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第五話「初めての夜」

Auteur: ひなた翠
last update Dernière mise à jour: 2026-01-17 20:24:48

 ベッドに優しくおろされる。柔らかい感触が、背中に伝わった。彼の腕から離れると、急に冷たさを感じた。彼の温もりが恋しくなる。

 肩にかかっていた外套を脱ぎ、彼に返そうとした。

「身体が冷たいから、温まるまで着ているといい」

 ダリウスの声が、優しかった。返すのはいつでもいいからと、彼は部屋を出て行こうとする。背中が遠ざかっていく。離れていく。あの女性たちの元へ、戻ってしまう。

 気がつくと、私は彼の袖を掴んでいた。

「体調が悪くなったのは、嘘――です」

 声が震えた。ダリウスの足が止まる。振り返った彼の瞳が、私を見つめていた。鋼のような強さと、優しさが混ざり合っている瞳がこちらに向いている。

「女性に囲まれて楽しそうに会話しているダリウスを見ているのが、辛かったから」

 言うつもりはなかった言葉が、口から飛び出していた。ダリウスは黙って、私を見つめている。

 無表情で見ているから、彼が何を考えているのか分からない。呆れているのだろうか。幼稚な嫉妬だと、思われているのだろうか。

 帰ろうとしていたのをやめたダリウスは、ベッドの端に座った。私の髪に手を伸ばし、指先で弄び始める。柔らかく、優しい手つきだった。髪を撫で、耳の後ろに指を滑らせる。

「楽しそうに見えた?」

 ダリウスが、低い声で聞き返してきた。私は視線を逸らした。

 その質問には答えたくないと思った。楽しそうに見えていたから。私もあの輪の中に入って、ダリウスを独占したいと感じていた。

「あのときの求愛の言葉は、有効かしら」

 私は、小さく呟いた。ダリウスの手が止まる。

「あのとき……求愛?」

 ダリウスの声が、僅かに戸惑っているように聞こえた。

 ああ、覚えていないのだ。当然だろう。

 あれは、ごっこ遊びに過ぎなかったのだ。わがままな友人の妹に、付き合ってくれただけ。あの後、ダリウスは屋敷に来なくなったのが何よりもの証拠だ。

 私のせいで、兄とダリウスの時間を奪ってしまった。

「一生添い遂げるって、言ってくれた」

 私は顔を上げて、ダリウスを見つめた。彼の瞳が、僅かに見開かれる。そして——私は、彼の唇に自分の唇を重ねた。

 触れるだけの、軽いキス。ダリウスの唇は、温かかった。柔らかく、優しい感触。

 心臓が破裂しそうなくらい、激しく打っている。顔が熱い。身体中が、火照っている。

 我に返った私は、顔を真っ赤にして布団に潜り込んだ。

(ああ、私はなんてことを!)

 嫉妬に狂って、こんなことをしてしまった。恥ずかしさと、後悔と、どうしようもない感情が、胸の中で渦巻いている。

 布団の中で、私は身体を丸めた。このまま、消えてしまいたい。心臓が早鐘を打ち、息が荒くなる。

 布団の中に隠れたはずなのに、あっという間に布が剥がれた。ダリウスの手が、私の手を掴む。

「アリア……その気にさせておいて、逃げるのはずるい」

 低い声が、耳元で響いた。

 ダリウスの指が、私の指と絡み合う。手が繋がれた。温かい手。大きな彼の手が、私の手を包み込んだと思ったら、両手をベッドに押し付けられて、身動きを封じられる。

(――え?)

 ダリウスの顔が、近づいてきた。ダリウスの唇が、再び私の唇を塞いだ。

 先ほどの触れるだけの口づけとは違い、深く、蕩けるような濃厚なキスだった。熱を帯びた舌が私の唇をゆっくりとなぞり、口を開けるように甘く促してくる。

 口を開いた瞬間、ダリウスの舌が滑り込んできた。私の舌を捉え、絡め取り、甘く吸い上げてくる。息が苦しくて、頭の奥が痺れるように熱くなっていく。

 キスはさらに深まり、ダリウスが私の口内を丁寧に探るように舌を動かしてくる。舌先で上顎をなぞられ、歯列を舐められ、また深く絡め取られる。身体の芯が熱くなり、力が抜けていく。彼の唾液が私の口の中に流れ込み、濃密で甘い味が広がった。

