تسجيل الدخول夫の北条浩平(ほうじょう こうへい)がインタビューで、自分の財産の分与はもう決めてあると話していた。 記者が、「奥さんと息子さんには、きっとそれなりの金額が残されるんでしょうね」と冗談っぽく言った。 浩平は優しく笑って、静かに首を振った。 「妻と息子には、生活に困らない程度のお金を残しただけなんです。 それ以外の財産は、すべて養女に譲ることにしています。 これは約束なんです。あの子を一生、何ひとつ不自由なく暮らせるようにするって、彼女のお母さんのお墓の前で誓ったんですよ」 子供たちの食事の支度をしていた私の手は、ぴたりと止まった。私ははっとして、テレビに目を向けた。 テレビの中の浩平は、若くして亡くなった初恋の人について、その思い出を熱心に語っていた。 やがて、記者が再び口を開いた。 「そのことを……奥さんはご存じですか?」 浩平は一瞬戸惑ったようだが、笑顔は崩さなかった。 「ええ。妻が反対することはありませんよ。 彼女はこの数年間、養女の面倒もよく見てくれています。雇った家政婦より、よっぽど優秀ですよ」 私はエプロンを外し、養女・北条由花(ほうじょう ゆいか)のおもちゃを拾ってあげていた息子・北条洵(ほうじょう じゅん)を抱き上げて、子供部屋に戻った。 結婚して5年。もう我慢の限界だった。 どうせ、私たち親子には何一つ残らないんだ。だったら、こんなお手伝い役、もうごめんだ。やりたい人がやればいい。
عرض المزيد私は思わず言葉を失った。どうすればいいか、一瞬分からなくなった。この子はまだ5歳だ。まだ何も分かっていない歳だ。洵と喧嘩することはあったけれど、それは子供同士でよくあるいざこざの範囲内だっただ。つまるところ、浩平がこの子を歪ませてしまったのだろう。私は由花の涙をそっと拭うと、優しく話しかけた。「分かってるよね。あなたの本当のママは、別にいるってこと。だから、あなたの親権は私になくて、パパのところにあるの。もし私と一緒にいたいなら、私が頑張るから。あなたと一緒に暮らせるようにしてあげる。それでいい?」由花は私の指をぎゅっと握って、力強く頷いた。私はひとまず彼女を家に連れて帰った。洵は由花を見ると、すぐに駆け寄ってきた。彼は自分のおもちゃを全部、由花の懐に押し込んだ。「お姉ちゃん、泣かないで。これ、全部お姉ちゃんにあげるから」由花はしゃくりをあげながらお礼を言った。子供たちが仲良くしているのを見て、私は何も言わなかった。あとは使用人に任せることにした。私は警察とソファに座って話をした。「北条さん、この子は実の父親に捨てらているんです。もしこのまま父親の方へ戻ることになったら……」私は頷き、きっぱりとした口調で言った。「親権調停を申し立てます。離婚したら、由花ちゃんの親権が私にあるようにと」私は腕利きの弁護士を雇った。浩平が由花を無責任に施設に預けたことについては、目撃者も多かった。何より由花自身が深く傷ついていた。だから、特に苦労もなく由花の親権が私に認められた。審判が終わると、浩平が私を呼び止めた。「すまなかった。澪、俺は本当に間違っていた。俺は……」私は冷たい声で彼の言葉を遮った。「ええ、あなたは間違っているわ。あなたにひどい仕打ちをされたのは、私だけじゃない。亡くなった新井さんに対してもよ。浩平、もし私が新井さんだったら……あなたがしたことを知ったら、きっとお墓から這い出てでも、あなたの首を絞めてやりたいと思うはずだわ」浩平の顔は、みるみるうちに青ざめていった。もう彼の顔を見るのも嫌で、私はまっすぐ家に帰った。ドアを開けると、真っ先に由花が駆け寄ってきた。彼女は不安げに私を見つめ、欲しい答えを聞いていいかどうかを迷っている、そういう表情を
私は一瞬彼が言うことを理解できなかったが、すぐに眉をひそめた。「あの子をどこかへやったの?まだ5歳よ」「でも、お前は彼女のこと、嫌いだっただろ」浩平は声を震わせながら、私の手首を強く掴んだ。「お前が嫌いだから、俺は由花を施設に送ったんだ。だから……離婚するのは、考え直してくれないか。この間、俺はいろいろ考えたんだ。澪、もうお前と一緒にいる生活が当たり前なんだ。お前がいないと、俺はもう生きていけないんだ」浩平の言葉がばかばかしくて聞こえて、乾いた笑いを漏らした。「浩平、少しは男らしく責任を取ってみたらどうなの?私があなたと離婚するのは、あなたが嘘つきで、結婚生活を維持する努力もしないで、浮気までした上に他の女性を未だに想い続けているからよ!こんなこと、5歳の子供となんの関係があるの?あの子をどこへやったのよ!」浩平は体をびくっと震わせ、唇を固く結んだ。私は息を深く吸い込んで、彼になるべく冷静に話そうと努めた。「私たちの結婚生活は、もうどうしたって続けられないの。でも、子供に罪はないわ。浩平、あなたはいつも新井さんのことばっかりだったじゃない。彼女の子供を施設に送って、天国の新井さんに申し訳ないと思わないの?」彼はこの言葉に、ようやく反応らしい反応を見せてくれた。彼の目に溜まっていた涙が、ぽろりとこぼれ落ちた。「これ以上、どうやって凛に顔向けしろって言うんだ?凛が死んでから、もうずっと経っているのに。彼女の遺言のせいで、俺はもう家庭がめちゃくちゃだ!これでお前が離婚を考え直してくれるなら、凛に申し訳が立たなくたって、もうどうでもいい!お前の言う通りだ、彼女はもう死んだ人間じゃないか!」私はついに怒りを抑えきれなくなり、思いきり浩平の頬に平手打ちした。「この人でなし!浩平、よくもそんな愛情深いフリができるわね?私と一緒にいた時に新井さんと浮気して子供まで作って、彼女が亡くなった後も何年も心の中で想い続けてきたくせに。私が離婚を切り出したら、今度は当たり前のように彼女を忘れて、私にまとわりつくなんて。どれだけ醜い男なの?」私はバッグを浩平の顔に叩きつけ、氷のように冷たい声で言った。「あなたが離婚届にサインしなくても、私は裁判で離婚を成立させるわ。今
