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第6話

Auteur: スイカ売り屋
「彼女、イベントに出席するからね。お父さんからも連絡があったんだ。小林に手配させたんだけど、たぶん番号を間違えたんだろう」信吾は少し間を置いてそう答えた。

小林もすぐに前に出て、上司に加勢した。「はいはい、間違いなく私が宝石の管理番号を見間違えたんです」

和希は冷めた目で二人の息の合ったやり取りを見つめ、ただただ退屈に思っていた。

「俺を信じてくれないのかい、和希」

信吾は哀願するように言った。晩餐会の多くの人の前で、また彼女に懇願し始めたのだ。

「お前のものを人に渡したりするわけないだろう?たとえお前の妹だとしても、ありえないよ」

傍らにいたマネージャーがふと考え込むように口を開いた。「浅井社長、このブランドの今季のオートクチュール、うちの和希にはまだお呼びがかかっておりませんが……姫野遥香さんはぴったりお召しになってますね」

信吾の顔が一瞬で凍りついた。マネージャーの背筋に冷たいものが走ったが、信吾はすぐにまた平静を取り戻した。

彼は優しく和希を抱き寄せ、そっと肩を揉みながら、ささやくように慰めた。「なるほど、悔しい思いをさせられてたんだね。大丈夫、俺がちゃんと立て直してやるから」

そう言い終えると、小林の方を向き、冷たい口調で言い放った。「あのブランドを買収しろ。和希の会社に吸収合併させろ」

小林は一瞬たじろいだが、すぐにうなずいて承諾した。「かしこまりました」

マネージャーはその様子を見て、内心ほっとした。どうやら浅井社長はまだ和希を一番の宝物のように思っているらしい。さっきの一件はただの取り違いだったのだ。

「和希、そんなに不機嫌にならないで。欲しいものがあれば何でも言ってくれ」

信吾は優しい目で和希を見つめ、まるで二人が出会ったあの頃に戻ったかのようだった。

和希は信吾を見つめながら、胸の奥に再び込み上げてくる切ない感情を感じた。

二人が出会ったのは新入生歓迎パーティーだった。あの時の信吾は顔を赤らめて、周囲の囃し立てる声の中、彼女のダンスを一瞬も目を離さず見つめ、司会の原稿まで噛み噛みだった。

あれ以来、和希のいる場所には、必ず信吾の姿があった。

少年の愛は熱く、そして誰にも隠さずに表れていた。知らぬ者などいなかった。

だが今の信吾は、あの頃と同じように優しいのに、何かが違うように思えた。

和希は、信吾の携帯電話が微かに振動する音を聞いた。すると彼は表情をわずかに変え、素早くマナーモードに切り替えた。

しばらくして、小林が近づき、彼の耳元で何かささやいた。信吾はようやく携帯を見た。

和希は彼をじっと見つめ、かすかに唇を噛むしぐさと、唾を飲み込む動作を見逃さなかった。

「会社に急用が入って、行かなきゃいけないんだ」信吾は和希の手をそっと握りながら、優しい声で言った。「小林をここに残しておくから、そうしよう?」

和希は信吾の手に光る銀色の指輪を見つめながら言った。「嫌よ。私の婚約者にいてほしいの」

信吾は少し驚いた様子だった。和希がそう言うとは思っていなかったようだ。彼は軽く笑うと、また優しい口調で言った。「いい子だね、会社は本当に大事な用事なんだ。小林がここにいるから大丈夫だよ」

どうやら、どうしても行かなければならないらしい。

そんな彼の様子を見て、和希はそっと彼の手を払いのけた。「行っていいわよ」

慌ただしく去っていく男の後ろ姿を見ながら、和希は胸がざわつくのを感じた。彼女は泣き笑いのような表情を浮かべた。小林はその様子を見て、内心、社長のことを気遣わずにはいられなかった。

社長夫人には何か心の内があるように思えてならなかった。

和希はうつむいて、中指にはめた婚約指輪を見た。晩餐会の照明の下で、それは一段と輝いて見えた。

十日後の結婚式で、信吾は彼女にもっと大きく、もっと輝く指輪をはめてくれるはずだった。

けれど和希は、もういらないと思っていた。

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