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第16話(42)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-02-18 11:00:44

 凝った首筋を揉みながら、総和会の組員とともにエレベーターを待つ。上の階から降りてきたエレベーターの扉が開くと、すでに一人の男が乗っていた。その男の顔を見て、和彦は大きく目を見開く。

「お疲れ様です」

 和彦と一緒にいた組員が頭を下げた。すると、エレベーターに乗っている男が鷹揚に頷く。

「おう。怪我人が運び込まれたって、えらい大騒ぎになってたが……、そうか、長嶺組の先生の世話になったんだな」

 そんなことを言いながら、男がこちらを見る。反射的に会釈をした和彦は、その男の姓を心の中で洩らした。南郷、と。

 元日に長嶺の本宅で見かけた男だ。総和会の第二遊撃隊を率いており、元はある組の組長代行を務めていた――と賢吾から教えられた。第二遊撃隊には中嶋が所属しており、和彦とまったく無関係な存在というわけではない。南郷のほうも和彦の存在を把握している口ぶりだ。医者という立場はもちろん、男の身で、長嶺父子の〈オンナ〉であることも。

 その証拠のように、露骨にじろじろと見つめられる。侮蔑も嘲笑もない、ただ、和
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  • 血と束縛と   第26話(9)

    「俺が凄んだところで、屁でもないだろ。総和会第二遊撃隊を率いる、南郷ともあろう男が」「……長嶺組長だけでなく、うちのオヤジさんにとっても大事な先生を、警察の人間が守っているんだ。何事かと気にもなるってもんだ」「そういうお前は、どうしてこいつにつきまとう。大事な『オヤジさん』の側についていなくていいのか?」 口元に笑みを湛えたまま、南郷は凄むように鷹津に視線を定める。傍で見ていて息を詰めてしまうほど、冷たく鋭い目だった。 二人の男のただならぬ雰囲気が伝わったのか、それとも、そんな男たちの間で戸惑っている和彦の様子から何か感じたのか、南郷の護衛についている男たちだけではなく、和彦の護衛として、鷹津の車の背後からついてきていた長嶺組の男たちが、互いに威嚇し合うように静かに距離を縮めていた。 友好的とは言いがたい空気を無視できなくなった和彦は、ため息交じりに南郷に提案する。「――まだ話したいなら、場所を移動してもらえませんか。ここで立ち話をされると、迷惑になります」「だったら、先生の部屋に。前にも言ったが、長嶺組長がオンナを住まわせている部屋を見てみたい」 こういう流れになるのは予測していた。和彦がそっと目配せすると、心得たように鷹津も応じた。「コーヒーぐらい出せよ」** ソファに腰掛けた二人の前にコーヒーを出した和彦は、少し迷ってから、鷹津との間に一人分のスペースを空けて隣に腰掛ける。 足を組んだ南郷は、ソファの背もたれに腕をかけ、賢吾の好みで統一されたリビングを見回す。一方の鷹津は、そんな南郷を不躾なほど観察していた。刑事としての習性なのかもしれない。「思った通り、長嶺組長は先生にいい暮らしをさせている。――金をかける価値のあるオンナ、ということだな」 この部屋に入れた時点で、事情を知る男たちが何を思うか、和彦は容易に想像できるし、覚悟もしている。明け透けすぎる南郷の言葉に、眉一つ動かさずにこう答えた。「堅気としてのぼくの人生を、めちゃくちゃにした対価だと思うようにしています。どれだけ金をかけるかは、あの人の自由です」 この

  • 血と束縛と   第26話(8)

