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第17話(29)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-02-26 14:00:35

 突然のことに声も出せない和彦は、大きく目を見開く。南郷は、手荒な行動とは裏腹に、静かな表情で和彦を見つめていた。

 こんなときに限って、マンション前には人はおろか、車すら通りかからない。

 南郷の大きく分厚い手が眼前に迫ってくる。絞め殺されるかもしれないと、本気で危機を感じた和彦だが、仮にも総和会に身を置く男がそんなことをするはずもない。

 南郷の手は、和彦の首ではなく、両頬にかかった。

「これが、長嶺組長のオンナ……」

 和彦の顔を覗き込みながら、ぽつりと南郷が呟く。淡々とした声の響きにゾッとして、和彦は手を押し退けようとしたが、がっちりと頬を挟み込んで動かない。それどころか南郷は、体を寄せてきた。

「一人の女とは一度しか寝ないと言われている男が、はめ込んでまで手に入れたのが、堅気の色男だと聞いたときは、何事かと思ったんだが。……そうか。これが、長嶺の怖い男たちと相性のいいオンナ、なんだな」

 南郷は逞しく硬い体だけでなく、顔まで間近に寄せてくる。しか
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  • 血と束縛と   第25話(14)

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  • 血と束縛と   第25話(13)

     そんな和彦の気持ちを知ってか知らずか、千尋は大きなあくびをしたあと、にんまりと笑いかけてきて、布団の上を軽く叩いた。ここに座れと言いたいらしい。 髪を拭いていたタオルを手に、和彦は渋々従う。すかさず千尋が肩を抱いてきた。「先生、また一緒に寝よう。じいちゃんに知られたって、別にいいじゃん。俺だって、先生のことで主張できる権利がある」「何を主張する権利だ」「わかってるのに、聞くんだ」 さきほどの寝ぼけていた姿は演技だったのか、すでに千尋の両目は生気を漲らせ、強い光を湛えている。 和彦はまじまじと千尋の顔を覗き込み、頬を撫でてやる。おそらく千尋に犬の尻尾が生えていたら、今この瞬間、ブンブンと振っていることだろう。そんな想像をしてしまうぐらい、嬉しそうな表情を浮かべたのだ。「――お前と一緒にいるときは、ぼくは、お前のオンナだ」「悪いオンナの台詞だよなー、それ。オヤジやじいちゃんと一緒にいるときも、同じことを言うんだろ。言う相手が違うだけで」「ぼくにそれを求めたのは、物騒で怖い、長嶺の男たちだ」「だって俺たち、先生に骨抜きだからね」 千尋に優しく唇を啄ばまれ、すぐに舌先を触れ合わせて、相手をまさぐる。朝から交わすには露骨でいやらしい口づけへと変化するのは、あっという間だった。 執着心をぶつけてくるように、千尋の舌に荒々しく口腔をまさぐられる。和彦は、そんな千尋を受け入れ、応じていた。 ようやく唇が離されると、千尋は少し困惑したように洩らした。「この部屋、なんか変な感じがする。ここで先生がじいちゃんに初めて……とか思うと、嫉妬より先に、すげー興奮するんだ。じいちゃんと張り合いたい気分になるっていうか」「……前々から感じていたが、妙な性癖を持ってるだろ、お前」 とにかく自分の部屋に戻れと言いながら、和彦は千尋の体を布団から押し出そうとする。しかし千尋はごろりと横になり、あっという間に布団に包まってしまう。「こらっ、千尋――」「俺、先生に怒られるの好き」 もっとかまってくれと言わんばかりに千尋が

  • 血と束縛と   第10話(37)

    「千尋、がんばって全部食べろよ。お前のために、買ったんだから」「全部食べるまで、先生が隣にいてくれるなら」 横目でじろりと見ると、千尋ににんまりと笑いかけられた。その千尋の唇の端に、チョコレートがついている。ここで指先で掬い取ってやるほど甘くない和彦は、反対に、指先にクリームをたっぷり取って、千尋の高い鼻につけてやる。しかし、千尋も負けていない。目をキラキラさせて、和彦の頬にクリームをつけてきた。「――生意気」「いくら先生が年上でも、こういうところじゃ遠慮しないよ、俺」「よし、わかった。ぼくも遠慮しない」 和彦の言葉

    last updateLast Updated : 2026-03-26
  • 血と束縛と   第10話(17)

    「さあな。本名なのか、そうじゃないのか、本人が語ったことはないようだ。人当たりは柔らかだが、掴み所がない。ぼくは最近知り合ったばかりだが、つき合いの長い人間にとっても、何かと謎の多い人物らしい。一応今は、元ホストの実業家という肩書きを持っているが、あちこちの組関係者とつき合いがあるみたいだ」 コーヒーが運ばれてきたので、物騒な会話を一旦中断する。和彦はコーヒーにミルクを入れて掻き混ぜながら、さりげなく視線を中嶋のほうに向ける。どこにでもいそうな普通の青年の顔をしたヤクザは、携帯電話を手に、どこかにメールを送っているようだった。「――あいつ、俺たちの姿を携帯で撮った

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  • 血と束縛と   第10話(8)

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  • 血と束縛と   第10話(6)

    「まずは、一回」 賢吾が低く呟き、限界を迎えようとしている和彦のものを握り、軽く数回扱く。深い吐息をこぼした和彦は、腰を揺らしながら賢吾の手の中で果てていた。 脱力した体はすぐに仰向けにされ、パンツの前を寛げただけの姿で賢吾がのしかかってくる。言葉もなく貪り合うような口づけを交わしながら、賢吾に足を抱えられ、蕩けて喘ぐ内奥を再び貫かれた。 和彦はビクビクと体を震わせながら、賢吾の欲望を締め付け、淫らな襞と粘膜で奉仕する。シャツすら脱いでいない賢吾だが、そのシャツはすでに汗で濡れ、筋肉が硬く張り詰めているのがわかる。本物の大蛇とは違い、この大蛇の体は興奮

    last updateLast Updated : 2026-03-26
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