約束の甘い檻~寡黙な騎士の一途な愛~ のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 3

3 チャプター

第一話「あの日の誓い」

「あのときの求愛の言葉は、有効かしら」 ベッドにいる私は、小さく呟いた。部屋を出て行こうとしているダリウスの足が止まる。 窓の外で光る月で照らされているダリウスの目が泳いだ。「あのとき……求愛?」 ダリウスの声が、僅かに戸惑っているように聞こえた。 ああ、彼は覚えてない――。 あれは、ごっこ遊びに過ぎない。記憶に残っている方がおかしい。 わがままな友人の妹に、付き合ってくれただけ。あの後、ダリウスは屋敷に来なくなったのが何よりもの証拠だ。 私のせいで、兄とダリウスの時間を奪ってしまった。「一生添い遂げるって、言ってくれた」 私は顔を上げて、ダリウスを見つめた。彼の瞳が、僅かに見開かれる。そして——私は、彼の唇に自分の唇を重ねた。 触れるだけの、軽いキス。ダリウスの唇は、温かかった。柔らかく、優しい感触。心臓が破裂しそうなくらい、激しく打っている。顔が熱く身体中が、火照っていた。 我に返った私は、顔を真っ赤にして布団に潜り込んだ。(なってことを! 私はしてしまったんだ) 嫉妬に狂って、こんなことをしてしまった。恥ずかしさと、後悔と、どうしようもない感情が、胸の中で渦巻いている。 布団の中で、私は身体を丸めた。このまま、消えてしまいたい。心臓が早鐘を打ち、息が荒くなる。 布団の中に隠れたはずなのに、あっという間に布が剥がれた。ダリウスの手が、私の手を掴む。「アリア……その気にさせておいて、逃げるのはずるい」 低い声が、耳元で響いた。 ダリウスの指が、私の指と絡み合う。手が繋がれた。温かい手。大きな手。彼の手が、私の手を包み込んだと思ったら、両手をベッドに押し付けられて、身動きを封じられる。(――え?) ダリウスの顔が、近づいてきた。彼の唇が、再び私の唇に重ねられる。今度は、触れるだけではなかった。深く、濃厚なキス。舌が唇をなぞり、口を開けるように促してくる。 口を開くと、舌が中へと侵入してきた。舌が絡み合い、甘い吐息が漏れる。息が苦しい。頭の中が、真っ白になっていった。 だんだんとキスが深まっていく。ダリウスが私の口の中を探るように、舌を動かしてきた。 吸われて舐められ、身体が熱くなる。彼の唾液が、私の口の中に流れ込んでくる。濃密で、甘い味がした。 ダリウスの手が、繋いでいた手を離して、私の身体を撫で始めた。ドレスの
last update最終更新日 : 2026-01-16
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第二話「幼い日の誓い」

