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第23話(23)

Auteur: 北川とも
last update Date de publication: 2026-04-04 17:00:53

 里見に連絡をするのは最初で最後だと心に決めていたが、事情は変わった。今の生活を守るために、という綺麗事を言うつもりはない。自分の身の安寧のために和彦は、里見を利用することにした。

 もしかすると、この理由すら建前で、賢吾に隠れて里見と連絡を取る理由を欲しているだけなのかもしれないが、和彦の中で、感情はあくまで混沌としている。だからこそ、直感で動いたのだ。

 記憶を辿りながら番号を押した途端、心臓の鼓動が速くなる。

 呼び出し音の回数を数えるまでもなく、里見はすぐに電話に出た。

『――公衆電話という表示を見た瞬間、胸がときめいたよ』

 開口一番の里見の言葉に、緊張で顔を強張らせていた和彦はつい笑ってしまう。

「電源を切られなくてよかったよ」

『そんなこと……するはずないだろう』

 わずかな間沈黙が訪れたが、気を取り直したように里見が提案してきた。

『君が住んでいるところは、ネット環境は整ってないのか? ネットが使えるなら、いくらでもやり取りの手段はある。少なくとも
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  • 血と束縛と   第43話(45)

    「お前の手を煩わせる必要はない。俺が連れて行く」 南郷がこちらに向けて手を差し伸べてきたが、皮肉交じりの冷たい声で御堂が応じる。「オンナの扱いを一番わかっているのは、わたしだ。お前に、今の彼を傷つけずに側にいることができるのか?」「……今日はもう、敷地から出ないでくれ、先生。明日からは、うちの車でクリニックに送迎する。本当は休んでもらうのが一番いいんだがな」 和彦は俯いたまま返事をしないでいると、御堂に促されて建物に向かう。 南郷がどんな顔をしているか、振り返って確認する気にはなれなかった。** ベッドに腰掛けた和彦は、ふうっと息を吐き出す。守光がオンナである自分のために用意した部屋ではあるが、それでもなんとかひと心地はつける。 一緒に部屋に入った御堂は、軽く室内を見回したあと、冷蔵庫を指さした。「何か飲むかい?」「えっ、ああ、すみませんっ……。御堂さんはそこのソファに座ってください。お茶ぐらい入れますから――」「いいよ。押し掛けてきたのはこちらだから」 二神とは二階で別れて、御堂だけで和彦を部屋に連れてきてくれたのだ。正直、この部屋を他人に見られるのは抵抗があったため、この配慮はありがたかった。御堂も他人ではあるが、和彦と感覚を共有できる唯一の人物でもあるのだ。 勝手に使わせてもらうよと言いながら、御堂は冷蔵庫からオレンジジュースの瓶を取り出し、グラスに注ぐ。さらにエアコンをつけてくれた。 グラスを手渡された和彦は、一気にオレンジジュースを飲み干す。やけに甘みが強く感じられ、こんな味だったかなとぼんやりしていると、手からグラスが滑り落ちそうになる。すかさず御堂が受け止めた。「心底疲れ切ってるね」 御堂の言葉に曖昧に微笑み返す。隣に腰掛けた御堂が、改めて室内を見回し、苦々しい口調で洩らした。「業者が入っていたのは把握していたけど、四階の一角がこんなふうになっていたとはね。まさに破格の扱いだ。本格的に君を囲い込む気なんだな。長嶺会長は」「……ぼ

  • 血と束縛と   第43話(44)

    「……わたしのことはいい。総和会から一方的に、佐伯くんを預かると連絡があって、長嶺組長――賢吾がおとなしく引き下がるとは思わなかったんだろう。だから、総本部から離れられないようにしたんだな。突然、臨時総会の開催を通知して呼び出しておいて、数回の予定変更。幹部の誰に探りを入れても、長嶺会長の居場所を把握していなかった。個人的な所用のため、現在地は教えられないという伝言のみで。今の総和会で、長嶺会長のその言葉を受けて、あえて居場所を探ろうとする者は、佐伯くんが、長嶺会長と一緒にいると確信を持っている賢吾ぐらいだ」「そして、その長嶺組長から相談を受けたお前と、か?」「わたしは……、今朝まで動けなかった」「隊の態勢が整うまでは、何かと雑事に煩わされるだろう。なんなら、うちから人手を貸してやってもいいが」 御堂は返事の代わりに、切りつけるような眼差しを南郷に向けた。「――何を企んでいる。南郷」 南郷は緩く首を動かす。「臨時総会の内容は耳に入っているんだろ?」「年明け、お前に新しい肩書きがつくと……。統括参謀とは、大層な役職を作ったものだな。ただ、わざわざ臨時総会として人を招集する必要はなかった。長嶺会長個人の裁量で行った人事なら、用紙一枚の告知で済んだはずだ」「うるさ型が多いからな、手順を踏むのは必要だ。何事も。肩書きについては……、地面を這いずり回って泥臭い仕事をし続けた俺に報いたいと、オヤジさんから言ってくださった。そして――」 南郷が意味ありげに和彦を見つめてくる。 守光は、南郷の働きに報いるために、自分のオンナである和彦を与えた。そういう形を取った。 いまさらながら、その事実が重く肩にのしかかる。和彦が微かに唇を震わせると、南郷がぞっとするほど優しい声をかけてきた。「顔色が悪いな、先生。寒いのか?」 肩を抱かれそうになり、短く声を上げた和彦はダウンジャケットごと南郷の手を払いのけ、御堂のもとに駆け寄っていた。すかさず庇うように引き寄せられる。自分でも理解できない本能的な行動に、心臓が壊れ

