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私の面会枠を幼馴染へ、今更後悔しても遅い

私の面会枠を幼馴染へ、今更後悔しても遅い

Par:  氷砂糖Complété
Langue: Japanese
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まだ古い町並みが残るころ。婚約者の松本宏介(まつもと こうすけ)は、結婚式の1週間前に、私に黙って政府の秘密機関に就くことになった。宏介は「待っていてくれ」という言葉だけを残して、慌ただしく去っていった。 私はその言葉を信じて、ひたすら彼の帰りを待ち続けた。 しかし、3年間、面会が許される日は月に一度だけ。それにもかかわらず、宏介はいつも他の女性と会う約束のためにその日付を埋めた。 母が重い病気で、お金にも困っていた時、私は泣きじゃくりながら、一目でいいから会わせてほしい、電話だけでもしたいとお願いした。 でも、取り次いでくれた警備員の人は、困った顔でこう言うだけだった。 「松本隊長の今月の面会は、もう終わってしまいました。また来月いらしてください」 私はがっかりして、暗い気持ちで帰ろうとしたその時、宏介の幼馴染の小林明日香(こばやし あすか)が、誰にも止められないまま門の中へ入っていくのが見えた。 「松本隊長からの伝言で、直接オフィスに来るようにとのことです。本当にお優しい方なんですね。この1年、ずっとあなたのことを心配して、今月の面会もわざわざあなたのために空けて下さったそうですよ」 私が駆け込もうとすると、警備員の人が慌てて私を止めた。 「もう諦めてください。松本隊長にお金なんてないですよ。お金は全部、さっきの方にあげちゃったんですから」 その夜、母は痛み止めも使えないまま、苦しんでいた。 全部、私がなにもできなかったせいだ。もう、宏介を待つのはきっぱりと諦めた。 そして、ようやく宏介が任務を終えて帰ってきた頃には、私はとっくに他の人の妻になっていた。

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Chapitre 1

第1話

まだ古い町並みが残るころ。婚約者の松本宏介(まつもと こうすけ)は、結婚式の1週間前に、私に黙って政府の秘密機関に就くことになった。宏介は「待っていてくれ」という言葉だけを残して、慌ただしく去っていった。

私はその言葉を信じて、ひたすら彼の帰りを待ち続けた。

しかし、3年間、面会が許される日は月に一度だけ。それにもかかわらず、宏介はいつも他の女性と会う約束のためにその日付を埋めた。

母が重い病気で、お金にも困っていたとき。私は泣きじゃくりながら、一目でいいから会わせてほしい、電話だけでもしたいとお願いした。

でも、取り次いでくれた警備員の人は、困った顔でこう言うだけだった。

「松本隊長の今月の面会は、もう終わってしまいました。また来月いらしてください」

私はがっかりして、暗い気持ちで帰ろうとしたその時、宏介の幼馴染の小林明日香(こばやし あすか)が、誰にも止められないまま門の中へ入っていくのが見えた。

「松本隊長からの伝言で、直接オフィスに来るようにとのことです。本当にお優しい方なんですね。この1年、ずっとあなたのことを心配して、今月の面会もわざわざあなたのために空けて下さったそうですよ」

