Masuk「言っておくが、あんたに目をつけられるまで、ぼくはそれなりに慎み深く生きてきたんだ。しかも、平穏に」
「いーや、先生ならそのうち絶対、男絡みで刃傷沙汰を起こされていたな。よかったな。そうなる前に、ヤクザに保護されて」 ニヤニヤと笑う賢吾の顔が本当に憎たらしい。バスローブを羽織った和彦はベッドから下りようとしたが、腰に賢吾の腕が回されて引きとめられた。「……まだ何かあるのか」「ゾクゾクするほど興奮したぞ。先生と中嶋が絡み合う声は」 ドキリとした和彦は、ぎこちなく賢吾を見る。すでにもう賢吾は笑っておらず、表情らしい表情は浮かべていない。しかし両目にちらつくのは、欲望の種火だ。明らかに賢吾は興奮していた。その目で見つめられると、息が止まりそうになる。「男でも雄でもない、〈オンナ〉同士の絡む声だ。あれは、録音する価値があった。映像に残せなかったのは残念だが――」 息もかかるほど間近に賢吾の顔が寄せられた。「機会があれば、目の前で見てみたいものだな」 一瞬に緩やかに上下に擦られ、唇を噛んで眉をひそめた和彦は、ようやく次の行動に出る。 腰を浮かせ、片手で鷹津の欲望を握ると、頑なに閉じたままの内奥の入り口に位置を合わせる。慎重に腰を下ろし、少しずつ内奥をこじ開けるしかないのだが、容易なことではなかった。和彦は自分の指を舐めて唾液で濡らすと、自ら内奥の入り口に擦り付けて潤す。「大胆だな」 和彦の行動を眺めていた鷹津が、揶揄するように声をかけてくる。ただ、口調からうかがえる余裕とは裏腹に、鷹津の欲望は熱く張り詰めていた。「んんっ……」 唾液で簡単に湿らせただけの内奥の入り口を、逞しいもので押し広げながら、時間をかけて呑み込んでいく。異物感と痛みに呻きながら、それでも和彦は腰を上げることはできなかった。 繋がりつつある部分に、鷹津が指を這わせてくる。和彦は息を詰め、ビクンと背をしならせる。「ほら、もっと突っ込ませろ。お前の尻は、もっと俺を気持ちよくしてくれるだろ」 鷹津を睨みつけてから、機能的な筋肉に覆われた胸に両手を突く。支えを得た状態で腰を揺らし、一層深く欲望を呑み込んでいくうちに、和彦の息遣いは妖しさを帯びる。変化はそれだけではなく、反り返った和彦の欲望は、先端から透明なしずくを垂らしていた。「……性質の悪いオンナだ。尻の具合のよさだけじゃなく、こうして見た目でも、男を悦ばせてくれるんだからな」 そう言って鷹津の手が、再び和彦の欲望にかかる。「うっ、うあっ――」 先端を指の腹で擦られ、腰から熱い感覚が駆け上がる。内奥がきつく収縮し、鷹津の欲望の感触をさらに強く意識する。それは鷹津も同じなのか、軽く眉をひそめて息を吐き出した。「こうしてお前と繋がっていると、お前の尻にある襞の感触が、いつも以上によくわかる。俺のものが、いいところをしっかりと擦り上げてるだろ?」 露骨な言葉で煽りながら、鷹津が腰を突き上げてくる。前に倒れ込みそうになった和彦だが、鷹津の胸に手を突いていたおかげで、なんとか耐えられる。非難を込めた眼差しを向けたが、口元に薄い笑みを浮かべた鷹津は、片手で握り締めた和彦の欲望を緩やかに上下
唾液を流し込まれながら、口腔の粘膜を舐め回されているうちに、自然な流れで鷹津と舌先を触れ合わせ、次の瞬間には性急に搦め取られる。差し出した舌同士を大胆に絡め合っていた。 いやらしい口づけに、欲望を煽られる。和彦は息を喘がせ、喉の奥から声を洩らす。唇を触れ合わせたまま、鷹津がニッと笑った。「気持ちいいか? 久しぶりの、俺とのキスは」「……自惚れてるな。そういうことを聞くなんて」「今にもイきそうな声を出してたぜ、お前」 カッとした和彦は体を離そうとしたが、その前に鷹津に、パンツの上から尻の肉を掴まれた。再び唇を塞がれ、舌を絡め合いながら、鷹津に尻を揉まれる。和彦は咄嗟に、鷹津の右腕を押さえていた。医者としては、縫合処置をしたばかりの傷が、無茶な行動で開くのではないかと気が気でないのだ。