LOGIN もしまかり間違って
そんなことを思いながらベッドに身体を預けていたら、思ったよりも身体は休息を求めていたのだろう。
いつの間にか泥のように眠ってしまっていた。 カーテンはいつ閉めた時のままなのか、ずっと閉ざされっぱなしだったので、目を覚ました(いや……)
考えてみれば八時過ぎに目覚ましをセットしておいて、
確か、電話に出たのは受付の女性・
彼女は
もしまかり間違って結葉が自分の元へ帰って来てくれたなら、この愚行だってきっと報われるし、意味があると思えるのに。 そんなことを思いながらベッドに身体を預けていたら、思ったよりも身体は休息を求めていたのだろう。 いつの間にか泥のように眠ってしまっていた。 カーテンはいつ閉めた時のままなのか、ずっと閉ざされっぱなしだったので、目を覚ました偉央は、今現在何時ぐらいで、外は日が昇っているのかどうかすら分からなくて。(いや……) 考えてみれば八時過ぎに目覚ましをセットしておいて、病院に電話したんだったとぼんやり思い出した偉央だ。 確か、電話に出たのは受付の女性・加屋だった。 偉央が体調不良で休む旨を伝えると、加屋から酷く心配されたのを思い出す。 彼女は偉央が今の場所に『みしょう動物病院』を構える前からずっと一緒に働いてきた旧知の仕事仲間だ。 偉央が動物病院を開業する前に世話になっていた病院のスタッフ仲間の一人――。 それが加屋美春だった。 結葉にプレゼントした雪日は、実は美春の家からもらった子だったりする。*** それにしても――。 やはりキッチンの方から物音が聞こえるのは気のせいではないかも知れないと思い始めた偉央だ。 目覚めてすぐの頃は幻聴だと思っていた物音だったが、それにしてはやけにハッキリと気配が感じられる気がして。(泥棒だろうか?) ふとそんなことを考えて、このマンションのセキュリティの高さを思って有り得ない話だと打ち消した。 では――?(もしかして……結葉が帰って来てくれた?) そんなこと有りはしないと頭では分かっているのに、心が〝確認してみるだけしてみればい
「ココもしっかり濡らしてから挿入るから」 スカートの上から秘所の辺りをそろりと撫でられた結葉は、恐怖で動けなくなる。「ぃやっ……」 涙目で偉央を見上げて、掠れたか細い声音でイヤだと意思表示をしてみたけれど、偉央にやめる気はないようで。「まだ離婚届、出してないんだよね? だったら間に合うじゃないか。ねぇ結葉、子供と僕とキミの三人でやり直そうよ。キミが僕の子供を身籠もってくれたらもう無理に閉じ込めたりしないし、ある程度ならキミの行動にも目をつぶるって約束する。だから――」 そこで偉央にギュウッと抱きしめられた結葉は、耳元で小さく「帰ってきて、お願い……」と囁くように偉央が懇願する声を聴いた。*** 想が御庄家のあるタワーマンションに辿り着いたと同時、ポツポツとにわか雨が降ってきて。 今日は雨が降るなんて予報、ひとつもなかったはずなのに、と雨を避けるように手をかざして建物に近付きながら思った想だ。(こんな馬鹿らしい胸騒ぎ、どうか杞憂であってくれ) そう願わずにはいられない。 予報にない雨降りは、自分の不安を象徴しているみたいで、想は凄くイヤだった。(結葉……。頼むから無事でいろよ⁉︎) 現地に着いたら先ほど着信があった番号に折り返すよう指示を受けていた想は、車を降りてマンションに向けて歩きながらスマートフォンを操作する。 画面をポツポツと雨が濡らしたけれどそんなの今の想にはどうでもよかった。 スマホを耳に当てたまま大股で歩いてエントランスまで行って――。 想が、コンシェルジュたちがいる
それと同時、いきなり強く手を引かれて、結葉は偉央の腕の中に抱きしめられていた。 食事の間中、偉央が纏う穏やかな空気感に完全に油断していた結葉は、突然のことに何が起こったのか理解出来なくて。 悲鳴すら上げられないまま偉央に捕まえられてしまう。「――あ、あのっ、偉央、さっ」 偉央の腕の中に閉じ込められた事で、嫌と言うほど嗅ぎ慣れた偉央の香りが鼻腔に流れ込んできた。 〝偉央の香り〟と言っても、偉央は仕事柄香水などをつけるタイプではない。 だから偉央から漂ってくるのは、いつも彼が身に纏っている服に使われた洗剤や、ボディソープの香りに、彼自身の体臭がほんの少し混ざった感じの仄かなものだ。 同じ石鹸を使って身体を洗っていた時ですら、自分とは違って感じられた偉央のにおいだったけれど、こんな風に弱っている時でさえも、彼は汗臭かったりしなかった。 思えば、偉央は仕事から帰ると真っ先にシャワーで身体を清める男だった。 家の中に病院からのアレコレを持ち込みたくないからだよと説明されたことがあるけれど、そのせいで必然的というべきか。 家で偉央を待つ結葉には、夫=風呂上がりの香りが定着してしまっていて。 不意打ちのように偉央に抱きしめられた結葉は、その香りとの相乗効果で、偉央にされた数々のことを思い出して恐怖心がブワリと再燃する。 ギュッと身体を固くして、震える声で「偉央さ、お願っ……離して……」と懇願してみたけれど、聞こえているのかいないのか。 偉央は一向に腕を緩めてくれないのだ。 しかも、何度呼びかけても偉央が何も言ってくれないから、怖くて堪らない結葉だ。「……偉、央、さん……
