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名前の由来2

Auteur: 東雲桃矢
last update Dernière mise à jour: 2025-12-16 16:06:38

「それって奥様のエゴですよね? 優子ちゃん、可哀想」

 口を開いたのは聖愛だった。

「なんですって?」

「今の時代でさえ、子供を産むのは自由って言われてるのに、子宝祈るって、ちょっと……。変に生々しくて気持ち悪いっていうか。それに、知ってます? 子供の子がつく名前って、シワシワネームですよ? 今時滅多にいませんって、そんなシワシワネーム。セクハラな上に古臭い名前つけられて、優子ちゃん可哀想」

「あなたに何が分かるの!?」

 水樹が立ち上がり声を荒げると、恭介が水樹を突き飛ばす。水樹はソファの上に倒れる。

「聖愛の言うとおりだ」

「優子の名前はお前に任せるって言ったのはあなたじゃない! それに、あの時はいい名前だって……」

「見苦しいぞ」

 恭介は冷たく言い放つと、優子を抱き上げ、聖愛に目配せして2階に行った。恭介の書斎に入ると、自分の膝の上に優子を乗せ、宿題をさせた。

「ゆう、自分の名前嫌いになっちゃった」

「そうね、ひどいよね」

「まったくだ。ごめんな、優子」

「ゆうは、ううん……。私は、ママ嫌い。聖愛さんがママになればいいのに」

「優子ちゃん!」

 聖愛は優子を恭介ごと抱きしめた。

「そう言ってくれて嬉しい。私も、優子ちゃんが娘だったら、どれだけ嬉しいか」

「じゃあ、聖愛さんが私のママね。ママって呼んでいい?」

「もちろんよ」

「わぁい、嬉しい! 名前も、優子じゃなくて、違う名前がいいなぁ」

「それなら、私と恭介さんで考えましょ。ね、恭介さん」

「そうだな、あとでふたりでじっくり考えておくよ」

「じゃあ、そのお名前の由来書きたい!」

 消しゴムで書いた名前の由来を消そうとする優子の手を、恭介は慌てて掴んだ。

「名前を考えたり、変えたりするのは時間がかかるんだ。だから、今はそれで我慢しなさい」

「はーい……」

 優子は渋々プリントをたたむと、ランドセルにしまいこんだ。

 翌日、1時間目の授業は国語。

「では皆さん。自分の名前の由来を発表していってください」

 窓際に座る生徒から、順番に発表していく。女子が発表する度に、優子は惨めな気持ちになった。名前に「子」がつく子なんて、優子以外いないから。優子の後に発表する子にだって、「子」がつく子はいない。

(やっぱり、優子って名前、ダサいんだ。ママだいっきらい)

 心の中で水樹への恨み言を言っていると、優子の番になった。
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