おかげで、もう鷹津から体を離すことができない。「あっ」 さんざん尻を揉んだ鷹津の手が今度は前に這わされ、両足の間をまさぐり始める。言葉はなくても、この男の求めはわかっていた。 ジーンズの上から、鷹津の欲望の形に触れる。興奮を物語るようにすでに硬く大きくなり、苦しそうだ。唇を離した鷹津に頭を引き寄せられて、耳元で囁かれる。「――今日は、舐められるだろ」 屈辱でも羞恥でもなく、和彦を襲ったのは甘い眩暈だった。和彦の機嫌を取るように鷹津が唇を啄ばんできて、それに応じる。互いの舌と唇を吸い合ってから、和彦はその場にぎこちなく両膝をついた。 鷹津のジーンズの前を寛げ、高ぶった欲望を外に引き出す。短く息を吐き出してから顔を寄せると、初めて鷹津の欲望に唇で触れた。 慰撫するように先端に柔らかく舌を這わせ、唇を押し当てる。括れを舌先でくすぐり、もう一度先端に唇を押し当てて、そっと吸い上げる。ゆっくりと口腔に含むと、鷹津の下腹部が緊張した。 鷹津の欲望を握り、根元から扱き上げながら、舌を添えて喉につくほど深くまで呑み込む。濡れた粘膜でしっとりと包み込み、唇で締め付けると、鷹津が歓喜しているのが伝わってくる。口腔で、ドクッ、ドクッと脈打ち、逞しさを増していくのだ。 大きく深く息を吐き出した鷹津が、和彦の頭を撫
無茶をして痛い目を見るのは、鷹津だ。そう思いもしたのだが、ふと和彦の脳裏に、店で秦から聞かされた話が蘇る。この瞬間、なぜか和彦はうろたえ、ちらりと視線を上げる。 いつもオールバックにしている鷹津の癖のある髪が、少し乱れていることに気づいた。 和彦は乱闘を見ることはなかったが、それでも、男たちの殺気立った様子や、店の惨状を目の当たりにして、想像力を働かせるぐらいはできた。そして、鷹津のこの怪我だ。 秦から聞いた話を胸の内に仕舞ったままにはできず、和彦は自分から切り出した。「――……あんた、ぼくを助けたらしいな」 鷹津は一瞬真顔となったあと、ニヤリと笑う。「そういう言い方をされると、仮に違ったとしても、そうだ、と答えるしかないな」「秦から聞いたんだ。ぼくが座っていたソファに男が突っ込んでこようとして、あんたが庇ってくれたと。この傷、そのときに負ったんだろう」「俺が側にいて、お前に怪我させるわけにはいかん。長嶺にどれだけ胸糞の悪い嫌味を言われるかわからんしな」「そんなこと――」「切りつけられたとき、咄嗟にこう思ったんだ。この傷は、お前に高く売りつけられる、ってな」 一瞬にして和彦の顔は熱くなる。そんな反応を知られたくなくて鷹津を睨みつけるが、見せつけるような舌なめずりで返された。そのうえ、傷口を縫合している最中だというのに、鷹津の左手に膝を撫でられた。「怪我をしたから、セックスもダメとか言うなよ。傷口が開こうが、俺は今夜、お前をおとなしく帰すつもりはないからな」 いっそのこと処置室を飛び出してしまいたかったが、傷はまだ半分しか縫えていない。和彦を守るために、鷹津が負った傷だ。「……あんたは、頭がおかしい」 率直に和彦が洩らすと、鷹津は楽しげに喉を鳴らす。「そんな男を番犬に飼ってるんだ。大変だな、お前も」「あんたが言うな」 鷹津に急かされながら、なんとか縫合を終えると、ガーゼを当ててしっかりと包帯を巻く。すぐに和彦は立ち上がると、ナイロン袋に交換用の包帯にガーゼ、痛み止めを詰め込み、鷹津に押し付ける
ここで鷹津が顔を歪める。平然として話しているようだが、やはり切りつけられたばかりの傷が痛んでいるのだ。和彦はタオルをそっと外し、出血が止まりつつあることを確認する。「自分でしっかりとタオルを押さえておいてくれ。新しいタオルをもらってくる」 そう言い置いて、ちょうど電話を終えた秦の元へと行く。和彦に気づき、秦は表情を曇らせた。「すみません、先生。こんな騒ぎに巻き込んで……。今、長嶺組の本宅に連絡を入れましたので、すぐに迎えの車が来ると思います」「ぼくのことは気にしなくていい。それより――」 和彦はそっと、ホールの男たちを見る。