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第664話

Author: 藤原 白乃介
佳奈は俊介に責められて、気が狂いそうになっていた。とうとう我慢できず、彼の鎖骨に噛みついてしまった。

強烈な刺激に、俊介は思わず低く唸り声を漏らす。

体の中の血が一気に逆流するような感覚に襲われる。

彼は腕の中にいる、薔薇よりも艶やかな佳奈を見下ろし、かすれた声で囁いた。

「ハニー、いいか?」

佳奈の中で、やっとのことで戻りかけていた理性が、そのひと言で一気に吹き飛んだ。

それは、かつて智哉が彼女に呼びかけていた呼び名だった。

二人が情熱に身を任せるたび、彼は決まって耳元で「ハニー」と囁いてくれた。

その声に、何度も心を奪われ、彼の強引で甘い愛に溺れていった。

俊介の胸に顔を埋めた佳奈は、呼吸が乱れていた。

声も自然と掠れてしまう。

「午後、まだ裁判があるの……」

俊介は、彼女の我慢しているよう表情を見て、もう無理はさせたくないと思った。

唇に軽くキスを落としながら言った。

「じゃあ、ちょっとだけ気持ちよくしてあげる。法廷で力入らないと困るだろ?」

そう言うと、俊介は手の動きを加速させた。

佳奈は思わず声を漏らしてしまう。

二年ぶりの再会なのに、この男のテクニックは衰えるどころか、ますます巧みになっていた。

俊介に弄ばれた佳奈の体は、力が抜けてぐったりと彼の腕の中に沈んだ。

大きく息を吐きながら、荒く呼吸する。

元々整った顔立ちに、情事の余韻が加わって赤く染まり、濡れたような瞳が一層艶やかに輝いていた。

ようやく俊介は彼女を解放することにした。

ティッシュで手を拭き取り、そのまま佳奈を抱き上げてソファに座る。

「何飲む?コーヒー、それともお茶?」

佳奈は柔らかい声で答えた。

「白湯が飲みたい……」

その可愛らしい姿に、俊介はまた唇を奪いたくなり、軽くキスを落とした。

「わかった。持ってくる」

そう言って立ち上がり、水を注ぎにキッチンへ向かった。

ちょうどその時、スマホが鳴った。

画面の着信表示を見た俊介は、すぐに通話ボタンを押す。

電話の向こうから晴臣の声が聞こえた。

「兄さん、浩之に動きがあった。誰かが釈放させようとしてる」

俊介は眉をひそめ、低い声で答える。

「皇室の人間だ」

晴臣は驚いた様子だった。

「なんで分かったんだ?」

「外祖父からもらったエメラルドを調べたんだ。イーシャ女王が持っ
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