เข้าสู่ระบบ和彦と賢吾の妖しい雰囲気を感じ取ったはずだろうが、かまわず南郷は、砂利を踏む派手な足音を立てて側までやってくる。
「ご挨拶が遅くなりました、長嶺組長」 南郷は大きな体を折り曲げるようにして、深々と頭を下げる。賢吾は、ゾッとするほど冷ややかな眼差しを南郷に向けていた。 和彦は、静かで穏やかだった場の空気が一瞬にして張り詰めたことを、肌で感じ取る。敵意や悪意といったあらかさまなものではないが、抜き差しならぬ何かが二人の男の間を行き来していた。「新年の挨拶のとき以来か、南郷。オヤジによく尽くしてくれているようで、息子として礼を言う。――花見の席で、オヤジがお前を連れ歩いている姿を見ていると、まるでお前のほうが、本当の息子のようだった」 傍で聞いているほうがヒヤリとするようなことを賢吾が言う。南郷がようやく頭を上げ、賢吾に負けず劣らず鋭い眼差しを向けてくる。陽射しの下で動き回っていたのか、浅黒い肌は汗で濡れていた。「野良犬同然だったわたしを、長嶺会長には過分なほど引き立てていただいています。ご恩に報いるために――」<クリニックを出て少し歩いたところで、走ってきた車が和彦の数メートル先でぴたりと停まる。この瞬間、少しだけ期待したのだが、すぐに失望する。迎えの車は、総和会のものだった。 別荘から戻った日から、和彦は総和会本部に滞在している――正確には、滞在させられている。当然、クリニックでの勤務中、外で待機していたのは総和会からつけられた護衛だ。二つの組織の間でどんなやり取りが交わされたのか、今に至るまで、長嶺組の人間は影すら見せない。 総和会が遠ざけているのか、長嶺組が身を引いたのか、和彦には知りようがなかった。それというのも、誰も教えてくれないからだ。 知る限りの長嶺組の組員たちの携帯電話に連絡し、総和会とはどういう状態になっているのか尋ねてはいるが、言葉を濁される。本当に何も知らされていないのか、隠しているのか、問い詰める術を和彦は持たない。 肝心の賢吾はというと――。 つい立ち止まってしまうと、急かすように短くクラクションを鳴らされる。和彦は憂鬱なため息をつき、仕方なく車に乗り込んだ。 ハンドルを握る人物に気づき、あっ、と声を洩らす。「先生、ドアを閉めてください」 中嶋から澄ました声をかけられ、機械的に従ったあとで、和彦は顔をしかめた。シートベルトを締めると同時に車が発進し、ひとまず座席に体を預ける。仕事で疲れているところに、不快な感触で神経を撫で上げられたようだ。 そう、本部に滞在し始めてから、ずっと和彦は不快なのだ。「……南郷さんに言われたのか?」 低い声音で問いかけると、中嶋は軽く肩を竦める。「違うと言ったところで、信用しないでしょう」「ぼくが塞ぎ込んでいるから、手っ取り早く機嫌を取りたいと考えたんだろう」「塞ぎ込んでいるんですか?」 バックミラーに映る中嶋の目元が、柔らかな笑みを滲ませる。それを見た和彦は、八つ当たりしたいところを寸前で踏みとどまったものの、内心では怒りと苛立ちが込み上げてくる。 クリニックで忙しく立ち働いている間は、余計なことを考えなくて済むのだ。しかし、こうして総和会の車に乗り込んで、自分にとってのもう一つの現実に身を置く
「……ぼくは、そこまで思い切れません。長嶺の男たちに庇護されて、賢吾さんの作った檻の中で、いろんな男たちと情を交わしていただけで……。御堂さんに軽蔑されるかもしれませんが、ぼくには大層な覚悟なんてなかった。ただ、力のある男たちに身を委ねて、自分が必要とされる感覚に満足できていたんです」「軽蔑なんてしない。まっとうな人生を奪われても、君はしたたかに生きている。流されているだけだと言うかもしれないが、まったく無縁だった物騒な世界に放り込まれても、自分を保っているんだ。誇れとは言わないが、少なくとも卑下はしないでくれ」 御堂が腰を浮かせ、空になったグラスをナイトテーブルに置く。このとき、灰色がかった髪がさらりと揺れ、視線が吸い寄せられる。触れてみたいなと、ふと和彦は思い、そんな自分に戸惑った。 座り直した御堂がこちらを見て、首を傾げる。その姿は、総和会という巨大な組織の中にいて、屈強な男たちの一団を率いているようには見えない。痩せてはいるが決してひ弱そうではないし、触れるのをためらわせる冷たさをときおり覗かせる。こんな御堂を守りたいと思う男は、きっと一人や二人ではないだろう。 驕っているわけではないが、和彦にも、自分を守ろうとしてくれる男たちがいる。