Masuk結衣は頭をすっと下げ、二人の横を何事もなかったように通り過ぎようとする。
しかし、その態度に苛立った司が、彼女の腕を掴んだ。 「なんだ、その態度は」 怒りの籠もった司の瞳を、結衣は感情の籠もっていない真っ黒な瞳で見つめ返した。 司は、彼女の冷め切った瞳を見て、今までにない激しい苛立ちを覚える。 掴んだ腕にギリギリと力を込めながら、射貫くように睨み付けた。 「こんなとこまで勝手に着いてきといてその態度はなんだ? 香織を怯えさせて、母体にストレスを与えたんだ、謝れ」 腕を掴まれて痛むはずなのに、結衣は眉1つ動かさない。ただ静かに司の手を見下ろしていた。 「痛いです。離してください、神谷さん」 彼女の言葉に、司は目を見開く。 結衣は今まで「司さん」と呼んでいた。 それが急に他人行儀な呼び方に変わっている。 司の中で激しい焦燥感が生まれる。なぜ、こんなにも焦っているのか、彼自身にも分からなかった。 「おい、お前……、今俺をなんと……?」 動揺のあまり、司の指先からわずかに力が抜ける。 その時、彼は初めて結衣の姿をちゃんと見た。 いつも地味な格好で、慎ましやかな彼女が、今は鮮やかなワインレッドのドレスを身に纏っている。 雨に濡れたせいで、少し落ちてしまっているが化粧も施されている。 怒りを秘めた彼女の横顔、そして微かに潤むその瞳からは、今まで自分に向けていた感情が一切抜け落ち、光を放っていた。 数年前、初の個展を開き、多くの人々に賞賛を受け、堂々と作品の前に立っていたあの頃と、全く同じ光を放つ彼女は、まるで一輪の薔薇の花のようだった。 司は一瞬だけ呆然と見惚れてしまう。 ……そういえば、今日は、何の日だった――? その一瞬の隙を突くように――。 「何の騒ぎですか?」 看護師が慌てて駆け寄ってきて、彼女から司を引き剥がした。 結衣から引き離され、司の心はざわつく。 今にも彼女が自分の元から消えてしまいそうな、そんな予感が走る。 「大丈夫ですか……?」 結衣は看護師に「大丈夫です」と伝え、二人に一瞥する。 「少し言い争いになってしまっただけです。それでは、失礼します」 結衣は二人に冷たくそう言うと、看護師に連れられてその場から離れた。 看護師に206号室まで案内してもらい、結衣はやっと奏太の元へ行けると心を撫で下ろす。 病室に入り、真っ先に見えたのは、点滴や機械に繋がれて眠る奏太の姿だった。 ベッドの傍に恐る恐る寄り、その小さな手を優しく掴む。 小さなぬくもりに、結衣は堰を切ったように涙を溢れさせた。 「……よかった、本当に無事でよかった……!」 泣きながら奏太を撫でる結衣。 後ろからドアの開く音がして、振り返ると幼なじみの薫と冴が慌てた様子で入ってきた。 「結衣……! 奏太くんは大丈夫なの!?」 息を切らせて入ってきた薫と冴は、ベッドの上の奏太の姿と、結衣のただ事ではない様子に言葉を失う。 結衣はその場からゆっくりと立ち上がり、涙で濡れた顔のまま、二人を真っ直ぐに見つめた。 その瞳には、今まで見たことない冷徹な光がゆらゆらと灯っていた。 「私、離婚する。もうあの人のところには戻らない」 震えのない、静かでとても重い声だった。 薫と冴は顔を見合わせ、大きく頷いた。 「やっと離れる決心がついたのね」 冴がそう言い、不意に結衣の腕に出来た痣に気付いた。 その瞬間、ワナワナと怒りで体を震えさせ――。 「あいつ、ついに一線を越えたのね……!」 薫は、顎に手を添えながら色々と考え込んでいる様子だ。 「神谷家の息の根を止めるには、生半可な準備じゃダメだ。