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第2話

作者: 丘々
以前私が用意していたベビーベッドは、いつの間にか別のものに替えられた。

クローゼットの中にあった赤ちゃんの服も、すべて入れ替えられた。

私は花粉アレルギーなのに、部屋の中にはさまざまな花が飾られている。

慌てて鼻を押さえながら、私はすぐに後ずさった。

事情を尋ねようとしたとき、椿が大きなお腹を抱えながら得意げに言った。

「ごめんなさいね。私は花の香りがないと夜眠れないの。奥様が我慢できないなら、別の部屋を使ってください。花粉はすぐには取り除けないから。

仕方ないの。颯があまりにも私を大事にするから、一緒に寝ないと落ち着かないのよ」

胸の奥に怒りが込み上げ、私は呼吸が荒くなった。そのせいで、手術痕のあたりもズキズキと痛んだ。

執事に案内されていくうち、どんどん屋敷の奥の方へ追いやられる。

颯が私に用意していたのは、ほこりまみれの部屋だった。

「父さんと母さんは?二人はどこにいるの?」

執事は困り果てたように遠くの小さな部屋を指差した。

「奥様、どうか怒らないでください。旦那様が黙認しましたから、ご両親が小林さんの世話をしてます」

私は雷に打たれたように呆然とし、目の前の光景がどうしても信じられなかった。

この時は真冬だ。もともと痛風を患っている母が、洗面台で椿の服を洗っている。

流れる水は骨を刺すほど冷たく、母の両手は真っ赤に腫れあがっている。

父はしゃがみ込み、椿の靴を一生懸命洗っている。

私は必死に駆け寄り、二人の手から服と靴を奪い取った。

「父さん!母さん!どうしてここにいるの?なんで小林のために洗い物なんかしてるの!」

私は両親をぎゅっと抱きしめたが、彼らの顔がどうにも抑えきれず痙攣しているのに気づいた。

おそるおそる彼らの袖をめくると、青あざと鞭の痕がびっしりと残っている。

二人は苦笑しながら私をなだめた。

「穂果が無事に戻ってきて、颯と幸せに暮らせるなら、こんなことぐらいどうってことないよ」

私は涙で視界がかすみ、過去の記憶が次々と蘇る。

二十年前、颯の両親は強盗に殺された。

危機一髪のとき、彼を救ったのは、私の両親だった。

両親はただの一般人だった。しかし、颯が金井家を再興したいと言った一言で、彼らは半生の貯金をはたき、彼を留学に送り出したのだ。

私の叫びを聞きつけ、颯は椿と一緒にのろのろと現れた。

目が張り裂けそうに痛み、私は鋭い声で問いただした。

「颯、あんた十八歳のとき誓ったはずよね?父さんと母さんを自分の親のように大切にすると!これがその恩返しなの?」

両親の体の傷を初めて見たのか、颯は呆然とした表情で言った。

「え?転んだのか?お義父さん、お義母さん、なんで言ってくれなかったんだ?」

彼が嘘をついているのか、それとも本当に知らなかったのか、私には分からなかった。

その時、私が味方についたことで、両親はやっと勇気を出して、ついに真犯人を指差した。
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