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第3話
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義妹のために売られた妊婦 第7話
それでも、私は同情も覚えなかった。映像に映っていたのは、十五歳の彩乃だった。だがその目に年相応の無垢はなく、濁りきった怨毒だけが宿っていた。動画ははっきり捉えていた。彩乃が、厳重に縛り上げた高橋夫婦を、十階建ての廃工場の縁から突き落とす瞬間を。「なぜだ？どうしてお前なんだ！」翔太はすでに正気を失い、警官の手を振りほどくと彩乃をつかみ上げ、狂ったように問い詰めた。彩乃は映像を見た瞬間、終わりだと悟った。むしろ笑い出した。「なぜって？お兄ちゃん？どうしてだと思う？あの老いぼれ二人が、私がお兄ちゃんを好きなのを許さなかったからに決まってるでしょ」彩乃は不気味に笑った。「お兄ちゃんは私を孤児院から連れ出した。なら私を愛すべきだし、愛していいのは私だけ！」彩乃と翔太の仲を邪魔する人間は、みな排除された。それでも、春奈が消えたあとでさえ、彼は彩乃を愛さなかった。高橋夫婦がその歪んだ恋心に気づいて、彼女を国外へ出す手筈を整えた。彼女は受け入れず、チンピラを数人雇い、養父母をおびき出して手を下した。痕跡は綺麗に消するはずだった。だが一人のチンピラが密かに動画を残していた。翔太は完全に狂った。両親が死んだあの日、彼は全身傷だらけの彩乃を見つけた。彩乃は泣き腫らした顔で彼にしがみつき、血を吐くように言った。「お兄ちゃん！井上家の人たちだよ！私とパパとママをさらって、高橋家の商売を渡せって脅したの。二人が拒んだら、そのまま突き落とされたの……」彼は奥歯を噛み砕くほどに憎んだ。だが高橋夫婦の死後、高橋家は親族に食い荒らされ、彼に残ったのは負債だけ。その時、井上家が現れて彼を気遣い、押しかけてくる債権者を片づけてくれた。翔太は口では礼を言いながら、心では井上家を殺して復讐することだけを考えた。しかし彼には無理だった。井上家は頂点の富家で、後ろ盾のない少年が比べられる相手ではない。その後、翔太は完璧な恋人を装いながら、井上家の両親を死に追いやる筋書きを組んだ。あの時の私の原因不明の病でさえ、彼が盛った薬だった。この年々、彼は井上家への憎しみだけを燃料に、春奈を傷つけることをいくつも重ね、そのたびに自分に言い聞かせた。「彼女が負っている借りを、俺は返しているだけだ！」だが今
義妹のために売られた妊婦 第6話
翔太はあの日宴から叩き出されて以来、ずっと腹の底に澱のような怒りを抱えていた。だが最後にアシスタントが今の私の身元を割り出すと、彼は沈黙した。「春奈さんもほんとひどいよ、逃げられたなら、もっと早く戻ってくればよかったのに」と彩乃がタイミングよく口を挟み、責める色を隠そうともしなかった。「やめろ！」今回は翔太はそれ以上乗らず、氷のように言葉を断ち切った。彼は後悔していた。あの時、彩乃の言葉を信じるべきではなかったと。偽の宿敵を用意すれば、春奈はきっと財産と引き換えに身を守る。そうすれば井上家の財産はすべて手に入る！まさか春奈が海へ身を投げるとは思わなかった。三年探し続け、再会した時にはもう他の男の妻になっていた。翔太は別荘の物置に籠り、三年前に撮った結婚写真を手にしていた。写真の中の私は柔らかく笑い、翔太の胸にもたれて幸せそうだった。「俺は……間違っていたのか」彩乃は扉口に立ち、悔しさに歯を砕きそうな勢いで噛みしめた。これらの写真はすべて隠したはずなのに、翔太は見つけ出してしまった。「お兄ちゃん、忘れたの？井上家は私たちの仇だよ！」彩乃は涙で顔を濡らし、声はひたすらに恨み言と不満で満ちていた。翔太はたしかに動きを止め、写真を撫でていた手も止まった。だが最後に、翔太はもう一度口を開いた。「考え直した。井上家への復讐は果たした。これで貸し借りはなしだ。春奈に会いに行く。長年愛し合ってきた。きっと許してくれる」彩乃と翔太は十八歳から一緒だった。十年の情を、そう簡単に断ち切れる者がどれほどいる。「じゃあ、私たちの子は？お兄ちゃん、私のことは放っておくの？」彩乃は顔面蒼白で、目を赤くして詰め寄った。翔太は彼女の声を乱暴に断ち切った。「彩乃、子どもが生まれたら自分で海外へ行くって言ったよな。お前はずっと妹だ。俺が愛しているのは春奈だけだ！」優しく愛らしかったはずの義妹が、なぜ怨み女のように変わってしまったのか、彼には分からなかった。それとも、最初からそういう女だったのか。「妹？私たち、もう子どもまでいるのに、まだ妹扱い？」彩乃は後を下がり、ひたすら首を横に振った。まるで初めて見る男のように、彼女は翔太を信じられないものとして見つめた。ここまでして、返ってきた
