เข้าสู่ระบบこれは、科学と魔術の複合技術。
物理法則を観測して我がものとする科学と、ユミル・ウィルスを介した万物の元素《エーテル》を力の根源とする魔術。 二つの異なる技術を撚り合わせて、アース神族たちは文明を築いていった。それらの文明が行き着いた一つの結果として、アース神族たちは各々の『特性』を持つに至った。
特性は彼らを言い表す性質であると同時に、能力の本質。 遺伝子の情報を複雑に織りなした結果として、特性はアース神族たちの最も大事な資質とされた。 人間の第三段階能力者、シグルドの魔剣グラムやセティの偽物の能力は、特性の一歩手前の段階と言えよう。フレイの特性は『豊穣《ほうじょう》』。物質的な豊かさに由来して、彼が作りだすものは豊かで質の高いものとなる。
ロキの特性は『欺瞞《ぎまん》』。真実を包み隠して嘘をつきとおし、誰にも本当を見せようとしない。フレイは特質によって人造肉体《ホムンクルス》を作り、アース神族の不死化に貢献した。
また不完全ながらも数多くのヴァルキリーを生み出して、死者蘇生の研究の一歩とした。ロキは自分の特性をアースガルド出奔後の行動に利用した。エリンやムスペルヘイムの人々に隠蔽術を施して、アースガルドの追撃を逃れた。
欺瞞の特性を持つロキを見つけ出すことは、オーディンですら骨の折れる行いだった。「きみの特性『欺瞞』は、こうやって面と向かってしまえば意味をなさない」
フレイが軽く手を広げると、ヴァルキリーたちが一斉に羽ばたいた。
ここにいる人造戦乙女は、フレイ自らが調整をほどこしたもの。通常の個体よりも一回り能力が高い。ユグドラシルとアースガルドの崩壊から数年後。 少しだけ、世界は落ち着きを取り戻しつつある。 そんなある冬の日、エリンはセティと一緒に雪の積もる山を歩いていた。「白獣が出るなんて、久しぶりだよね。星の癒やしの一件以来、人も獣も能力者はあまり出なくなったのに」「うん」 エリンが言うと、セティはうなずいた。 アース神族たちのバナジスライトが大地に溶けたあの日の出来事を、彼らは『星の癒やし』と呼んでいた。 その効果は絶大で、大地に析出していた結晶は全て消えた。さらに動物の白獣化、人間が能力に目覚める確率も劇的に下がったのである。「でも、今でも病に苦しむ獣がいるなら、助けてやらないとな」 彼らはもう少年と少女ではなく、立派な若者だ。 白獣、もしくは末期未満の人間のユミル・ウィルス感染者対策として、エリンの血から抗体を精製して作った。 この抗体があれば白獣はエリンの友となり、人間はそれ以上の病の進行が止まる。 この事実も公表して混乱を呼んだが、今はそれなりに落ち着いてきている。「さて。セティ様の透視《クレアボヤンス》の出番だぜ」 セティの瞳が僅かに赤く光る。これは、第三段階の能力者の特徴だ。第三段階は結局、シグルドとセティ以外に発現しなかったが。「いたぞ。あれは鹿だな。足が速そうだ」「じゃあ瞬間移動《テレポーテーション》で先回りして、ぱぱっと薬を飲ませちゃいましょう」「オッケー。早く済みそうで助かるよ。さっさと街に帰って、それで~」「え? 街でやること、何かあったっけ?」「なななななんでもない!」 セティはものすごく焦って首を振った。 実は彼はこの仕事が終わったら、とうとうエリンに告白をするつもりなのである。 雰囲気のいいお店を予約してプレゼントも買って、万全の体勢で挑む予定だった。 エリンと二人きりでいる時間を長くしたくて、白獣探査の精神感応者《テレパシスト》の同行を断ったのだ。透視でなんとかなるから、と。「俺が引
エリンの視界が赤く染まる。同時に右肩に灼熱を感じた。力がどんどん抜けていって、グングニルを持つのが困難になっていく。 やがて腕を伝い落ちた血がぬめって、槍を取り落とした。 からん、と乾いた音を立てた後、偽の神槍はほどけて消える。 フレキが泣き出しそうな表情で、エリンを振り返っている。 対するオーディンは、スレイプニルに堂々と騎乗していた。 血に染まった真なる神槍を構えて、エリンを見据えている。 と。 オーディンの体が、ぐらりとかしいだ。 まるでスローモーションのように、スレイプニルの胴を滑り落ち、長い髪をなびかせて、床に倒れ伏す。血が流れ出て赤い花のように床に広がった。 スレイプニルは主の傍らに四肢を折り、また床に同化して行った。 