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花は月に眠れず

花は月に眠れず

作家:  佐伯進奈完了
言語: Japanese
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概要

幼なじみ

クズ男

ひいき/自己中

妻を取り戻す修羅場

後悔

切ない恋

逆転

森下真理(もりした まり)は、幼い頃に佐藤家へ引き取られた。 義兄の佐藤陽翔(さとう はると)は、誰よりも彼女を甘やかし、守ってくれる存在だった。 養父母に隠れて、二人は七年もの間、恋人同士として過ごしてきた。 「誕生日になったら、真理にプロポーズする」 そう陽翔は約束してくれていた。 けれど、その日。 真理は偶然、彼と友人たちの会話を耳にしてしまう。 「彩乃が『結婚するまではダメ』って言うから、陽翔さん、欲求不満で死にそうなのに、一度も触れてないんだってな。 でも真理は勝手に体を差し出してきた。都合のいい道具だろ?タダより安いもんはないぜ」 下品な笑い声が続いた。 そして誰かがからかうように尋ねた。 「なぁ、陽翔さん。彩乃と結婚しても、養妹とこっそり続けるんじゃないんすか?」 一瞬の沈黙。 次に響いたのは、低く嗤うような声だった。 「そんなわけないだろ。彩乃は純白なんだ。汚したくない」 その一言は、真理の胸を鋭く切り裂いた。 息が詰まり、足元が揺らぐ。 けれど声を出すこともできず、ただ静かにその場を後にした。 ......泣くことさえ許されない気がした。 すべてを呑み込み、真理は決めた。 海外の戦場へ向かおう。 国境なき医師として、命を懸けて人を救うんだ。 彼の人生で脇役にされるくらいなら、舞台を降りる。 これからは、自分の物語のために生きよう。 その知らせを知ったとき、陽翔は狂ったように、彼女を探し始めることになった。

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第1話

第1話

森下真理(もりした まり)が成人したばかりの時、義兄の佐藤陽翔(さとう はると)と、禁断の果実を摘んでしまった。

昼間は「お兄ちゃん」と素直に呼ぶのに、夜になるとベッドの上で「あなた」と声が枯れるまで言わされた。

許してもらえるのは、いつも朝方になる頃だった。

二人の秘密は七年も続いた。

リビング、浴室、キッチン......家の隅々まで、すでに痕跡でいっぱいだ。

ある日の午後。養父母が寝室に入った途端、真理は大きな窓の前で陽翔に押し倒された。

白いワンピースを腰まで乱され、身体の距離は一瞬でなくなった。

「......やだ、聞こえちゃう......」

震える声でそう言うと、陽翔は唇を歪めた。

「何を怖がってるんだ。こっちの方が、ずっとスリルあるだろ?

ほら、いい子だ。お兄ちゃんは、お前のその声が一番好きなんだよ」

その瞬間、強烈な快感に襲われ、真理の思考は真っ白になる。声を上げる代わりに、必死に陽翔の肩に噛みついた。

けれど、本気では噛めない。ただ、甘えるように歯を立てるだけだった。

世間での彼は、佐藤グループの冷徹な若き社長。

「妹を溺愛する兄」として名を馳せている。だが真実を知るのは、真理ただ一人。

彼がどれほど強い欲を抱え、どれほど多彩な方法で彼女を狂わせるか......それを知るのは彼女だけだった。

必死に応える真理の姿に、陽翔は眉をひそめ、低く息を洩らす。「......やっぱり、お前は最高だ。お兄ちゃんはお前なしじゃ生きられない。なぁ、真理。永遠に俺だけを愛してくれるだろ?」

頬を染め、蕩ける視線で彼を見つめる真理。二十数年、彼はずっと自分の一部だった。

昔から兄妹だった。けれど、この先は......

ふと不安が胸を刺し、真理は動きを止めた。「......ねぇ。いつになったらお義父さんたちに話すの?最近、あなたにお見合いを勧めてるじゃない」

途端に陽翔の表情が曇った。だがすぐに彼女の唇へ優しい口づけを落とし、囁いた。

「俺の誕生日が終わったら言うよ。その方が、きっと受け入れてもらいやすい」

確かな答えに、真理の胸の中は一気に明るくなる。その夜、二人は何度も愛を確かめ合い、同じ頂へと昇りつめた。

事が終わると、陽翔は当たり前のようにティッシュを渡してくれる。ズボンを履き終えた彼のスマホが鳴り、画面をちらりと見た後、小さな箱を真理に差し出した。

「今日は友達の誕生日なんだ。もう迎えが来てる。俺が帰るまで、いい子で待ってろ」

包みを開け、中身を見た瞬間に真理の顔は真っ赤になった。その様子に、満足したはずの陽翔が再び熱っぽい目を向けた。

「......俺が帰るまで、外すなよ」

命令されれば、逆らうことなどできない。

「......うん」

真理はただ素直に頷くしかなかった。

陽翔が出て行ったあと、ふとソファに財布が置き忘れられているのに気づいた。慌てて車に乗り込み、彼を追った。

胸は高鳴り、心は浮き立っていた。道端の花まで鮮やかに見え、鳥の声さえ自分を祝福しているように思えた。

だが、店の個室の前に着いた瞬間。中から聞こえてきた笑い声が、真理の足を止めた。

「さすが陽翔さんだよな。カーテンも閉めないなんてさ。俺たち全員、腹よりテント張っちまったぜ」

「ほんとほんと。顔もテクもAV女優並み。けど所詮は養女だ。あんなに乱れるなんてな。陽翔さんが本気じゃないから、俺らも楽しめるってわけだ!」

......わざと、見せていた?

