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一緒のシフト

Author: いのか
last update Huling Na-update: 2025-09-26 17:11:56

「一緒のシフトはいるのははじめてだよね?」

  事務所からでてきた斉藤は春陽の横に立った。

  「斉藤慶司(さいとうけいじ)です、よろしく」

  振り向いただけでは視線が斉藤のユニフォームの胸元だったため春陽は顔をあげた。

  「渡辺春陽です……」

  156センチしかない春陽は大体の人を上目に見ないといけないが見上げないとならず、それが春陽を萎縮させる。

  --お客さんはいないし、売場の手直しでも行ってようかな。

  横に年の近い人間が立つのは居心地が悪かった。

  あの日以来、春陽は自分から誰かの近くによる事がなかった。不運にも春陽と組んでしまったりグリープが同じになったり、たまたま隣に並んでしまう事があると女子ならば眉間を寄せ嫌な顔をするが春陽の存在を無視した。男子ならば吐く真似をしたり悪口を言ったりした。

  自分の近くに普通の他人は来たがらないと春陽は認識していたので斉藤が普通に真横に立った事が対処できず自分から離れようとした。

  「渡辺さんは高校生だよね?」

  更に話しかけられて春陽ば内心ビクリとした。

  「はい……」

  「何年?」

  会話が続く。

  「……1年です……」

  「まだ1年?若いなぁ。俺は大学2年、この隣駅近くにある大学に通ってるんだ」

  「はぁ……」

  「渡辺さんはどこの高校?」

  --質問、続くの?

  そう思うが他人をあえて不愉快にさせたくは無い。

  「新島商業です」

  隠すほどでもないため答える。

  「商業高校なら検定とかあるし高校は部活もあるし、忙しいでしょ。バイトもけっこう入っているみたいだし、大変じゃない?」

  「……」

  「あれ?俺変なコトきいた?」

  「あ、大丈夫です……。私、部活には入っていないので……」

  「新島商業って有名な部多いよね、公立だけど野球は甲子園いっていたりバスケやバレーも強かったよね?」

  春陽の通う県立新島商業高校は文武において公立では有名な学校だった。野球部は過去数回甲子園出場、プロ選手も出している。バスケ部やバレー部も県代表になったことがある。他にも柔道部や弓道部なども強豪とされている。文に関しても高校数学オリンピック出場や高校生クイズ大会上位進出など有名であった。

  「バイトは、うちシングルマザーなので……」

  他人の家庭の生活苦など話をやめるだろうと春陽はあえて家庭環境の話しをした。

  「高校から家の為にバイト、渡辺さんは偉いんだね」

  関心したように斉藤が言ったので春陽の心の中に不思議な気持ちが渦巻く。

  「俺はさ、自分がやりたい事に未練があって親と喧嘩して今の大学に編入したんだ。そしたらウチの親学費出してくれなくて!今は苦学生になったんだ」

  嘘か本当か?斉藤は自分の身の上話を楽しげに話した。

  斉藤があまりに普通に話すので春陽の萎縮もとけていた。だからか。

  「やりたい事ですか?」

  自然と春陽から言葉がでていた。

  それには自分自身が驚いた。

  「うん、やりたい事」

  斉藤の眼鏡越しの目が優しく微笑んだ。

  --?

  その笑顔に一瞬だけ既視感を覚えた春陽だったがそれがなんなのかはわからず受け流してしまった。

  「タバコちょうだい、27番」

  1人の客が入ってくるなりレジ前にたちタバコを指さした。

  「はい、27番のタバコですね!」

  春陽は慌ててタバコを取ろうとしたが「はい」既に斉藤がタバコを取り春陽に差し出した。

  「あ、ありがとうございます」

  タバコを受け取る為手を出すとタバコを持った斉藤の指と春陽の指が微かに触れた。

  「あ、ごめんなさい!」

  春陽が慌てて手を引っ込めた為タバコが落ちそうになったが斉藤は瞬時に掴み、今度はタバコを直にテーブルに乗せた。

  「ありがとうございました」

  客を見送ってからもあんな些細なことでと春陽は恥ずかしさに俯く。

  --指先が触れただけなのに急にあんな手を引っ込めるなんて、過剰だと思われる。でも私なんかに触ってしまって気分悪くするかな?