エリンはセティの手を借りて、オーディンに歩み寄った。 血溜まりに倒れ伏した彼女は、わずかに睫毛を震わせて―― それっきり、動かなくなった。 命が途絶えたのだと、エリンにははっきりと感じられた。「勝った、のか?」 呆然としたままで、セティが言った。激戦に次ぐ激戦を目の当たりにした後では、実感がわかないのだろう。「うん。私が、勝ったよ。セティとフレキと、ロキさんと。他の皆のおかげで」 エリンはそう言って、オーディンの血溜まりに膝をついた。「エリン?」「セティ、あのね。この人、私だったの。昔の寂しがり屋で、置いていかれるのが怖くて、泣いてばっかりだった私……」 少し開いていた紅の目を閉じてやる。それからゆっくり長い銀の髪を撫でた。「それだけ、辛い目に遭った人だったの。……だからって、とても許せるものじゃないけど。 でも私、この人の寂しい心だけは受け止めてあげたい。もう一人にさせたくない。誰も置いていかないと、教えてあげたい――」「優しいな、エリンは」 急に後ろから声がして、エリンとセティは驚いた。「ロキさん!」
オリジナルとクローン、同質の力を持つ者同士の戦いはなかなか決着がつかなかった。 本来であればオリジナルであるオーディンの方がよほど地力が高い。 けれどもエリンは偽グングニルでユグドラシルの中枢システムをハッキングして、強力な支援を受けている。 よって、両者はほぼ互角。 そして槍を打ち合わせる度、魔術の技を交わす度にエリンの心にオーディンの心象風景が流れ込んでくる。 その子は、寂しい、寂しいと泣いていた。 ひとりぼっちは嫌だ。ひとりは寂しい。置いていかないでと、繰り返し泣いていた。 既に死んでしまった人たちの背中を追いかけて、届かない手を伸ばして。 あの背中たちにはもう決して追いつけないと、オーディンも本当は理解している。 けれども彼女は諦められなかった。 国を背負って立つ王として、民を守る守護者として、責務を果たせなかった無念さが心を蝕んでいた。 彼女の責任ではない事故で多くの同胞を失った。その理不尽さを恨んで、憎んで、……悲しんで。行き場のない思いを抱えていた。 ――なぁ、ロキ。 いつか遠い日に、オーディンが呼びかける。 ――お前は墓守をして生きろと言ったよな。けれど私は、彼らに合わせる顔がないんだ。死んでしまった彼らに対して、無為に生きる私がどの面下げていられると思う? ロキの声が聞こえる。 ――生死を分けたのは誰のせいでもない。お前は生き残った幸運に感謝して、残りの命をまっとうすればいい。 ――感謝! 感謝だと! 無力な王である私は、生き残るべきではなかったのに! ――オーディン、そんなに苦しまないでくれ。生き延びたのは罪じゃない。幸せになってもいいじゃないか…… ロキの体温が少し感じられて、すぐに突き放された。拒絶だった。 ――私は幸せになどならない。 オーディンの冷たい声がする。 ――私が安らぎを得るとしたら、それは、民が蘇って宇宙へと旅立つその日以降。私
オーディンとエリンの力のぶつかり合いは、さながら嵐を思わせた。 暴風雨のように力と力がせめぎあい、真と偽のグングニルが打ち合わせられる。 オーディンの槍が雷光であるならば、エリンのそれは雷鳴そのもの。 槍と槍とが打ち合うたびに、青白い火花が散る。轟音が玉座の間を揺るがす。 真グングニルが鳥の羽ばたきさながらの動きで旋回すれば、偽の槍は獣が地を駆けるように突き進み、突き上げる。 二人の女の銀の髪が、目まぐるしく交差してはたなびく。 玉座の間に激しい嵐が吹き荒れて、セティはおろか狼のフレキですら手を出せないでいる。 だが、永遠に続くかに見えた戦闘もひとつの契機を得た。 エリンが放った鋭い突きが、オーディンの仮面を割ったのである。「…………!」 偽の槍はオーディンの右目のすぐ下に当たり、あっというまにヒビを広げた。開いた穴の崩壊は止まらず、ガラガラと崩れ落ちる。 仮面の下から現れたのは、女の顔。「――エリ、ン……!?」 驚きのあまり、セティが声を上げた。フレキも戸惑っている。 あらわになった女は、確かにエリンと同じ顔をしていた。 無論、年格好は一回りも違う。未だ幼さの残る十三歳のエリンと、成熟した女としてのオーディン。 けれども姉妹や親子などというレベルではない。 完全に同一人物、本人以外ではありえない同質さでもって、彼女らは相対していた。 エリンは目を見開きながらも、口は引き結んでいる。 槍を何度も打ち合わせる度に、彼女には予感が生まれていた。 きっとオーディンは、エリンと同じなのだと。「……は。改めて見ると、思ったよりも似ている」 仮面の欠片を投げ捨てて、オーディンは皮肉に笑った。「オリジナルの顔を見た感想はどうだ? クローンの娘よ」 クローン。その言葉を胸に刻みながらも、エリンは答えた。「今さら、何も」
