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第2話

作者: フレイム
ところが浩平は、そんな私を無視して、赤ちゃんを包んだひとつのおくるみを目の前に突き出してきた。

「凛は出産で亡くなった。この子は、彼女が俺に託した子だ。

今日から、この子を俺たちの養女として育てる」

私の顔はみるみるうちに青ざめていった。彼は体を無理に起こそうとする私を見て、ようやく躊躇いを見せたと思ったら、また口を開いた。

「もし受け入れられないなら、離婚してもいい。

もちろんお前と子供の養育費は、毎月きちんと支払う。でも、それだけだ」

あの時、浩平が私に突きつけた選択肢は、これだった。

嫌悪を押し殺して、彼の初恋の人が産んだ子を育てるか。

それとも、未熟児で産まれた洵を連れて、一文無しで家を出るか。

納得なんて、できなかった。

結婚して5年、命がけで子供を産んだのに。どうして私たち親子が、こんな目に遭わなきゃいけないの?

だから、私は耐えることにした。

それでも、浩平が私と洵に愛情を向けることは、この5年の間に、一度もなかった。

浩平の深い愛情は、凛と一緒にこの世から去ってしまったかのようだった。

今の彼に残された優しさは、すべて凛の子供にだけ注がれた。

私のこれまでの我慢は、まるで滑稽な一人芝居だったんじゃないかと。ふと、そんな気がした。

5年間の愛も憎しみも、目もくれないそんな彼の態度で、すべて消え去ってしまった。

私は静かに彼の目を見つめ返した。

「もう一度、選び直させて。

今度は、洵と二人で出ていくわ」

浩平はそんな私を見て、あざ笑うように口の端を歪めた。

「出ていく?

澪、俺のそばを離れて、お前と洵だけで生活できるとでも思ってるのか?

さっさと部屋に戻れ。人前で恥をかかせないでくれ」

言い終わると、彼は使用人に目配せした。

数人の使用人が私の前に来ると、有無を言わさず両腕を掴んで、寝室へと押しやった。

ドアには、外から鍵がかけられた。

この部屋はあまり防音が良くないせいで、彼らのひそひそ話が聞こえてきてしまった。

「奥様も一体何を考えているのかしら。こんなに恵まれた暮らしをしているのに、わざわざ旦那様に恥をかかせるなんて」

「亡くなった方の子供を育てるだけでしょ?旦那様に養ってもらってるだけの『寄生虫』のくせに、ちょっと我慢すればいいだけじゃない?」

寄生虫?

私が浩平と一緒になった頃、彼はまだ何も持たない貧乏学生だった。

そんな学生が事業を起こせたのは、私が自分の貯金をすべて彼のためにはたいたからだ。

徹夜の接待までして、浩平の会社にとって始まりの一歩となった、大きな契約を取ってきたのも、私だった。

彼が仕事で身動きが取れず、家庭を構う暇などないと理解して、自ら一歩下がって、彼を陰で支えることを決めたのも、私なのだ。

それなのに今、私はみんなから、浩平に寄りかかるだけの寄生虫だと思われている。

ドアを背に、私はずるずると床に座り込んだ。外の騒がしさが、次第に遠のいていく。

その時、浩平がドアを開けた。中に入ろうとした彼の足が、私の腰にぶつかった。

痛みはなかった。でも、それが引き金になった。

堰を切ったように、涙が溢れ出した。

思いっきり泣きじゃくろうとした時、突然、頭から何かが被せられた。

「泣くな。

澪、お前は裁縫が得意だったな。この服、直しといてくれ」

私は頭からその服をひきはがした。

それは女性用の白いシャツで、袖口が少しすり切れていた。

溢れそうだった涙が、結局こぼれることはなかった。

もう、泣く気にもなれなかった。

とてつもない屈辱感に襲われて、ただ可笑しくなった。

このシャツには、見覚えがあった。

この家には、ウォークインクローゼットが二つある。

一つは、私と子供たちの服を入れるためのもの。

そしてもう一つは、浩平と凛の服をしまうためのものだった。

凛はもうこの世にいない。なのに浩平は、自分の生活の中に、彼女が生きていた証を頑なに残そうとするのだ。

私は息を深く吸い込んで、シャツを床に叩きつけた。

「浩平、冗談で言ってるんじゃないわ。

こんな生活、もううんざりよ。離婚するの」

私は、きっぱりとそう言い放った。

でも、浩平はまるで聞こえていないようだった。

彼はシャツのボタンを外し、両腕を広げた。

「こっちに来て、着替えを手伝え。

早くしろ。さっき、由花に絵本を読み聞かせるって約束したんだ」

私は浩平の前に立ったまま、動かなかった。

ただ、静かな声で繰り返した。

「洵を連れて、ここを出て行く」

今度こそ、彼はようやく私をまっすぐに見た。

その眼差しに宿る、隠そうともしない軽蔑の念が、私の全身を針で刺すように痛めつけた。
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