Home / BL / 血と束縛と / 第9話(29)

Share

第9話(29)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-12-18 11:00:40

「いえ……、今夜は貸切だと説明しても、入れてくれとおっしゃるお客様が見えられているのですが、佐伯先生のお知り合いだと――……」

 ピンとくるものがあり、まさかと思いながら賢吾を見る。賢吾は、今にも人を食らいそうな、剣呑とした笑みを浮かべた。

「いいじゃねーか。俺の顔を立てて、入れてやってくれ」

 賢吾の言葉を受け、秦はすぐにボーイに指示を出す。

 案の定、姿を見せたのは、鷹津だった。相変わらずのオールバックに無精ひげだが、今夜はスーツを着ていた。

 肩越しに振り返りながら鷹津を確認した賢吾は、短く声を洩らして笑う。

「千客万来ってやつか?」

「……あんたが言える台詞じゃないだろ」

 呟きで応じた和彦は、こちらに向かって歩いてくる鷹津を見据える。先日、鷹津から与えられた屈辱は、和彦の胸の奥で傷となってジクジクと痛んでいた。

 一方、事情がわからない様子の秦だったが、先日、自分が腹を殴った男が現れたことで、いくら
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 血と束縛と   第37話(7)

     痛みを感じるほど乱暴に揉みしだかれ、腰が震える。暴力的な行為に怯えながらも和彦は、促されるままに大きく足を開き、どんな愛撫でも受け入れるという姿勢を見せる。賢吾の指先は的確に弱みを探り当て、打って変った優しい手つきで刺激してきた。 和彦は、賢吾の下で身をくねらせ、息を弾ませる。「ここも、弄られたか?」「そこは……、ない。怖い、から――」「慣れた男に弄られるのが一番か?」 涙が滲んだ目で賢吾を睨みつけると、軽く唇を吸われた。「お前の機嫌は取らない。むしろ俺のオンナとして、しっかり仕置きをしないとな」 囁かれた途端、どうしようもなく体が疼いた。和彦は小さく喘いで答えた。「それでも、いい……」** ようやく玲の愛撫の痕跡が消えた体に、賢吾は容赦なく吸いつき、歯を立てていく。到底、愛撫と呼べるものではなく、和彦はときおり痛みに声を上げ、本能的に逃れようとすらしたが、がっちりと押さえ込まれる。「ひっ……」〈オンナ〉には必要ないとばかりに、最初のうちに欲望をしっかりと紐で縛められていた。賢吾はときおり指の腹で先端を擦り上げると、すぐに興味を失ったように、今度は執拗に柔らかな膨らみを揉みしだき、弱みを攻める。 和彦は甲高い悲鳴を上げ、全身を戦慄かせる。刺激の強さに惑乱し、賢吾の肩を押し上げようとしたが、それが気に食わなかったのか、いきなりうつ伏せにされて、後ろ手に浴衣の紐で手首を拘束された。 無造作に腰を抱え上げられたところで、一旦賢吾の体が離れた。「――お前をどうやって仕置きしてやろうかと考えて、いろいろと準備しておいた。誰も彼も甘やかして咥え込む淫奔な尻には、特に念入りに躾をしてやりたいしな」 ピシャリと尻を叩かれたあと、冷たい潤滑剤が秘裂に垂らされる。さらに、指によって内奥にも施され、よく解されないまま、熱く硬い感触がいきなり挿入されてきた。「ううっ、うっ、うっ、うくっ……」 苦しさと痛さに呻き声を洩らした和彦は、必死に

  • 血と束縛と   第37話(6)

