒らされ、あちこちに物が散乱して、見るも無残な状態になる。その一方で、朔も退院し、家へ向かっている。「野原さん、これも壊しますか?かなり高価なものに見えますが」ボディガードが、丁寧に包装されたジュエリーボックスを差し出す。中に入っていたのは、20カラットのアクアマリンのネックレス。朔が私に贈ったものだった。私は受け取らず、ここを出る前に人を通して送り返したのだ。ネックレスを見た瞬間、結奈の目に欲望が浮かぶ。そして次の瞬間には、深い嫉妬へと変わる。朔は、梨々香なんかにこんな高価なものを贈ったんだ。あの女に、こんなものを持つ資格があるっていうの?そう考えれば考えるほど、結奈は腹が立って仕方ない。そして、ほとんど無意識のうちに、そのネックレスを自分の首にかける。その直後、玄関の外から、怒鳴り声が響く。「それを置け!誰が触っていいと言った?」玄関に立っていた朔は、両目を恐ろしいほど赤くしている。普段から人の上に立つ者が放つ威圧感に、結奈もボディガードも思わず半歩後ずさる。けれどすぐに、結奈は我に返る。愛想笑いを浮かべながら朔の腕に絡みつき、甘えた声を出す。「どうしたの、朔?そんなに怖い顔しないでよ。このネックレス、すごく気に入ったの。私にくれない?」朔は彼女の手を振り払い、容赦なく言い放つ。「それは梨々香のものだ。触るな!」結奈は諦めきれず、唇を尖らせて足を踏み鳴らす。「梨々香なんて、どうせ気にしないでしょ?今までだって、朔が私にあんなにたくさんプレゼントしても、梨々香は何も気にしなかったじゃない」朔は固まる。胸が締めつけられるように痛む。なぜなら朔には分かっていたからだ。私は、気にしていなかったんじゃない。気にしたところで、どうしようもなかっただけだ。以前、結奈が朔から私への誕生日プレゼントを欲しがったことがあった。私は怒ったし、泣いた。どうしても手放したくなかった。その結果、私は深夜3時に朔から車を降ろされた。誰もいない夜道を、裸足で5キロも歩いた。その一方で結奈は、朔の腕の中に甘
特に、私がある研究成果を完成させたとき……渡辺先生は大喜びし、その場で私に自分たちの研究室へ来ないかと誘ってくれた。一緒に空気力学の研究を、さらに深く追究しようと言ってくれたのだ。けれど、まさか私は朔と一緒になることになるなんて。私は彼のために、先生の誘いを断った。それどころか、自分が何よりも愛していた研究の道まで捨ててしまった。ただ、朔にこう言われたから。「俺は、自立しすぎた妻なんて好きじゃない。俺に頼って、俺の言うことを聞いてくれれば、それでいい」あの頃の私はまだ若くて、頭もどうかしていた。まるで馬鹿みたいだった。今でも覚えている。渡辺先生が私のもとを去る前、言葉を選ぶように、私をまっすぐ見つめていた。その目には、後悔と失望、そして、才能があるのにそれを無駄にしてしまう私へのもどかしさが滲んでいた。「小倉さん。自分がこれほどの才能を持っていることが、どれほど貴重なことなのか分かってる?家庭だけに縛られる必要なんてない。あなたには、本当はもっと広い世界が待っているのよ」20歳そこそこの梨々香は、そんな先生の思いを理解できなかった。本当に、どうしようもない馬鹿だった。30歳になった梨々香は、恋に傷ついて、ようやく少しだけ物事を考えられるようになった。幸い、今からでも遅くはない。幸い、まだすべて間に合う。一晩中意識を失っていた朔も、ようやく目を覚ます。目覚めて最初にしたことは、秘書に私の消息を探させることだ。もちろん、何も見つからない。朔が今にもおかしくなりそうになったとき、結奈とのニュースがまたネットのトップに躍り出る。今回は、前よりもさらに露骨だ。ニュースのトップ画像にまず載ったのは、バスローブ姿の朔が慌ただしくホテルを出ていく姿。そして、その後ろには、服が大きく乱れ、見るも無残な姿になった結奈が映っている。見出しは、さらに人目を引くものだ。【清純派女優が深夜に枕営業?風間グループ御曹司が慌てて逃走――清純派の美女、実は肉食系だった?】コメント欄には、数10万件もの書き込みが殺到する。【だから言ったじゃん。芸能界に清純な人間なんているわけない。結局みんな枕営業でしょ】【でも前は、風間社長と野原結奈って真実の愛だって言われてなかった?】【何が本物の愛だ
朔の足が、床に落ちていた指輪を踏んだ。「これは?」彼はゆっくりとしゃがみ込み、床から指輪を拾い上げる。内側に刻まれた見慣れた「LS」の文字を見て、またその場で固まる。それは、私と彼の結婚指輪……朔は覚えている。あれは結婚式の一週間前だった。友人に言われて初めて、まだ結婚指輪を買っていないことを思い出した。指輪を選ぶのが面倒だった朔は、適当に街のジュエリーショップへ入り、たった3分でこの指輪を決めた。指輪を受け取ったとき、朔は梨々香が泣いたことを覚えている。何を言われても、いつも太陽のように明るく笑っていた女の子が、自分から贈られた指輪を見た途端、ようやく帰る場所を見つけた子犬のように泣きじゃくった。朔は覚えている。梨々香はソファの上で体を丸め、涙で白いワンピースを濡らしていた。少し不格好で、少し可笑しくて。その時、私は朔にこう言った。「ありがとう、朔。これ、一度私にくれたなら、絶対に返してなんて言わないでね。 この指輪……命より大切にするから。お母さんが亡くなってから、また私に家をくれて……ありがとう、朔」では、あのとき朔は何と言ったのだろう?ただ、可笑しいと思った。たかが指輪一つで、どうしてこんなに泣けるんだろう、と。でも同時に、胸の奥がじんわりと温かくなった。まるで甘い蜜の中に浸かっているようだった。あのとき、朔は初めて思った。――うん。こんなふうに、そばにいてくれる人がいるのも悪くない。けれど今、その指輪を梨々香はもういらないと言った。まるで、自分のことまで……もういらないと言われたように。朔の体がふらりと揺れ、そのまま力なく床に座り込む。息ができない。胸が締めつけられる。そこで初めて、朔は気づいた。梨々香がいなくなっただけで、自分は一日すら耐えられないのだと。そのとき、スマホが一度震える。画面に新しいメッセージの通知が浮かぶ。送信者:梨々香。朔は一瞬呆然とし、次の瞬間には慌ててスマホへ飛びつき、急いで画面を開く。「やっぱり、梨々香はあれだけ俺のことが好きだったんだ。今回だって、ただ俺に腹を立ててるだけだ。本気で俺のもとを……」朔の言葉は最後まで続かなかった。トーク画面を開いた瞬間、そこに表示された文字を見たからだ。【離婚の手続きは、もう
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