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第3話

Autor: 涼木
「馬鹿なことを言うな。お前はもともと体が弱いんだ。冷たい水に浸かったんだぞ、軽く考えるな」

浚介はカイロの封を切り、明歩に掛けられた布団の上からそっと貼ってやった。

「どうだ?まだ寒いか?」

明歩は首を横に振り、唇を噛みしめながらドアの外へ目をやった。

「瑠奈ちゃん……私が先に船に乗ったこと、恨んでるんじゃ……」

「浚介さん、いっそ紗凪に私を一度思いきり叱らせてください。浚介さんの電話に出ないのも、きっと私に怒っているからです」

浚介の表情が一瞬にして険しくなる。

「あいつに怒る資格なんてあるものか!

春輝は人を救助しに行ったんだ。危険度の高い者を優先して助ける、それが現場の原則だろう。

紗凪は泳ぎが得意で、普段から2キロ泳いでも息一つ切らさない。お前を先に助けたくらいで何だっていうんだ。

どうせあいつは今、ただ拗ねているだけだ。救助隊長の身内だからって、自分が世界の中心だとでも思っているんだろう」

私はその冷酷な言葉を静かに聞きながら、胸の奥から底知れぬ虚しさと滑稽さがこみ上げてくるのを感じていた。

泳ぎが得意。

ええ、そうだ。昔は市の水泳チームに所属していたのだから。

でも3年前、瑠奈を産んだときの出血多量で体を壊し、ひどい喘息の後遺症が残ってしまった。

この3年間、冷たいシャワーすら浴びたことがないというのに。

夫である浚介が、それを知らないはずがないのだ。

けれど明歩の「か弱さ」を前にすると、私の病歴など綺麗さっぱり忘れ去られてしまうらしい。

己の公平無私さを証明するためなら、私の生死すら、悪意に満ちた邪推で片づけて構わないと思っているのだ。

「浚介さん、紗凪をそんな風に言わないで。きっと本当に怖かったんだと思います……」

明歩はうつむき、庇うような、それでいてどこか媚びるような甘い声を出した。

「怖かった?本当に怖いなら、どうして娘のそばを離れたんだ?どうして自分だけ先に避難した?」

浚介は立ち上がり、明歩のために温かい白湯をコップに注いでやる。

「あいつのことは気にするな。うちの義母も言っていただろう、しばらく放っておいて、あのワガママな性根を叩き直さないとな」

「皆さん、紗凪のためを思ってのことなんですね……」

明歩は小さくため息をつき、コップを受け取った。

処置室のドアが再び開く。

春輝が、同じようにずぶ濡れの救助隊の活動服姿で入ってきた。

手には保温容器を提げている。

「明歩、厨房で作ってもらった卵雑炊だ。食べやすいし、体も温まるから、冷めないうちに食べろ」

春輝はベッドのそばまで歩み寄ると、心底いたわるような優しい口調で言った。

それから振り返り、浚介を見る。

「外はだいたい落ち着いた。そっちの状況はどうだ」

「ちょうど本部の引き継ぎを終えて、様子を見に来たところだ」

浚介が静かに答える。

春輝は深くうなずき、処置室の中をぐるりと見渡した。

「瑠奈は?紗凪のやつ、まだ機嫌を損ねて顔も出さないのか?」

「廊下にいますよ」

浚介は淡々と事実だけを告げた。

「ふざけるな!」

春輝は不快げに眉をひそめた。

「廊下なんて寒いだろうに、紗凪のやつ、本当にどんどんたちが悪くなるな!」

彼は怒りを露わにしながら、大股で処置室を出ていった。

私はてっきり、兄がようやく瑠奈の様子を見に行ってくれるのだと思った。

けれど彼は廊下まで来ると、ストレッチャーの上で小さく丸まって震える娘を、ただ冷たく見下ろしただけだった。

「瑠奈、ナースステーションで電話を借りて、紗凪のやつにかけろ。

芝居はもう十分だ、さっさと戻ってこいと伝えろ。子どもを病院に置き去りにすれば、俺たちが折れるとでも思っているのかってな」

瑠奈はすでに高熱で意識がもうろうとしていた。

春輝の厳しい言葉はほとんど聞き取れず、ただ本能のままに伯父へと小さな手を伸ばす。

「おじちゃん……だっこ……」

だが春輝はあからさまに1歩下がり、泥水で汚れたその小さな手を冷酷に避けた。

「俺にそういう泣き落としは通用しないぞ。ママに仕込まれた甘え方なんて効かないからな」

春輝の声は、部下を叱るときのように厳しかった。

「うちは家族みんな人の命を預かる仕事に就いてるんだ。身内の気を引くためだからって、何をしてもいいわけじゃない。

今日はここで頭を冷やせ。紗凪が自分から出てきて、非を認めるまでは病室には入れない」

そう吐き捨てるように言い終えると、春輝は無情にも踵を返して去っていった。

瑠奈の頬に浮かぶ、尋常ではない病的な赤みにすら、一瞥もくれることなく。

これが、私が敬愛してきた兄だった。

子どもの頃からずっと、いつも道徳的な高みから、私を見下ろすように裁いてきた人。

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