    「ふむ。長年のつき合いがあるというのに、秋慈はどうやら、お前とのほうに友誼を感じているようだ。電話で聞いたが、お前と誰かがいい感じだなんて、一切教えてくれなかったぞ。薄情な奴だと思わないか?」 どこか嘲りも含んだ賢吾の物言いに、和彦はふと、料亭で守光から言われた言葉を思い出す。『オンナ同士、相性がいいのかもしれんな』 賢吾も同じようなことを言うのだろうかと、和彦は強い眼差しを向ける。それに気づいた賢吾が、こめかみに唇を寄せてきた。「冗談だ。お前が久しぶりに穏やかな表情をしているから、妬けたんだ」「……誰に?」 ひそっと和彦は囁きかける。賢吾は短い言葉の意味を即座に理解したらしく、目を細めた。後ろ髪を掴まれたため、和彦はわずかに顔を仰向かせる。「悪いオンナだ。――秋慈以外の誰が、お前を慰めてくれたんだ」「慰めじゃない。求めてくれたんだ」 怖い男の両目を、怯みそうになりながらも和彦は見つめ続ける。賢吾は淡々とした口調でこう言った。「浮気相手を見つけ出して、いろいろと切り落としてやるか」 和彦は短く息を吐き出すと、賢吾の挑発に乗った。「――あんたが言ったんだ。遊びは許す、と」「これまでの経験で、さんざん骨身に染みたと思ったんだがな。ヤクザの言うことを信用するなってことは」 和彦自身、玲に言ったことだ。なんとか不安や怯えを表情に出すまいと踏ん張っていたが、この瞬間、すがるように賢吾を見つめてしまう。 賢吾が首筋に顔を寄せ、じわじわと歯を立ててきた。このまま皮膚どころか肉まで食い千切られるのではないかと、硬い歯の感触に怖気立ったが、同時に和彦の胸の奥で熱いものがうねった。この行為が、賢吾の強い執着心を表していると、よくわかっているからだ。「賢吾……」 思わず呼びかけると、首筋をベロリと舐め上げられる。「本当に、性質の悪いオンナだ。浮気を許可してすぐに、相手を見つけ出して、咥え込んで。どうせ、相手の男も骨抜きにしたんだろ」 誰だ、と低い声で問われる。物騒な響きを帯びたバリトンに、甘

  • 血と束縛と   第37話(5)

     南郷が、御堂の過去を露骨に口にするのは、そうすることで辱めているつもりなのだろうか。ふと、そんなことを考えたあと、嫌な男だと、和彦は心の中で呟いておく。「――……伊勢崎さんには、お会いしました」「今は伊勢崎組を率いているんだったな。俺自身は、本人と顔を合わせたことはないんだが。なかなかのやり手だそうだ。組自体はそう大きくはないが、何しろシンパが多いらしい。今じゃ、北辰連合会では欠かせない男だとまで言われている」「詳しいんですね」 和彦の言葉に、南郷が派手な笑い声を上げる。「総和会で隊を任されている身だからな。情報収集も仕事の一つだ」「だったら、全国の組の情報をすべて把握しているんですか?」「いや、そこまでは。気になるところだけ、だな」 和彦は昨日知ったばかりの、伊勢崎組――というより龍造の動向が頭に浮かんだが、南郷に報告するつもりは一切なかった。情報収集が仕事だというのなら、いずれ南郷の耳に入るだろうし、もしかするとすでに把握しているのかもしれない。 心情としては、御堂の立場が悪くなるようなことはしたくなかったのだ。 余計なことは言うまいと心に誓った次の瞬間、南郷に問われた。「先生の、伊勢崎龍造の印象を聞いてみたいな」「印象ですか……。気さくな方でした」「他には?」「……いい父親という感じでした。息子さんをずいぶん可愛がっている様子で」 どういう意味か、南郷は軽く鼻を鳴らした。「南郷さん?」「極道も人の子。やっぱり血の繋がった我が子は、何より可愛くてたまらないんだろうな。……今のところ、これはあんたの子だと訴えてくる女もいない、独り者の俺には到底わからない感覚だ」 南郷の脳裏に浮かんでいるのは、伊勢崎父子のことだけではないだろう。 踏み込んではいけない南郷の闇に触れてしまったような気がして、和彦はブルッと身を震わせた。**** 湯から上がり、浴衣

  • 血と束縛と   第37話(4)