     車から降りた和彦は、警戒しながら南郷に歩み寄る。マンション前に花束を持って立っていて、和彦以外の人間を待っているとは考えにくい。知らん顔をして通りすぎるなど不可能だった。 それに――、和彦よりも先に状況を把握したのだろう。鷹津までもが歩道脇に車を停めて降り、険のある視線を前方に向ける。目を凝らしてみてみると、街灯の明かりを避けるようにして車が一台停まっていた。「大丈夫だ。あれは、うちの隊の人間だ。佐伯先生の見舞いに行くと言ったら、何を心配したんだか、ついてきたんだ」 声を荒らげているわけでもないのに、南郷の声は夜の空気を震わせる。和彦はハッとして、再び南郷を見た。「……見舞いって、なんのことですか……?」「襲われたと聞いた」「誰がそんなことを言ったのか知りませんが、ぼくはこの通り、なんともありません」 和彦は、南郷が持っている花束を渡されたくない一心で、冷ややかに言い放つ。一方の南郷は、和彦の反応を楽しんでいるかのように口元を緩めた。 夜ということもあり、人通りはほとんどないのだが、それでも、マンションを出入りする人間に、明らかに堅気ではない男と話している場面を見られたくない。 和彦が半ば強引に会話を打ち切ろうとしたところで、嫌なタイミングで南郷が切り出した。「――長嶺組の動きが慌ただしいという報告だけは、すぐに耳に入っていたんだ。だが、一体何が起こったのか、総和会になかなか情報が上がってこなかった。見舞いが遅くなったのは、そういう理由からだ」「長嶺組と総和会の情報のやり取りについては、ぼくにはなんとも……。連絡役になっているのは、中嶋くんでは?」「もちろん、長嶺組の本宅に中嶋を向かわせた。が、何も知らされず、聞いたところで答えをはぐらかされたようだ」 それなのに南郷は、襲撃の件も、その場に和彦がいたという事実も把握している。どうやって知ったのか、と考えてまっさきに頭に浮かんだのは、秦の存在だ。秦と中嶋の関係を思えば、情報のやり取りが皆無とも考えにくい。 しかし、和彦の心の内を読んだように、すかさず南郷に言われ

  • 血と束縛と   第26話(7)

    「この調子なら、連休中にでも抜糸できそうだ」 連休、と小声で呟いた鷹津が、傷口の消毒を始めた和彦に問いかけてくる。「このクリニックも、連休があるのか?」「一週間ほど休むことになっている。ぼくはカレンダー通り開けていてもいいんだが、組長に言われると、何も言えない」「ヤクザは優雅なものだな。そのオンナも」 鷹津が左手を伸ばし、頬に触れてこようとしたので、咄嗟に払い除ける。触れられることが嫌だというより、賢吾から言われた言葉が蘇ったのだ。 鷹津に情を移すなと、賢吾は言った。それがどういうことなのか和彦にはよくわからない。鷹津は相変わらず嫌な男だし、好意的な感情を抱いていないつもりだ。だが、それだけで鷹津との関係は割り切れない。そう、単純なものではないのだ。「……治療中だ。邪魔するな」 あえて鷹津の顔を見ないで注意すると、和彦は黙々と手を動かす。治療とは言っても、傷の様子を診たかっただけで、あとは消毒をして、ガーゼと包帯を取り替えるだけだ。 手早く包帯を巻き終え、立ち上がった和彦は片付けを始める。「また何日かしたら連絡をする。そのとき、傷が化膿していなかったら抜糸をする。――用は済んだから帰ってくれ」 鷹津に背を向けて素っ気なく告げると、突然、肩に手がかかる。驚いて振り返ると、いつの間にか鷹津が目の前に立っていた。怖いほど真剣な顔で見つめられ、察するものがあった和彦は後退ろうとしたが、うなじに手がかかって反対に引き寄せられる。「おいっ――」「長嶺に、何か言われたか? えらくピリピリしているな」 和彦は思わず視線を逸らしたが、肯定したも同然だ。鷹津は鼻先で笑い、顔を寄せてきた。「〈あれ〉で、餌を食わせ終えたなんて思ってないだろうな? 俺はお前の命を助けたんだぜ。せめて、この怪我が治るまで、好きなだけ食わせてもらうぞ」「そこまで恩着せがましいことを言うと、せっかくの善行も価値がなくなるぞ。助けられたほうも、うんざりしてくる」 睨みつけながら和彦が言うと、鷹津は意外なほどあっさりと身を引いた。「腹が減った。これからメシを食いにいくぞ」