私が駆け込もうとすると、警備員の人が慌てて私を止めた。

「もう諦めてください。松本隊長にお金なんてないですよ。お金は全部、さっきの方にあげちゃったんですから」

その夜、母は痛み止めも使えないまま、苦しんでいた。

全部、私がなにもできなかったせいだ。もう、宏介を待つのはきっぱりと諦めた。

そして、ようやく宏介が任務を終えて帰ってきた頃には、私はとっくに他の人の妻になっていた。

……

産婦人科で凄腕だという医師に診てもらうために、久しぶりに地元へ戻った。そしてその医師がいる総合病院で、機関から出てきたらしい宏介にばったり会ってしまった。

時間が経ちすぎたせいで、あんなに大切に覚えていた宏介が帰ってくるこの日なんて、すっかり忘れていた。

宏介は明日香と一緒に皆に囲まれて、上司らしき人が、嬉しそうに宏介の肩を叩いた。

「今度、二人の結婚式に呼んでくれよ。3年間も大変だったな。決められた日にしか会えなかったんだから」

宏介は一瞬気まずそうな顔をして、きょろきょろと私の姿を探し始めた。

明日香は、いつものように宏介の体に寄りかかった。

「宏介さん、優香(ゆうか)さんは最近見かけないわね。こんな大事な日に会いに来ないなんて、どこかにお嫁に行っちゃったのかしら」

宏介は途端に眉をしかめ、すぐに言い返した。

「ありえない。そんなことを言うな」

その頃の私はちょうど診察を終え、薬の受け取りを待っているところだった。

ふと顔を上げると、宏介とばっちり目が合ってしまった。

彼は嬉しそうに口元を緩めると、大股で私の方へ歩いてきた。

「優香、お前がこの大事な日を忘れるわけないよな。この仕事は休みがほとんどなくてね。休暇も取れず、本当に寂しい思いをさせたな」

宏介は私の後ろにある「産婦人科」という看板を見て、心配そうに視線を落とした。

「まだ、生理がひどいのか」

昔の私なら、その優しい言葉を聞くだけで、胸がいっぱいになるはずだった。

馬鹿みたいに、宏介には休みがないんだと自分に言い聞かせて、3年間も彼の帰りをただ待ち続けていただろう。

でも今ではもう、そんな気持ちはとっくに冷めきっていた。

私は首を横に振って、妊娠のための診察に来たのだと、誤解を解こうとした。

しかし宏介は、私の返事を聞く前に、私を押しのけて明日香の腕を引き、彼女の身体の心配をした。

明日香は気まずそうな顔をして抱きしめられた。

「ただの風邪なのに、宏介さん大げさよ。優香さんの方が先じゃない?生理痛ってすごく辛いんだから」

それでも宏介は、どうしても明日香を病院で診てもらおうとした。

「優香は慣れてるから。ちょっと待たせても大丈夫だ」

私はその信じられない言葉を聞いて、目を大きくした。

昔、私が気を失いそうになるほど生理痛がひどくて、ベッドから下りることすらできなかった時。宏介に、薬局に寄って薬を買ってきてほしいと頼んだことがあった。

しかし、夜になって帰ってきた宏介は薬を買ってこなかった。

私が何度も文句を言っても、彼はただ軽く笑うだけだった。

「子供を産めば治るさ。薬なんて体に良くないだろ」

そしてその日、宏介が忙しくて薬を買えなかったと言っていたのは、ただ明日香と散歩をしていただけだった。

私はまるでピエロのように、近所の人たちが幼馴染同士の恋を褒めそやすのを、ただ聞いているしかなかった。

私たちの関係は、ずっと不安定で、何度も喧嘩して、何度も別れ話になった。

それでもやっと、宏介が私にプロポーズして、明日香とも会うのをやめてくれたのだ。

やっと報われたんだと、私が心から喜んだすぐ、宏介はまた秘密機関に行ってしまって、3年間、面会の日はたったの一度も私のために空けてくれなかった。

機関以外の人間と会えるチャンスはすべて、どこかの男に失恋して落ち込んでいた明日香のために使われた。

まるで彼にとって、私のことなんてどうでも良くて、私の気持ちなんて、大事に扱わなくても問題はないかのように……

その時の記憶が蘇り、はっと我に返った。

薬剤師が私を呼び、薬を渡してくれた。

「この処方通りに飲んでみてください。きっと赤ちゃんのことは心配ないですよ。まだ若いんですから、焦らなくても大丈夫です」