  「渡辺さんは、彼とかいないの?」

  「!」

  突然の質問に春陽は目を丸くした。

  「い、いません!私なんかと付き合う人いません!」

  全否定で叫んだ。

  「……」

  春陽の反応に驚くと共に斉藤はその言葉に違和感を覚えた。

  「いきなり変な質問しないで下さい」

  「ごめん、指触れただけであの反応ははじめてだったから……」

  苦笑いしながら言う斉藤に悪気はなさそうだったので春陽は早くこの話題を終わらせたかった。

  --私なんかを好きになる人がいるはずない、だって私が私を1番嫌いなんだから。

  女子高校生の話題の大半は恋愛絡みだと世間一般はなっているのだろう。

  しかし春陽は恋愛に関してまったく興味が無かったのだ。

  以前、エアネストというアイドルが大好きだった時。その中でも春陽の推しはメインボーカルのKEIというメンバーだった。異性に興味をもてたのは多分あの一度きり。しかし春陽の中でエアネストのKEIは現実ではなくあくまでも商品だと理解した上での好きだったのでやはり恋愛には結びつく事はなかった。

  3年近く経つのにエアネストの事を思い出すと悲しくなる。エアネスト解散後もメンバーの内数人はまだ芸能活動をしていたがその個人を応援する気持ちもおきず、新たな推しグループなどを見つける気持ちもおきず。

  今の春陽は趣味も何もなく本当に毎日がただ繰り返し去っていくだけのものだった。

  だからなのか、斉藤が先程言ったやりたい事に興味がわいた。

  一度進学した大学も捨て、家族にも反対されながら未練があるものなんて、少し羨ましい気持ちにもなった。

  「さっき言った斉藤さんがやりたい事は何なんですか?」

  話題を変える為でもあったが今度は春陽が質問した。

  「映画」

  「映画?」

  「そう、映画を作りたいんだ」

  予想外の答えに春陽は驚いた。春陽にとって映画は娯楽で観に行く物でしかなかったから。

  「作るんですか?」

  「そう、作るんだよ。構想を考え台本を作ってキャストを考えてそれを形にするんだ」

  例えばね……、と今まで構想したいくつかの話を斉藤は接客の合間に話してくれた。

  「おはようございます」

  少し遅れていたお弁当の最終便の配達員が入ってきた。

  30分も我慢できるのかと思っていたにもかかわらず既に時間は19時30分になろうとしていた。

  店長やおばさんの会話に相槌打つだけも続くのが10分程が限界だったのに1時間近く話しをしていたのだ。

  とても不思議だったが春陽は嫌ではなかったと感じていた。

  それからすぐに一般商品とドリンクも搬入されたため春陽も斉藤も品出しに追われて時間が過ぎていった。

  「渡辺さんはもうあがる時間でしょ?」

  時計を見ると既に22時を回っていた。

  「はい、すみません。お先にあがります」

  春陽は事務所に戻りロッカーにユニフォームをしまいコートとマフラーを羽織った。

  「それじゃあ、お先に失礼します」

  まだ夜勤が残る斉藤に挨拶をした。

  「お疲れ様、きをつけてね」

  春陽はぺこりと頭を下げ店を出た。

  暖房の効いた店内とは違い外は肌が痛くなるような寒さだったが、春陽の心はほんのり暖かかった。

  普通に他人とお喋りできた事が少し嬉しかった。

  自分は何時も独りで大丈夫だと気丈に言い聞かせていてもたまらずに寂しさを覚える事がなかったわけではないのだ。

  --今日のシフトは、楽しかったな

 その思いを春陽は正直に受け止める。

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