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1-3

Penulis: 琉斗六
last update Tanggal publikasi: 2026-06-10 13:10:52

 格納庫を出て、基地内の道をしばらく無言で歩く。

 薄く涼しい夜風が、航空祭の名残をさらっていくようだった。

 若桐は、官舎の自室に真壁を案内する。

 廊下の端、突き当りは非常階段に繋がる角部屋だ。

 隣室の同僚は、航空祭の打ち上げに出席するような話をしていたから、今夜は戻らないだろう。

「ここ、空佐のお部屋ですか?」

「肩書きはいらん。入れ」

 キーを差し込み、扉を開く。

 真壁が中に進む間、若桐は廊下に他人の気配がないことを確認していた。

 そして、扉を閉める時も再度周囲を確認し、閉めたあとに施錠する。

「最後にもう一回確認するが、本当におまえは、俺にキスされたいんだな?」

「はい。そうです」

「じゃあ、これはあくまで検証であり、指導だから」

「よろしくお願いします」

 真壁の返事に、若桐はヤケクソ気味に開き直った。

 ぐいと、真壁の胸ぐらをつかんで引き寄せ、唇を重ね合わせる。

 真壁は、若桐の行動が唐突だったことに少し驚いた様子を見せたが──

 あの晩と同じように、見開いた目をすぐにゆっくりと閉じて、若桐に身を委ねてきた。

 触れ合う吐息。

 若桐の手が、あの晩と同じように真壁の後頭部に回される。

 ゆっくり開いた真壁の唇の隙間に、若桐の舌がぬるりと差し込まれた。

「……んっ……っ……」

 あの時よりも長く。

 若桐は、真壁の唇を、舌を、やんわりと愛撫する。

 真壁の手が、若桐の胸の生地を強く掴んでいた。

「んあ……っ」

 若桐が体を離すと、真壁は微かに……酸素の足りない魚のように喘ぎ、肩で息をしている。

「なんか、分かったか?」

「はい……、やっぱり、下腹がもやもやします」

「もやもやもへったくれも、興奮してるだけだろう」

「興奮……?」

 ぽやんとした顔で、顔を下に向け、真壁は自分の下腹部を見た。

「これ……、僕……勃起してるんですか?」

「自分の体のことを、他人に聞くな……」

 呆れを含んだ若桐の言葉を、真壁は聞いているのかいないのか。

 しばらく自分のそこを見つめたあとに、顔を上げて若桐を見た。

「それで、これはどうしたらいいんでしょう?」

「……は?」

 真壁以上に、若桐は混乱の渦に巻き込まれた気分だった。

 だが、こちらを見る真壁の顔は真剣そのものだ。

「どう……って、自分で処理すりゃいいだろう」

「処理……。……でも保健体育の授業で精通の話は聞きましたが、それが起きた時にどう対処するのかは、指導を受けていません」

 若桐は、めまいを感じた。

 目の前にいるのが、人間以外の〝妖精さん〟に見えてくる。

「……おまえな……」

 言いかけて、若桐は深いため息を吐いた。

(だけど……、そういえばこいつ、下ネタが全く通じない手合だったな……)

 指導をしていた時、響野などは下司な話題に嬉々として飛びついてきたが、真壁はきょとんとしていたことを思い出す。

「授業なんぞ受けなくても、興味持ったらどうにかするだろ?」

「勉強以外に割く時間は、あまりありませんでした」

「おまえの成績なら、そこまで根を詰めなくてもよさそうだが……」

 言いかけて、若桐はふと、真壁の志望動機に書かれていた一文を思い出す。

 それは〝防衛大なら学費が掛からない〟だった。

(親がいなくて、親戚の家で育ったとか……言ってたような?)

 それなら、帰る場所がなく、己の居場所を得るためにエリートコースは外せないのかもしれない。

「つったって、限度ってもんがあるだろ……」

 ぼそっと思わず声に出たが、真壁は聞き取れなかったらしく、相変わらずきょとん顔でこちらを見ている。

 ある意味、セクハラで訴えられたほうが事態は簡単に収まったかもしれない。

(あーもう、やめだやめ!)