義妹のために売られた妊婦 第5話
裕也の口元が思わず上がり、さっきまで氷点下だった気配が一気に春めいた。警備員が真っすぐこちらへ来て、顔を横に向けて翔太と彩乃に冷たく告げた。「二人とも、出てくれ！」場の誰もが目を見開いた。福島会長が桜峰市の名門界隈から追い出されたこの二人のために、翔太に刃を向けるとは誰も思わなかった。二人はいったい何者だ？居並ぶのは百戦錬磨ばかりで、たちまち視線が複雑に変わった。だが渦の中心の彩乃と翔太だけは、現実を受け入れられない。翔太の顔色は極限まで悪くなった。「福島会長、どういうつもりだ！」福島会長の眼差しは揺れない。「裕也と春奈は俺の貴賓だ。二人を侮る者は、福島を敵に回すのと同じだ！」鋭い視線が一同を掃き、さらに言い放つ。「誰であれ、桜峰市商工会を敵に回したと見なす！」福島会長の翔太を見る目には、知らず火が灯っていた。フォーブス上位の富豪との糸をようやく結んだのだ。邪魔は一切許さない。翔太と彩乃は「ご退場」を願われ、場は微動だにしなかった。誰もが過不足ない微笑を崩さない。二人を除いて。終わって車の中、裕也は申し訳なさそうに私を強く抱き寄せた。「悪かった、春奈。遅くなった」裕也は悔しさに拳を握り、心の中ではとっくに二人を千切っては投げていた。今日、福島会長との交渉に気を取られなければ、春奈を不利な立場に晒すことはなかったはずだ。赤くなった頬に手を当てる彼の目には、燃える怒りが抑えきれず滲んでいた。私は抱き返し、積もった悔しさがすっと消えていくのを感じた。ふと何かに思い当たり、声を低くした。「裕也、私の両親の死、何かおかしい」これまで疑ったことはなかった。だが今日の彩乃の口ぶりが耳にこびりついて、当時の出来事に急に影が差した。「任せろ！」裕也の声音は昔と変わらず、簡単に私の動揺を鎮めた。三年前、海から私を引き上げてくれたあとで知った。私の中で「能なしの小野家のボンボン」だった男は、密かに欧州最大の企業の裏の実権者だった。裕也は思っていた以上に頼れる男だった。三日後、迷惑電話を何十件もブロックしたころ、彼は結果を携えて現れた。「義父母の件、答えが出た」裕也は低く告げ、言いかけて口をつぐみ、ため息とともに血にまみれた男を私の前へ放り出した。
義妹のために売られた妊婦 第4話
この瞬間、目の奥がつんと痛み、張りつめていた強さはすべて悔しさに溶けた。入口の陰からすらりとした影が早足で現れ、反射的に顔を上げる。引き締まった体に仕立てのいいスーツ、広い肩と細い腰の輪郭が灯りに浮かび、いやでも目を引いた。「遅くなった、春奈」小野裕也（おの ゆうや）の声は低く、固く強い腕が私を抱きしめた。彼は会場の一人一人を氷の目で掃き、まるで死体でも見るようだった。「春奈さん、また場を取り繕うために変な男を連れてきて、ほんと常識ないね！」彩乃はわざとらしく気遣うふりをしながら、しかし目はあからさまに高みの見物だった。「その男をすぐ帰らせてよ。お兄ちゃんが怒ったら、あなたじゃ責任取れないよ！」「おまえごときが俺の妻に口をきくな！翔太、久しぶりだな。趣味、ずいぶん落ちたな！」裕也は淡々と言った。けれど、そこに滲む無関心の軽蔑は、誰の耳にもはっきり伝わった。「あなた……」翔太が言葉を探すより先に、彩乃が逆上した。こんな口の利き方をされたことが一度もなかったのだ。彩乃は唇を噛みしめ、「お兄ちゃん、早くこいつを懲らしめて！」だが今回は、翔太はその弱さに惑わされず、対面の裕也を射抜くように見据えた。「お前、春奈を何て呼んだ？」裕也は薄く笑って、答えなかった。翔太は私を凝視し、ふっと笑った。「春奈、その嘘はさすがに下手すぎるな！茶番をやるにしても、もう少し説得力のある相手を連れてこい」皆が知っている。私と裕也は子どもの頃から犬猿で、互いに気に入らなかった。同じ学校で五年、言葉を一つも交わさなかった記録まである。桜峰市の界隈は狭いのに、同じ席に並ぶことは決してなかった。けれど誰も知らない。私と翔太が交際を公表したあの夜、裕也は素手で私の部屋に登り込み、たった一言だけ残した。「本当に、あいつじゃないとダメなのか」当時の私は意味が分からず、裕也が狂ったとしか思わなかった。だが海の底で窒息しかけたとき、裕也は私の空気になった。「翔太、あの年、袋にくるまれて殴られた感触を覚えてるか」「お前だったのか！」翔太の目が裂けるように怒り、春奈と付き合い始めた頃、何者かに襲われた一件を思い出す。桜峰市じゅうを洗っても、黒幕の痕跡は一つも掴めなかった。それが裕也だったとは