 春の午後の光が、中庭いっぱいに降り注いでいた。花壇に植えられた薔薇が淡い桃色の花弁を開き、甘い香りを風に乗せている。芝生の上には、剣を持った二人の青年が立っていた。兄と、兄の親友であるダリウス。 二人とも汗で額を光らせながら、剣の稽古に励んでいた。金属がぶつかり合う音が、規則的に響いている。私はベンチに座り、膝の上で人形を抱きしめながら、二人の動きを眺めていた。 九歳の私にとって、兄の剣の稽古を見学するのは何よりも楽しい時間だった。兄は優雅に剣を振るい、ダリウスは力強く踏み込む。二人の動きは美しく、まるで踊っているようにさえ見えた。特に、ダリウスの剣捌きは見事だった。黒に近い濃紺の髪が汗で額に張り付き、灰青色の瞳が鋭く光る。彼の真剣な表情を見ているだけで、胸が高鳴った。「休憩にしよう」 兄が剣を下ろし、額の汗を拭った。ダリウスも頷き、二人は芝生に腰を下ろした。メイドが運んできた冷たい水を、二人は喉を鳴らして飲み干す。私は人形を抱えたまま、二人の元へと駆け寄った。「兄様、ダリウスお兄様、すごく格好良かったわ」 兄が笑いながら私の頭を撫でた。大きな手が、優しく髪を撫でていく。「ありがとう、アリア。今日も見ていてくれたのか」「もちろんよ。二人とも、本物の騎士様みたい」 ダリウスが私を見た。無表情な顔のまま、小さく頷く。彼はいつも無口で、あまり笑わなかった。兄とは対照的に、言葉少なで、何を考えているのか分かりにくい。けれど私は、ダリウスが嫌いではなかった。むしろ、彼の静かな佇まいに惹かれていた。「ねえ、お姫様ごっこをしましょう」 私は膝の上の人形を高く掲げた。兄が苦笑する。「またか。アリアは本当にお姫様ごっこが好きだな」「だって楽しいんですもの。ねえ、今日は特別よ。二人で勝負して、勝った方がお姫様に結婚を誓うの」 兄の顔が、少し困ったように歪んだ。「妹のごっこ遊びに、そこまで本気になる必要はないだろう」「いいじゃない。私、ずっと楽しみにしていたのよ」 私は頬を膨らませた。兄は溜息をつきながらも、立ち上がった。「分かった、分かった。ダリウス、付き合ってやってくれ」 ダリウスが無言で立ち上がる。彼は剣を拾い上げると、兄と向かい合った。二人の間に、緊張した空気が流れる。私は胸を高鳴らせながら、ベンチに座り直した。人形を膝の上に置き、両手を
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第三話「八年ぶりの再会」

 戦争終結の知らせが届いたのは、初夏の朝だった。 使用人が興奮した様子で駆け込んできて、兄からの手紙を持ってきた。私は震える手で封を開け、几帳面な兄の文字を目で追った。 戦が終わった。我が国の勝利。兄は無事で、近日中に帰還する。そう書かれた文面を読み終えると、涙が溢れて止まらなくなった。 八年間、ずっと待っていた。毎晩祈り続けた。兄とダリウスが無事に帰ってきますように、と。 戦場からの便りは少なく、時折届く手紙だけが、二人の生存を知らせる唯一の証だった。夜、ベッドの中で兄からの手紙を読み返しながら、涙を流した日々が何度もあった。 手紙を胸に抱きしめると、心臓が激しく鼓動を打った。兄が帰ってくる。ダリウスも——帰ってくる。 八年ぶりに、彼に会える。幼い頃の記憶が、鮮やかに蘇ってきた。灰青色の瞳。低い声。「一生を添い遂げてください」と囁いた、あの日。 私は窓辺に立ち、庭を眺めた。薔薇が満開に咲き誇り、甘い香りを放っている。 八年前、あの日は春だった。中庭で剣の稽古をする兄とダリウスを、私は夢中で眺めていた。ダリウスが私の手の甲にキスをした時、心臓が壊れそうなほど鳴っていた。あの感覚は、今でも鮮明に覚えている。 鏡の前に立ち、自分の姿を映してみた。十七歳になった私は、いくらか大人になっている――と思いたい。 背は伸び、身体つきも丸みを帯びてきた。淡い金髪は腰まで伸び、緩やかなウェーブを描いている。淑女のような妖艶な魅力はまだないが、そこそこ女性らしくなってはいるはず……。 瞳の色は、淡い緑色に金が混じっていた。明るい光を吸い込むような色だと、兄はよく言っていた。 鏡に映る顔を見つめながら、不安が込み上げてきた。 私は頬を両手で挟んだ。顔が熱い。会いたい。ダリウスに会いたい。八年間、ずっと心の中で想い続けていた人。初恋の人。 幼い頃の淡い恋心は、時が経っても消えることはなかった。むしろ、会えない時間が長くなるほど、想いは強くなっていった気がする。 ダリウスに会った時、恥ずかしくないようにしなくちゃね。     ◇◇◇ 兄の帰還予定日の朝、屋敷中が慌ただしく動き回っていた。メイドたちは床を磨き、窓を拭き、花を飾り、料理の準備に追われていた。執事は玄関ホールの掃除を監督し、庭師は庭の手入れを念入りに行っていた。屋敷全体が、兄の帰還を祝う準備で
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