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渡辺春陽2

Author: いのか
last update Last Updated: 2025-09-26 17:11:02

学校でたった1人過ごす事になれて数年、春陽は中学3年生になっていた。教室の窓から外を眺めると落ちた枯葉が校庭の地面を風に煽られ走っていた。1カ月程前まではまだ半袖でも過ごせる日があったのに12月を間近に控えてやはり寒くなったと感じる。

  あと10日程すれば自分の誕生日がやってくる。しかし春陽は自分の誕生日が好きではなかった。自分の誕生日周辺は不幸ばかり起きるから。

  産まれた日は父と祖父母の死。

  1歳になる時には祖父の死。

  8歳の時には友達を失った。

  大なり小なり、誕生日にはいい事がないのだ。

  --今年も何かあるのかな?風邪ひく位ならいいけど。

  誰かを、何かを失うのは嫌だと心底思う。誰かを、何かを失うならばいっそのこと自分を失ってしまえばいい。母と祖母以外に悲しむ人もいないのだから。

  しかし、その大事な母と祖母を悲しませる事は自分にはできない。

  だから3人で過ごす誕生日は2人の前では笑顔でいなければ、と春陽は思った。

  それに近年、誕生日でもいいコトがあった。

  現実の身近な人は誰も彼もシングルマザーの家庭だから、貧乏だから、笑顔も見せない無愛想なブスだからなどと散々人を傷つけてくるけれど。

  数年前、祖母とみていたテレビの映像に自然と笑顔になっている自分に気づいた。それはデビューしたてのアイドルグループが出演していたバラエティ番組だった。全ファンにむける平等な笑顔やトークに癒され、その歌に元気付けられた。

  それから彼等が出るテレビ番組やラジオ番組は欠かさず録画、録音して見聞きし、雑誌記事は本屋で立読みをした。今まで何かに情熱を傾ける事がなかった反動もあったのかもしれない、春陽の1人きりの推し活は熱がはいっていった。推し活が3年目を迎えようとした中学1年の時、いつか彼等のライブに行きたいと思っていた春陽はその準備としてファンクラブへ入りたいと思った。母にお願いするのは簡単な事ではあったがたった数千円が家にとってどれだけ大事か解っていた春陽は母にファンクラブの会費を誕生日プレゼントにして欲しいと頼んだのだ。

  物として残らないからと最初は渋った母も春陽の必死の頼みにおれてくれた。そして祖母は少ない自分のお金から毎年発売されるアルバムを誕生日プレゼントしてくれるようになった。

  今年もまた更新をしてもらい、9月に発売されたアルバムを買ってもらえる事がとても楽しみだった。

  香織の給料が振り込まれる11月30日。香織はATMで生活費分をおろし、その中から春陽の誕生日プレゼントであるファンクラブ会費を振り込もうとしたのだが。

  振り込みの為に確認したスマホ画面をみて驚いた。

  21時までの夕勤を終え帰宅した香織はまだ勉強をしている2階の春陽の部屋へむかった。

  「春陽、今大丈夫?」

  春陽はドアの方に振り返ると「うん」と手にしていた鉛筆をノートの上に置いた。

  香織は言いにくいそうに「あのね、……」と口をひらく。

  「どうしたの?」

  香織が言い淀む事はめずらしい。

  「昼間の休憩の時にね、約束の会費を振り込もうとしたんだけど……。

  香織は手にしていたスマホを春陽に渡す。

  春陽はまだ自分のスマホがないため香織のスマホでファンクラブの手続きを全て行っていた。

  画面はファンクラブのお知らせページがひらかれていて、春陽は画面に視線をおとした。

  --お知らせ 日頃より当ファンクラブへのご支援まことにありがとうございます。この度は事情により12月以降更新となる会員さまの更新受付並びに新規入会手続きを停止いたしております。詳しくは12月1日12時よりメンバーによる記者会見をおこない発表致します。

  「会費、振り込めなかったの……」

  春陽はショックと不安でその後勉強をする気にはなれなかった。ベッドにはいっても眠る事もできなかった。

  春陽には自分のスマホが無いため学校に行ってしまえば12時からの会見内容を帰宅するまで知る事ができない。学校に行きたくない、イジメにあって気持ちが落ち込んでも思う事がなかった願いだが、それが無理だとはわかっていた。

  学校に着いても授業に集中できないまま昼休みになった。

  普段ならば他の生徒の会話も内容を留めず右から左へと流していた。けれど。」

  「ねぇ!エアネストが解散だって!」

  スマホを教室で使うことを禁止していても守る生徒が少ない事は教師も目をつぶっている。

  女子生徒の1人がスマホの画面を他に見せながら叫んだ。

  春陽もその女子生徒へ顔をむけた。

  「ウソっ…。」

  「やっと売れてきたのに何で今?!」

  「ショックすぎる!」

  女子生徒の周りに集まって騒ぎ立てる。

  --解散……?