義妹のために売られた妊婦 第3話
期待を込めて声をかけたが、入ってきた相手を見て、すぐに目が冷えた。翔太が見下ろしてくる。「誰だと思った？」何度も難癖をつけてくるのにうんざりして、私は疲れた手をひらりと振った。「行かせて。もう二度と、あなたと彩乃の前には現れない」生き直した当初、胸の中は天を覆うほどの憎しみでいっぱいで、翔太と心中することしか考えていなかった。けれど三年が過ぎ、今は自分の生活がある。ただ、この男から遠く離れたいだけ。それでも翔太は食い下がり、私の手を固くつかみ、読みきれない色の目を向けてきた。「春奈、心はないのか。俺が三年探し続けたのを知ってるか」私は無表情のまま、目の前の男を見た。三年前、私は結婚式の最中に生まれ直した。翔太はまた彩乃を救うために、私を宿敵の連中へ突き飛ばした。でも私は知っていた。あの「宿敵」はすべて偽物で、狙いは私の財産だと。前世では、財産をあの連中へ渡した途端、私は解放された。だが高橋家へ戻ると、無理やり堕胎薬を飲まされた。「高橋家に、名誉を汚した子どもは置けない！」何を言っても無駄だった。すべてが仕組まれたものだと悟った時、私は抵抗をやめた。連中の船に乗り、そのまま深海へ身を投げた。まさか、あの人に救い上げられるなんて思いもしなかった……「最初に私を連中へ差し出したのは、あなたでしょう！でも、あいつらは本当に宿敵だった？それとも……」私はまっすぐ翔太を見据え、その視線で心臓を貫くつもりで。「やめろ！」翔太の視線が一度泳ぎ、すぐ平静を装った。その奥に、私への憎しみがちらりと見えた。可笑しい。恨むべきは、私のほうじゃないの？翔太が虚を突かれた隙に、私は彼を突き放した。あの人はまだ来ない。ここから離れないと。宴会場に戻るなり、彩乃に見つかった。「春奈さん！今夜は大事な客が来るって知らないの？そんなふうにうろついて、お兄ちゃんの商談が潰れたらどう責任取るの？」その口ぶりは侮蔑だらけで、翔太の前で見せる弱々しさは欠片もない。「もう猫かぶるのをやめたの？」私が見世物でも眺めるみたいな目を向けると、その視線が彼女の神経を逆なでした。彩乃がぐっと距離を詰め、低く笑った。「春奈、戻ってきたところで何になるの？お兄ちゃんは私のもの！愛人に
義妹のために売られた妊婦 第2話
「えっと……医者が、お腹の子の具合がよくないって。だからお守りにって、お兄ちゃんがこのバングルをつけてくれたの。春奈さんが嫌なら、返すよ！」彩乃はそう言うと、すぐにバングルを外そうとした。「やめろ！」翔太はすぐに彼女の動きを止め、痛ましげな顔をした。「たかが安物のバングルだろ。春奈、お前いつからそんなにセコくなった？」安物のバングル？三年たった今でも、もう過去は忘れたつもりでいたのに、胸の奥にどうしようもない苦さが広がった。このエメラルドのバングルは、両親が遺してくれた唯一の物で、井上家の家宝だった。かつてお坊さんに祈祷してもらったものだ。あの年、私は原因不明の病に倒れ、国内外の名医がどれだけ調べても原因は見つからなかった。両親は焦り、何日も泣き、最後にこのバングルを持って寺へ向かった。山の麓から山頂の寺まで、一歩ごとに跪いて進んだ。三千歩、祈り続けて。ついにお坊さんに祈祷してもらった。しかし、帰りの高速道路で、大型トラックが真正面から突っ込んできて、両親はその場で命を落とした。目を覚ましたとき、残されていたのは二つの位牌だけ……私は斎場で泣き崩れ、気を失い、最後には絶望のまま机の角に頭を打ちつけた。その瞬間、私を強く抱きとめたのは翔太だった。「春奈！お前の両親はお前のために死んだんだ。今日ここでお前まで逝ったら、その死は無意味になる！安心しろ、この一生、俺はお前を離さない！春奈、お前には俺がいる！」そこまで思い出した私は、彩乃の手をぎゅっとつかんだ。「返して！」「痛い……」彩乃の顔が白くて、唇を噛みしめ、悔しげに言った。「春奈さん、返すって言ってるでしょ。井上家の物なんて、私が触れるわけないじゃない」果てしなく被害者ぶるような口ぶりだった。私はただ、自分のバングルを取り戻したいだけ。だが私がつかむ前に、彩乃は手を放した。バングルは指先から滑り落ち、鈍い音を立てて床に叩きつけられた。その瞬間、粉々に砕け散った。彩乃は怯えて翔太の腕に身を縮め、震える声で言った。「わ、わざとじゃないよ。春奈に驚かされただけ……」私は一瞬で野獣のように逆上し、涙をこぼしながら彩乃へ突進した。「私のバングルを返して！」だが近づいた途端、翔太に突き飛ばされ床に倒
