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1.しつこく言い寄ってくる男④

作者: 鷹槻れん
last update 最終更新日: 2026-01-24 21:53:10

「ごめん、芽生ちゃん、驚かせちゃった?」

「さ、ざなみ……さん、何故ここに?」

その登場の仕方がストーカーチックで何だか怖い。

「話は歩きながらしよ?」

困惑する芽生の手を無遠慮にギュッと握ると、細波はニコニコしながら歩き出してしまう。

「あ、あのっ、細波さざなみさんっ」

その手を振り解こうと引っ張りながら芽生が呼び掛けると、細波が放すつもりはないよ? といわんばかりに手に力を込めてきて、芽生は痛みに顔をゆがめた。

「ほら、芽生ちゃん、今日レジでクシャミしてたじゃん? 風邪ひき掛けてるんだろうから、僕が車で家まで送ってあげようと思って」

「あ、あれは――」

(風邪なんかではなく、貴方のにおいが原因で……!)

そう思ったと同時、折悪しくビュウッと吹き付けてきた風が、細波のコロンの香りを芽生の鼻先まで運んできて。

「クシュッ」

またしてもクシャミが出てしまった。

「ほらね?」

鬼の首を取ったみたいに言われて、芽生の手を引きズンズン歩を進める細波の目指す先には、嫌味なくらいコテッコテに装飾を施したいかにも〝成金仕様車〟といった風情ののセダンが停まっていた。

『カムカム』の駐車場でもしょっちゅう見かける細波の愛車だ。

「あの色、ゴージャスで良いだろ? 元々は黒だったのを業者に塗り替えんだ」

なんだか偉そうに聞こえるのは、きっと言い方のせいだろう。芽生なら『業者さんに塗り替えて』と表現する。こういうところも、細波のことを好きになれない理由だ。

それに、芽生としては黒の方が何億倍もマシだと思えるのに、細波的にはゴールドにしていることが一種の自慢ステイタスらしい。趣味が合わなさ過ぎるというのも、致命的ではないか。

(このままじゃ車内に引きこまれちゃう!)

センスの悪さもさることながら、そこへ押し込まれることを焦った芽生だったのだけれど。

近付いてみるとフロントガラスに『駐車違反』と書かれた黄色い紙が貼り付けられていて、細波が思わずといった調子で芽生の手を放して愛車に駆け寄った。

「ほんの数十分停めてただけじゃねぇか!」

(この寒い中、そんなに待たれていたの?)

約束をしているわけでも、ましてや恋人ですらない相手にそこまでするという事実に、芽生は恐怖しか感じなくて。

忌々いまいまし気に確認標章を剥がす細波を横目に、芽生はそろりそろりと後ずさりをして、一目散にその場を離れた。

「あっ。芽生ちゃん!」

細波が後ろで呼ぶ声がしたけれど、芽生は聞こえないふり。全速力で走って家へと逃げ帰った。

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