襲撃してきた男たちは三人とも、両手足を縛り上げられたうえに、口にはタオルを押し込まれていた。それを、組員たちが仁王立ちで見下ろしている。「長嶺組に任せましょう。わたしはとにかくここを、明後日には内装工事の業者を入れられる状態にしないと」 自分が襲われかけたというのに、危機感に欠けた口調で秦が話す。だからこそ、この男が見た目通りの優男ではないと、実感していた。ヤクザに囲まれて生活しながら、ヤクザではないという点で、和彦と秦は似ているが、比較にならないほど秦の抱える闇は深い。「それで先生、鷹津さんは?」「あっ、そうだ。タオルをもう二、三枚もらえないか? あの傷だと、縫わないといけない。病院に……と言いたいが、あの刃物傷なら、包丁で切ったとも言い訳できない。刑事だとなおさら、大事にできないだろうしな」「ということは、先生のクリニックに?」 和彦は、タオルを捲って傷を確認している鷹津を見遣り、ため息をついて頷く。「仕方ない。現場にいた以上、放っておけない」「わたしからも、お願いしますよ。なんといっても、鷹津さんがいたおかげで、わたしのせいで先生が怪我をする事態を避けられたんですから」 秦の言葉に、和彦は首を傾げる。すると秦は、思いがけないことを教えてくれた。「男の一人が、先生が座っていたソファに、ナイフを構えて突っ込んでいこうとしたんですが、寸前で鷹津さんが庇った。怪我は、そのとき揉み合ったせいです」
和彦の周囲を流れていた空気が一気に凍りつき、目の前に座っている秦が顔を強張らせる。そこまでを認識したときには、世界が一変した。 寸前まで隣に座っていた鷹津がいつの間にか立ち上がり、体が震えるような怒声を発する。テーブルの上の食器を掴んだかと思うと、ホールの中央に向かって投げつける。同時に秦がテーブルを乗り越えながら、スーツのジャケットから何かを取り出す。ちらりと見えた銀色の冷たく輝く刃が、和彦の網膜にしっかりと焼きついた。「佐伯っ、伏せてろっ」 鷹津に怒鳴られて、ぐいっと頭を押さえつけられる。和彦はソファの上に倒れ込んだが、そのまま体が硬直し、動けなくなった。 その間、鼓膜に突き刺さるようなガラスの割れる音と、重々しい衝撃音が響き、そこに男たちの罵声や、威嚇する声が入り乱れる。ずいぶん長い間続いていたような気がするが、もしかすると一分ほどのことだったかもしれない。とにかく和彦は、身動きどころか瞬きもできず、ただ、壁を凝視していた。「――生きてるか」 再び頭上から鷹津の声がする。ハッと我に返った和彦は、大きく息を吸い込む。すぐには身動きができないでいると、正面に回り込んできた秦に顔を覗き込まれた。店内がただならぬ状況にあったのは、秦のまだ強張った顔を見ればわかった。「怪我はないですか、先生?」 そう問いかけられて、手を差し出される。秦の手を取って体を起こそうとした和彦だが、男の怒声が聞こえて、大きく身を震わせ、怯える。秦がようやく微笑を浮かべ、耳元で囁いた。「もう大丈夫ですよ。押さえましたから」 和彦はぎこちなく体を起こし、背後を振り返る。凄惨ともいえる光景が、そこにはあった。 ホールの床の上に見たこともない男たち三人が倒れていた。一人は完全に気絶しており、もう一人は腕を抱えてのたうち回ろうとして、護衛の組員に肩を踏みつけられている。残る一人は、うつ伏せの姿勢で必死に顔を上げ、何かを喚いている。起き上がれないのは、もう一人の組員が背に座り込み、しっかりと腕を捻り上げているからだ。 食器や酒瓶の破片が床に散乱しており、さらには点々と血が落ちている。それを見てドキリとした和彦は慌てて、秦や組員たちの様子を確認したが、一見し
