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第四話『コンペの裏側とQラボの噂』

Author: 揚羽渓名
last update publish date: 2026-10-15 06:30:26

「コンペの勝利者は桐生蓮の教え子ですかぁ」

 大手研究所で責任者をしている御堂悠は、会議室で最近台頭してきている飲料会社の専務と打ち合わせしていた。

 悠はTVや雑誌でも引っ張りだこの若き天才研究者として名を馳せている。

 薬科学においての第一人者、新城真の元で研究をしていた分、周りからの期待も熱い。

 そんな悠の研究所に持ち込まれた商品は、今まで必ず大きな成功を収めていた。

「そうなんだよ。まさかの事態にこちらも驚いていてね」

「おたくはそういう詰めが甘いんですよねぇ。でもまだ新人なんでしょ?」

「新人というほどでもないけれど、優秀な子ではあるよ」

「それはそれは、勿体ない事をしましたねぇ」

 悠は髪を無造作にかきあげると、足を組み直して笑みを浮かべて役員を見る。

「今回のコンペの特別枠を受け入れてくれた事には感謝していますよ。その代わりうちからは多大な功績をそちらに残すとお約束もします。ですがねぇ……社員の手綱はしっかり取っておいてくださいねぇ?」

 笑みを深めて圧をかけるように忠告すると、役員は分かっているのかいないのか、何故かニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた。

「送り込んだのは若い女性だ。もし何かあったらすぐに何かしらの理由をつけて下がらせればいい。若い女に言う事を聞かせるなんて簡単な事だよ」

「なるほど。だからその子を送り込んだんですか?」

「もちろん優秀だからだよ。けれど、何か不祥事を起こした時に見返りを頂くには若い女性の方がそりゃ良いからね」

 どうやらこの男は下心があってその女を蓮の元へと送り込んだらしい。優秀なのも事実なのだろうが、恐らくこの男の好みだったのだろう。

 男が身を滅ぼす原因の大抵がプライドか金か女だ。そのどれも踏襲しようとしている男に呆れ返りながらも、悠は資料と資料に隠した万札の束を差し出した。

「仕方ないですねぇ。それじゃあ次の資料はこれです。頼みましたよ」

「ああ。ではまた月末に」

 男は書類の束を嬉々として受け取り会議室を出て行く。

 悠は男が出て行った事を確認すると、舌打ちをして控えめに怒鳴った。

「いっぺん死んでこいよ、おっさんはよぉ!」

 どんな手を使うつもりなのかは知らないが、下手な事をして裁判にでもされたら困る。

 悠は苛つきながらもある人物にメッセージを送った。

 そろそろ次の段階に移る準備が出来た事を報告する為に。

 葵がQラボに通うようになって一月が過ぎた頃、毎日のように蓮と顔を合わせる事になったのがいけなかったのか、よく当時の事を夢見るようになった。

「はぁ……また高校時代の夢……」

 葵はまだぼんやりとする頭を押さえてため息をつくと、ベッドから下りて支度を始める。

 今日の夢は体育祭の夢だった。

 当時の葵は今ほどのバイタリティも無かったし、良く言えば欲も無かった。クラスの中の自分の立ち位置を把握し、出しゃばるような事はしない。こうする事で派手なグループから目を付けられるような事もなく、日々を無難にやり過ごしていたのだ。

 体育祭の応援用の旗作りだって、それとなく皆の意見をまとめたりして、中心の輪からほんの少しでも外れた所に留まるような、そんな生徒だった。

『まるで妖精だな、お前は』

 放課後に一人残って旗を仕上げる葵に、蓮は呆れたようにそれだけ言って去っていった事がある。

 その時は妖精のように可憐だと褒められたのかと思ったのだが、よくよく考えれば、あれは『妖精のように現実には居ない者』という嫌味だったのではないだろうかと気付いた。

 葵はそれに気付いた時の感情まで思い出してしまって、顰め面で化粧をし始める。もう終わった事なのに、どうして未だにこんなに過去の事で心を揺さぶられなければならないのだ。

 それでなくても、まだQラボは何の成果も上げていない。

 もちろんチームの皆が毎日遅くまで研究している事は葵も知っているし分かっているが、やはり噂通りQラボは各所から送られてきた落ちこぼれ集団でしか無いのかもしれない。

「ま、そんなすぐに結果が出る訳ないか」

 何でもそんなに簡単に結果など出る訳がないのは分かっているが、葵としては未だにどこかに何故ここと組まされたのだという思いがある為、自身の安心の為にも早く何かしらの結果が欲しかった。

 そんな葵がさらに不安になったのはそれから少しした頃だ。

 会社の方に出社した時に、たまたま不穏な噂が葵の耳に飛び込んできたのである。

『そう言えばさ、あの子が組んだQラボの事なんだけどさ、今まで一回も成功して無いっていうのは有名な話じゃん? でもあれ実は裏があるんだって』

『え? どういう事?』

『ここだけの話なんだけど、実は私の知り合いで実際にQラボと組んだ人の友人って人が居るんだけど、その人さ、Qラボと組んでしばらくしたら病んで業界辞めちゃったって』

『なんで? 失敗してその責任取ったって事?』

『ううん。かなりのベテランさんだったのに、そもそも完成しなかったんだって。その理由が、突然の資金の打ち切りだったって』

 そこまで聞いて葵はその場を足早に立ち去った。今までの不安がさらに倍増して葵に降り掛かってくる。

 今の話のどこまでが本当で嘘なのかは分からないが、何やら不穏な事には間違いない。

『忙しいのにごめんね。ちょっと色々と話したい事があって、近々会えないかな?』

 葵は最近の夢見の悪さと、この言い知れない悶々とした気持ちを一人で抱え込む事が出来なくなって、とうとう高校時代からの親友に連絡を取った。

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