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演技者

last update Last Updated: 2025-11-01 08:00:48

走りながら突き進む心と共に焦りも浮き彫りになる。

加速する心には冷静さなどと言うカケラなど見当たらない。

追い詰められる理委の姿は、私にしか見えない未来の予測図。

風樂は全てのカギを握る人物と言っても過言ではないだろう。

カランコロンとドアの音が鳴り響く。鈴の音が風樂が来たと言う合図でもある。

彼女はいつも大きめの鈴を鞄につけている。

お守りの一環としてね。

昔、私が彼女にプレゼントした美しい鈴を、まだ大事にしている事には驚きを隠せないけれど。

それも含め彼女は魅力的だと感じる自分がいる。

私には性別がない。

女でも男でも、もちろんその中間でもない特殊な人間と言う存在。

周りの人達が、その現実に気付く事はない。

私が気づかれないようにしているから、余計に無理だと思うよ?

性別を例えるなら、それは君達の頭の中で、妄想と言う形で、私を創ってもらいたいと願っている。

そういう提供をする事により、私は碧生として生きていく事が出来るのだから…。

幻想は果てない夢の続き。

君達の願いと共に、私は変化していく。

それが『碧生』なのだから…。

妄想の中で揺られる意識に逆らいながら、現実世界へと扉を叩き、揺り起こそうとするのは風樂だ。

彼女は、現実から逸脱した私の様子を不信がりながらも近づいてくる。

表情を見れば一発だから、唯一気づかないのは理委だけだろう。

私の正面には理委が座っている。そして理委のすぐ後ろには風樂が気配を消して、立っている。

どのタイミングで登場するべきなのかを考えているのか、私の瞳を見つめながら、目で合図を送る。

私は、理委に気付かれないように、少し目つきを変化させ、イスズを誘導する。

言葉の誘導ではなく、行動の誘導。

だから人間の瞳には力がある。行動を起こさせる程の力を持っているから。

それが『眼力』だろうと思うんだよ。

私達を包む空間が少し黒く染まりながらも、それ以上の暗闇を演出する事はない。

中途半端な空気感。それは私の為の空気の色。

ここはステージであり、私達は役者なのだから、これが出来て当然というものだろう。

『…碧生さん、どうしたんですか?』

そんな空気の変化に感受性の高い理委は身体を伝って感じ取る。

これは快楽の序章でもあり、理委が壊れ始める、破壊の音でもある。

その恐怖と現実に無意識に気づく理委を壊すのは実に勿体ない。

しかし、その感受性が時として私達の立場を崩していくのは確実。

そんな未来が簡単に見えてしまう自分は、もう狂ったサイコパスなのかもしれない。

そう思うのは私だけなのだろうか?

疑問は疑問のままで、真実を語ろうとしない。

永遠の問題なのかもしれない。

その空間を作る事により、理委の後ろに佇む、風樂の存在が際立っていく。

シナリオの形であり、個々の立場を確立させる為に、重要な土台作りでもある。

それもビジネスの土台と言ってもいいと考えている。

さて、演劇の始まりだ。

私…碧生と逃げ続ける理委、そして全てを立て直す風樂。

三人が三人とも違う演技者になる事で、物語は深みを増し、魅力的で幻想的な空間に仕上げる事が出来る。

無知な理委だけが利用されている現実が浮き彫りになるが、私達には関係のない事。

頭脳がグルグルと凄い回転で加速し、頭の中に映像を文が落ちてくる。

そして形のないシナリオが私の頭の中で形を作り出し、現実世界へと這い出てくる。

「あれ?碧生さん…それに理委さんも、久しぶりね」

そうやって理委の後ろから元気な、明るい声で呼びかけるのは風樂。

私が作り上げた重たい空間を潰す事により、風樂の存在が陽の方向へと転がり、理委はそちらに逃げ込む。

それが全ての策略とも知らずにね。

私は満面の笑みで答えるのだ。

「風樂…久しぶりだね、今君に連絡をしようとしていた所だったんですよ?」

口から走る言葉は、裏の自分の声なのかもしれない。

これで、下準備が出来た。

もう理委は、私達から逃げる事など出来ないのだから…

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