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第1話
まだ古い町並みが残るころ。婚約者の松本宏介(まつもと こうすけ)は、結婚式の1週間前に、私に黙って政府の秘密機関に就くことになった。宏介は「待っていてくれ」という言葉だけを残して、慌ただしく去っていった。私はその言葉を信じて、ひたすら彼の帰りを待ち続けた。しかし、3年間、面会が許される日は月に一度だけ。それにもかかわらず、宏介はいつも他の女性と会う約束のためにその日付を埋めた。母が重い病気で、お金にも困っていたとき。私は泣きじゃくりながら、一目でいいから会わせてほしい、電話だけでもしたいとお願いした。でも、取り次いでくれた警備員の人は、困った顔でこう言うだけだった。「松本隊長の今月の面会は、もう終わってしまいました。また来月いらしてください」私はがっかりして、暗い気持ちで帰ろうとしたその時、宏介の幼馴染の小林明日香(こばやし あすか)が、誰にも止められないまま門の中へ入っていくのが見えた。「松本隊長からの伝言で、直接オフィスに来るようにとのことです。本当にお優しい方なんですね。この1年、ずっとあなたのことを心配して、今月の面会もわざわざあなたのために空けて下さったそうですよ」私が駆け込もうとすると、警備員の人が慌てて私を止めた。「もう諦めてください。松本隊長にお金なんてないですよ。お金は全部、さっきの方にあげちゃったんですから」その夜、母は痛み止めも使えないまま、苦しんでいた。全部、私がなにもできなかったせいだ。もう、宏介を待つのはきっぱりと諦めた。そして、ようやく宏介が任務を終えて帰ってきた頃には、私はとっくに他の人の妻になっていた。……産婦人科で凄腕だという医師に診てもらうために、久しぶりに地元へ戻った。そしてその医師がいる総合病院で、機関から出てきたらしい宏介にばったり会ってしまった。時間が経ちすぎたせいで、あんなに大切に覚えていた宏介が帰ってくるこの日なんて、すっかり忘れていた。宏介は明日香と一緒に皆に囲まれて、上司らしき人が、嬉しそうに宏介の肩を叩いた。「今度、二人の結婚式に呼んでくれよ。3年間も大変だったな。決められた日にしか会えなかったんだから」宏介は一瞬気まずそうな顔をして、きょろきょろと私の姿を探し始めた。明日香は、いつものように宏介の体に寄りかかった。「宏介さん、優香
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第2話
宏介は驚き、顔を少し赤くして、気まずそうに口を開いた。「優香、気が早すぎるだろ。もう子供のことなんて。ちょうど言おうと思ってたんだ。結婚式は1年、延期しないか?明日香のことで、ちょっと問題が起きてな。心配だから1年そばにいてやろうと思って」明日香は、まるで私をわざと刺激したいかのように、さらに説明を加えた。「優香さん、ごめんなさい。私がお二人と同じタイミングで結婚式を挙げたいなんて言うから……私も早く彼氏を見つけるから、怒らないでよ」なんて馬鹿げた言い訳だろう。しかし、宏介は隣で慌てて明日香を慰めるなんかし始める。こそこそと二人で何年も一緒にいたのにまだ足りないのか。今度は堂々と1年だなんて。あまりに可笑しくて、私はどうでもいいという風に口を開いた。「もう私には関係ない。私はもう結婚……」しかし、宏介の友達がいきなり野次を飛ばしてきたせいで、私の言葉は誰の耳にも届かなかった。「たいしたことじゃないって、優香さん。そんなに怒るなよ。久しぶりに会ったんだからさ、チュウの一つでもすれば全て気にならなくなるって」私は呆れて、早くこの場を立ち去りたかった。なのに、宏介に腕を掴まれ、強く抱きしめられた。私が抵抗しているのにもかかわらず、彼は勝手な幸福感に浸っているようだ。周りの面白がって煽る声に乗せられて、無理やりキスをしようとしてきた。腕が引っ張られてすごく痛かった。やっとの思いで宏介を振りほどくと、思い切りその頬を叩いて、きっぱりと言い放った。「私はもう結婚してるの。あなたたちも、少しは慎んだらどう?」その場が、しんと静まり返った。宏介は一瞬気まずそうな顔をしたが、すぐにその表情は怒りに変わった。「優香、そんな冗談はよせ。俺のプロポーズだって同意しただろ。結婚に困ってるわけでもあるまいし、なんでそんな嘘をつくんだ」宏介の口から出てきた最低な言葉を聞いて、私は思わず乾いた笑いを漏らした。結婚式の1週間前、明日香が秘密機関で働く人が好きだという、たった一言だけで、宏介は私に一言も相談せずに、機関の適性審査を受けに行った。私は宏介のキャリアのことを考えて、ぐっとこらえた。でも、たった彼の写真一枚を家で眺めるだけで、3年間も耐えろっていうの?ただ明日香のわがままのためだけに、3年間まるご
