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第五十話

Auteur: 夏目若葉
last update Date de publication: 2025-05-06 08:21:31

 斗夜の言葉を聞いて、私は深くうなずいた。

 私が今日戸羽さんとデートしているのはマスターも知っているし、心配してくれていた。

 まさかその日に斗夜と付き合うことになったとは予想していないだろうけど。

「それに、咲羅をあきらめるように言わなきゃ」

「マスターは全然そんな気持ちはないよ」

「今日の医者は咲羅がちゃんと断ったんだろ? じゃあ、あとは重森か。まさか他にも伏兵が?」

 人をモテキャラに仕立て上げないで、とあきれた顔をすると、斗夜が綺麗な顔で笑う。

 今のはヤキモチだろうかと考えたら、それもうれしく思えた。

 雨の上がった歩道を、ふたりで手を繋いで駅まで歩く。

 気持ちが通じ合ったあとの“恋人繋ぎ”は、たったそれだけの触れ合いでも胸がキュンとした。

 バーに着いてマスターにきちんと報告しようとしたら、ニヤリと意味ありげな笑みを先に投げかけられた。

 私たちが“恋人繋ぎ”のまま入って来たのを見て、すぐに状況がを理解したらしい。

 お店にいるあいだ、ずっと冷やかされていた気がするけれど、マスターは私たちのことを喜んでくれて、それがすごくうれしかった。

 お酒を飲んで喋
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Commentaires (2)
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天明美鳥
読み終えて、ほっこりして、大満足! 二人で純愛を貫いてくれるといいな〜
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三千代
久しぶりに、良い恋愛小説に出会った...️...読み終えた後も、気持ちがホッコリして良い気分...️こんな小説に出会えて良かった......‍♀️ありがとうございます♪
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