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第50話

Author: 藤原 白乃介
智哉は佳奈のベッドの傍らに座り、彼女の白い小さな手を両手で包み、幾度も唇に押し当てた。

医師の言葉が頭の中で繰り返される。

彼は佳奈が泳げないことは知っていたが、水恐怖症だとは全く知らなかった。

今になってようやく理解した。なぜ浴室で過ごす時、どんなに誘っても彼女が浴槽に入ろうとしなかったのか。

彼女の水への恐怖は、そこまで深かったのだ。

智哉は佳奈の蒼白な顔を見つめ、掠れた声で呟いた。

「佳奈、俺の知らない事が、まだどれだけあるんだ」

7年前の記憶の空白も、彼女の心の中にいる愛する男のことも知らない。

彼女が見せてくれた優しさの中に、少しでも愛があったのかさえ、わからない。

智哉は優しく彼女の頬に触れ、冷たい唇にキスをした。

「佳奈、お前のすべてを知りたい。目を覚ましたら、教えてくれないか?」

これほどまでに誰かを知りたいと思ったことはなかった。

雅浩と過ごした4年間の大学生活さえ妬ましかった。あの頃の佳奈は、きっと青春の輝きに満ちていただろう。

佳奈は意識の中で、誰かが耳元で話しかけるのを感じた。

あの声は、当時と変わらず美しかった。

人生の底に落ち、世界に絶望していた時、その声が彼女を地獄から救い出してくれた。

佳奈の意識が徐々に戻り始め、白いシャツに黑のスラックス、厳しい表情の男性が脳裏に浮かんだ。

車椅子に座った男性は、焦点の定まらない目で彼女を見ていた。

目が見えないから、白杖を拾ってほしいと言った。

かつてM国のHF大学の学生で、多くの国際賞を受賞したと語った。

彼が設計したロボットがまもなく発売されるところだった。

巨大な財閥グループを持ち、数千億の資産を有していた。

しかし足は不自由になり、目も見えなくなった。

これら全てと別れを告げなければならなかった。

まるで他人の物語のように、自分の悲惨な経験を語った。

その美しい顔には、苦痛の色が微塵も見えなかった。

佳奈はそんな男性に惹かれていった。

彼女はゆっくりと屋上から降り、彼の側に行き、地面から白杖を拾って彼の手に渡した。

それ以来、この車椅子の視覚障害者が彼女の人生に入ってきた。

彼の名前は知らず、ただ99号という番号だけを知っていた。

彼は海外での経験を語り、彼女の知らない多くの知識を教えてくれた。

次第に、彼女の病状は安定していっ
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