ちなみに、この店には現在、和彦を除いて三人の男がいる。秦と、和彦の護衛としてついている長嶺組の組員が二人だ。客もいないというのに、護衛の男たちは離れたテーブルにつき、和彦と同じように寿司を摘みながら、お茶を飲んでいる。秦はグレープフルーツジュースで、アルコールを飲んでいるのは、和彦だけだ。 賢吾が大げさに吹き込んだのかもしれないが、これではまるで、和彦の機嫌取りのためだけに、酒宴が設けられたようなものだ。「……ぼくだけが飲んでいると、申し訳ないんだが……」「大丈夫です。もうそろそろ、先生につき合える人が来るはずですよ」 えっ、と声を洩らした和彦に、気障ったらしく秦がウインクしてくる。 秦が誰を指して言ったのかは、十分ほどして判明した。 なんの前触れもなく店に入ってきた人物を見るなり、和彦より先に、護衛の組員が反応して立ち上がる。殺気立つことはなかったが、敵意に近い警戒心を露わにする。少し遅れて、和彦も立ち上がった。 黒のソリッドシャツにジーンズという、見慣れた格好をした鷹津が、ふてぶてしい表情でこちらを見て、ニヤリと笑う。蛇蝎の片割れに例えられる男らしい、嫌な笑い方だ。「どうして……」「――わたしが、声をかけたんですよ」 和彦が洩らした言葉に、秦が応じる。怪訝な顔をすると、座るよう促されたので、思わず従ってしまう。すると、当然のように鷹津が隣にドカッと腰を下ろし、和彦の肩に手をかけてきた。「ようやく捕まえたぞ、佐伯」 鷹津の傲慢な物言いに、反発を覚えた和彦は睨みつける。ついでに、秦も。「二人揃って、ぼくに対する嫌がらせか?」 鷹津は鼻先で笑い、秦はとんでもないといわんばかりに肩をすくめた。「鷹津さんは、わたしの店の常連ですよ」「ホストクラブのほうじゃないぞ。俺は、男に興味はない」 わざわざ念を押した鷹津を、和彦はもう一度睨みつける。嫌な男だ、と心の中で呟いたが、もしかすると声に出ていたかもしれない。和彦がどれだけ毒づこうが、鷹津の図太い神経に小さな傷すらつけられないだろう。
鷹津の背に爪を立てた和彦は、何げなく視線を窓のほうに向ける。いつの間にか日は落ち、夜の闇に街並みの人工的な明かりが浮かび上がっていた。ここで和彦は、自分が昼から何も食べていないことを思い出す。「先日といい、あんたと寝ると、空きっ腹を抱えたままになる」「今から、ルームサービスを頼んでやろうか?」 ニヤニヤと笑いながら鷹津が言い、ぐうっと内奥深くを突き上げてきた。和彦は唇を噛んで顔を背ける。痺れるような快感が、腰から這い上がってくる。こうなると、答えは一つしかなかった。「――あとで、いい……」*
「最近、お前にナメられてるだけじゃないかって気がしてきた……」「そんなことないよ。――甘えさせてよ、先生」 浴衣の襟元が開かれ、露わになった胸元に千尋の熱い息遣いを感じる。次の瞬間、千尋の舌に胸の突起を探り当てられ、吸い付かれた。「あっ」 千尋に強く突起を吸われながら、布団の中で浴衣をたくし上げられたかと思うと、下着を引き下ろされる。尻を痛いほど揉まれて、たまらず和彦は小さく呻き声を洩らした。 ようやく顔を上げた千尋と唇を触れ合わせる。「……本当は、ぼくを甘えさ
「あれだけベッドの中でいろいろ話したのに、まだ俺に聞きたいことがあるのか」「……あんたは、どうでもいいことしか言ってない。役に立ちそうなことは何も言ってないだろ。――秦のことだ」 鷹津は大仰に驚いた表情を見せた。「あの色男がどうした?」「今のあんたなら、秦が何者なのか、もうわかっているんだろ。あんたが、秦絡みの件で動くとしたら、多少は事情を聞いたはずだ」「あいつのことを知ってどうする」 口元に薄笑いを浮かべながらも、鷹津の眼差しは鋭かった。その眼差しに気圧されたわけではないが、和彦は咄嗟に
「だから、その気はないと言ってるだろ」「オンナの言い分を聞いてくれるうちは、まだいいが、長嶺は蛇みたいな男だぞ。……そのうち、お前の言うことなんて無視して、押さえつけてでも入れるかもしれない」 のっそりと和彦の背に覆い被さってきた鷹津が、肌を舐め上げてくる。まだ情欲が冷めていない和彦は、心地よさに身を震わせた。「あんたなら、刺青を入れた〈女〉を抱いたことがあるだろ」「ああ。ヤクザとは無縁の、興味本位で入れたっていう若い女だ。……あんな体じゃ、普通の男は腰が引けて逃げ出すな。今頃は本当に