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第7話
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秋の夢、遅き哀しみ 第28話
彼の唇が悠依にだんだん近づいていく。最後には、悠依が先に爪先立ちになり、彼の唇にキスをした。彼女は言った。「則行、私を愛してくれてありがとう。私も則行を愛している。結婚しましょう！」則行は彼女を離そうとせず、頭を優しく抱え、深くキスを返した。暗闇の中で、則行の目元の涙と、喜びに溢れる悠依の涙が混ざり合い、まるで星々のように輝いている。……やがて、二人は婚姻届を提出した。悠依はあの一か八かのライブ配信以降、カメラ恐怖症になっていた。かつて則行との手紙の中で思い描いていた結婚式は、この人生では叶わなかっただろう。だが、問題はなかった。則行は悠依からのすべての手紙を大切に保管している。彼は有名なジュエリーデザイナーを招き、結婚式のテーマに合わせた一式の宝飾品を悠依のためにデザインさせ、永久の思い出として残した。その宝飾品を身に着け、二人はウェディング写真を撮影し、過去の悔いを少し埋め合わせた。すべてが終わると、則行は悠依を西園寺家の本宅へ連れて行った。そこで、悠依は西園寺家の本家、分家、すべての西園寺家の人々に出会った。この子孫繁栄した大家族は結束が固く、これまで長年にわたり、誰も怪しげなことを企てる者はいなかった。穴だらけの堀家とはまったく違っている。悠依のライブ配信は、耳の遠い則行の祖父以外、すべての人が知っていた。しかし誰一人として哀れみの目を向けず、むしろ悠依を受け入れ、この大家族に溶け込むよう導いた。もともと悠依は、人が多い場面に慣れておらず、尻込みしていた。だが、皆の努力によって、彼女はなんと恐怖を感じず、まるで自分の家にいるかのような感じがした。最後に、先祖に敬意を払い、家譜に名を刻み、正式に西園寺家の一員となった。一連の儀式が終わったとき、悠依はまるで夢を見ているような気がする――儚く、いつか消えてしまいそうな夢。しかし、彼女の手を握る則行がそっと手をつまむと、悠依の心はようやく落ち着いた。悠依は突然決めた。「私は京栄市に定住する。西園寺家の皆と永遠に一緒にいる」隆茂と言子、則介、そして則行も、この決定を聞いて喜んだ。さらに喜んだのは、異国で隣に住むおばあちゃんだ。まさか、おばあちゃんの息子が西園寺家の取引相手で、最近事業が安定しておばあちゃんを
秋の夢、遅き哀しみ 第27話
正道の命日が近づくにつれ、悠依は夜も眠れない日が増えていった。幸い、彼女は一人で過ごす習慣があり、初日以外は言子も一緒に寢らなかった。則行も彼女の習慣を知っているので、邪魔しようとはしなかった。そのため、悠依は部屋で一晩中座っていても、誰にも気づかれずに過ごせた。ある夜中、悠依は胸の苦しさに耐えきれず、外に出て散歩したくなった。すると偶然、則行と隆茂が書斎で話しているのを見かけ、ちょうど自分の名前が出たところだった。何かに導かれるように、悠依は書斎のドアの前まで歩み寄った。隆茂はちょうどこう言っていた。「悠依のために、お前も一度は手放した家業を引き継いだんだな。父さんは本当に感慨深いよ」彼はタバコの火を消しながら言った。「昔、お前にグループを継がせようとした時、お前は何としても拒否したな。持っていた株も則介に渡して、ずっと外を漂うつもりかと思っていたよ。動物写真家だとか言ってな」今の則行は、普段のふざけた様子とはまったく違っていた。彼の表情は真剣で、眉や眼差しは隆茂と同じ深みを帯びていた。則行は手にした書類をめくりながら、真剣に言う。「夢も彼女も、どちらも手に入れる。西園寺家の事業を引き継ぐのも一時的なものだけ。結局、西園寺家の力を借りて物事を進めるためだ。悠依は離婚した後、国内の環境には少し慣れないだろう。だから堀家の件が片付いて、海外の事業を安定させたら、すべて則介に引き継ぐんだ」隆茂は思わず笑った。「よく言うだろう、『優れた父に出来の悪い子は無い』と。だがお前は、父さんより大胆だな。グループを引き継いでたった一か月で、あの老害連中の反対を押し切って、堀家の大事業ラインを一掃したなんて」堀家？悠依は服の裾をぎゅっと握りしめ、目に不安と緊張が満ちた。則行は冷笑した。「ただ奴に悠依を見つけられなくして、身を滅ぼすだけじゃ、甘すぎる。あいつは海外市場を開拓したいんだろう？──なら、絶対にそれを叶えさせない」隆茂はしばらく彼を見つめ、穏やかに口を開いた。「よく気をつけろ。今、お前は西園寺家の力を使って、悠依のためにグローバルなファイヤーウォールを作った。それに不満を持つ者は多い。度を過ぎると逆効果になる。手を引くべきことは引いたほうがいい」則行は不思議そうに聞き返した。「でも、父さんが母
