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第4話

Author: 佐伯進奈
真理は無理やり鎮痛薬を飲み込むと、そのまま手術室に入った。

いつもなら三十分もかからない手術が、今回は二時間もかかった。

ようやく彩乃が危険を脱したとき、真理はすでに限界を超えていた。

扉が開くと、廊下を落ち着きなく歩き回る陽翔の姿が目に入る。

張り詰めた糸がぷつりと切れ、真理の体は揺れた。

差し伸べた手は、彼に届かない。

陽翔は振り返ることなく、担架で眠る彩乃に駆け寄った。

一瞥さえ与えずに。

真理はその場に崩れ落ち、頭を床に打ちつけた。

鈍い音とともに血が額から伝う。

看護師の声は遠く、霞の向こうで陽翔の背中がどんどん小さくなっていった。

......目を覚ますと、病室のベッドにいた。

周りには誰もいない。

点滴は抜かれ、テープの跡がじんじんと痛む。

それでも体は少し楽になっていた。

服を整え、真理は彩乃の病室へ向かう。

看護師の話では、陽翔は一晩中そばに付き添い、今は朝食を買いに出ているという。

病室に入ると、ちょうど彩乃が目を開けた。

ゆっくりと笑みを浮かべる。

「昨日はありがとう」

けれどその笑みの奥に潜む軽蔑は、あまりにも鋭かった。

「でもね、何を言っていいかダメなのか、わかってるでしょ?陽翔が愛してるのは私よ。私はいずれ佐藤家に嫁ぐの。あなたも、余計なことはしない方がいい。

妹は妹よ。分をわきまえないと。もし知られたら、下品だって笑われるわよ。兄を誘惑するために恥も捨てたってね」

真理の拳が震え、血の気が引いていく。

「......何を話してるんだ?」

低い声が空気を裂いた。

振り返れば、陽翔が扉に立っていた。

会話はすべて聞かれていた。

だが彼は、何事もなかったように袋を机に置いた。

視線を逸らし、ぎこちなく笑う。

その瞳に宿るのは、真理への気遣いではなく、彩乃を庇おうとする迷いだった。

......そうか。

今ここで何を言っても、私が嫉妬に狂ったみっともない女にしか見えない。

彩乃はすぐに、弱々しくも可憐な笑顔を浮かべた。

「ねえ、あなた。ちょうど妹さんにお礼を言ってたの。命を助けてもらったから。ほんと、私って身体が弱いわ......たかが生理なのに、こんな騒ぎになっちゃって」

陽翔は彼女の髪を耳にかける。

指先は優しく、その眼差しは甘い優しさで溢れる。

「じゃあ、これからは体を大事にしろよ。だって......」

真理の存在に気づき、言葉が途切れた。

真理は唇を噛み、残りを飲み込んだ。

二人だけが共有する秘密のように、視線を交わして頬を染める。

その光景に、真理の胸はきゅっと締めつけられた。

情欲に溺れるときは、どんな汚い言葉でも平気で口にした彼。

けれど本当に好きな人の前では、少年みたいに不器用で真っ直ぐな顔を見せるのだ。

陽翔が、丁寧に朝食を並べていく。

彩乃はちらりと見て、得意げに笑った。

「わあ、このおかゆ、私たちが何度も食べに行った店のよね。あの店、結構遠いのに......しかも私がネギ嫌いなの、ちゃんと覚えててくれたんだ。

うん、この味。思い出すなあ。学生の頃、私が病気で寝込んだ時、わざわざ何時間も飛行機乗ってお菓子を持ってきてくれたでしょ?あの時、ルームメイトみんな羨ましがってたの。

それからね、クリスマスに学校に来てくれたとき。男の子が私にショートケーキくれたのを見て、すっごく焼きもち焼いて、危うくケンカになるところだったよね。怒ったあとで『俺が一番いいものを買ってやる』とか言って、オーダーメイドケーキ買ってくれてさ。今思えば子供みたいにバカらしいけど......」

真理は静かに聞いていた。

昔から、陽翔のことを大雑把な人だと思っていた。

シナモンが嫌いなことを、何度言っても忘れられていた。

誕生日に、アレルギーがあるのにマンゴーケーキを買ってきて、全身蕁麻疹になり、危うく二十歳で命を落とすところだった。

自分が危なっかしいところのある彼を、支えてやらないと......そう思ってきた。

けれど違った。

彼の細やかさは、すべて「本当に好きな人」に向けられていたのだ。

好みを覚えて、馬鹿みたいに嫉妬して。

時には命さえ投げ出して......

真理はかすかに口元を引き上げ、踵を返した。

この空間は二人に委ねよう。

無言で去っていく真理の背中を見て、陽翔の心にはわずかなざわめきが残った。

少し迷ったあと、スマホを取り出しメッセージを送った。

【彩乃とはただの友達だ。勘違いすんな】

【いい子だ、よく頑張ったな。少し休め。あと六日だ。その時が来たら、親に全部話して、お前にプロポーズする】

【カイロを買った。家に届くよう手配したから、帰ったらすぐ貼れよ】

画面を見下ろしながら、真理は心の中で嘲った。

こんな安っぽい気遣いと約束なんて、もう聞き飽きた。

スマホの電源を落とした。

返事は一文字も打たなかった。

......六日後、二人の関係は完全に終わる。

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