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第249話

Author: 春うらら
満の顔には得意の色が浮かんでいた。

「本当よ。今すぐ契約書を会社に持って帰るわ。でも……お父様、ご存知でしょうけど、清水さんとは仲良くさせていただいていて、この提携の今後のやり取りも、私が担当するようにとおっしゃっているの。会社の方は……」

「心配するな。お前が戻ってきたら、すぐに本家へ連れて行ってやる。おばあ様がお前と清水グループとの契約を知れば、必ずお前の入社を認めてくださるはずだ!」

……

ほむらがドアをノックして病室に入ってきた時、結衣はちょうど本を読み続けようとしていた。彼の姿を見て、彼女の目に喜びの色が浮かび、慌てて本を閉じてそばに置いた。

「どうしてこんな時間に来たの?」

「今日、退院するんだろう。何か手伝えることはないかと思って来たんだ」

結衣は首を横に振った。

「ううん、ないわ。和枝さんがもう全部片付けてくれたし、後で彼女と運転手さんが迎えに来てくれるから、そのまま本家に戻るだけよ」

「そうか。本家にはどのくらい住むつもりなんだ?」

「分からないわ。おばあちゃんがいつ帰っていいと言ってくれるか次第ね。たぶん、最低でも一ヶ月はかかると思う」

今朝、和枝が帰る時、時子がもう栄養士に一ヶ月分の献立を考えさせて、戻ったらすぐに療養食を始めるように言っていたのだ。

ほむらの眉が、気づかれないほどわずかに寄せられた。

「そんなに長く?」

彼は、結衣がせいぜい一週間ほどで戻ってくると思っていたのだ。

彼の驚いた顔を見て、結衣は思わず眉を上げた。

「前に私が本家には帰りたくないって言った時、あなた、おばあちゃんと一緒になって私を説得して、帰るように言ったじゃない」

ほむらは黙り込んだ。今さら後悔しても、もう遅いだろうか?

しかし……結衣は仕事が忙しくなると自分の体を顧みなくなる。

以前、何度か夜中にトイレに起きた時、彼女の家のリビングの明かりがついているのを見たことがあった。仕事に夢中になると、寝食を忘れてしまうのだ。

今の自分には、まだ彼女に口出しする資格はない。本家に戻れば、時子がきっと彼女をしっかり休ませてくれるだろう。

沈黙の中、ほむらのスマホが突然鳴った。ポケットからスマホを取り出し、画面に点滅する「清水雅」の三文字を見て、彼は眉をひそめた。

「ちょっと電話に出てくる」

バルコニーへ歩いて行き、彼はようやく通
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