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第18話(5)

Auteur: 北川とも
last update Dernière mise à jour: 2026-03-03 20:00:33

 急かされた和彦は、反射的に小走りとなる。後部座席のドアが開けられ、無防備に車に乗り込んだが、次の瞬間、物騒な気配を感じて総毛立った。

 ぎこちなく隣に視線を向けると、なぜか南郷がいた。和彦が目を見開くと、南郷は凄みを帯びた笑みを向けてくる。

 驚きのあまり一声も発せないうちに、車は静かに発進した。

「――怪我をしたのは、俺の隊の人間だ」

 唐突に南郷が切り出す。

「総和会はでかい組織だが、だからこそ、内部での小さないざこざはよくある。そりゃまあ、十一の組から、それぞれの組の意向を受けて出向いている人間がいるんだ。対立する組同士、表向きは総和会の看板を背負っていても、自分たちの組のために少しでも利益を得ようとする。あんたと仲のいい中嶋のように、自分がかつていた組のことなんて、すっぱり切り捨てられる人間のほうが珍しい。だからこそ、あいつは遊撃隊が似合っている」

「どうしてです?」

 思わず問いかけると、南郷はニヤリと笑った。

「オヤジさんは第二遊撃隊を、総和会内の跳ね返りたちの抑えとしても使っている。総
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  • 血と束縛と   第18話(5)

     急かされた和彦は、反射的に小走りとなる。後部座席のドアが開けられ、無防備に車に乗り込んだが、次の瞬間、物騒な気配を感じて総毛立った。 ぎこちなく隣に視線を向けると、なぜか南郷がいた。和彦が目を見開くと、南郷は凄みを帯びた笑みを向けてくる。 驚きのあまり一声も発せないうちに、車は静かに発進した。「――怪我をしたのは、俺の隊の人間だ」 唐突に南郷が切り出す。「総和会はでかい組織だが、だからこそ、内部での小さないざこざはよくある。そりゃまあ、十一の組から、それぞれの組の意向を受けて出向いている人間がいるんだ。対立する組同士、表向きは総和会の看板を背負っていても、自分たちの組のために少しでも利益を得ようとする。あんたと仲のいい中嶋のように、自分がかつていた組のことなんて、すっぱり切り捨てられる人間のほうが珍しい。だからこそ、あいつは遊撃隊が似合っている」「どうしてです?」 思わず問いかけると、南郷はニヤリと笑った。「オヤジさんは第二遊撃隊を、総和会内の跳ね返りたちの抑えとしても使っている。総和会の和を乱す人間は、身内であろうが容赦しない。そういう懲罰的意味合いで、俺たちは駆り出される。でかい組織をまとめ上げるには、どうしたって荒っぽい力が必要だ。俺は、その力を振るうにはちょうどいい。所属していた組はもうないから、しがらみがないんだ」 南郷の説明通りなら、確かに中嶋には、第二遊撃隊はお似合いだ。いままでのつき合いから和彦は、中嶋が自分が属していた組に対して、忠誠心も執着心もないことは感じていた。あくまで、ヤクザとして出世するための過程の一つなのだろう。「そういう集団だから、厄介事を片付けたときには、怪我人も出る場合がある。今回がそうだ」 今話題に出た中嶋のことが心配になったが、すかさず南郷が付け加えた。「中嶋は、今回は待機組だ」 露骨に安堵して見せるわけにもいかず、そうですか、と淡々と応じた和彦だが、もう一つ気になったことがある。警戒しつつ、慎重に南郷をうかがう。「――……そちらの事情はわかりましたが、どうして、あなたが車に?」「大事な部下を診てくれる先生を、俺が

  • 血と束縛と   第18話(4)

     内奥深くを抉るように突き上げられ、上体を捩りながら身悶える。「あっ、あっ、い、ぃ――。三田村、三田村っ」 ふいに内奥から、逞しい欲望が引き抜かれた。和彦の胸元から腹部にかけて、生暖かな液体が散る。三田村の精だ。 快感の心地よい余韻に浸りながら和彦は、自分の胸元に指先を這わせて、三田村の欲望の残滓をいとおしむ。そんな和彦の様子を、三田村は食い入るように見下ろしていた。 いつの間にか、携帯電話の着信音は止んでいた。「早く、かけ直さないと……」 呼吸が落ち着くのを待ってから、和彦は声をかける。すぐにベッドを下りるかと思った三田村だが、ティッシュペーパーを何枚か取ると、和彦の体の汚れを拭おうとする。「自分でやるっ」 和彦は慌てて三田村の手を止め、ティッシュペーパーを奪い取った。「ぼくはいいから、電話してくれ。若頭補佐の仕事を邪魔したなんて噂になったら、ぼくが困る。……確かに、邪魔したのはぼくだが……」 ぼそぼそと呟くと、しっかり耳に届いたらしく、三田村が短く噴き出す。 スウェットパンツを穿いただけの姿で三田村がテーブルに歩み寄り、和彦は向けられた後ろ姿を目で追いつつ、手早く後始末をする。本当はバスルームに駆け込むのが一番だが、下肢に力が入らない。それにできることなら、電話のあと、また三田村とベッドの上で睦み合いたかった。 だが和彦の願いは、三田村の電話の応対を聞く限り、無理なようだ。 体を起こした和彦が髪を掻き上げたとき、ちょうど電話を終えて振り返った三田村と目が合う。「……先生、すまない、今の電話は――」「ぼくに、仕事が入ったんだろ」「総和会からだ」 ベッドを下りようとした和彦は動きを止める。眉をひそめつつ、三田村に問いかけていた。「最近、総和会からの仕事が多くないか?」「総和会が面倒を見ている医者は、何人かいる。俺が思うに、その医者に回していた仕事が、先生に回ってきているんじゃないか。……総和会なりの