和彦が打ちのめされるのは、そんな男たちの足手まといになりかねない己という存在に対してだ。 なんとかしたいのに、足掻くことすらできない――。 御堂が驚いたように目を丸くする。「頼むから、泣かないでくれ。あとで、賢吾がこのことを知ったら、わたしが責められる」「いえ……、泣いてないです。悔しいのか悲しいのか、よくわからなくなっただけで……。本当に、いろいろ、あって――」 感情の高ぶりで熱くなった自分の頬を軽く叩くと、御堂にその手を取られる。間近に顔を寄せられ、和彦は目が逸らせなくなった。「あの……?」「前にわたしは、君は自分に執着していないと言ったが、少し変わったかもしれないね。男たちが大事にしてくれる自分自身を惜しむ気持ちが出てきたというか…&
「お前の手を煩わせる必要はない。俺が連れて行く」 南郷がこちらに向けて手を差し伸べてきたが、皮肉交じりの冷たい声で御堂が応じる。「オンナの扱いを一番わかっているのは、わたしだ。お前に、今の彼を傷つけずに側にいることができるのか?」「……今日はもう、敷地から出ないでくれ、先生。明日からは、うちの車でクリニックに送迎する。本当は休んでもらうのが一番いいんだがな」 和彦は俯いたまま返事をしないでいると、御堂に促されて建物に向かう。 南郷がどんな顔をしているか、振り返って確認する気にはなれなかった。** ベッドに腰掛けた和彦は、ふうっと息を吐き出す。守光がオンナである自分のために用意した部屋ではあるが、それでもなんとかひと心地はつける。 一緒に部屋に入った御堂は、軽く室内を見回したあと、冷蔵庫を指さした。「何か飲むかい?」「えっ、ああ、すみませんっ……。御堂さんはそこのソファに座ってください。お茶ぐらい入れますから――」「いいよ。押し掛けてきたのはこちらだから」 二神とは二階で別れて、御堂だけで和彦を部屋に連れてきてくれたのだ。正直、この部屋を他人に見られるのは抵抗があったため、この配慮はありがたかった。御堂も他人ではあるが、和彦と感覚を共有できる唯一の人物でもあるのだ。 勝手に使わせてもらうよと言いながら、御堂は冷蔵庫からオレンジジュースの瓶を取り出し、グラスに注ぐ。さらにエアコンをつけてくれた。 グラスを手渡された和彦は、一気にオレンジジュースを飲み干す。やけに甘みが強く感じられ、こんな味だったかなとぼんやりしていると、手からグラスが滑り落ちそうになる。すかさず御堂が受け止めた。「心底疲れ切ってるね」 御堂の言葉に曖昧に微笑み返す。隣に腰掛けた御堂が、改めて室内を見回し、苦々しい口調で洩らした。「業者が入っていたのは把握していたけど、四階の一角がこんなふうになっていたとはね。まさに破格の扱いだ。本格的に君を囲い込む気なんだな。長嶺会長は」「……ぼ
「……わたしのことはいい。総和会から一方的に、佐伯くんを預かると連絡があって、長嶺組長――賢吾がおとなしく引き下がるとは思わなかったんだろう。だから、総本部から離れられないようにしたんだな。突然、臨時総会の開催を通知して呼び出しておいて、数回の予定変更。幹部の誰に探りを入れても、長嶺会長の居場所を把握していなかった。個人的な所用のため、現在地は教えられないという伝言のみで。今の総和会で、長嶺会長のその言葉を受けて、あえて居場所を探ろうとする者は、佐伯くんが、長嶺会長と一緒にいると確信を持っている賢吾ぐらいだ」「そして、その長嶺組長から相談を受けたお前と、か?」「わたしは……、今朝まで動けなかった」「隊の態勢が整うまでは、何かと雑事に煩わされるだろう。なんなら、うちから人手を貸してやってもいいが」 御堂は返事の代わりに、切りつけるような眼差しを南郷に向けた。「――何を企んでいる。南郷」 南郷は緩く首を動かす。「臨時総会の内容は耳に入っているんだろ?」「年明け、お前に新しい肩書きがつくと……。統括参謀とは、大層な役職を作ったものだな。ただ、わざわざ臨時総会として人を招集する必要はなかった。長嶺会長個人の裁量で行った人事なら、用紙一枚の告知で済んだはずだ」「うるさ型が多いからな、手順を踏むのは必要だ。何事も。肩書きについては……、地面を這いずり回って泥臭い仕事をし続けた俺に報いたいと、オヤジさんから言ってくださった。そして――」 南郷が意味ありげに和彦を見つめてくる。 守光は、南郷の働きに報いるために、自分のオンナである和彦を与えた。そういう形を取った。 いまさらながら、その事実が重く肩にのしかかる。和彦が微かに唇を震わせると、南郷がぞっとするほど優しい声をかけてきた。「顔色が悪いな、先生。寒いのか?」 肩を抱かれそうになり、短く声を上げた和彦はダウンジャケットごと南郷の手を払いのけ、御堂のもとに駆け寄っていた。すかさず庇うように引き寄せられる。自分でも理解できない本能的な行動に、心臓が壊れ
