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第30話

last update Last Updated: 2025-04-06 10:09:04

日曜日のお昼。今日は藍が、沖縄から帰ってくる日。

──ピンポーン。

燈子さんは今出かけていていないので、私がリビングでお留守番していると、家のチャイムが鳴った。

もしかして、藍かな?

「はーい」

私が玄関のドアを開けると、案の定そこには藍の姿が。

「ただいま、萌果ちゃん」

「おかえり、藍」

私を見てニコッと微笑むと、藍が家の中に入ってくる。

「家に帰ってきて、大好きな萌果ちゃんが『おかえり』って出迎えてくれるなんて。すごく幸せだなあ」

帰ってきて早々、藍の甘い言葉に胸が小さく跳ねる。

「藍、疲れたでしょう?お昼ご飯は?もしまだなら、先に食べ……」

玄関からリビングに移動した途端、私は藍にいきなり抱きしめられてしまった。

「お昼ご飯よりも先に、萌果ちゃんがいい」

「え?」

藍に抱きしめられながら耳を食まれ、思わずぴくんと身体が跳ねる。

「ど、どうしたの?急に……」

「充電が切れたから。まずは、萌果ちゃんをしっかりと充電しなきゃ」

充電って……。そういえば、藍が沖縄に行く前にも『萌果を充電させてくれない?』って言われて。

学校の空き教室で、藍にキスやハグを沢山されたんだったっけ。そのことを思い出した私は、顔が熱くなる。

「萌果ちゃん、会いたかったよ」

私を抱きしめる藍の手に、力がこもる。

「わ、私も……会いたかった」

って。何を言ってるんだろう私。でも、この家で燈子さんと初めて二人だけで夕飯を食べたとき、藍がいなくてなぜか無性に寂しくて。藍に会いたいって、思ったから。

「ふーん。そっかそっか」

藍のほうを見ると、ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべていた。

「萌果は、俺がいなくて寂しかったんだね」

「そっ、それは……」

私は藍から視線を外して、目を泳がせる。

「なに?俺は、萌果と2日離れてただけでもめちゃくちゃ寂しかったけど。萌果ちゃんは、違ったの?」

藍の顔がこちらに近づき、吐息がかかる距離で見つめられる。

「……しかったよ」

「え?」

「藍と会えなくて、私も寂しかった」

恥ずかしさを堪えて、正直に言ってみた。

「萌果ちゃん!」

すると、さっき以上に藍に力いっぱい抱きしめられる。藍……く、苦しいよ。

「俺と会えなくて寂しかったって。それってもう、萌果ちゃんが俺のことを好きって言ってるようなものじゃない?」

「はい!?どうして、そうなるの?違うから!」

「ふふ。素直じゃな
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