 ダリウスの手が、繋いでいた手を離して、私の身体を撫で始めた。ドレスの上から、肩を撫で、腕を撫で、腰を撫でていく。

 さらに身体が、熱くなる。彼の手が触れた場所が、まるで火傷したみたいに火照っていく。ドレスの布地越しでも、彼の手の温かさが伝わってきた。

「アリア」

 名前を呼ばれた。ダリウスの低い声が、耳元で響く。彼の声を聞くだけで、身体の奥が熱くなる。

 ダリウスの手が、ドレスの紐を解き始める。背中の紐が解かれ、ドレスが緩んでいく。肩から滑り落ちるドレス。肌が露わになっていった。冷たい空気が肌に触れ、鳥肌が立った。

「寒いか」

 ダリウスが囁く。私は首を横に振った。寒くない。彼の体温が、私を温めてくれているから。

 ドレスが完全に脱がされ、下着姿になる。恥ずかしさに、腕で胸を隠した。ダリウスが優しく、私の腕を掴む。

「隠さないで。アリアを見たい」

 低い声に、私は腕を下ろした。ダリウスの視線が、私の身体を舐めるように見つめる。熱い視線。欲望を含んだ視線。見られているだけで、身体が熱くなって溶けてしまいそうだ。

 ダリウスが、私の胸に手を伸ばす。柔らかい膨らみを包み込む。大きな手が、胸を覆い尽くす。優しく揉まれ、吐息が漏れた。

「ん」

 甘い声が漏れた。慌てて口を押さえる。

 ダリウスの唇が、私の首筋に移動する。熱い舌が肌を這い、鎖骨を舐める。吸い付かれ、赤い痕が残る。彼の痕が、私の身体のあちこちに刻まれていく。

 ダリウスの唇が、胸の先端に触れる。舐められ、吸われ、身体が跳ねる。腰が浮き、シーツを握りしめた。

「――っ、ん」

「声を出して。アリアの声を聞きたい」

 囁きに、頬が熱くなった。

 恥ずかしさと、得体の知れない感覚が、胸の奥に広がっていく。ダリウスの手が腹を撫で、腰を撫で、太腿へと滑っていく。内側を撫でられ、息が荒くなった。

 ダリウスの指が、下着の中に入ってくる。直接、肌に触れる。熱い指先。今まで誰にも触れられたことのない場所。自分でさえも触れたことのない場所に、彼の指が触れている。

「力を抜いて」

 低い声に従い、身体の力を抜く。ダリウスの指が、秘所に触れた。ゆっくりと撫でられ、熱が集まっていくのが分かる。指が割れ目をなぞり、入口を探る。濡れていく自分が分かり、羞恥心が込み上げてくる。

「ここ、初めてか」

 問いに、私は頷いた。ダリウスの指が、ゆっくりと中に入ってくる。異物感に、身体が強張った。痛くはないが、居心地の悪い感覚。

「痛いか」

「平気、です」

 ダリウスの指が動き始めた。出し入れを繰り返し、中を探るように動く。痛みと、くすぐったいような感覚が混ざり合い、身体が熱くなっていく。

 指が増え、中を広げられる。二本の指が中で動き、何かを探している。

「あっ」

 奥の一点を擦られ、声が漏れた。身体に電流が走ったような感覚。身体が勝手に反応する。腰が浮き、指に吸い付くように動いてしまう。

「ここが気持ちいいのか」

 ダリウスが何度も同じ場所を擦ってくる。快楽が波のように押し寄せ、息が荒くなった。声が漏れる。抑えようとしても、抑えられなかった。

 指が抜かれ、物足りなさが残る。

 ダリウスが起き上がり、服を脱ぎ始めた。礼服のジャケットが脱がれ、シャツのボタンが外されていく。鍛えられた身体が、月明かりに照らされて浮かび上がる。

 引き締まった腹に、盛り上がった胸板。筋肉が滑らかに動き、影が身体の起伏を強調している。ズボンも脱ぎ捨てられ、全裸になった。

 思わず、彼の下半身へと視線を動いてしまう。大きく反り返る男性の象徴に、目を大きく見開いた。恐怖が込み上げてくる。本当に、あれが入るのだろうか。

 ダリウスが私の足を開き、間に入り込んだ。熱いものが、濡れた場所に押し当てられる。先端が入口を押し広げ、ゆっくりと侵入してくる。

「入れるぞ」

 ダリウスの声が、優しかった。私は頷いた。ダリウスの腕を掴み、心の準備をする。ゆっくりと、押し込まれていく。

「あっ、ん」

 入口が押し広げられ、鋭い痛みが走った。思わず声が漏れ、ダリウスの腕を強く掴んでしまう。

「痛い……かも」

 ダリウスは動きを止めた。私の顔を覗き込み、額にキスを落とす。

「すぐに楽になる。力を抜け」

 優しい声だった。私は深く息を吐き、身体の力を抜こうとする。ダリウスが再び、ゆっくりと押し込んでくる。さらに奥へと進み、何かを突き破る感覚があった。激痛に、涙が溢れ、視界が滲んで天蓋がぼやける。