真理はその場で硬直した。

耳鳴りがする。胸が苦しくて、呼吸が乱れる。何が本当で、何が嘘なのか......分からなくなっていった。

部屋の中から漏れる笑い声は止まらなかった。

その一言一言が胸を刺し、真理の中で燻っていた疑念に答えを突きつけてくる。「さすが陽翔さん。彩乃のこと、大事にしすぎて手も出せないんでしょ」

「彩乃が『結婚するまではダメ』って言うから、陽翔さん、欲求不満で死にそうなのに、一度も触れてないんだってな」

「けど、俺たちは知ってるよ。陽翔さんは、女遊びが好きなくせに外の女は汚いって嫌っている。便利な発散道具が身近にあるなら、使わなきゃ損だし、十年以上も養ってきてんだ。無駄にはしないさ」

「なぁ、陽翔さんって彩乃と結婚しても、養妹とこっそりこの関係を続けるんじゃないんすか?」

一瞬の沈黙。

次に響いたのは、低く嗤うような声だった。

「そんなわけないだろ。彩乃は純白だぞ。汚したくない」

吐き捨てるような調子。

冷たく、どこか見下す響き。

まるで知らない誰かの声に聞こえた。

足がふらつき、心臓が大きく跳ねる。

けれど体の奥では、まだ陽翔に仕込まれた玩具が容赦なく蠢いていた。

「お前はただの道具だ」と嘲笑うかのように。

視界がにじむんだ。

そして近くから店員の足音が迫ってくる。

見られるのが怖くて、真理は慌てて踵を返した。

情けないほど必死に、その場から逃げ出すしかなかった。

けれど、逃げても記憶は追いかけてくる。

両親を亡くした日。

五歳で孤児になった自分を、父の戦友だった佐藤家の叔父さんがためらいなく引き取ってくれた。

佐藤家の一人息子は「どうしようもない問題児」だと聞かされていたから、真理は最初から肩身の狭い生活を覚悟していた。

だが、初めて会った陽翔は手を引いてくれて、優しく「真理ちゃん」と呼んでくれた。

雷が怖くて泣きじゃくった夜は、朝まで布団のそばにいてくれた。

学校で不良に絡まれた時は、自分の身を張って返り討ちにし、頭に二十針も縫う怪我を負った。

年を重ねるほどに、陽翔は誰よりも格好よくなっていった。

彼を慕う人は星の数ほどいた。

真理もそのひとりだ。

想いを胸に隠し、日記にだけ書き綴る日々。

ずっと、密かに好きでいるだけでいいと思っていた。

十八歳になるまでは。

あの日。放課後に部屋のドアを開けた時、陽翔は真理の日記を開いていた。

責めるような視線。

けれど口から出たのは別の言葉だった。

「やっぱりか。真理も俺と同じで、汚い気持ちを抱えてたんだな」

その日、二人は初めて体を重ねた。

不器用で、けれど狂ったように繰り返された行為。

我に返った時、シーツに残る赤いモノが目に飛び込み、胸が押し潰されそうな後悔に襲われた。

それでも陽翔の一言が、彼女を縛り付けた。

「籍を入れられるようになったら、真理を妻にするよ」

その約束を信じ、何度も繰り返した。

隠し続けた七年。

十八歳から二十五歳まで。

真理はもう、この秘密の関係に疲れ果てていた。

それでも「いつか」と願い続けてきた。

だが今日、すべてが崩れた。

自分は最初から、彼の目に映ってなどいなかった。

ただ、鈴木彩乃(すずき あやの)を「汚さない」ための、代わりの道具なのだ。

理解した瞬間、胸に広がったのは絶望と虚無。もう、何事もなかったように振る舞うことはできない。けれど、これからどうすればいい?

彩乃の「結婚前の試用品」として生き続けるのか?

そんなの、絶対に嫌。

震える手にスマホが震えた。

画面には、以前から参加していたボランティアのグループ通知が表示されている。

【国際医療のため、アルディア州への国境なき医師を募集中。帰国時期未定。生命の危険あり】

しばらく無言で見つめ、やがて真理は深く息を吸い、メッセージを送った。

【......まだ応募できますか?】

自分はもともと孤児。

佐藤家に置かれて、生かされてきただけ。

彼の人生ではただの脇役だった。

なら、ここで舞台を降りよう。

これからは、自分自身の物語を生きるために。

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