俺の弁護士としてのキャリアを賭けて、名家相手の離婚を何度も勝訴させてきた実力を見せてやるよ」 薫はニヤリと笑い、彼女の肩をポンッと叩く。 「本当に、奏太くんの戸籍を私に入れておいてよかったね」 冴がポツリと言葉を零す。 結衣は5年前、奏太を生んだ後、神谷家に奏太を取られることを恐れ、戸籍上冴の養子に奏太を入れていたのだ。 司の母親、義母に言われた言葉があったからこそ、結衣はこの選択肢を選んでいた。 司と結婚してから、毎日のように結衣は義母から心無い罵倒を受けていた。 その時の言葉の中で一番彼女の中で残っている言葉。 「跡取りを生んだなら、お前は用済みだ。子供は責任を持って神谷家にふさわしい教育をさせていただくわ!」 神谷家は初めから子供が、しかも男の子が生まれたとしたら、結衣から子供を奪い、彼女を家から追い出すつもりだった。 だからこそ、結衣は妊娠出産を神谷家に隠し、子供を避難させた。 「あの人と離れることは簡単かもしれない。あの人は私のことを道具としか思っていないから。でも、奏太の存在がバレてしまったら奪われてしまう……。とにかく、奏太の存在を隠し通さないと……」 司は結衣に執着なんかしていない。この時の結衣はそう思っていた。 規則正しい寝息を立てる奏太の姿に、ようやく胸を撫で下ろす結衣。 そんな彼女の肩に手を置き、薫と冴は一度神谷家に戻るように促す。 「あとは私たちが付いているから、結衣は今後のためにも神谷家に戻りな。今のままだと離婚となっても証拠が足りなすぎる……。結衣には苦しい思いをさせるかもしれないけど、頑張って証拠を集めていこう!」 二人の言葉に、彼女は確かにこのままでは相手有責での離婚は難しいと悟る。 眠る奏太の姿に後ろ髪を引かれながらも、結衣は覚悟を決めて家へ戻ることにした。司の言葉に香織はワナワナと震え出す。 ――あの女さえ居なければ……! そしたら私は今頃……! 司からの寵愛を受けていた香織には、こんな扱いをされることがとても耐えられなく、そして納得できなかった。 香織は司からの言葉が信じられなくて、放心してしまう。 ――ずっと愛していると伝えてくれていたのに……! あの言葉は全部嘘だったの? 香織は悔しさで涙をこぼす。ハラハラと涙をこぼす彼女を、司は冷え切った瞳で睨み付けた。 通話越しにそんなやり取りを聞いていた律は、ほくそ笑みながら司に話しかけた。「さよなら、兄さん。良い夜を」 それだけ告げると、律は通話を切る。そして大きく笑った。やっとあの鉄仮面を崩してやったと歓喜した。 司は放心している香織に「早く出て行け」と告げ、力が抜けている彼女を外へと追い出した。 ドアの外では香織がか細い声で司に縋るように「待って、司さん、開けて……」と声を上げている。 ――くそ、なんで俺がこんな目に遭わなければならないんだ! 司はギリギリと奥歯を噛みしめ、部下に電話をかける。「おい、頼んでおいた件は分かったのか」 苛立ちを滲ませた声色に部下は怯えながら、言葉を発した。「は、はい……。あの子供は神谷様と結衣さんのお子さんのようです」 その言葉に司は目を見開く。 ――なんだと、俺の子? 俺の子だと……! その時司は、前に無理矢理結衣を抱いたことを思い出す。あの時出来ていたのが写真の子供の正体だったとは……。 跡取りを孕んだのは、香織だけだと思い、大事にしていたがもうその必要はない。 元々跡取りを産んだ後に捨てる予定だった女だ。すでに跡取りがいる以上、もう香織に用はなかった。 ますます結衣を取り戻す理由が出来た。なんとしてでも、跡取りである子供と天才日本画修復の結衣をこの手に入れなければ……。 司は焦りに身を焦がす