  • 血と束縛と   第26話(6)

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  • 血と束縛と   第26話(5)

     微かに濡れた音を立てながら先端を吸われ、熱い吐息をこぼして和彦は身悶える。欲望の形を舌先でなぞられ、さらに柔らかな膨らみも舐られる。「うっ、うっ、うあっ、あっ――」「今度鷹津に教えてやれ。長嶺組の組長は、自分のオンナのこんなところまでしゃぶって、感じさせてくれると。あいつは、どうするだろうな」 賢吾の言葉は、見えない執着の炎となって和彦の全身を炙る。不意打ちのように内奥の浅い部分をぐっと指の腹で押し上げられ、呆気なく和彦は絶頂を迎えた。精を迸らせ、下腹部を濡らしていた。 そんな和彦を見下ろし、唇の端に笑みを刻んだ賢吾は、あっさりと内奥から指を引き抜く。浴衣を剥ぎ取られた和彦はうつ伏せの姿勢を取らされ、高々と腰を抱え上げられる。身構える間もなく、背後から貫かれた。「んううっ」 力を漲らせた賢吾の欲望は、容赦なく内奥を押し広げ、襞と粘膜を強く擦り上げてくる。背後から突かれるたびに和彦は畳に爪を立て、衝撃に耐える。重苦しい痛みが下腹部に広がるが、それ以上に、内から焼かれそうなほど賢吾の欲望が熱い。尻を鷲掴んでくる手も。「待っ……、賢吾、さ……、もう少し、ゆっくり……」 和彦の切れ切れの訴えは、乱暴に内奥を突き上げられることで応じられる。賢吾の逞しい欲望が、根元まで捻じ込まれていた。 奥深くまで呑み込んでいるものの存在を、呼吸を繰り返すたびに強く意識する。賢吾は内奥の収縮を堪能するように動きを止め、その代わり、両手を駆使して和彦の体をまさぐってくる。 和彦の肌は、嫌になるほど賢吾の手の感触に馴染んでいる。てのひらで撫で回されているだけで肌はざわつき、汗ばみ、官能を生み出す。和彦のその従順さを、背後から貫きながら賢吾は堪能していた。「……惚れ惚れするほどの、いいオンナっぷりだな、先生。こうして眺めているだけでわかる。俺を欲しがっているってな。もっとも――」 軽く腰を揺すられ、内奥で欲望が蠢く。意識しないまま、食い千切らんばかりに欲望を締め付けていた。「尻のほうはさっきから、グイグイ締まりまくってるがな。突

  • 血と束縛と   第26話(4)

    「……この家の主が仕事をしているのに、その主の部屋でダラダラしているのは、気が引けるんだ」「仕事といっても、電話で片付くような用だ。だから、そう待たせなかっただろ」「気にせず、じっくりと話してくれてもよかったのに……」「俺が気にする」 和彦のすぐ背後に立った賢吾の手が、肩にかかる。浴衣の布越しに体温が伝わってきて、それだけで和彦は冷静ではいられなくなっていた。 慌てて正面を向くと、両肩をしっかりと掴まれ、力を込められた。「あっ」 絶妙な力加減で肩を揉まれて、思わず和彦は声を上げる。背後から笑いを含んだ声で言われた。「凝ってるな、先生。気疲れすることが多すぎるせいか?」「……あんたは、原因の一つだからな」「遠慮なく、俺が原因の大部分だと言っていいんだぞ」 返事の代わりに、和彦は笑い声を洩らす。 長嶺組組長に肩を揉んでもらうという贅沢を堪能できたのは、わずかな間だった。肩を揉んでいた賢吾の片手が前へと移動し、浴衣の合わせから入り込んできた。 大胆に蠢く手に胸元をまさぐられ、あっという間に凝った胸の突起を、捏ねるようにてのひらで転がされる。指先で捉えられて爪の先で弄られる頃には、和彦の呼吸は弾んでいた。「――鷹津にも、ここをたっぷり弄ってもらったか?」 突然、冷めた声で問われる。背後に立っているのは賢吾だと知っていながら、和彦は一瞬、別の男に入れ替わったのかと混乱した。それぐらい、賢吾の声音が一変したのだ。 本能的な怯えから、和彦は愛撫の手から離れようとしたが、賢吾は焦った素振りすら見せなかった。 立ち上がろうとしたが、いきなり座椅子を引かれてバランスを崩す。すかさず賢吾の腕に捕らえられて、畳の上に放り出された。 悠然とのしかかってきた賢吾を、顔を強張らせて見上げる。手荒な行動とは裏腹に、賢吾は薄い笑みを浮かべていた。「鷹津とのセックスはよかったようだな、先生。……鷹津のことを話すときの顔を見ていたら、いままでにない表情を浮かべてい