秋の夢、遅き哀しみ 第26話
その時、則行はそっと悠依にささやいた。「あの時、父さんは精一杯言子おばさんを追いかけてたんだ。それに俺が邪魔するんじゃないか心配して、わざわざ俺を母さんのところに預けたんだよ。でもね、結婚式の夜、父さんは客室で寝て、母さんと言子おばさんは一晩中同じベッドで話し込んでた。翌日、父さんは不満そうだったけど、母さんはきっぱり言ったんだ。『私と言子、名前も同じ字だから縁がある、これからは姉妹よ』って」隆茂はその話をそばで聞いていて、表情に不満がにじんでいた。悠依はそっと則行をつつき、小声で尋ねた。「おじさん、ちょっと不機嫌そうだけど、慰めに行ったほうがいいじゃない？」則行はちらりと隆茂を見て、笑いをこらえながら首を横に振った。「大丈夫、大丈夫。母さんと言子おばさんが親友になってから、父さんはいつもこんな感じだから」隆茂はますます不満そうな顔をした。……今夜、悠依をもてなす宴は、美言と現在の夫が新しく開いたレストランで行われた。食事は楽しく、悠依は初めて「皆に大切にされる」という体験を味わった。彼女の好きな料理は、さりげなく彼女の前に回され、恥ずかしがって箸を伸ばせなくなる心配もない。話したいことがあれば、皆が真剣に箸を置いて耳を傾けてくれる。則行の食いしん坊で遊び好きな弟でさえも。彼女の苦手な味付けも、則行が事前に料理長に伝えてあり、テーブルには悠依が嫌う匂いは一切なかった。皆がそれぞれの方法で、悠依の居心地の悪さを取り除こうとしてくれたから、悠依は心の底が温かくなるのを感じた。そして、初めて心の中で「もし則行と結婚することになっても、悪くないかも」と思う。彼女は世間知らずの少女ではなかった。あの失敗した結婚は、骨に刻まれるほどの傷となった。二度と、ひどい家庭に嫁ぐようなことは絶対にしたくなかった。……食事が終わると、皆それぞれ家へ帰った。則行は長年海外にいて、国内の家の掃除が間に合わなかったため、まず悠依を西園寺家の旧宅に住まわせた。家に入ると、見慣れた室内の様子に悠依は思わず涙ぐむ。おそらく言子と敏子が実の姉妹だからだろう、二人の部屋の装飾の好みやスタイルは非常に似ていた。また、西園寺家の旧宅も海野家の旧宅と少し似ていて、悠依は悲しい過去を思い出してしまった。悠依の説明を聞き、言
秋の夢、遅き哀しみ 第25話
言子は少し緊張している悠依を見つめ、笑顔をさらに柔らかくした。「悠依、実は私はあなたの叔母なのよ」悠依は一瞬驚き、顔を上げ、手入れの行き届いた三十代半ばに見える上流階級の女性をまっすぐに見つめた。その眉目は、写真の中の母の面影と確かに少し似ていた。悠依はすでに知っていた。今の言子は、則行の実母ではないことを。隆茂と則行の実母は政略結婚で結ばれたが、則行が幼いころに離婚した。それでも二人は今でも良好な協力関係と友人関係を保っている。現在の西園寺奥さんは、隆茂が後に出会った本命で、十年かけて追いかけて、大切にしている人だった。だが、目の前の人が自分の親族なんて、悠依は全く予想していなかった。悠依は慎重に尋ねた。「母は大林敏子（おおばやし としこ）という名前です。奥さんは、彼女の実の妹ですか？」言子は、知りたかったことを確認すると、さらに優しい笑みを浮かべた。悠依を見る目は、まるで実の子を見るかのようだった。「そうよ、私は彼女の双子の妹なの。でも私たちは別々の家庭に養子に出され、長い間会ってなかったの。結婚する前に私の元の名前は、秦言子（はた ことこ）だったわ」彼女は少し間を置き、目に憐れみの色を増して言った。「ここ数年、本当につらかったね」その言葉を聞いた悠依は、声も出せず、言子の胸に顔を埋めて泣き始めた。だが泣き声は抑えられている。これまであまりにも多くの屈辱を経験した彼女は、もう大声で泣くこともできなかった。言子は背中を優しく叩きながら、彼女が泣き終わるのを辛抱強く待った。悠依が彼女の胸から顔を上げると、言子の服の胸元は涙で濡れてしまっていて、悠依は申し訳なさでいっぱいになる。言子は微笑んで慰める。「大丈夫よ、悠依。私のことは母親だと思って接していいのよ、遠慮しなくていいわ。悠依、私は男の子しか育てたことがなく、娘には恵まれなかった。でも今、あなたが来てくれた、あなたは私の福の神よ」彼女は、ずっと後ろのミラー越しに見ていた則行を見やり、付け加えた。「もしこれから、則行があなたに優しくなかったり、もう彼と付き合いたくないと思ったら、あなたは私の娘でもあるのよ」則行は苦笑いする。「母さん、やっと手に入れた彼女なのに……」「今や私の姪も帰ったんだから、あなたとお父さん、二人とも彼女をいじめない