不安そうに律を見つめる結衣。そんな結衣が安心するように、律は微笑みながら「問題ないですよ」と告げる。 司からの脅しに不安を感じていた結衣だったが、彼の言葉に少し安堵する。 なぜだか律の笑顔を見ていると、結衣は心の底が安心感に包まれる感覚があった。 なぜそんな感覚を感じるのかは、結衣には分からなかったが、彼といると本当の自分でいられるような気がしたのだ。 なんだか離れたくない様な気持ちになりながら、結衣は律に何か話そうと頭をひねる。 しかし、何も言葉が浮かばなくて、結衣はただただ無言で下を向くことしか出来なかった。 そんな結衣を見て、律は微笑みながら彼女にこう告げた。「そろそろ結衣さんを奏太君に返してあげなくちゃね。お母さんを取られて拗ねているかもしれない」 律はクスクスと笑いながら、結衣にそう言い、部屋へと送る。 部屋に戻る間も会話はほとんど無く、結衣は困ってしまう。 あっという間に部屋に着いてしまい、結衣は慌てたように律に声をかけた。「あの! 律さん、本当にありがとうございます」「……お礼を言われることなんて何もしてませんよ。それではおやすみなさい」 律が去って行く後ろ姿を見ながら、結衣は彼が言いかけた言葉のことを思い出す。 律は一体何を言うつもりだったのだろうか? しかし、そのうち話してくれるだろう。そう思い、結衣は奏太の元へ戻った。「奏太、お待たせ」「ママ、僕、もう眠いよぉ……」 眠そうな奏太に微笑みながら、結衣は奏太をパジャマに着替えさせ、一緒のベッドに入り込む。 隣で眠そうにしがみついてくる奏太がとても愛おしく感じながら、結衣は「早く寝ようね」と声をかける。 眠るのがおしいのか、奏太はイヤイヤと首を振る。そんな奏太がとても可愛らしかった。 奏太のお腹をトントンと一定のリズムで叩きながら、寝かしつけ、結衣は奏太の寝顔を見つめた。 ――今後
律は結衣達を車へ案内し、運転手に出すよう告げる。 初めて乗る高級車に、奏太は何処か興奮気味だ。そんな奏太を微笑ましく見つめる結衣。 向かった先は、律が神谷家から与えられている別荘だった。 与えられているというよりは、本家から隔離されているような物だ。 臭いものに蓋をするというような形で、それでいてみすぼらしい物は神谷家の恥になる。 その結果、こんな離れた土地にこんな豪華な家を建て、律に与えていたようだ。 初めて見る凄く豪華な家に、奏太はますますはしゃぐ。そんな奏太のよそに結衣達は、あまりの豪華さに唖然としていた。「しばらくはここが家だと思って、ゆっくり過ごしてください」 律にそう言われ、結衣達はそれぞれ案内された部屋に荷物を運んだ。 結衣は奏太と同じ部屋に案内される。その部屋には、子供が喜びそうなおもちゃなども用意してあった。 律の気遣いに結衣は感謝しながら、荷解きを始める。奏太の洋服や持ってきていたお気に入りのおもちゃなども置いていく。「今日からママとずっと一緒なの?」 奏太にそう言われ、結衣はハッとする。こんな風に奏太と二人きりで過ごすのは初めてだと気付いた。「えぇそうよ。これからはずっとママと一緒だよ!」 結衣の言葉に奏太はとても嬉しそうに笑い、抱きつく。親子二人きりの時間に、結衣は思わず涙ぐんでしまった。 そんな結衣に、奏太は自慢のおもちゃなどを彼女に見せ、子供らしい可愛らしさで甘えた。 今までの奏太は、どこか結衣に遠慮をしているようなところがあった。 だが、今は年齢に合った甘え方をしてくれている。それが結衣にとってとても嬉しかった。 しばらく奏太との二人きりの時間を楽しんでいたところ、コンコンとドアをノックされる。 ドアを開けると、そこには律の姿があった。こんな時間にどうしたのだろうか? 結衣は不思議に思いながらも、律を迎え入れようとする。「結衣さん、少し