株主総会当日。私は背筋を伸ばし堂々と、本来の自分の席に座った。遅れてやってきた浩平は、くしゃくしゃなシャツを着て、憔悴しきった顔をしていた。ほぼ満場一致の、圧倒的な投票結果を前に、彼は呆然としていた。「皆さんは、どうしてこんなことをされるのですか?俺の仕事に何か不満でもあるんですか?」私は軽く微笑み、親切に教えてあげることにした。「会社はあなたの独壇場じゃないわ。マスコミの前で、会社を由花ちゃんに継がせると言った時、他の株主の気持ちをちゃんと考えてみた?浩平、あなたは会社経営は向いてないのよ。あなたには、家で子育てをする方がお似合いよ」その言葉に、彼の顔はみるみるうちに険しくなった。「澪、気は確かなのか?自分が何を言ってるのか分かってるのか?」私は静かに微笑んだ。「ええ、もちろん。私たちが離婚したら、あなた一人で由花ちゃんの世話をするのは大変だろうと思っていたの。でも、違ったみたいね。ここ数日、あなた一人でうまく世話ができていたじゃない。だから、あの子も父親とずっと一緒にいられて嬉しいだろうし、あなたは安心して家で子育てに専念すればいいじゃない」浩平は怒りで全身を震わせ、今にも掴みかかってきそうな目をしていた。私は意にも介さず笑うと、内線で警備員を呼んだ。「悪いけど、すぐ上に来て。部外者がいるから、会社からつまみ出してくれない?」浩平は悔しそうに、必死に何かを叫んでいた。でも、結局は連れ出されてしまった。私は一度目を閉じ、込み上げる感情を抑え込んで会議を続けた。仕事に集中していると、時間はあっという間に過ぎていく。会議が終わる頃には、もう午後になっていた。萌が昼食を用意してくれた。ぼんやりと食事をしながら、ふと窓の外に目をやった時、思いがけない光景が目に映った。外は、いつの間にか雨が降っていた。しかしそこに、浩平が突っ立っていた。傘も差さずに雨の中に立ち尽くす姿は、まるで捨てられた犬のようだった。「あの人、社長を待っているんでしょうか」私はもう一口食べ、それを飲み込んでから答えた。「私以外に、待つ相手がいるかしら?」どうでもよかった。浩平への愛情なんて、繰り返される日々の暮らしの些細なことの中でとっくに消え失せていった。愛も
浩平はもう周りの目も気にせず、私の手首を掴んで自分のオフィスへ引きずっていった。私は抵抗しなかった。どちらにせよ、はっきりさせなければならないことがあるから。ただ、浩平の腕の中にいた由花が、その乱暴な動きに驚いてわっと泣き出した。でも、今の浩平に由花を慰める余裕はなかった。彼は怒りをむき出しにして、私を問い詰めた。「澪、自分が何をしているか分かっているのか?ここで働く?冗談はよせ!おとなしく家で専業主婦でもしてればいいじゃないか!金ならちゃんと渡してるだろ!家でのんびり子供の世話をして、ペットとでも遊んで暮らす、そんな毎日が不満なのか?なんでこんな真似をするんだ?」浩平はほとんど我を失っていた。「家では離婚だなんだと騒いで、今度は会社まで乗り込んできて。澪、お前は気でも狂ったのか?」私はただ静かに、浩平がわめくのを見ていた。彼が怒鳴り終えたところで、私はふっと笑った。「浩平、あなたは何にそんなに腹を立ててるの?何を恐れているの?5年間もあなたたち親子のために尽くしてきた私が、会社でのあなたの居場所を奪うのが怖いの?」浩平の顔はひくりと引きつった。図星を突かれて取り乱したのだろう。「この俺が何を怖がるっていうんだ!子供の面倒を見る人がいなくなるのが、心配なだけだ。由花はお前の実の子じゃないからって、世話したくないならそれでもいいさ。でも、洵はどうするんだ?あの子は誰が面倒を見るんだよ?まだ……」そこで、浩平の言葉は途切れた。私は思わず笑ってしまった。「続けて言って。あの子は、今いくつ?浩平、あなたって、本当にこういう時しか自分に息子いたことを思い出さないのね」そう言い残して、私は部屋を出ようとした。その時、由花が私の足に必死に抱きついてきた。彼女はとても焦っているようだった。この子の目に、こんなに必死な色が浮かぶのを、私は初めて見た。「ママ、行かないで。もう洵をいじめないから。だから、洵と一緒に帰ってきてよ、お願い。ママがいないと、夜もちゃんと眠れないの」浩平は、まるで渡りに船とでも言うように、慌てて由花を私の腕の中に押しつけて言った。「澪、俺が悪かった。お前が怒るのも無理はない。でも、悪いのは全部俺なんだ。子供たちは何も悪くない