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     この部屋に泊まったとき、習慣のように体を重ねているが、与えられる感覚に慣れる気配はまったくない。いつでも和彦は、三田村の感触を新鮮に感じ、適度に緊張もしていた。まるで、つき合い始めたばかりの恋人同士のように。 三田村が一度繋がりを解き、促されるまま和彦は仰向けとなる。ようやく三田村と向き合い、抱き合えると思ったが、和彦が両腕を伸ばす前に三田村に足を抱え上げられ、性急に再び繋がる。「ああっ」 和彦が喉を反らして声を上げたときには、大きく腰を突き上げられ、とっくに蕩けた襞と粘膜を強く刺激される。身を捩りたくなるような快感に、下肢どころか、瞬く間に全身を支配されていた。「――……先生」 顔を覗き込んできた三田村に唇を吸われ、無意識に甘えるような声を洩らす。深く唇が重なると、夢中で口づけを貪る。和彦は両腕を三田村の背に回そうとしたが、それは許されなかった。 三田村に両手を握られて、ベッドに押さえつけられる。そのまましっかりとてのひらを重ね、指を絡め合っていた。「あっ、あっ、あっ……うぅ。んっ、んうっ」 三田村の激しい律動に腰が弾み、声が洩れる。いつもならしっかりと三田村にしがみつくところを、両手をベッドに押さえつけられているせいで、もどかしさが奇妙な高揚感へと変わる。その高揚感は、和彦の感度を確実に高めていた。「三田村っ……、早く、撫で、たい――」 口づけの合間に和彦が訴えると、三田村が微かな笑みを唇に刻む。次の瞬間、握り合っていた手が離れ、すぐに和彦は三田村の背に両腕を回してしがみつく。すると、それを待っていたように、三田村にきつく抱き締められて体を起こされた。「うあっ」 三田村の腰を跨いだ姿勢で、繋がったまま向き合う。三田村に腰を掴まれた和彦は緩やかに揺さぶられ、自らも腰を前後に動かしていた。舌を絡め合いながら、自分の狂おしい欲望を果たすように、三田村の背を ――虎の刺青を撫で回す。和彦の手の動きに興奮を煽られているのか、三田村の体は燃えそうに熱い。もちろん、和彦の内奥深くに収まったものも。「先生…&

  • 血と束縛と   第18話(2)

    「雑炊用のご飯も用意してあるから、たくさん食べてくれ」「それは夜食で食べたい」「――先生の望み通りに」 久しぶりに聞いた三田村のその言葉に、胸が詰まった。長嶺組と関わり、裏の世界に引きずり込まれた頃から、三田村はずっと和彦の側にいて、和彦の望みを叶えてくれた。そして今は、さらに身近にいてくれる。 鍋を囲んで他愛ない話をしていると、会話の自然な流れで、次はいつ、こうしてゆっくりできるだろうかという話題になる。「二月半ばぐらいに、二日続けて休みが取れるとありがたいが……」 和彦の椀に、お手製のポン酢を注ぎ足しながら、ぽつりと三田村が洩らす。「二月の半ばって、何かあるのか?」 和彦の問いかけに、軽く目を見開いたあと、三田村は照れたような笑みをこぼした。「……先生は、見かけによらず世俗的なイベントには淡白だな。そんなイベントを意識しているヤクザというのも、恥ずかしい話なんだが」 三田村の口ぶりでやっと、二月の半ばにどんなイベントがあるのか思い出す。自分が淡白であることは認めるが、だからといって和彦は、世間の空気が読めないわけではないのだ。ただ二月は、和彦にとって大事――というわけではないが、意識するたびに微妙な気持ちになる日がある。 豆腐を箸で掬い上げながら、つい苦々しく唇を歪める。和彦の様子に気づいたのか、三田村が表情を曇らせた。「先生……?」 我に返った和彦は、わざと意地の悪い表情で三田村に話しかける。「まじめな若頭補佐が、どうしてバレンタインを意識するようになったのか、実に興味がある」「俺は別にまじめじゃ――。組の若い奴らが話していたのを、たまたま聞いたんだ。そうじゃないなら、俺も思い出さなかった。……いや、違うな。先生と知り合う前なら、聞いたところで、気にも留めなかったし、俺には無縁だったはずだ」「ふーん。まあ、そういうことにしておこう」 和彦の返事に、三田村は楽しげに顔を綻ばせる。今このタイミングが最適だと思ったわけではないが、知らない顔もできない

