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第6話

Author: サヨ
深夜。

海風は刻一刻と強さを増し、時乃を宙吊りにするロープは今にも千切れそうに軋んでいた……

長い夜が明け、ようやく引き上げられた時乃は、克樹の足元に放り出された。逆光の中に立つ男の表情は、陰鬱そのものだった。

「梶本家を裏切った者に与えるのは死だけだ。俺がお前を殺せないとでも、高を括っていたか?

お前が死ぬなら、あの兄を生かしておく必要もないな」

時乃は脱水でひび割れた唇をようやく開き、乾いた声で訴えた。

「本当に……私じゃ、ありません……

殺すなら……私を、殺して!」

必死に体を起こそうとするが、その声は掠れ、震えている。

克樹は冷ややかに鼻を鳴らすと、部下たちに彼女を屋敷へ連行するよう命じた。

モニター画面の前。時乃の髪を掴まれ、無理やり顔を上げさせられる。

画面には、絢斗がベッドに力なく横たわり、目を閉じている姿が映し出されていた。

輝良がカメラのアングルを調整し、下卑た笑い声を上げた。

「よう時乃ちゃん。梶本さんを裏切ったんだって?

じゃあ、お兄ちゃんにはたっぷり痛い目を見てもらわねぇとなあ!」

言うが早いか、彼は棘のついた鞭を振り上げ、絢斗の背中を無慈悲に打ち据えた。

ビシッ!

時乃の瞳孔が収縮し、耳元で激しい轟音が鳴り響く。

彼女は克樹の足元に跪き、なりふり構わず懇願した。

「本当に裏切ってなんていません!信じて……きっと誰かが私を陥れたんです……

そうだ、監視カメラを確認してください!病院で血を分けたのは私です……!

お願い、兄を助けてください!」

顔色は蒼白になり、耳には兄の苦悶の呻き声が響き続ける。

克樹は冷え切った眼差しで彼女を見下ろした。

「俺が病院で目を覚ました時、そばにいたのは来幸だけだった。医師も護衛も、俺を救ったのは来幸だと言っていたぞ。

絢斗のために谷川家に媚びを売る。それが裏切りでなくて何だ?」

彼は一枚の写真を放り投げた。そこには、時乃が谷川家の門前に跪いている姿が写っていた。

「違う!私はやってません!

採血の後に気絶して……何が起きたのか知らないんです……」

克樹は怒りのあまり乾いた笑い声を漏らした。

「そんな言い訳を信じるとでも思っているのか?」

部下に時乃を押さえつけさせ、絢斗が拷問される一部始終を強制的に見せつけた。

ピシッ!

鞭が振り下ろされるたび、時乃の心臓も引き裂かれるようだった。

「やめて、いっそ私を殺して!

私を殺してえぇッ!」

時乃は目を見開き、全身を震わせた。

「言ったはずだ。お前は死ぬまで俺から離れられないとな……」

その時だった。

画面の中で、輝良が目を離した一瞬の隙をつき、絢斗が動いた。

最後の力を振り絞って近くの花瓶を割り、その鋭利な破片で自らの喉を一気に切り裂いた。

微かな嗚咽は噴き出す血に飲み込まれ、彼の瞳から光が消え失せた……

……

輝良の不満げな声が響く。

「チッ。まだ遊び足りねぇのにくたばりやがって。つまらねえな」

プツンと画面が消える。

同時に、時乃の全身の血液が逆流し、胸が激しく波打った。

「兄さんッ――!!」

彼女は拘束していた護衛を瞬時に振りほどき、黒い画面の前へ駆け寄った。

喉が裂けんばかりの絶叫。

傍らで来幸が、ふわりと軽い口調で毒を吐く。

「あんなにあっさり死ぬなんて、安上がりで助かったわ。

克樹を裏切っておいて、お荷物の兄の命一つで許されたんだから、感謝しなさいよ」

時乃の中で、理性の糸が完全に切れた。

目にも止まらぬ速さで卓上の花瓶を叩き割り、その破片を握りしめて来幸に向かって突進した。

瞳は深紅に染まり、そこにあるのは冷え切った殺意のみ。

命には命を!

繰り出す必殺の一撃は、間に入った克樹に阻まれた。

来幸が彼に守られているのを見て、時乃は迷うことなくその破片を彼の腕に突き立てた。

克樹が痛みに顔を歪めたその隙に、時乃は来幸の首に手をかけ、死に物狂いで締め上げた。

克樹は腕を押さえながら、時乃の狂気に満ちた表情を見て息を呑んだ。

心臓が激しく跳ねる。

彼女が自分を傷つけたのは、出会ってからこれが初めてだった。

一瞬、克樹は金縛りにあったように動けなくなった。

来幸は白目を剥き、顔色がドス黒い紫色に変色していく。

「たす……け……」

彼女が事切れる寸前、ようやく我に返った克樹が背後から時乃の首筋に手刀を打ち込み、気絶させた。

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