  春陽は頭は真っ白になった。

  エアネストが春陽の唯一の活力源だった。

  女子達から総無視され影で悪口を言われても、男子達からブスだ臭いだと罵られても、教師達がイジメを無視するどころか春陽を空気の様にあつかっても。エアネストの推し活で頑張れていたのに。

  --失くなってしまう。

  物心つかない頃の父や祖父母の死より、友達からの裏切りなんかよりも、春陽の心は潰れてしまいそうな痛みをおぼえた。

  --本当に先か後か当日か、誕生日は嫌な事が起きる。

  15歳の誕生日もお祝いする気分で迎えるコトができなかった。 

  勉強は嫌いではなかったけれど学校は嫌い。生徒同士で協力することも協調性をもつことも春陽にはできなかったから。だが、できないという言葉は少し間違えかもしれない。

 相手から拒否されるから先に春陽から協力をしないし、協調もしなかっただけだから。

  だから高校には進学しなくてもいいと考えていた。進学するならば高校卒資格も得られるような専門学校でよかった。

  しかし専門学校は予想以上に授業料がかかることを知った。

  それに香織が高校だけはいっておいてほしいと願っていた。

  仕方なく経済的に負担が少なく、卒業後はすぐに就職できるだろう商業高校へ進学をした。

  商業高校では検定試験がいくつもあり土日が潰れてしまうこともあったが、それでも時間を作り春陽はアルバイトをはじめた。バイト先は近所にあったコンビニで、平日は火水木の週3日17時から22時までの夕勤土日は出れる日だけ朝6時から働いた。

  慣れない頃は声が小さい、動作が遅いと怒る客もいて気分もかなり落ち込んだが店長や一緒に働く近所のおばさんがよい人で救われた。

  「渡辺さん、今日の夕勤はボク19時までしかいられないけど夜勤の斉藤くんがきてくれるから安心して」

  ユニフォームのファスナーを首元まで上げ終わったタイミングで店長が事務所に顔をだしてそう告げた。

  --斉藤さん……。

  春陽の頭の中にボヤっと背の高い青年の姿が浮かんだ。

  確か自分よりも少し後に入った夜勤の大学生、背が高くいつも寝癖で跳ねた髪に確か眼鏡をかけていた。

  自分が夕勤であがる時にちょうどすれ違う為挨拶だけはしているが。

  --安心か。

  店長かおばさんと組むのがほとんどでそれ以外でも店長の奥さんや妹さんが臨時ではいっていたので他人と、それも苦手な男性とはいる事に不安だらけだ。

  --荷物もくる日だし、品出しと掃除していればあまり関わらなくてすむかな。

  今日は新商品が多く入る火曜日だった。

  --私みたいなのとわざわざ話をしようとも思わないか。

  春陽が自然に会話できるのは母と祖母だけだった。少し気をつかう程度ならバイト先の店長家族とおばさん、それに常連の年寄りでも大丈夫にはなった。

  -まぁ、3時間の我慢だから。

  そう励まして定時5分前ではあるけれどレジにはいった。

  18時をまわる頃は学校帰りの生徒や仕事帰りのサラリーマン、子供を習い事に送るのだろうか親子連れで店内は夕方のピークをむかえていた。2月にはいったばかりの寒さにお客の大半がレンジで温めを希望する為レジは2台開けていても数人のレジ待ち列ができていた。

  てんてこ舞いの状況の中「おはよう」と頭の上から声がかかった。

  「あ、おはようございます……」

  見上げると斉藤がレジ前に立っていた。

  「あとで自分でとるからピザまんとポテト、コード決済でお願い」

  と言ってスマホをだした。

  「はい、」

  レジのタッチパネルでピザまんとハッシュポテトを打ちコード決済の為にスキャナーをスマホにかざす

  「ありがとう」

  そう言って斉藤は店長側のレジ横にある入口から入り買った品を自らとり事務所に消えた。

  --来るの早い……。

  春陽はそんなコトを思ったがすぐに接客に意識を戻した。

  ピークが終わり店内に客がいないのを確認すると店長は事務所に入った。すぐに出てきた時ユニフォームは脱がれていた。

  「斉藤くん、もう入れるらしいからボクはもうあがるね、何かあったら電話してくれて大丈夫だから。渡辺さん、じゃあね」

  店長はそう言いながら店を出て行く。

 「お疲れ様でした。

  春陽は見送るしかなかった。

  ピークは多分先程のが1番だっただろう。お弁当の最終便がくるのは19時少し過ぎ。一般商品とドリンクがくるのは19時半。

  掃除は17時までのパートさんが帰り際に終わらせておいてくれていた。

  --30分、何しよう?

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