  • 血と束縛と   第43話(43)

    **** 車中から総和会本部の建物が見えてきても、和彦に驚きはなく、また動揺すらしなかった。別荘を出発して、まっすぐ長嶺の本宅に送り届けてもらえるとは、最初から期待していなかったのだ。 体にかけていた毛布を畳み始めると、助手席に座っている南郷が振り返る。「起きたのか、先生。よく眠っていた。さすがに疲れたんだろう」 こちらを気遣う言葉に、和彦の体はカッと熱くなる。二人きりであったなら、誰のせいだと声を荒らげていたかもしれない。しかしハンドルを握る人間がおり、何より今の和彦には、南郷相手に会話ができるほどの体力も気力もなかった。すべて、その南郷に奪い尽くされた。 和彦の精が搾り取られた一方で、南郷の精を注ぎ込まれたのは、ほんの数時間前だ。いよいよ和彦が湯にのぼせて気を失いかけると、南郷に抱えられて浴場を連れ出されてから、脱衣場で獣のように這わされ、欲望を受け入れさせられた。 南郷は執拗で、念入りだった。 麻痺していた屈辱感が蘇り、いまさらながら涙が滲み出そうになる。和彦は手の甲で目を擦ると、乱暴に息を吐き出す。悄然としている余裕はなかった。ようやく返してもらった携帯電話は不在着信で埋め尽くされており、メールも届いていた。移動中に一件ずつ確認しようと思っていながら、結局、疲労感から眠ってしまったのだ。 本部で与えられている部屋に入ったら、何を置いても賢吾に連絡を取らなければならない。冷静に話せる自信はまったくないが、無事であることは知らせておきたかった。それは、オンナとしての義務だ。 なんと切り出せばいいのだろうかと考えるだけで、指先が冷たくなっていく。さらに南郷が話しかけてきたが、耳に入らなかった。 車が駐車場に入って停まると、すぐに南郷が降りて、後部座席のドアを開ける。片手が差し出され、その手と南郷を交互に見た和彦は、邪険に押し退けようとしたが、あっさり手首を掴まれる。半ば引きずり出されるようにして車を降りた。 時間はすでに夕刻に近く、空が赤く染まり始めている。寒さにブルッと身震いすると、別荘から持ってきたダウンジャケットを肩からかけられた。「さっさと中に入ろう。あんた

  • 血と束縛と   第43話(42)

     頭の芯がドロドロと溶けていくようだった。それだけではなく、体の奥も熱いものでこじ開けられ、掻き回されて、容赦なく解されていく。南郷の欲望を深々と根本まで呑み込まされたとき、和彦はぐったりとして、厚い胸板にもたれかかるしかなかった。「……あんたの中が、悦んでる。ヒクヒクと震えながら、俺のものにしゃぶりついてる」 南郷に耳元で囁かれながら、背筋に沿っててのひらを這わされる。身震いしたくなるような被虐的な愉悦に、和彦は上擦った声を洩らしていた。「求めてくる男に弱いな、先生。組長も、面倒な檻を作ってでも、あんたを逃すまいとするはずだ。……あんたみたいなのは、外に出しちゃいけない。〈俺たち〉で大事にしてやらないと」 和彦の中で脈打つものが、痛みと肉欲のうねりを交互に生み出し、緩やかに一つに混ざり合っていく。気がつけば、南郷の肩に手をかけるだけとなっていた。待ちかねていたようにまた、百足が身を潜める脇腹へと手を導かれた。 引っ掻こうとして、寸前で躊躇する。結局、てのひらを押し当てていた。内奥で、南郷のもう一つの分身が蠢く。「うあぁっ――……」 和彦が上げた声は、自分でもわかるほど切ない響きを帯びていた。南郷が気づかないはずもなく、会心の笑みを浮かべる。和彦がよく知る、攻撃的に歯を剥き出しにするいつもの笑みとは、まったく違っていた。 南郷が腰を揺すりながら、和彦の首筋を舐め上げてくる。その最中、さきほどより強く歯を立てられた。噛みつくというほど激しいものではなく、痛みはない。ただ、肌に食い込む歯の硬さはしっかりと認識できた。この瞬間、内奥がきつく収縮する。「こうされるのが好きなのか?」 そう言って南郷が、もう一度首筋に歯を立てた。肩先にも。 南郷は、自分という存在を和彦に刻み付けているようだった。もしかすると、所有の印のつもりなのかもしれない。 わずかに反発心が芽生えたが、震える欲望を握り締められると、呆気なく砕け散る。和彦は、はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら、天井を仰ぎ見た。目の前で光が点滅しており、ときおり意識が遠のきかける。仰け反り、このま