  • 血と束縛と   第13話(8)

     グラスをゆっくり揺らしてから、ウィスキーを一口飲む。美味しい、と思わず洩らしていた。中嶋の元には、琥珀色が美しいマンハッタンが置かれ、しっかりとチェリーも添えられている。 秦は、中嶋の満足そうな顔を見て小さく微笑むと、自分の分のカクテルを作るため、カウンターに戻る。 もてなされる側の和彦と中嶋は、ゆったりと美味しいアルコールを楽しんでいるが、もてなす側に回っている秦は、テーブルとカウンターを行き来して、なかなか慌ただしい。 もっとも、秦本人は楽しそうにしているので、かつての仕事柄というより、人にサービスすることが好きな性質なのかもしれない。

    last updateLast Updated : 2026-03-29
  • 血と束縛と   第13話(32)

     急に引き返したい気分になったが、それはできない。嫌になるほどヤクザの思考に染まっていると思うが、和彦は、賢吾だけでなく、鷹津の面子のことも考えていた。面子を潰された男は――怖い獣になる。 長嶺組が取ったという部屋は、男二人が寝ても持て余しそうな広いベッドがある、ダブルルームだった。大きな窓から見渡せる風景は感嘆するほどで、この眺望込みで、部屋の料金は安くないだろう。すでにワインまで準備されていた。 この部屋は、鷹津のためというより、和彦のために用意されたようだった。部屋を見回して感じるのは、和彦を安く扱う気はないという意思だ。「俺は、ホテルの部屋を取

    last updateLast Updated : 2026-03-29
  • 血と束縛と   第13話(11)

    ****「――俺との約束を忘れたのかと思ったぞ」 春巻を一口食べて、味に納得したように頷いてから、唐突に澤村が切り出す。和彦は苦笑を洩らしながら、酢豚を堪能する。値段が手頃なランチメニューなのだが、値段以上の価値がある味だ。 先日、中嶋に連れてきてもらってディナーを食べた中華料理店に、ぜひもう一度訪れたいと思っていたところだったので、澤村とランチを一緒に、という約束を果たすには、うってつけの店だろう。 店はホテル内にあるため、常にさまざまな人が行き交っている。そのため、護衛をホテルの駐車場

    last updateLast Updated : 2026-03-29
  • 血と束縛と   第13話(31)

    「俺が興味あるのは、佐伯だ。とりあえずこいつと繋がっていれば、長嶺や、お前みたいな連中の動向が掴めるからな。……何より、こいつの存在自体が、楽しめる。長嶺どころか、その息子や子分まで垂らし込むぐらいだ。男とはいっても、最高に具合がいい。何より、こんな色男のくせして、女より淫乱だ」 屈辱と羞恥で、めまいがしてくる。そこに怒りも加わり、本気で鷹津を殴りたくなる。一方、鷹津の生々しい発言を受けても、秦は柔らかな表情を変えなかった。そのくせ唇から出た言葉は、鷹津に負けず劣らず生々しい。「先生の感じやすさといやらしさを知っているのは、ご自分だけだ

    last updateLast Updated : 2026-03-29
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