香織のせいで結衣が出て行ったことに、司は激しい苛立ちを覚えた。 こいつがいきなり家に来なければ、結衣が逃げ出すことは無かったというのに……! しかし、結衣に行く当てなんか無い。実家に売られ、帰る家はここだけなのだ。 帰ってくるのは時間の問題だ。司はそう考え、苛立ちを押さえる。 帰ってこないということは、自ら親友を裏切ることにもなる。彼女にそんなことは出来ないだろう。 司は泣いて詫びを入れながら帰ってくる結衣の姿を思い浮かべ、ほくそ笑む。 隠していた子供のことも、彼女から聞かずとも調べれば分かることだ。子供の正体も結衣を追い詰める鍵になるだろう。 とにかく今は、この女をどうにかするべきだ。そう思い、怒り狂う香織にむき直した。「司さん! なんで、あの女を止めるの?! 私さえ居ればいいじゃない!」 キンキン声で叫ぶ香織に嫌気がさしながらも、司は彼女の頭を撫でる。「すまない。まだあいつは利用価値があるんだ。――愛しているのは香織だけだよ」 優しげに笑う司。そんな彼の姿に機嫌を直したのか、香織は嬉しそうに彼に抱きついた。「そんなにはしゃぐな、お腹の子がびっくりするぞ」 司は優しい手つきで香織のお腹を撫でる。そんな彼に、香織はそっと顔を近づけてキスを強請る。 香織とキスなんて何度もしてきている。だが、先程の結衣と交わしたキスを上書きされるような気がして、司は心の中がモヤモヤとした不快感に襲われた。 ――だが、ここで断ると余計に機嫌を損ねてしまうな……。 司は不快感を押さえながら、香織にキスを落とした。 先程の結衣とのキスとは全く違う感触。夢中になる香織と反対に司は上の空だった。 律と結衣を乗せた車は、薫と冴の元にたどり着いていた。 インターフォンを押すと、目を腫らした冴がドアを開け、結衣の姿を見た瞬間涙を溢れさせ、彼女に抱きついた。「結衣、結衣ぃ……! 本当にごめん、ごめんね……!」 泣きじゃくる冴を宥めながら、結衣は薫の姿を探す。 「冴、私は大丈夫だから……。ところで薫は?」 「薫は、奥にいるよ……。それより、結衣その人は?」 冴は律を睨みながら尋ねる。結衣は少し困りながらも「彼は、味方よ。詳しくは中で話すから」と説明する。 中に入り、奥に向かうとうなだれている薫の姿があった。その顔は少しやつれているように見える。「薫
インターフォンの音が鳴り響き、司は舌打ちをしながら荒々しくドアを開ける。 そこには満面の笑みを浮かべた香織の姿があった。呼んでもいないのに勝手に現れるのはこの女の悪い癖だと司は思う。「司さぁん、電話に出ないから来ちゃった♡」 呑気にそんなことを言いながら司の腕に絡みついてくる香織。スマホを確認すると、香織からの着信が大量にあり、司は頭を抱える。 あまりのタイミングの悪さに、司は小さく舌打ちをした。今は香織を相手にしている暇など無い。 今は香織よりも結衣が優先だ。彼女に自分の立場を分からせ、二度と反抗しないようにしなければ。 しかし、香織はズカズカと玄関に入ってくる。今は帰って欲しいと思い、司は香織を止めようとするがその前に座り込んでいる結衣の姿を見られてしまう。 涙に濡れ、荷物の傍で座り込む結衣に対し、勘違いをしたらしい香織はクスクスと笑いながら彼女に近づく。「あら、お姉様、こんなところに座ってどうしたんですかぁ?」 嘲笑いながら、香織は結衣を挑発する。そんな香織に司は苛立ちを覚える。