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第5話

Author: ゼンエツ
奈々の体が心配だったからなのか。

それとも、別の女性のために焦り、心配する朔也の姿を最後にもう一度見ておきたかったからなのか。

なぜ病院までついて行ったのか、自分でもよく分からない。

廊下に漂う消毒液の匂いが鼻をつく。

奈々の病室はすぐに見つかった。

あいにくドアは半開きになっていて、中の様子がはっきりと見えた。

奈々はベッドに横たわり、顔色は蒼白で、右足にはギプスが巻かれている。

病弱な疲労感を纏っているが、それでも彼女は美しかった。

朔也は彼女の前に立ち、焦燥しきった声で言った。

「どうして教えてくれなかったんだ?」

「教えてどうするの?あなたは私の親友の彼氏でしょ、あなたに……」

「奈々!」

朔也が低い声で叫んだ。

「まだそんなことを言うのか?あの日、俺たちは互いに……気持ちを確かめ合っただろう?分かってるくせに……」

「もういいわ」

奈々は目を閉じた。

「あの日のは一時的な衝動よ。気にしないで……忘れて。今はもう冷静になったわ。詩織は私にとって一番大切な友達なの。彼女を傷つけるなんて絶対にできないし、あなたにもさせない。だから、すべてを元の軌道に戻さなきゃ。気持ちを整理して、詩織のところに戻って。私たちの間には何もなかったことにして」

語尾の震えが、彼女の本心を裏切っていた。

その声は男の涙を一瞬で決壊させた。

「奈々、嫌だ……頼むからそんなこと言わないでくれ……」

奈々は顔を背け、彼の視線を避けた。

「もう決めたの。帰って」

彼の背中が激しく震えた。

そして何かを決意したように、長く息を吐いた。

「分かった。お前は事故に遭ったばかりで体調も悪い。この話は一旦置いておこう。

でも、お前の世話は俺がする。お前が良くなるのを見届けるまでは、安心できない」

そう言うと彼はお粥をスプーンですくい、丁寧に息を吹きかけて冷まし、奈々の口元へ運んだ。

奈々が無視すると、彼は方向を変えて差し出す。

何度か繰り返すうちに、奈々は突然感情を爆発させ、腕を払ってお椀とスプーンを床に落とした。

「白石朔也、頭おかしいんじゃないの?まとわりつかないでって言ったでしょ!帰ってよ!」

彼の手は空中で止まったが、声は優しく、しかし拒絶を許さない響きがあった。

「食べなくてもいい。でも言っておくけど、お前が雇ったヘルパーはさっき俺が解雇した。また雇っても、俺がここに張り付いて、来るたびに追い返してやる。

点滴をしてて不便なのに、ヘルパーもいなくて、俺にも食べさせてもらえないなら、お前は飢え死にするしかないな」

そう言うと、彼は手の甲で奈々の額の熱を確かめ、布団を掛け直した。

そして平然と座り直すと、リンゴを手に取り、丁寧に皮を剥き始めた。

私はドアの外の影に立っていた。

静止した彫像のように。

朔也にこんな一面があったなんて。

これほど穏やかで、頑固な想い。

彼は本当に、彼女を愛しているんだ……

奈々の目が潤み、声もいくぶん柔らかくなった。

「朔也、こんなことしなくていいのに……」

「分かってる」

朔也は剥いたリンゴを小さく切って皿に乗せた。

顔を上げ、彼女を深く見つめる。

「必要ないのは分かってる。でも、俺がしたいんだ」

視線が絡み合った瞬間。

病室が、夕焼けに包まれた花畑に変わったように見えた。

あたり一面の優しさ。

今、ようやく確信した。

私に向かってラブソングを歌い続け、声を枯らしたあの少年は。

私の不安を知って「ずっと愛してる、何度でも確かめていいよ」と言ってくれたあの少年は。

完全に消えてしまったのだ。

これ以上見ていられなかった。

私は背を向け、静かに立ち去った。

愛は流動的で、人の思い通りにはならない。

分かってる。

二日後、私は一人で空港へ向かった。

もう涙は一滴も流さなかった。

半分開いた窓から夜風が入ってくる。

過去の全てが走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

一歳で母が亡くなり、既に母の遺産を手にし、近所の体面のために仕方なく父の名を継いだ義父が叔母を呼んで私を世話させた。

三歳で叔母が突然姿を消し、音信不通に。

それ以来、まともな食事も摂れず、冬になっても厚手の服一枚なかった。

五歳で義父の酒を買うのが遅れて初めて殴られた。痛くて、声が枯れるまで泣いた。

雪の中で一晩中跪かされた。

八歳で地域の婦人会の助けでようやく学校へ行けた。

でも他の子供たちに仲間外れにされ、いじめられ、生ける屍のように生きてきた。

十歳で野犬に襲われ、全身血まみれになった。

誰も助けてくれず、最後の力を振り絞って家まで這って帰った。

十五歳で奈々に出会い、私の人生にようやく色が着いた。

彼女は初めて私を見た時、理由もなく良くしてあげたいと思ったと言ってくれた。

十六歳で朔也がチンピラの群れから私を救ってくれた。

私の手を引いて走る彼の姿は、お姫様を守る騎士のようだった。

十七歳で人生初のバラの花束と、真摯な告白を受け取った。

少年の顔は恥ずかしさで赤らんでいたけれど、その瞳は愛と決意に満ちていた……

二十三歳。

私は南極へ行く。

物に残るのは美しい記憶だけ、詩を作る前に涙が溢れる。

詩―瀬戸詩織。

これが私の名前。

そして私の源。

でもあなたたちは私に、盛大な春をくれた。

今、私はあなたたちに、永遠に明るく、永遠に幸せでいてほしいと願うだけ。

だから、私は心から喜んで去る。

本当に良かった。最後にあなたたちのために何かができて。

さようなら、奈々。

さようなら、朔也。

もう二度と会うことはないでしょう。

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