やはり偉央から届いていた手紙にその答えがあるような気がした想だ。 あの封書、結葉宛だからと開封せずに彼女に渡してしまったけれど、こんなことならば中身を検めてから手渡すべきだった。 そんなことを思って、(いや、それは人としてダメだろ)と、慌ててその考えを否定する。 そこで信号が青になって。 想は一旦思考を引き上げると車を発進させた。***「やっぱり結葉の手料理は優しい味がして美味しいね」 ベッド横。 ドレッサーの椅子を持ってきて、気持ち夫から距離をあけるようにして腰掛けた結葉に、偉央が静かな声音でそっと話し掛けてくる。(相変わらず偉央さんは上品な食べ方をなさるな) そんなことを思いながらぼんやり偉央を見詰めていた結葉は、偉央に淡く微笑みかけられてドキッとしてしまった。 結葉は、偉央の箸を持つ手指のスッと長くて、その所作が美しいところが大好きだった。 結婚前、結葉は見合いの席で偉央が食事をする光景を見るとはなしに眺めて、〝この人となら、毎日三食一緒にご飯を食べてもきっと不快な気持ちにはならないだろうな〟と思ったのを鮮明に覚えている。 結婚してからここ数年は、食事の時すら偉央の顔色を窺っていた結葉だ。 張り詰めた空気の中、偉央がこんな風に綺麗な食べ方をする人だったことすら、いつの間にか見えなくなってしまっていたんだなぁと思って。(私たち、一体どのぐらい長い間、ボタンを掛け間違え続けてきたんだろう) そんなことを考えて、結葉は両手で包み込んだ湯呑みをギュッと握りしめる。 最初は熱くてこんな風に持つことが敵わなかった湯呑みも、今は大分中身が冷めて、強く握ってもほんのりと温かい程度にしか感じられない。「お口に合って良かったです」
ああは言ったけれど、結葉が自分のところで生活している以上、何もありはしないだろうと、あちらの番号は敢えて登録していなかった想だ。 もし必要に駆られたとしても、調べれば出てくるのは分かっていたし、最悪出向けば済むこと。 こちらからどうこうすることはないと思っていた。 なのに――。『あの、今朝結葉さんが十時前に一人でこちらにいらっしゃいまして……。お部屋に戻られたっきり出ていらっしゃらないので……その、心配になってご連絡を差し上げました』 言われた言葉の意味が分からなくて、想は思わず「え?」とつぶやいていた。「結葉が一人でそちらに?」 再度確認するみたいに斉藤が告げた言葉を繰り返したら『はい』と返ってきて。『山波さんは今日のことについて結葉さんから何かうかがっていらっしゃいませんか?』 問われて、想は「いや、何も……」と答えるしかなかった。『実は……いつもでしたら今の時間帯……というかこのところほぼずっと……結葉さんのお宅はお留守だったのですが……』 そこで言いにくそうに一旦言葉を止めた斉藤に、想は嫌な汗が背中を伝う。『私たちがいる時間帯のことではないのでハッキリとは申し上げられないのですが、今日は早朝にご主人がご帰宅なさったという報告を夜の担当者から受けています』 普段なら一住人の在宅や不在を申し送りするような事はないらしい。 だが、今日は偉央がエントランスで跪いてしまうぐらい調子が悪そうだったから、少し気にかけておいて欲しい、と言伝があったそうで。『私たちが把握している限りではご主人も外出なさっておられませんし……その&helli
(今日は午前中出かけるって言ってたっけ) 仕事で商店街の近くを通って、ふと出掛けに告げられた結葉の言葉を思い出した想だ。(百均って多分……この奥の、だよな) この辺りに、規模のそこそこ大きな百円ショップはそこぐらいしかない。 結葉は、何か頼んでいたものが入ったから取りに行くと言っていたけれど、用を済ませたら寄り道せずに帰るつもりだろうか。 それとも折角出て来たんだし、とどこかに寄るのだろうか。 結婚してから数年、結葉は半ば軟禁生活のような暮らしを強いられていたらしい。 一人では自由に外を出歩くことを許されていなかったみたいだから、もしかしたら羽を伸ばしたい気分になっているかも?(あの近くには美味い紅茶を飲ませてくれる喫茶店もあるしな) ショーケースに並ぶ食品サンプルに誘われて、結葉がふらりと店に入っていても不思議ではない気がした想だ。 仕事がひと段落したら、とりあえず結葉に電話してみて、まだ外にいるようなら迎えに行ってやるのもありかな?と思って。 普段なら自分の仕事中自由にしている結葉のことをそんなに気にしないでいられる想なのだが、何故か今日は今朝方の結葉の様子が引っ掛かって仕方がない。 結葉が想に嘘をつく必要なんてないはずなのに、どうしてこんなに心がざわつくのかは分からない。 けれど、まるで透明な水にポツンと落とされた一滴の墨汁みたいに、結葉の言動に違和感が拭えない想だ。 強いて言えば〝勘〟だろうか。(そう言や、御庄さんからの手紙って、何が書いてあったんだろ) 結葉はあの夜、とうとう想の前でそれを開封することが出来ず終いで。 まだ心の準備が出来ていないから、と淡い笑みを浮かべた結葉の表情が、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている想だ。 結局想は、結葉が旦那からの手紙を読んでどういう反応をしたのか。……いや、そもそもそれを読んだのかどうかすら知ることが出来ずにいる。 結葉は、偉央から送られてきた離婚届をまだ提出していない。 だから戸籍上、二人は夫婦なわけだし、想が介入