 若桐は、そこで思考を〝止め〟た。

 自分は既に、真壁を突き放すタイミングを逸している。

 そもそも、最初に引き込まれて触れてしまった時点で、絡め取られていたのだろう。

「こっちこい……」

 ベッドに座り、手招きをする。

 そして真壁を、背中から抱くようにして、自分の前に座らせた。

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  • 空に墜ちる -if-   3-2

     件のワケアリ客──若桐と真壁は、その後も月に一度ぐらいのペースで、予約を入れてくる。 毎回、離れに。 そして毎回、海浜公園に釣りに行く。 釣果は、あまりかんばしくない。「今回も、よろしくお願いします」 礼儀正しく、部屋の使い方も問題がなく、払いも滞らない。 ならば、それ以上の詮索は不要だ。「あの、女将さん」 その日は、戻ってきた真壁が満面の笑みを浮かべて、真弓に駆け寄ってきた。(あら、珍しい) いつもは、若桐の後ろにいて、滅多に口を開かない。 別に人見知りというわけでもなく、やってきた時に挨拶はする。 だが、余計なことは一切言わない、まるで躾の行き届いた大型犬のような印象だった。「これ、お願いできますか?」 差し出されたバケツの中には、小さなアジが二匹。「こいつの、初めての釣果なんですよ」 後ろで笑っている若桐が、一言添える。「お手間でしょうが、夕食に付けてやってもらえますか?」「はい、大丈夫ですよ。料理方法に、ご希望ありますか?」「特にありません。僕、調理場の人にお願いしてきますね」 バケツの中のアジを見つめる真壁の顔は、まるで小学生のようだ。「女将さん。フライみたいな、ちょっと〝豪勢〟に見えるのにしてやってください」 調理場に駆け去った真壁の背中を見送ってから、若桐が言った。「南蛮漬けがいいかと思ったんですけど、ならフライにしますね」 真壁の釣ってきたアジは、刺身にするには小さすぎる。 小鉢にしたら、せっかくの初釣果にがっかりするかもしれない。「お手数掛けます」「可愛いお連れさんですね」 真弓の一言に、若桐は面食らったような顔をしたが──「ええ……、まぁ……」 と、少し困ったような顔で微笑んだ。─序章・浜松:終わり─

  • 空に墜ちる -if-   3.アジはフライでお願いします

     最初は、一本の電話だった。「そちらの旅館、離れってありますか?」 今どきは、もっぱらネット予約が主流のこのご時世に、電話で問い合わせをしてきたことに驚いたけれど。 なにより、最初の問いがそれだったことに、なにかワケアリのお客だということは、容易に想像がついた。 御前崎の小さな旅館〝はまだ〟の女将・濱田真弓(はまだまゆみ)が、宿に離れがあること、ただし離れでは料金が少し高くなることを伝える。 すると電話口の男は、それで構わないと言って、予約を入れてきた。「若桐様、二名様ですね。お待ちしておりました」 現れた人物は、真弓の想像と少し違っていた。 柔和な表情とこなれた態度の、年配で小柄な男と。 入口の鴨居に頭をぶつけないように屈んで入ってきた、若い長身の男。「では、一晩、お願いします」 そう言って、年配の男から〝心付け〟も渡された。「もうしわけありませんねえ」「ご厄介をおかけしますから」 部屋に荷物を置くと、釣りに行くと行って出掛けていったが……。 夕方には、ボウズで戻ってきた。「海浜公園ですか?」「初心者向きってあったんですけど、空いてて良かったです」 夕食も、翌朝の朝食も、気持ちが良いほどにぺろりと平らげ帰っていった。 帰ったあとの部屋は、やたら綺麗にきちんとしている。「でも……、どう考えてもカップルだわよね、あの人達……」 仕事柄、真弓はマイノリティに対して寛容だった。

  • 空に墜ちる -if-   2-6

     とろんっと蕩けた顔で若桐を見上げる真壁が、つと、視線を下げた。「守さん……、イッてないんですか?」「いや……、イッたよ?」「でも、まだ、おっきくないですか?」「すまんなぁ……」 若桐は顔を赤らめた。 性欲に関しては、相談した医者にまで「そりゃ無理だ」と言われたことがある。「なんで、謝るんです?」「や〜……、だってほら……、なんか困るだろ?」「なんか困るんですか?」 噛み合わない会話に、若桐は首をひねったが……。「泊まるんですから、もっとしましょうよ」「はっ?」「だって……、守さん終わってないんでしょう?」「いや、俺はそうかもしらんが、おまえは大丈夫なのかよ?」「大丈夫……とは?」「そりゃ、体力とか……?」「耐G訓練のほうが疲れますし……。それに、楽しいです」 ぱあっと嬉しそうに言われて、むしろ若桐のほうが言葉に詰まる。「そう……、楽しいの……」「はいっ!」 考えてみれば、ゴリラの申し子と呼ばれた響野と争い、何度か勝利の唐揚げを手にしている真壁だ。 基礎体力を、一般女性と比較しては、失礼だったかもしれない。「とりあえず、ゴム替えるから、待って」「あ! そういえば守さんはコンドームしてますけど、僕はしなくていいんでしょうか?」「え……、そっから……?」 真顔で問うてくる真壁に、若桐はなんだかおかしくなってしまった。「あ、なんで笑うんですか? 僕だって付け方ぐらい知ってますよ?」「ホントに百合緒は可愛いなぁ

