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第524話

作者: 藤原 白乃介
その一言で、二人はようやく手を止めた。

智哉は佳奈が大きなお腹を抱えてやってくるのを見て、すぐに駆け寄り、心配そうに声をかけた。

「佳奈、こんなとこまで来てどうしたんだ?体、大丈夫か?」

佳奈は彼の顔にある傷を見て、眉をひそめた。

「もう裏で糸を引いてる人間が誰か、分かってるんでしょ?」

核心を突く一言だった。

彼女は智哉が晴臣と本気で喧嘩するなんて信じていなかった。

たとえグループの社長の座を巡る争いだとしても、彼が手を出すとは思えない。

つまり、答えは一つ。二人はすでに黒幕の正体に気づいていて、これはその人物に見せるための芝居だった。

佳奈の言葉に、智哉は安心したように微笑んだ。

「さすが俺の嫁さん、法曹界の女王は伊達じゃないな。妊娠すると頭が鈍くなるって誰が言ったんだよ、バリバリ冴えてんじゃん」

そう言って、彼は優しく佳奈の頭を撫でた。

横にいた晴臣は口元の血を拭いながら呟いた。

「もういいだろ。さっさと佳奈に話させろよ。じゃないと、俺がただボコられ損だ」

佳奈は誠健に合図して、証拠の品を取り出させ、皆に聞かせた。

そして、自分の調査結果を順に説明していく。

「つまり、偽の玲子が高橋家に入ったのは、このネックレスが作られた後のこと。あの時点で、奈津子おばさんは晴臣を妊娠していた。偽者はそれを知って、自分を本物に見せかけるために、ホテルで男を見つけて、妊娠しようとしたの。

しかも、その子どもは高橋家と繋がりがある必要があった。だから、ターゲットにしたのは聖人さんだったのよ。

私の母は、このネックレスから玲子が偽物だと気づいた。だから殺されたの」

そこまで聞いて、智哉は信じられないという顔で佳奈を見た。

「つまり、君の推理だと……奈津子おばさんが晴臣を妊娠した後に、偽物と入れ替えられたってことになる。だったら俺と姉さんは奈津子おばさんの子どもってことになるよな?でも、玲子とのDNA鑑定はどうなるんだ?

俺が直接監視して、三回も別の機関で検査したんだ。間違いなんてあるはずがない」

皆の視線が一斉に佳奈に向けられる。

それはあまりにも信じがたい謎だった。

そのとき、晴臣がぽつりと口を開いた。

「……もしかして、俺の母さんと玲子って、双子だったんじゃないのか?」

その言葉に、佳奈は落ち着いた様子でうなずいた。

「学生
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