秋の夢、遅き哀しみ 第24話
その夜、二人は主寝室で過ごした。悠依はベッドの上、則行は床に布団を敷いて――これは則行自らが申し出たこと。秋の床の冷たさを心配する悠依に、彼は「床の方が俺には快適なんだ」と頑なに主張した。彼はいつもこうして優しく、あらゆる面で彼女を気遣ってくれる。悠依の心は温かくなり、夕食を作る際、特別に彼のために小さなイチゴのケーキを作った。則行が甘いものを好むことは、この前二人で出かけた時に悠依が偶然知った。案の定、食卓で則行は嬉しそうに笑い、缶詰をもらった猫のように「うまい！」「うまい！」と叫び続けた。彼の笑顔を見ると、悠依も思わずほほえんだ。過去の傷から、悪天候、特に雷を恐れていた彼女だが、今は突然その恐怖が消えたように感じた。……夜、二人は部屋で向き合い、上下に分かれて寝ながらも話は尽きず、翌日飛行機に乗る頃には二人とも目の下にクマができていた。機内では互いに寄り添って眠りにつく。飛行機到着前に、悠依はわざと腕時計の振動アラームをセットした。慎重に則行の頭をどけ、身支度をするために席を立とうとする。立ち上がった瞬間、背後から手が彼女を引き留め、則行のぼんやりとした声が聞こえる。「着陸までまだ1時間あるのに、もう起きちゃったの？」「ちょっとお化粧をしてくるの」悠依は彼の枕を整えながら言う。「あなたはゆっくり寝てて。すぐ戻るから」則行は眠そうにつぶやいた。「化粧しなくてもいいよ、みんな気にしないから」そう言いながら、化粧ポーチを悠依に手渡し、自分のバッグから口紅を一本取り出した。「化粧するかわからなかったけど、母が一番好きな色で、買っておいたんだ」口紅を渡すと、彼はまた眠りに落ちてしまう。悠依はその姿を見て、心が柔らかく溶けそうだ。海野家が破産してから、彼女はもう化粧をしていなかった。すでに四年以上、すっかり慣れなくなっていた。則行が化粧を強要しないのは、自分の気持ちを慮ってのことだ。しかし彼は自分の意思も尊重し、家族から好印象を持たれる方法もすでに考えていた。悠依はそれだけで幸せを感じた。……彼女は淡い化粧を施し、手つきはややぎこちなかったが、時間は長くかからなかった。30分後、化粧を済ませて席に戻ると、則行はすでに二人の荷物を整理していた。「則行、私の化粧、どう
秋の夢、遅き哀しみ 第23話
悠依の心は乱れ、居心地の悪さでいっぱい、自分が考えすぎていると自覚しながらも、どうすることもできなかった。海野家の庇護を失った今、彼女は常に警戒していなければ、骨の髄まで食い尽くされてしまうような危機感を抱えている。幸い、則行は彼女の気持ちに気づいた。その秋、彼は彼女を国内に連れて行き、西園寺家を紹介したいと申し出た。則行は真剣な面持ちで言う。「悠依、実は俺は京栄市の西園寺家の末っ子なんだ。今まで言わなかったのは、君にプレッシャーをかけたくなかったから。でも今こそ、君を家族に会わせたい。俺の文通相手のことはみんな知っていて、気に入っているから、俺の彼女が君だと分かれば、きっと喜んでくれるはずだ」京栄市の西園寺家は百年の歴史を持ち、堀家に匹敵する勢力を誇る名家だ。悠依は、則行が西園寺家の出身だとは夢にも思わなかった。だが、すぐに彼女は納得した。則行の佇まいからは教養の高さが感じられ、エリート教育を受けてきたことがうかがえる。また、幼い頃から交わしてきた手紙の中の彼の文字は生き生きとしており、年齢以上の成熟さを感じさせる。彼がそんな高い家柄の出身だとしても、何ら不思議ではない。則行の熱い視線に押され、悠依は彼と一緒に実家を訪れることを承諾した。則行は嬉しさのあまり、彼女を抱き上げて回りたくなるほどだったが、悠依の体を慮り、その衝動は抑えた。顔に満面の笑みを浮かべて言う。「じゃあ明日、飛行機で迎えに来るよ」則行は足を絡ませて花壇にでもつまずきそうになり、もぞもぞと立ち上がると、恥ずかしそうに頭をかいた。悠依は彼の間の抜けた様子に思わず笑みをこぼし、話しかけようとしたその時、外は突然大雨が降った。彼女は驚いて天気予報を確認と、不思議に聞いた。「今日はここ一年で一番暑い日になるはずじゃなかった？どうして急に雨が？」則行も首を傾げるが、今は外に出られず、ただ悠依を見つめることしかできない。雨が次第に激しくなるのを見て、彼女は考えた末、折れることにした。「今夜……とりあえず泊まっていきなよ。ここ……空いてる部屋が一つあるから」最後の言葉は次第に小さくなり、悠依の耳まで赤く染まる。以前なら、則行はきっと彼女をからかっただろう。しかし今は、悠依が本当に彼がここに泊まってもいいと言ってくれるとは思っ