 ダリウスが私の涙を舐め取り、唇にキスを落とした。

「よく頑張った。全部入った」

 ダリウスの大きな手が、髪を撫でる。優しく、慈しむような手つきだった。勝手に零れていく涙の雫を、彼が吸い上げてくれる。

 ダリウスはしばらく動かず、私の身体が慣れるのを待ってくれた。痛みが徐々に和らいでいく。奥に異物がある感覚に、少しずつ慣れていく。彼の温かさが、私の中に満ちている。繋がっている。ダリウスと、繋がっている。

「そろそろ動く」

 ダリウスが囁いた。私は頷く。ダリウスが動き始めた。ゆっくりと腰を引き、また押し込む。

「あっ、あ」

 痛みは和らぎ、代わりに奇妙な感覚が広がっていった。奥を擦られるたびに、身体が震える。さっき指で触れられた場所を、何度も擦られる。

「ん、あ」

 声が漏れた。ダリウスの動きが速くなり、ベッドが軋む音が響く。腰を掴まれ、深く突き上げられた。奥に何かが当たり、身体が跳ねる。

「ここか」

 ダリウスが同じ場所を何度も突いてくる。快楽が波のように押し寄せ、息が荒くなった。理性が溶けていき、身体が感じるままに身を任せる。痛みは消え、気持ちよさだけが残った。

「アリア」

 名前を呼ばれる。ダリウスの声が、低く響く。彼が私を見つめている。欲望に満ちた瞳。その視線に、身体が熱くなる。

 ダリウスの動きが激しくなり、身体が大きく揺さぶられた。額に汗が滲み、髪が頬に張り付く。シーツが二人の汗で湿り、肌にまとわりついていた。

「アリア、気持ちいいか」

 荒い息の合間に、ダリウスが囁いてくる。

「ん、あっ……気持ち、いい」

 途切れ途切れにしか答えられなかった。奥を何度も突かれ、言葉にならない声が漏れる。

「もっと声を聞かせて。俺だけに聞かせて」

 耳元で囁かれ、身体がさらに熱くなった。ダリウスの腰の動きが速くなり、奥の一点を執拗に擦られる。身体の中心から、何かが弾けそうだった。

「ダリウス、もう、だめ」

「一緒にイこう、アリア」

 その言葉と同時に、全身が痙攣した。声にならない叫びが喉から漏れ、視界が真っ白に染まる。ダリウスが奥深くで止まり、熱いものが注がれる感覚があった。

 身体の力が抜け、ぐったりとベッドに沈み込む。荒い息をつきながら、余韻に浸っていた。しばらくして、ダリウスがゆっくりと繋がりを解いた。満たされていた場所がぽっかりと空いて、少し寂しい感覚に襲われる。

「寂しそうな顔をするな」

 ダリウスが私を抱き寄せ、硬い胸板に顔を埋めさせてくれた。彼の心臓の音が聞こえる。まだ少し速い鼓動が、やがて規則正しいリズムに戻っていく。

「ずっと、こうしていたい」

 私が呟くと、ダリウスの腕が私をさらに強く抱きしめた。温かい。彼の腕の中は、世界で一番安心できる場所だった。

 ダリウスの腕の中で、私はゆっくりと眠りに落ちていった。

 朝方、目を覚ますと、隣に彼の姿はなかった。シーツには、昨夜の痕跡が残っていた。身体中に残る痕を見つめながら、私は昨夜のことを思い返した。

 何をしてしまったのだろう。嫉妬に狂って、九歳のときの戯言を引き合いに出して、婚前に淫らな行為をしてしまった。身体が冷たくなり後悔が、胸を締め付けた。

 窓の外が白み始めている。ダリウスは、いつ部屋を出ていったのだろう。何も言わずに、帰ってしまったようだ。

 私は彼の外套を抱きしめた。彼の匂いが、まだ残っており、胸の奥が締め付けられた。

 昨夜の幸福感は消え、不安が大きく育っていく。彼は、私のことをどう思っているのだろう。軽い女だと思っただろうか。

 次に会うのが――怖い。

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