「おい、香織! 今は帰ってくれないか」 司が香織に話しかけるも、聞き耳を持たず結衣に話しかけ続ける。頼むから余計なことをするな、と心の中で司は愚痴た。「とうとう司さんに愛想を尽かされたんですね! みっともなく縋り付いてないでさっさと出て行ってくださいよ、お姉様!」 香織は結衣の荷物を外に投げ、結衣の腕を掴む。 引きずるように結衣を外に出そうとする香織に、司は止めに入る。「おい、やめろといっているだろう」「だって、司さん、お姉様が邪魔になったんでしょう!」 香織と司が言い争いを始めた。そんな二人を呆然とみていた結衣だったが、だんだんと頭が覚醒し出す。 これはチャンスだと思い、落ちていた荷物をひったくりそのまま外へと駆け出した。「結衣! 待て!」 後ろで司が叫ぶ。しかし、振り返ること無く結衣は必死に走り続けた。 外は大雨。ずぶ濡れになりながらも、結衣はただひたすらに走り続ける。 この後どこに行くかなんて決まってはいない。それでも、とにかくあの場から逃げ出さなければ、壊れてしまっていただろう。 そんな結衣の横に一台の車が寄ってくる。「結衣さん」 聞き覚えのある声に、結衣は思わず足を止めた。「こんなところでどうしたんですか?」 声の主は
司の強引な口づけに、結衣は目を見開く。薄く開いていた口の中には舌がねじ込まれた。 激しく抵抗するも、彼の力と体格差には敵わず、彼の思うがまま口の中を蹂躙される。 結衣は力を振り絞り、彼の舌に強く噛みつく。 急に訪れた痛みに、司は思わず結衣から顔を離した。彼の口の端からは血が流れている。 たじろぐ司に、結衣は彼の頬に激しいビンタをお見舞いした。 結衣のその反撃は、司の支配欲と怒りにますます火を付けることになる。 司は彼女をドアに強く押しつけ「夫の欲望を処理するのも妻の義務だろう」と冷酷に言い放った。 司の言葉に、あの日の苦痛を思いだし、結衣は絶望するも、最後の力を振り絞って叫んだ。「夫婦間であっても、強制性交罪にあたりますよ!」 威嚇した猫のように叫ぶ結衣。そして、これまで集めていた香織との不倫の証拠である写真を突きつけた。その写真に司は眉を少し動かす。 この証拠を武器に、立場を逆転させようと結衣は必死だった。「不倫ごときのスキャンダルで神谷家の品格を下げたくないでしょう? 早く離婚届にサインをしてください! 私をあなたから解放して……!」 これでこの男から逃げられると、結衣は確信していた。 しかし、そんな彼女の姿を嘲笑い、司は絶望的な言葉を突きつけた。「お前たちが俺のことを嗅ぎ回っていたのは知っている。ほら、お前の仲間たちに電話してみろ。それでお前の立場が分かるはずだ。結衣、お前は俺から逃げることは出来ない」 余裕そうな司の姿に、結衣は眉を潜めながら、恐る恐る冴に電話をかけた。 ワンコールで繋がった電話の先では、冴が「ごめん、本当にごめん……!」と泣き叫んでいた。「集めていた証拠のURLを奪われた上に、薫が1億円の損害賠償で訴えられたの……! 結衣、本当にごめんなさい……! こんなことになるなんて思わなかった……。救えなくてごめんね……!」 冴の言葉に、結衣の顔はどんどん青ざめていく。 ――最初から分かってて、私たちを嵌めたのね……! 親友たちを人質に取られ、結衣は最初から司に泳がされていたことに気付いた。「どうして……? どうして、実家も名声も失った私に何故そこまで執着するの……?!」 泣きながら問う結衣に対し、司はただ冷徹にこう告げる。「お前はただ神谷の妻の座に居座り続けろ、逃げることは許さない」 その言葉にカ







