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第2話

Author: ゼンエツ
ケーキの箱を開け、蝋燭に火を灯す。

三人のグラスがカチンと音を立てて触れ合った。

私の唯一にして最高の親友と、私が深く愛する男が声を揃えて祝ってくれる。

「詩織、誕生日おめでとう!」

「早く願い事を!」

「詩織、これからの誕生日もずっと俺が一緒に祝うよ!誓う!」

「はいはい、お呼びじゃないって。詩織は私と一緒に祝いたいの!あなたがいようがいまいが関係ないから!」

「お前こそ無理言わないでくれよ。俺は詩織の彼氏なんだから、これからの誕生日は俺が祝うのが当然だろ!」

「私と詩織はズッ友なんだから!洪水だって引き裂けない仲なの!詩織だって私に祝ってほしいに決まってるわ……」

目を開け、蝋燭を吹き消した。

煙がゆらゆらと立ち上る。

その向こうにある二人の晴れやかな笑顔が霞んでいく。

ああ、違う。あれは十八歳の誕生日の記憶だ。

今回。

私のそばにいる二人は笑いもせず、騒ぎもせず、ただ乾杯の後に「おめでとう」と言っただけだった。

奈々はどこか放心状態で、グラスを置いた拍子に手首をテーブルの角にぶつけてしまった。

彼女は思わず「っ」と声を漏らし、眉をひそめた。

朔也が慌てて立ち上がる。

「大丈夫か?」

言い終わるや否や、まずいと思ったのか言葉を切った。

二つの不安げな視線が同時に私に向けられる。

私はただ、目の前の美しいケーキをじっと見つめていた。

例年通り、このバースデーケーキは奈々の手作りだ。

今回も同じ。

ケーキのてっぺんには、フォンダンとチョコレートで作られた二人の女の子の人形が乗っている。

彼女たちの手はしっかりと繋がれている。

十五歳のあの日と同じように。生理が来たのにナプキンを買うお金がなかった私を、クラスの女子たちが血の滲んだズボンを指差して大声で嘲笑ったあの日。

転校してきたばかりの奈々は、有無を言わさず自分の制服の上着を脱いで私の腰に巻きつけた。

そして私の手を引き、悪意のある視線を一つ一つ睨み返してくれた。

あの日から、彼女は温かい春風のように、私の貧しく暗い生活に強引に入り込んできたのだ。

さっき心の中で三回繰り返した願い事を思い出し、私は苦笑のような表情を浮かべた。

「あーあ、また一つ歳取っちゃった。光陰矢の如しってやつね!さあ、ケーキ切ろう!」

私の愛する人たちが、願いを叶え、永遠に幸せでありますように。

私については。

大丈夫。本当に、大丈夫だから。

誕生日から七日後。

南極氷河プロジェクトの採用通知が届いた。

環境学を専攻していたし、科学探査隊の仕事で大自然の秘密を探ることには憧れていた。

けれど、まさか二十年にも及ぶ長期プロジェクトに参加することになるとは思ってもみなかった。

でも今回、私は躊躇なく署名した。

ファイルを送信する直前。

ふと指が止まった。

慌てて指導教官とのチャット画面を閉じる。

無意識にデスクトップを乱暴にクリックしてしまい、あるソフトを開いてしまった。

ハートの背景に、銀色の光の束が点在する画面。

一瞬呆然として、すぐに思い出した。

これはコンピューターサイエンスを専攻していた朔也が数年前に作ったソフト、「ナイト・ログ」だ。

恋人同士の「おやすみ」の言葉。

メモ帳のようなものだが、閲覧権限は私にしかない。

彼が毎晩寝る前に綴った独り言が記録されている。

彼が言っていた。私たちが歳をとったら、このソフトを開いてみようと。

すべての内容を繋げれば、彼の長い愛の詩になるのだと。

【俺の願い。俺と詩織が二人とも受験に成功して、同じ大学に入れますように!】

【へへ、今夜は興奮して眠れないよ。だってお前が初めて『愛してる』って言ってくれたから。照れてるお前は本当に魅力的だった。誓うよ、一生お前を愛する!】

【すごく会いたいけど、お前はもう寝ちゃったから電話はやめておくよ。おやすみ、愛しい人。夢の中でもお前といられますように】

【今日、昔よく行ってたラーメン屋の前を通ったら潰れてた!でも大丈夫、お前が大好きだった鶏白湯ラーメンの作り方はマスターしたから。味は完全に再現してみせるよ!】

【詩織、お前が合宿に行ってる五日間、俺は一日千秋の思いだよ……】

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