  • 血と束縛と   第18話(1)

    ****「――先生、今晩は何が食べたい?」 ショッピングセンターを並んで歩いていると、突然三田村が、大事なことを思い出したような顔で問いかけてきた。しかも、真剣な口調で。 休みが取れた三田村とともに必要なものを買いに来たのだが、献立は人任せなところがある和彦は、面と向かってこう問われると、けっこう悩む。 目を丸くしたあと、なんでもいいと言いかけて、思いとどまる。実は先日、テレビでたまたま観てから、なんとなく気になっているものがあったのだ。「なんでもいいのか?」 和彦が問い返すと、頷いた三田村の目が一際優しくなる。もっとも和彦以外の人間が見れば、いつもの無表情との違いに気づかないかもしれない。「……鍋が、いい」 鍋、と小さな声で三田村が反芻し、何か思案するように軽く眉をひそめる。「ちゃんこにすき焼き、しゃぶしゃぶ。この場合、湯豆腐も鍋料理に入れていいのか……。なんにしても、ちょっと調べたら、鍋料理を食わせてくれる店はいくらでも――」「そうじゃない。外で食べたいわけじゃなくて、部屋で食べたい。……いままで、人と鍋を囲んだことがないんだ。それで、この間テレビを観ていて、ちょっといいなと思って……」 なんだか言い訳めいたことを言っているなと、和彦は自分自身の行動に、内心で苦笑を洩らす。相手が三田村でなければ、口が裂けても言えないわがままだ。そんなこと、と笑われても不思議ではないのだが、三田村が浮かべたのは、どこか嬉しげにも見える淡い微笑だった。「先生の貴重な経験を、俺が作った鍋で済ませていいのかな」「キッチンで包丁を握っているあんたを見るのは好きだ」 三田村は、困惑気味に視線をさまよわせながら、口元を手で覆う。もしかすると、有能な若頭補佐なりの照れ隠しなのかもしれない。「あまり……俺の腕に期待しないでくれ。そう器用になんでも作れるわけじゃないんだ」「鍋って、適当に材料を切って、水と一緒に放り

  • 血と束縛と   第17話(51)

     賢吾の手が柔らかな膨らみへと伸び、中嶋に見せつけるように手荒く揉みしだかれる。和彦はたまらず甲高い声を上げて、上体を捩ろうとしたが、動きを封じるように内奥深くを突き上げられた。「あっ、ああっ、はあっ、はっ……」 身悶える和彦と、果敢に攻め立ててくる賢吾の姿を、中嶋は食い入るように見つめていた。熱に浮かされたような目には、嫌悪の色は微塵もない。賢吾もそれがわかっているのだろう。まるで中嶋を試すように言った。「抵抗があるなら、外で待っていてもいいぞ」 すると中嶋はふらりと足を踏み出し、間近まで歩み寄ってくる。そして、畳に両膝をついた。「――……ここで、見ています。すごく、興味があります」「好きにしろ」 腰を掴まれて揺り動かされ、内奥を逞しいもので掻き回される。卑猥な湿った音が室内に響き渡り、そこに和彦の乱れた息遣いが重なる。 押し寄せてくる快感と、中嶋に正面から見つめられているという激しい羞恥に、和彦は惑乱する。いっそのこと意識を手放してしまいたいが、皮肉なことに、内奥を突き上げてくる衝撃が意識を繋ぎとめる。「うっ、あっ、あっ……ん、んあっ」「ここもどうなっているか、興味があるだろ」 そう言って賢吾に片足を抱え上げられて、繋がっている部分を中嶋に晒してしまう。あまりの羞恥に息が詰まりそうになるが、和彦の体は気持ちとは裏腹に、見られることに歓喜していた。「うちの先生は、いいオンナだろ。もともと素質はあったが、性質の悪い男たちが開発しちまった。その男たちが、先生に骨抜きにされてるんだから、一番性質が悪いのは――」 喘ぐ和彦の耳元で、賢吾がそっと囁きを注ぎ込んでくる。和彦はのろのろと振り返り、賢吾と唇を吸い合う。その最中に賢吾の手に促されて二度目の精を放ち、少し遅れて、賢吾の熱い精を内奥深くで受け止めた。「はっ……、んっ、んっ、くぅ……」 和彦の体から一気に力が抜けると、つられたように中嶋も大きく息を吐き出した。いつの間にか顔が上気しており、一見してハン

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