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第3話
その日からしばらく、家でおとなしく過ごして、宏介と顔を合わせることもなかった。……母の墓参りの日、夫が仕事で、私は一人でお参りに来た。なぜかそこにいた宏介と明日香を避けて通ろうとしたけれど、宏介に行く手を阻まれた。「お前のお母さんが亡くなっていたなんて……知らなかったんだ。すまない。あの時お前が受けようと思っていた面接のことだけど、当時は明日香の方が困っているように見えて、だから、ついお前じゃなくて明日香を推薦してしまったんだ」昔の話を切り出されて、胸がドキリとした。やっぱり、宏介の仕業だったんだ。怒りがこみ上げてきて、私は思わず彼を問い詰めた。「あれは私が必死に勉強して、やっと掴んだ会社だったのよ!それをどうして小林さんなんかに譲ってしまうわけ?どれだけ貴重なチャンスだったか分かってるの?あんなにあなたを信じていたのに……」宏介は、ため息をついた。「明日香は、昔から危なっかしくて見ていられなかった。ほっとけなかったんだ。お前なら、もっといい仕事をすぐに見つかるだろうって、そう思ってたんだ」吐き気がして、思わず口元を押さえた。宏介の言葉が、ただただ気持ち悪かった。彼は私に約束されるはずだった仕事を勝手に他人にやると、その後3年も音信不通になった。だから、気になって仕方なかった真相を確かめるすべもなかった。明日香に詰め寄っても、彼女はしらを切るだけだった。ずっと夢見ていたその仕事は、こうして私の手からこぼれ落ちた。誰に訴えることもできず、ただ明日香が私の理想の人生を歩んでいくのを見ているしかなかった。茫然自失で家に帰り、当面の生活のために簡単なアルバイトを始めるしかなかった。しかし、母が病気になって、どうしても治療費が足りなかった。もしあの仕事に就けていたら、半年分の給料で払える金額だったのに……追い詰められた私は、宏介の仕事場まで足を運んだ。周りの冷ややかな視線も気にせず、何度も何度も頭を下げた。「宏介に伝えてください!お金が必要なんです、お金を貸してください!会いたいわけじゃないんです、ただ、『優香がお金を借りたい』と伝えてください、お願いします!」だけど、お願いを聞いてくれた警備員の人は困った顔でこう言った。「松本隊長はお忙しいようで……『時間がない』と、話も最後まで聞いてもらえませ
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第4話
股から流れる血を見て、私はパニックになった。「宏介、病院に連れてって」いろんな薬を飲んで、やっと授かった子だから。妊娠に気づいて喜ぶ間もなかったから。この子を失いたくない。私は、必死に宏介にすがりついた。「助けて、痛い。宏介、お願いだから、お願い……」そんな私に手を貸そうとした宏介の隣で、明日香がそれを大声で引き止めた。「あら、宏介さん、それ、流産じゃない?優香さんとはしてないって言ってたのに、その子、どこの子かね?もしかして浮気されたんじゃないの?優香さんって、男がいないとダメな人だと思ってた」私は宏介に必死にしがみついた。「仕事のことはもうどうでもいいから、病院に連れてって……」私は痛みで意識が飛びそうだった。なのに、宏介は明日香の言葉を聞いて、足を止めてしまった。「ただの生理だよ。優香はいつもこんなに痛がるんだ。ナプキン持ってないか?」明日香は目に一瞬、嫉妬の色を浮かべた。そして、すかさず宏介を引き止めた。「生理痛でこんな風にはならないよ。絶対に流産だわ。この前だって、産婦人科で薬をもらってたじゃない。宏介さん、私が秘密機関に行くように勧めて本当によかったね。優香さんの本性が見抜けて」宏介は、まるで信じていない様子だった。明日香の頭を軽く叩いて、冗談めかして言った。