  • 空に墜ちる -if-   2-5

     シャワールームに入ると、真壁はものすごく真剣に頭を洗っている。「なにしてんだ?」「えっ、シャワーです」 大真面目に返されて、若桐は吹き出した。「えっ? なんで笑うんですか?」「いや、おまえは本当に可愛いな」 お湯が降り注ぐ中、若桐は真壁のうなじに手を掛けると、引き寄せて唇を重ね合わせた。 ほぼ〝お約束〟のように真壁は目を見開き、それから素直にまぶたを閉じる。(あ……、こりゃさっさとベッドに行かんとまずい……) 若桐と真壁は、かなりの身長差がある。 シャワールームでキスを続けるのは、姿勢でどちらかに無理を強いなければならない。 若桐は、うっとりしている真壁から唇を離した。 まぶたを開いた真壁は何も言わなかったが、顔に「続きは?」と書いてある。「頭洗ってる場合じゃないって、わかったか?」「わかりました……」 真壁は、蕩けた時に見せるあのへにゃりとした笑みを浮かべた。§ ホテルの備品であるバスローブは、真壁にはつんつるてんだった。「夜着を、持ってくるべきでしたでしょうか?」 袖口を気にして引っ張っている真壁を、部屋の明かりを落としている若桐が笑う。「服着て寝られると思うなよ」「はい?」 真壁の手を取ると、若桐はそのままベッドに促した。「なんか、守さんすごく余裕っていうか。慣れてる気がします」「亀の甲より年の功ってやつだろ」 ぽすんっと真壁をベッドに仰向けで倒し、腰紐を解くと、そもそもぱつぱつだったバスローブはすぐにも肌蹴て、神々しい体が顕になった。「百合緒は、本当に綺麗だなぁ」「なんか急に、恥ずかしくなってきました」「莫迦、おせェよ」 再び唇を重ね、若桐は真壁の反論を塞ぐ。 若桐のキスに、真壁がぎこちなく応えてくるのが愛しい

  • 空に墜ちる -if-   2-4

     デートプランを考えていた時には、あれほど〝真壁の情操教育のために、一般的なデートプランを〟と考えていたのに。 自分たちの事情を鑑みたところで、それが不可能だと気付いた。(そもそも掛川って、なんだかんだ同僚がいそうな土地だよな) 真壁のメッセージに、宿泊先のホテル名を送り、時間の指定は特にしなかった。 仕事の都合や交通事情で、到着時間が大幅に狂うことはままある。 若桐がホテルのフロントで名を告げた時、受け付けは「お連れ様は既にご到着です」と告げた。 部屋の扉をノックすると、扉が開く。「若桐さん!」 部屋に入った途端に、真壁がミサイルみたいに飛びついてきた。 体格差の大きな真壁が、容赦なく抱擁してくる。「痛い、痛い、痛い! 絞めるな!」「あ、すみません……」 怒られた大きな犬のような顔をしながら、すんすんと鼻を寄せてくる仕草がたまらない。「久しぶりだな、百合緒」「待ち遠しかったです」「飯は?」「まだです」「食いに出るのと、部屋で済ますの、どっちがいい?」「若桐さんと一緒なら、どっちでも」 未だすりすりすんすんしている真壁に、若桐は思わず口元を緩めていた。「じゃあ、部屋で済ませちまおうか」 離れがたい様子の真壁を見て、若桐はルームサービスの手続きをする。「あの……、実はちょっと、お願いがあって……」「なんだよ?」「その……、……僕も、名前で呼んでいいですか?」 じっとこちらの顔を見つめ、真っ赤になっている真壁に、若桐は思わず笑ってしまう。「もちろん、構わないぞ」「あ……、ありがとうございます……、……守さん……」 言ってから照れまく

  • 空に墜ちる -if-   2-3

     掛川に向かう車中で、若桐はデートに行く浮足立った気分よりも、今後のことで頭が一杯だった。 なぜなら、泊まりで休暇申請を出した時に、上司から「掛川なんかに、なにしに行くんだ?」と問われ、咄嗟に「限定品を買いに」という、意味不明な返事をしてしまったからだ。(真壁と会うのに、作れる時間は月に一度が精一杯だが……) 恋人同士として会うことを考えると、頻度が低すぎてどうなんだというレベルだが。 泊まりで出掛ける時には常に申請書を提出しなければならない職業を考えると、毎月同じ場所に行くには理由が必要だと気付いてしまったのだ。(休前日の仕事終わりに、車ぶっ飛ばして恋人に会いに行くのに。……なんでこんな色気のないこと考えてんのかね……?) とはいえ、未だ若桐の中では〝恋人〟という感覚は薄い。 真壁のことは可愛いと思っているし、手放すことなど考えられないが。 一方で、自分が真壁と付き合うことが正解だと、ちっとも思えないのだ。(止めたほうがいい理由しか、ないんだよなぁ……) 懇切丁寧に真壁に説明をした時、半ば自分への説得だったような気もしていた。 立場も、性別も、職業も。 全部が全部、付き合いが明るみに出た時に、悪い作用しか生まない。 だが──(着ていく服に悩んだ時点で、終わってんだよなぁ……) 溜息とともに、若桐はアクセルを踏み込んだ。

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