     守光の手が再び欲望にかかり、てのひらで擦り上げられる。ようやく欲望の高ぶりを覚え、おずおずと形を変え始めていた。引き出された舌を濡れた音を立てて吸われながら、欲望を扱く手の動きが速くなる。和彦は喉の奥から声を洩らし、ビクビクと腰を震わせていた。 先端がしっとりと濡れ始めると、一度愛撫の手が止まり、少し間を置いてから欲望がハンカチに包まれる。再び性急な愛撫を与えられ、和彦は上り詰める。 まるで、精を搾り取られたようだった。ハンカチに向けてわずかに精を吐き出したあと、荒い呼吸を繰り返す和彦を、守光は片腕で優しく抱き寄せる。「近いうちに、じっくりと時間を取ろう。あんたと相談したいこともあるしな……」 一体何をと、和彦が視線を上げると、守光は穏やかな微笑を浮かべていた。なんとなく臆した和彦は黙って頷く。 乱れた格好を整えている間に、車はある建物の駐車場へと入る。ここで、自分が乗ってきた車に戻るよう言われるのかと思ったが、守光が座っている側のドアが開いた。戸惑う和彦に、守光はこう告げた。「あんたはこのまま、マンションまで戻るといい。ちょうど護衛役に南郷もついている。誰に任せるより、わしも安心だ」 和彦が何も言えないうちに守光が車を降り、ドアが閉められる。再び車が走り始め、和彦は深く息を吐き出したあと、急いでシートベルトを締めた。 守光がいなくなった途端、車内にまだ淫靡な空気が残っているように感じ、和彦は黙ってウィンドーをわずかに下ろした。ひんやりとした風が吹き込んできて、熱くなっている頬を撫でる。 南郷がちらりと振り返る。和彦はハッとして、すぐにウィンドーを上げた。「……すみません。勝手に窓を開けて……」「どうやら、この間の襲撃のショックは回復できたようだな、先生。それともその無防備さは、俺たちの護衛に対する信頼の表れか?」 嫌なことを思い出し、和彦はそっと眉をひそめる。車で襲撃を受けた衝撃はもちろん忘れたわけではないが、その襲撃を仕掛けたのが守光ではないかという、御堂から注ぎ込まれた〈毒〉がまっさきに蘇ったのだ。 守光の計画を、南

  • 血と束縛と   第37話(3)

     さすがに、この申し出を断ろうとは思わなかった。 和彦が守光とともに店を出ると、三台の車が待機していた。総和会の護衛の男たちは辺りに鋭い視線を向けて警戒しており、二人の姿を見るなり、あっという間に整列して人の壁を作り出す。 促されるまま素早く車に乗った和彦だが、助手席に座っている男の姿を認めてドキリとする。後ろ姿であろうが見間違えるはずもない。南郷だった。 今晩は一緒だったのかと、和彦は横目でちらりと守光を見遣る。守光とは電話で話すこともあったが、南郷とは、車で襲撃を受けた翌日に、病院まで付き添ってもらったとき以来だ。 その南郷が振り返り、後部座席の二人に向かって一礼したあと、前方に向かって合図を送る。静かに車が走り出した。 車中は静かだった。無駄な会話は必要ないとばかりに、誰も口を開こうとしない。和彦は静かにシートに身を預けたまま、すっかり暗闇に覆われた外の景色に目を向けていたが、程なくしてピクリと体を震わせた。守光の手が、腿にかかったからだ。 まったく知らないふりもできず、ぎこちなく隣に目を向ける。いつからなのか、守光がじっと和彦を見つめていた。対向車のヘッドライトの明かりを受けるたびに、守光の両目だけがやけにはっきりと浮かび上がって見え、そこに潜む獣の気配を感じ取ってしまいそうだ。 守光の片手がスラックスの上から腿を撫で始める。和彦は、自分の従順さが試されているのだとすぐに理解した。そこに、懲罰的な意味も含まれているとも。 守光の意に沿わない行動を取ったと、和彦には当然自覚がある。鷹津のこと、清道会のこと、御堂のこと。何より、守光を避けてしまったこと――。 強張った息を吐き出した和彦は、何事もないように前に向き直る。守光の手は動き続け、腿の内側へと入り込み、促されるまま足をわずかに開く。 両足の中心にてのひらが押し当てられたとき、さすがに声が洩れそうになったが、寸前のところで堪える。敏感な部分を刺激されながら和彦が危惧したのは、玲との間にあった出来事を、守光に把握されているのではないかということだった。 誰かに見られたわけでもなく、唯一察していた様子の御堂も、あえて守光に報告するはずがない。「――何か、あったのか