「ばかなこと言うなよ。ただの生理痛だって。信じないなら、賭けてもいいぜ?」明日香は腹を立てたが、頷いて黙ってくれた。二人はそんな風に、私が血を流して苦しんでいる隣で話だけをしていた。誰も助けようとはしてくれなかった。絶望した私は、「助けて」と叫びながら、這うようにして道路がある方へと向かった。明日香は、にやりと口の端を上げた。「宏介さん、優香さんが行っちゃったら、賭けができないじゃない?」宏介は私の腕を掴んで、力ずくで引き戻した。私は絶望のあまり、脅すように言った。「助けないならどいて。私の夫はあなたたちの上司なのよ、ここで私を見捨てるのは、犯罪なんだから」明日香はさらに煽った。「は?上司?まだ夢でも見てるんじゃないの?どこの馬の骨かも分からない男とくっついただけでしょ」私は明日香の顔を、思い切りひっぱたいた。しかし宏介は私を突き飛ばし、頭を押さえつけた。「何するんだ、謝れ!」私の髪は
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第5話
意識が戻ると、夫の宮本正人(みやもと まさと)がそばにいた。私は慌てて自分のお腹に目をやった。正人は、私を安心させるように手を握ってくれた。「大丈夫、赤ちゃんは無事だ」彼の手のぬくもりが、私の心を温めてくれた。私は命拾いした気持ちで、そっとお腹をさすった。外がひどく騒がしい。宏介が大きな声でわめいているのが聞こえてくる。「なんで俺を入らせないんだ?自分の婚約者の面倒をみて、何が悪い?でたらめ言うなよ、優香が知らない男の子供なんて産むはずないだろうが」宏介は何度も「知らない男の子供」と繰り返した。正人は、こぶしを固く握りしめた。さっきは私のことが優先だったから、宏介を相手にしなかった。ただひたすら、私のそばにいてくれたのだ。でも今は、私が目を覚ましたのをわかったから、宏介に怒りをぶつけたくてたまらないようだった。病室の扉が、バンッと勢いよく開けられた。宏介が中に押し入ろうとする。「どけ」しかし、彼が正人に触れる前に、誰かに強く押さえつけられた。屈強な隊員たちに止められても、宏介の怒りは収まらない。「離せ!同じ隊員仲間じゃないか?他人の家庭問題に首を突っ込むなよ」正人は、宏介を睨みつけた。「家庭問題?松本隊長、冗談はよしてくれ。君がいつから我々の家族になったんだ?」宏介はその言葉の意味が分からず、もがきながら前に出ようとした。「あなたが優香の相手ですか。言っておきますが、俺たちは婚約しているんです。いくら立場が偉いからって、こんな横暴は許されませんよ」正人はためらうことなく宏介に拳を振る舞って、地面に殴り倒した。「君なんかに彼女のことを口にする資格があるのか?幼馴染の女のために、結婚式に出席もしないで優香に恥をかかせたくせに。今更どの面さげて婚約したなんて言えるんだ」宏介はようやくその時のことを思い出したようだった。私の方を見て申し訳なさそうな顔をしたが、それでも引き下がる気はないようだった。「どちらにせよ、俺と優香の付き合いは長いです。あなたが機関内でどんなに偉い人間かは知らないが、人の女を横取りするなんて筋が通りません。お腹の子があなたのだと?笑わせないでください、優香はもともと生理が重いんですよ」正人は慌てる様子もなく、一枚の受付記録を取り出した。そ
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第6話
正人は、明日香が不正な手段で今の仕事を得たことを突き止め、上層部に告発した。明日香は仕事を失うだけでなく、賠償責任まで負わされることになった。こうなっては、明日香も冷静ではいられなかった。彼女は慌てて、宏介にすがりついた。「宏介さん、どうしよう?あなたなら何とかできるでしょ?顔が広いんだから。私、仕事がないと生きていけないの」しかし、宏介はただ呆然としていた。彼は優香が結婚したという事実を、どうしても受け入れることができなかったのだ。じゃあ、自分は一体どうすればいいんだ。優香に、捨てられたんだ。胸が、張り裂けそうだった。明日香が、宏介の体を激しく揺さぶった。「宏介さん、早く何か考えてよ」いつもなら明日香の言うことを何でも聞いていた宏介だが、今回は冷たい視線を送るだけだった。「仕事がなくなった?