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17.出しっぱなしのカップ①

Auteur: 鷹槻れん
last update Date de publication: 2026-08-07 06:24:52

結葉ゆいはの反応を見て、想そうがくるりと後ろを振り返って。

 開いたばかりのエレベーターを降りて歩き始めた偉央いおに、「御庄みしょうさん?」とつぶやいた。

 偉央いおは片手に小さな箱を抱えて、腕にビニール袋をぶら下げていた。

 どうやら彼は、それらを家へ置きにきたらしい。

 別に悪いことをしていたわけではない。

 想そうは偉央いおに、奥さんである結葉ゆいはと玄関前にいるところを見られても何らやましいことはなかったから、こちらへ向けて歩み寄ってくる偉央いおを見つめてごくごく普通に「おはようございます」と会釈えしゃくした。

 だけど結葉ゆいはの方は、穏やかな笑みを浮かべて「おはようございます、山波やまなみさん」と返す偉央いおを見て、ソワソワと落ち着かない。

 今は想そうが目の前にいてくれるからどうこう
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     偉央と結葉が住んでいたタワーマンションは、生体認証が鍵になっていた。 生体認証には顔認証や虹彩認証など、さまざまなものがあるらしいのだが、このマンションのそれは指紋認証システム採用だ。 結葉は(どうかまだ登録が抹消されていませんように)と祈るような気持ちで正面入り口にあるセンサーに恐る恐る右手人差し指を当てる。 ――と、すぐにピッという聞き慣れた音がして、難なく目の前の自動ドアが開いた。(よかった……) マンションの入り口は、割と『みしょう動物病院』から丸見えの位置にあるため、結葉はいそいそと中に入った。 すぐに真正面の受付ブースにいるコンシェルジュらと目が合った。 結葉に気が付いた斉藤と白木が、何か話し掛けたそうに結葉を見つめてきたけれど、結葉は心の中で〝後程ちゃんとうかがいます!〟と言い訳をして、ペコペコと頭を下げながら急いでエレベーターホールへと向かう。 本来ならばすぐにでも受付に駆け寄って、先日のお礼を伝えたいところだけれど、今はとにかく偉央がいない間に手荷物を部屋に置いて来てしまいたい一心だった結葉だ。 上の階へ上がるため、呼び出しボタンを押すと、たまたま一階に箱があったらしく、すぐに扉が開いた。 個室に乗り込んで、「閉」ボタンを押したら、ドアが閉まり切る寸前、受付の方から走ってきた斉藤に「あのっ……!」と声を掛けられた。 けれど、結葉が「えっ」とその声に目を向けたときには、扉が閉まり切ってエレベーターは上昇を開始してしまった。 結葉は心の中で〝本当にごめんなさいっ。後でちゃんと伺います!〟と言い訳をすると、手にした紙袋をギュッと握りしめた。 たくさん詰めすぎたからだろうか。 ふと見ると、持ち手の付け根のところが破れて来ていて、結葉は落っことしたら大変、と紙袋を両手で抱き抱え直す。 そのせいで前が

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    「想ちゃん。私、今日はちょっとだけ街へお買い物に出てみようかなって思ってるの」 朝。 いつものように想にお弁当を手渡しながら結葉が言った。 想は思わず「……平気なのかっ?」と差し出された弁当の包みごと結葉の手を握ってしまっていた。 そのことにハッと気づいて慌てて想が手を離したら、結葉も驚いたように手を引いた。 ――ゴトッ! 鈍い音を立てて二人のちょうどド真ん中に、支えを失った弁当が垂直落下した。「お弁当っ」「俺のっ」 二人同じように言って、慌てて手を伸ばしてかがみ込んだら、額同士をゴチンッとぶつけてしまう。 結果、今度こそ二人同時に「痛っ!」「痛っ!」と声が出た想と結葉だ。 結局弁当は想が拾い上げて、結葉は髪の毛の下、ほんのり赤くなった額をさすりながら「想ちゃん、ごめんね」と眉根を寄せた。「バーカ、お互い様だろ」 前髪が短めだからだろうか。 想の額がほんのり赤くなっているのが見えて、結葉は自分も見えないだけで同じだろうなぁと思った。「うん、頭もなんだけど……お弁当も」 想の手にした包みを指差したら「ああ、中身の心配?」とククッと笑われた。「多分大丈夫だろ」 想がそう太鼓判を押すのには、ちゃんと根拠がある。 結葉が作る想のお弁当は、想にたくさん食べさせたいという思いが一緒に入れてあるみたいに、中身が結構みっちり詰まっているからだ。 恐らく垂直落下したぐらいでは寄り弁になんてなっていないだろう。 それでもやっぱり作り手としては、中の様子が気になるらしい。「でも……一応どうだったか教えてね」 言い募るように

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