「次から次へと……」 オーディンの声にわずかな苛立ちが混じっている。「そんなにも死にたいのならば、もう加減はなしだ。僅かながらも慈悲をかけてやろうとしたのが間違いだった。下らぬ茶番に付き合うほど、時間は無駄にはできぬ!」 真グングニルが鳴動する。共鳴したユグドラシルが、力を増幅させている。偽物を叩き折って二度と作れないよう、憎悪を燃やしている。(共鳴) けれどセティは気づいた。グングニルの材質は七割以上がユグドラシルと同じもの。 なぜ、ただの武器にそんな材料を使う必要がある? なにか理由があるはずだ。 セティはエリンの手を取った。エリンの精神感応《テレパシー》で考えを読んでもらう。こうすれば言葉よりもずっと早く正確に伝わるからだ。 ――エリン。グングニルとユグドラシルが共鳴してる。武器と塔、どうして共鳴させる必要があるんだろう。 ――もしかしたらグングニルは本来、武器ではないのかもしれない。ユグドラシルを制御するための道具なのかも。 ――あり得るよ! オーディンの体を二八・八パーセントも混ぜたのも、あいつがユグドラシルの管理者だからだ! ――それなら、対抗するべきは武器の威力ではなくて、ユグドラシルの乗っ取り? ――それだ! 俺、今から全力でユグドラシルの中枢を探す。見つけたら、エリンが介入して! ――分かった! これだけのやり取りを一秒に満たない間にやり遂げ、セティは透視《クレアボヤンス》を全開にした。 かつての彼の能力では、ユグドラシルの内部は全く視えなかった。 けれども今は違う。第三段階の偽物《レプリカ》の能力は、対象の構造解析を完璧に行った上で発現するもの。出力も精度も以前とは比べ物にならないほど上がっていた。 一瞬だけ遅れて、オーディンも二人の意図に気づいた。何も知らないはずの彼らが瞬時に本質を見抜いたと知って、オーディンの背筋に冷たいものが走る。 だが、アドバンテージがオーディンにあるのは揺らがない。彼女は長年ユグドラシルとアースガルドの王だった。構造は熟知している。
長槍がふわりと宙に浮いた。 オーディンはいっそ無造作に、右手をエリンに向ける。 グングニルは何の前触れもなく加速して、彼女の心臓に肉薄した。そう、あたかも『最初から心臓に命中するのが決まっていたように』。「……っ!」 本来であれば、エリンといえど回避の時間はなかっただろう。 割って入ったのはセティだった。 その手には、不確かな輪郭ながらも偽物《レプリカ》の神槍が握られている。その穂先で真物の一撃を受け止めている。 偽物《レプリカ》は真なる一撃を受けた後に砕けた。「ほう?」 オーディンの声音に、初めて薄いながらも色が乗った。「お前も、第三段階か。惜しいな、もう少し早く目覚めていれば、使い道は多くあったのに。今となってはただの廃棄物にすぎん」「使い道も廃棄もごめんだね! 俺はあんたの奴隷じゃないんだ!」 セティが気丈に言い返すが、顔色は真っ青だ。一度の偽物《レプリカ》の発動が、相当な負担をかけている。「では、もう一度。どこまで持つか試してみよう」 再度の投擲がなされた。セティは偽物《レプリカ》を起動させるが、どうやら最初の攻撃はかなり加減されていたものだったらしい。 真グングニルは偽物《レプリカ》を一瞬で砕いて、そのままの勢いでエリンの心臓を狙う。『走査《スキャン》! 対象、神造兵器グングニル。材質はユグドラシルと同質が七一・二パーセント。残り二八・八パーセントは不明。 穂先に全ての周波数《チャンネル》での妨害能力波《ジャミング》搭載を確認。防御、不可能』 防御術式は無駄だ。エリンはとっさにそう判断する。回避も無駄だと思われた。投擲は直線状に見えたが、魔術的な補正がかかっている。 さきほどセティが止められたのは、同質の力を持つ偽物《レプリカ》だからこそ。「エリン!」 立て続けに偽物《レプリカ》を作り出して消耗したセティが、必死で手を伸ばしている。 エリンはその手を握って――&nbs