**** 車中から総和会本部の建物が見えてきても、和彦に驚きはなく、また動揺すらしなかった。別荘を出発して、まっすぐ長嶺の本宅に送り届けてもらえるとは、最初から期待していなかったのだ。 体にかけていた毛布を畳み始めると、助手席に座っている南郷が振り返る。「起きたのか、先生。よく眠っていた。さすがに疲れたんだろう」 こちらを気遣う言葉に、和彦の体はカッと熱くなる。二人きりであったなら、誰のせいだと声を荒らげていたかもしれない。しかしハンドルを握る人間がおり、何より今の和彦には、南郷相手に会話ができるほどの体力も気力もなかった。すべて、その南郷に奪い尽くされた。 和彦の精が搾り取られた一方で、南郷の精を注ぎ込まれたのは、ほんの数時間前だ。いよいよ和彦が湯にのぼせて気を失いかけると、南郷に抱えられて浴場を連れ出されてから、脱衣場で獣のように這わされ、欲望を受け入れさせられた。 南郷は執拗で、念入りだった。 麻痺していた屈辱感が蘇り、いまさらながら涙が滲み出そうになる。和彦は手の甲で目を擦ると、乱暴に息を吐き出す。悄然としている余裕はなかった。ようやく返してもらった携帯電話は不在着信で埋め尽くされており、メールも届いていた。移動中に一件ずつ確認しようと思っていながら、結局、疲労感から眠ってしまったのだ。 本部で与えられている部屋に入ったら、何を置いても賢吾に連絡を取らなければならない。冷静に話せる自信はまったくないが、無事であることは知らせておきたかった。それは、オンナとしての義務だ。 なんと切り出せばいいのだろうかと考えるだけで、指先が冷たくなっていく。さらに南郷が話しかけてきたが、耳に入らなかった。 車が駐車場に入って停まると、すぐに南郷が降りて、後部座席のドアを開ける。片手が差し出され、その手と南郷を交互に見た和彦は、邪険に押し退けようとしたが、あっさり手首を掴まれる。半ば引きずり出されるようにして車を降りた。 時間はすでに夕刻に近く、空が赤く染まり始めている。寒さにブルッと身震いすると、別荘から持ってきたダウンジャケットを肩からかけられた。「さっさと中に入ろう。あんた
頭の芯がドロドロと溶けていくようだった。それだけではなく、体の奥も熱いものでこじ開けられ、掻き回されて、容赦なく解されていく。南郷の欲望を深々と根本まで呑み込まされたとき、和彦はぐったりとして、厚い胸板にもたれかかるしかなかった。「……あんたの中が、悦んでる。ヒクヒクと震えながら、俺のものにしゃぶりついてる」 南郷に耳元で囁かれながら、背筋に沿っててのひらを這わされる。身震いしたくなるような被虐的な愉悦に、和彦は上擦った声を洩らしていた。「求めてくる男に弱いな、先生。組長も、面倒な檻を作ってでも、あんたを逃すまいとするはずだ。……あんたみたいなのは、外に出しちゃいけない。〈俺たち〉で大事にしてやらないと」 和彦の中で脈打つものが、痛みと肉欲のうねりを交互に生み出し、緩やかに一つに混ざり合っていく。気がつけば、南郷の肩に手をかけるだけとなっていた。待ちかねていたようにまた、百足が身を潜める脇腹へと手を導かれた。 引っ掻こうとして、寸前で躊躇する。結局、てのひらを押し当てていた。内奥で、南郷のもう一つの分身が蠢く。「うあぁっ――……」 和彦が上げた声は、自分でもわかるほど切ない響きを帯びていた。南郷が気づかないはずもなく、会心の笑みを浮かべる。和彦がよく知る、攻撃的に歯を剥き出しにするいつもの笑みとは、まったく違っていた。 南郷が腰を揺すりながら、和彦の首筋を舐め上げてくる。その最中、さきほどより強く歯を立てられた。噛みつくというほど激しいものではなく、痛みはない。ただ、肌に食い込む歯の硬さはしっかりと認識できた。この瞬間、内奥がきつく収縮する。「こうされるのが好きなのか?」 そう言って南郷が、もう一度首筋に歯を立てた。肩先にも。 南郷は、自分という存在を和彦に刻み付けているようだった。もしかすると、所有の印のつもりなのかもしれない。 わずかに反発心が芽生えたが、震える欲望を握り締められると、呆気なく砕け散る。和彦は、はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら、天井を仰ぎ見た。目の前で光が点滅しており、ときおり意識が遠のきかける。仰け反り、このま