いいことじゃないか。あれは元々、優香のものだったんだ。優香に返してやれ」明日香は、自分の耳を疑った。彼女は怒りに任せて宏介の胸を叩いた。「約束したじゃない?あの仕事は私の誕生日プレゼントだって。どうして今さらそんなこと言うのよ」宏介は、逆に明日香を睨みつけた。「うるさい。俺は今、優香のことしか考えられないんだ。お前はもうここに来るな。今後も俺の前に現れるな。お前のせいで、優香は俺のもとを去ったんだぞ」明日香は言葉に詰まって、力なく笑った。「私は頼んでもいないわ、あなたが勝手に手伝うって言ってきたんじゃない?それなのに、今になって私のせいだなんて!」二人は口論から、もみ合いになった。正人はうるさく思い、二人を外に放り出した。その後、明日香はすぐに連行され、事情聴取を受けることになった。周りでは、以前から明日香を良く思わない人もいた。彼女たちは明日香の姿を見て、思わず笑い声を上げた。「やっぱり無能だったのね。仕事は奪ってきたものだったなんて。これまでどれだけの業務を押し付けられたか」もう一人がそれに続いた。「そうそう。自分はさっさと帰って、仕事は人任せ。それなのに、会社ではお嬢様ぶって、ほんと嫌な人よね」明日香は職場に顔を出すことすら恥ずかしくなり、悔しさで目を赤くした。「あなたたちには関係ないでしょ」明日香はすぐに解雇され、さらに給料の一部を返還するよう命じられ
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第7話
正人に支えられて、私は穏やかな日々を送っていた。体もだいぶ良くなった。しかし正人は、時々眉をしかめた。「お前の体はまだ万全じゃない。それなのに妊娠するための薬なんて、体に負担がかかるに決まってる」愛している人の子供がほしいと思うのは、ごく自然なことだ。今の私は、まさにそんな気持ちだった。もう、母親になる覚悟はできていた。正人とは、子供のころに一度だけ会ったことがあった。あの頃、私は初めて都会に引っ越してきたばかりだった。正人が案内役になってくれて、私が都会の暮らしに慣れるまでそばにいてくれた。おかげで私は、都会の暮らしに緊張することなく、毎日がどんどん楽しくなっていった。しかしある日、正人が引っ越すことになった。彼の家族は、もっと大きな街に行くことになったんだ。正人は、別れを告げる時間もないまま、他の街へ行ってしまった。それから私は遊び相手がいなくなって、外に出かけてもぶらぶらするだけの日々に戻った。それから学校に通い始め、宏介に出会った。次第に、正人のことは忘れてしまっていた。もう一生、会うことはないだろうと思っていたけれど、運命の再会は訪れた。私が病院で、「どうか母を助けてください」と泣き叫んでいたときだった。正人が現れて、ためらうことなく治療費を払ってくれた。彼は子供の頃から私の腕にあるあざを見て、すぐに私だと気づいたらしい。「優香?」何年も経っているのに、そのことを覚えていてくれたんだ。私は感動して、慌ててお礼を言った。お金は必ず返す、と。しかし、私の毎月の収入なんてほんのわずか。おそらく、一生かかっても返しきれないほどの金額だった。正人はそんなことを全く気にせずに、私と一緒に母の看病をしてくれた。しかし、治療が間に合わず、母は手遅れで亡くなってしまった。私は母の墓の前で泣き崩れた。宏介への気持ちは、その時に完全に消えてしまった。借金を返すために、私は正人の家で家政婦として働くことになった。そうしているうちに、子供のころの淡い気持ちがよみがえって、私たちは自然と付き合うことになった。正人の仕事の都合もあって、私たちの結婚は、両親に挨拶をするだけの、ごくささやかなものだった。それでも私は、すごく満足だった。正人は、そんなことを申し訳なく思
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第8話
