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第9話

Author: 大葉
彼は突然現れた私を見つめた。その眼差しは驚愕から狂喜へ、そして絶望へと変わっていった。

「志乃……」

近づこうとした彼は、容赦なく押さえつけられる。

慶雲が立ち上がり、痛切な声で語り始めた。「尚弥のすべての役職と継承権を剥奪し、家族から追放する。二度と古井家には戻れぬように。

鷹山は、須崎さんに委ねる」

尚弥はその場に跪き、私を見上げ、懇願に満ちた目を向ける。「志乃、ごめん……俺が悪かった……許してくれ……」

私は彼の前まで歩み寄り、しゃがんでその瞳を真っ直ぐ見返した。「尚弥。私たちの間に横たわるのは、そもそも許しなどという次元の問題ではない。

血で血を洗う因縁なのだ」

そう告げて立ち上がり、私は拘束されている鷹山の前へ向かう。

そして、尚弥がかつて私に贈った拳銃を手に取った。

バンッ!

銃声が響き、因縁は決着した。

尚弥は家族から追放された。

もう高みに立つボスではなく、すべてを剥ぎ取られたただの人間だ。

慶雲は再び古井グループを掌握し、三十パーセントの株を、無条件で私に譲渡すると発表した。

私は古井グループ最大の個人株主になった。

拒む理由などない。これは須崎家の血で贖ったものだから。

尚弥については、慶雲が彼に金を手渡した。これで尚弥は生活に困らず過ごせる。条件はただ一つ、二度と私の目の前に現れないことだった。

だが尚弥はその金を受け取らず、幽霊のように姿を消した。

私は帰国し、家業を引き継ぎ、人々から「女王」と呼ばれるようになった。

尚弥とはもう交わることはない。そう思っていた。

半年後のことだ。

仕事帰り、私の車は悪漢に阻まれた。

ボディーガードたちが応戦する中、一人の男が窓ガラスを叩き割り、私を掴み出そうと手を伸ばした。

その瞬間、黒い影が飛び込み、そいつの首をあっさりと折った。

そして、その影はゆっくりとこちらを向く。

尚弥だった。

彼は痩せこけ、色褪せた安物のジャケットをまとい、しかしその眼光は鋭さを失っていない。

ただ、その鋭さの底には、あまりにも深く、拭えぬ痛みと、押し殺せない恋しさが沈んでいた。

砕けた窓越しに、私は彼と視線を交わす。

残りの敵を片付けた彼は、こちらへ一歩一歩と歩み寄り、ボディーガードに阻まれた。

彼は無理に突破することもせず、ただその場で飢えたように、私を見つめた。
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