  • 血と束縛と   第43話(41)

     もっとも太い部分を呑み込まされたとき、浅い呼吸を繰り返しながら、なんとか下腹部に力を入れまいとする。求め合ったうえでの行為なら、相手への身の委ね方は知っている。しかし、今は違う。体が緊張で強張り、和彦自身を苦しめようとするのだ。 南郷も何かを察したようだった。「初めてみたいな反応だな、先生。昨夜はこんなんじゃなかっただろ。もっと俺に身を任せてくれ」「い、や、です……」 背後で南郷が笑った気配がした。繋がり、ひくつく部分に指が這わされ、擦られる。和彦はビクッと腰を震わせた。「あんたはいい加減、理解するべきだな。あんたが反抗したり、強がりを言うたびに、俺が興奮するってことを。それとも、わざとなのか? それがオンナの手管だとしたら、俺は見事に引っかかったというわけだが」 腰を掴んだ南郷が、一層深く欲望を押し込んできた。一旦動くのを止めると、和彦の緊張している下腹部にてのひらを這わせてくる。「この辺りに、昨夜あんたの中に出したものがまだ残ってるかもな。オヤジさんと、俺の分」 ゾクッと寒気とも疼きとも取れる感覚が、背筋を駆け抜ける。このとき意識しないまま、内奥でふてぶてしく息づく南郷の欲望を締め付けていた。「あんたをオンナにしてる男たちは、そうやって自分の存在を馴染ませてきたんだろ。強引な長嶺組長に最初は反発心を抱いていたはずのあんたも、今じゃすっかり従順だ。俺の場合は、あと何回――」 露骨な言葉を聞かされながら、両足の間に手が差し込まれ、欲望を掴まれる。いつの間にか和彦のものは熱くなり、身を起こしていた。「嫌、だ……」「そうか? あんたの体は違うみたいだ。俺のものに吸い付いて、締まり始めてる」 内奥を突き上げられると同時に、湯が大きく波打つ。和彦は背をしならせ、必死に湯舟の縁にすがりついていた。なんとか耐えようとしたが、膝は震え、爪先に力が入らない。そんな状態が南郷にも伝わったようだった。「もうのぼせたか、先生?」 内奥から欲望を引き抜いて、揶揄するように南郷が問いかけてくる。和彦はズルズルと座り込み、俯いた顔をそのまま湯につけそうに

  • 血と束縛と   第43話(40)

    「しっかり撫でろ」 傲慢に命じた南郷に再び唇を塞がれる。嫌悪感から呻き声を洩らした和彦だが、それだけでは逃れることはできない。苦しさから息を喘がせたときには、口腔に南郷の舌が入り込んでいた。 感じやすい粘膜を舐め回されながら、唾液を流し込まれる。和彦が小さく喉を鳴らすと、柔らかな膨らみをまさぐる南郷の指の動きが変わった。脅すためではなく、和彦の官能を刺激するために、巧みに弱みを攻め始めたのだ。堪らず爪先を突っ張らせる。「うっ、うっ……、そこ、やめ――……」「なら、ここか、先生?」 次に南郷が興味を示したのは、昨夜守光に犯された欲望の先端だった。指の腹で強く擦られたあと、じわりと爪を立てられる。和彦は短く悲鳴を上げ、反射的に百足を引っ掻いていた。次の瞬間、南郷が激高するのではないかと、和彦は心底震え上がる。 相手は、自分に情を注いでくれる男たちとは違うのだ。 和彦の反応に、南郷は目を眇める。「俺の言葉は信用できないか? 何度でも言うが、あんたに手を上げたり、声を荒らげることは絶対にしない。――約束する」「だったら、やめてください。放して、ください……」「それはできない。俺の誠意を受け取る代わりに、あんたにはオンナとしての役割を果たしてもらわないとな」 和彦は返事の代わりに、今度はしっかりと百足に爪を立てる。それこそ食い込むほど。痛痒も感じていない様子で南郷は続けた。「俺の誠意なんていらない、というのはなしだ。あんたももう、この世界の男たちのやり口はわかってるだろ。俺たちは恩着せがましくて、悪辣だ。目的のためなら、善悪なんて糞くらえという人種なんだ。それでもあんた相手には、ずいぶん優しくしている」 この瞬間、南郷に対して抱いた強烈な畏怖や嫌悪感には、覚えがあった。かつて、和彦の堅気としての生活を奪った賢吾に対して、抱いたものと同じだ。横暴で傲慢で理不尽で、しかし和彦には抗う力もなく――。 かつての賢吾のやり方を踏襲しているようではないかと、和彦は瞬きも忘れて南郷の顔を凝視する。 唇を啄みながら南郷が言った

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