病弱な兄を救うため、広瀬時乃(ひろせ ときの)はわずか七歳にして、梶本家が運営する暗殺者訓練キャンプの門を叩いた。九歳であらゆる武器を自在に操り、十六歳になる頃には、百人の少女たちが殺し合う訓練キャンプを、たった一人生き抜いてみせた。その修羅場を潜り抜けた実力を買われ、時乃は梶本克樹(かじもと かつき)の前に立つ。彼の身を護る盾――「専属護衛」として。あの日から時乃は、克樹にとって最も使い勝手の良い「懐刀」だった。底が見えないほど複雑な梶本家の勢力争い。彼に実権を握らせるためならと、時乃はこの両手を幾度となく血に染めてきた。十八歳の時。裏切り者の奇襲に遭い、絶体絶命の窮地に陥った時乃を、克樹が身を挺して庇った。自らの体で銃弾を受け止めてまで救ってくれたその瞬間、時乃の心は彼に囚われた。それからの三年間。昼は背中を預け合う相棒として、夜は熱を分かち合う愛人として。数え切れないほどの夜を共にし、抱き合って眠りにつく度、克樹は耳元で甘く囁いた。「時乃、お前なしでは生きていけない」その言葉を、時乃は本気で信じていた。この幸福が、永遠に続くのだと疑いもしなかった。だが、克樹が敵に狙われたあの一件で、全てが変わってしまう。数時間にわたる死闘の末、ようやく脱出の糸口を見つけたその時だった。時乃が必死に彼を庇って退路を切り開き、克樹が落ちた銃を拾い上げようとしたその瞬間。バンッ!乾いた銃声が響く。時乃は反射的に彼の前に飛び出し、その腹部に三発の鉛玉を受けた。薄れゆく意識の中、目に映ったのは、目を真っ赤にして「時乃!」と絶叫する克樹の姿。最後の力を振り絞り、彼の目尻に浮かんだ涙を拭う。「大丈夫……です。痛く、ありませんから」そう言い残し、時乃は深い闇へと堕ちていった。どれほどの時間が経ったのだろう。重い瞼を持ち上げると、そこには病院の無機質な白い天井があった。体に力が入らない。誰かを呼ぼうと口を開きかけたその時、カーテンの向こうから、克樹の冷ややかな声が鼓膜を打った。「どうだ来幸、この賭けは俺の勝ちだ。言っただろう?多少の隙を見せたところで俺は死なない。時乃は必ず、我が身を挺して俺を救いに来るとな」続いて、岡山来幸(おかやま こゆき)の甘ったるい声が響く。「はいはい、わかったわよ。私の要求
Read more