  • 血と束縛と   第37話(2)

    「わしが顔を出すわけにもいかんし、名代を出しても、歓迎されるとも思わんかったので、花を贈らせてもらったんだが、そうか、体調が――……」 思うところがあるのかもしれないが、守光の表情からは一切何も読み取れない。しかし次の瞬間、和彦の視線に気づいたのか、薄い笑みを向けられた。「〈あちら〉では、たっぷりわしの所業を聞かされたかね?」「えっ、あっ、いえ、そんなこと……」「いずれは、あんたの耳にもいろいろと入るだろう。それを否定する気はないよ。わしは、総和会会長の座を手に入れるために、鬼になった。若い時分に世話になった相手ですら、追い落とした。そこまでしても、総和会を盤石の組織にしたかった。その先に、今以上の長嶺組の安寧があると思っている。賢吾ですら、まだ理解はしてくれんだろうが」 返事のしようがなくて和彦は口ごもる。総和会の頂点に立つ守光が、その組織について語るとき、力のうねりのようなものを肌で感じる。気圧され、自分ごときが軽々に意見など口にできないという気持ちになる。 和彦にはうかがい知ることのできない権力の構図と蠢きが、守光には見えているのだろう。まるで箱庭の中で、自由に人や物を配置し、排除し、完璧な景観を作り出そうとしているかのように。特別な場所に飾られているのは、間違いなく長嶺組だ。 景観を乱す存在は、どう扱われるかと想像して、和彦はそっと身を震わせる。つい、自分から切り出していた。「……ぼくが連休中、御堂さん――第一遊撃隊隊長のもとで過ごしたことを、不快に思われたのではないですか?」 守光の目に、鋭い光がちらつく。「オンナ同士、相性がいいのかもしれんな」 さらりと投げつけられた言葉に、カッと和彦の体は熱くなる。羞恥ではなく、屈辱感からの反応だった。しかも、御堂を侮辱されたと感じてのものだ。「元気のないあんたをなんとかできないかと思いながらも、わしを含めて皆が手をこまねいていた。そこに賢吾が、御堂秋慈に任せてみてはどうかと提案してきた。あんたと御堂が急速に親しくなっていることは、わしの耳にも報告は入ってはいたが、さて、と躊躇した。だが、

  • 血と束縛と   第11話(20)

     外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう

    last updateLast Updated : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第11話(22)

     さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自

    last updateLast Updated : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第9話(30)

    「俺を潰したいからなんて理由で、こいつに近づくなよ。大事な大事な、俺たちのオンナだ。お前みたいな下衆が近づいていいような、安い人間じゃない」「蛇みたいな男が、薄ら寒くなるようなことを言うな。……お前は、弱みを晒すような男じゃねーだろ。それとも、弱みを隠し切れないほど、そいつに骨抜きにされたか? 俺を失望させるようなことを言うなよ、クズどもの親玉ともあろう男が」「しばらく辛酸を舐めたようだが、相変わらず口汚いな、鷹津。そんなんじゃ、誰にも好かれんだろ。それこそ、女だろうが、男だろうが――」 急に賢吾の腕が肩に回され、抱き寄せら

    last updateLast Updated : 2026-03-25
  • 血と束縛と   第8話(33)

    ** 別れ際、玄関で秦に抱き締められてから、和彦は部屋をあとにした。 エレベーターの中で、もう二度と秦と会わないということはおそらく不可能だろうなと、ぼんやりと考える。秘密を共有してしまったということもあるが、秦との間に確かな結びつきができたことを実感していたのだ。 賢吾や千尋、三田村との間で生まれた結びつき――縁と、同種だ。肉欲と切っても切れない縁で、それはすぐに、情へと変化する。さすがに和彦も、それぐらいは学習していた。 複雑になった事態と人間関係を、自分はどうするつもりなのか、考えたくなかった。体も心も、秦から与え

    last updateLast Updated : 2026-03-24
More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status