宏介は私にすがりつこうとしたが、正人に殴り倒された。「もう一度、俺の妻にちょっかいを出してみろ。ただじゃおかないからな」しかし、宏介はそれでも毎日やってきた。彼の心は、日に日に虚しくなっていった。もともと結婚するはずだったのに。まさかこんなことになるなんて。二人の新生活のために整えた部屋も、今では宏介一人きりだ。夜、静まり返ると、抑えきれない感情が押し寄せてくる。これまでの楽しかった思い出ばかりが、次々と頭に浮かんで消えなかった。あの頃はまだ、明日香とのいざこざがなかった。自分と優香、二人だけの世界だった。優香は公務員として働き、自分は小さなお店を始めて、少しずつ大きくしていくつもりだった。それから、子供が一人か二人生まれて。こんなにもささやかな願いが、すぐそこまで来ていたというのに。それなのに、自らの手で全てを壊してしまったのだ。きっかけは、明日香が泣きながら自分の元へやってきた時のことだった。「好きな人に振られちゃったの。どうして私じゃだめなのよ」彼女の涙に、心が揺らいでしまったのだ。明日香を喜ばせるために、優香には黙って明日香の言う通りに秘密機関に就いた。そして、来る日も来る日も仕事に明け暮れた。どうしてあんなことをしてしまったんだろう。「自分の将来のためだ」と言えば、優香はきっと分かってくれるに違いない。そう高をくくって、事前に相談をしなかったのだ。今となっては、後悔で胸が張り裂けそうだった。何もかも、自分から手放してしまったじゃないか。面会が許された日も、本当は優香に会いたかった。でも、明日香がいつも「寂しくてつらいの」と言って、泣きついてくる。どうすることもできず、結局いつも優香に我慢をさせていた。仕事が終われば、優香と過ごす時間はいくらでもあると、そう思っていたのだ。いやだ、こうなるはずじゃなかった。宏介は耐え切れなかった。優香が他の男の妻になるなんて、許せなかった。そう思った宏介は、正人の家に忍び込んだ。……眠っていると、誰かに抱き上げられる感覚がした。今日、正人は仕事で家にいないことを思い出した、私は怖くて声をあげた。けれど、すぐに宏介に口をふさがれた。彼は声を押し殺し、声を震わせた。「優香、俺が悪かった。
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第9話
法廷でのことだった。裁判官は、一つの疑問を口にした。「つまり被告は、結婚を約束した相手がいながら、裏では別の女性と不適切な関係を持っていたと。そういうことですね」宏介は反論した。「明日香を妹のように思っていただけです。男女の関係ではありません!優しくしたのはただの親切心で、そんな風に言われたら、優香がどう思うか考えてください」彼はまだ、やり直せると思っていた。傍聴席にいた人たちは、一斉に憤慨した。「あんた、クズじゃないか!女の子には、あんたみたいな男はふさわしくない」宏介は、そんな声は聞こえないふりをして、ひたすら繰り返した。「俺の優香を返してくれ」裁判官は宏介の言い訳に惑わされず、判決を言い渡した。彼のそれまで築き上げてきた全ての名誉も、取り消されることになった。輝かしいキャリアは、完全に水の泡と化した。しかし、宏介はそんなこと気にも留めず、ただ私を追いかけようとした。「優香、俺はもう罰を受けたんだ。頼むから、もう一度振り向いてくれないか」しかし私は、正人の手を強く握り、迷わず前を向いて歩き出した。一度も、振り返ることはなかった。宏介はなおも騒ぎ立てようとしたが、すぐに取り押さえられ、連行されていった。明日香も、似たような末路を辿っていた。彼女は貯金を使い果たし、仕事も失っていた。与えられていた社宅も、追い出されてしまった。明日香には帰る場所がなかった。そして、一日中、私の家の前で騒いで暴れるようになった。「あんたは疫病神よ。いい男と結婚したくせに、どうして戻ってきたのよ?男たちが自分のために争うのを見て、楽しんでるんでしょ。本当に悪い女」明日香に返ってきたのは、住民の罵声だけだった。「うるさい、うちの前で叫ぶんじゃない!」明日香はどこへ行っても、人にいい目で見られなかった。「昔からその女の態度が気に食わなかったのよね。いつも威張ってて、自分より弱い人だけいじめて」お金を借りようとしても、誰も相手してくれなかった。以前は宏介という後ろ盾がいたから、明日香は人の評価を気にする必要がなかったのだ。それからしばらくして、私は女の子を産んだ。家族三人、幸せで笑顔の絶えない日々だった。宏介は、明日香と一緒に暮らし始めたと聞いた。しかし、彼の心は
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