Mag-log inある日、大阪市内一体の携帯が一斉に鳴り、電話を取った全ての人間が石化する事件が起こった。石像たちは石化を免れた人々に襲い掛かり、あっと言う間に大阪市は石像によって制圧された。 難を逃れた藤原は、親友の健太郎たちと共に、市内に取り残された母と妹を救う為、市内に殴り込みをかける決意をする。 大阪を舞台にした、大阪人による闘いの記録。 B級映画を愛する栗須が書いた、突っ込みどころしかない馬鹿馬鹿しいコミックホラーです。 深く考えずに笑ってください。
view more―深夜。
煙草をくわえ、白い息を吐きながら。
男はモニターを見ていた。
モニターには、数万枚に及ぶ一人の男の写真データが、BGMと共に一枚ずつ映し出されていた。
彼の名は岩崎雄介、32歳。
数百年に渡って続いてきた、大阪市内の外れにたたずむ神社の一人息子である。
雄介の部屋には壁、天井と所構わず、モニターに映っている男の写真がびっしりと貼られていた。
その異様な空間の中、写真をみつめながら雄介は細い目を更に細め、満足気な笑みを浮かべていた。
* * *
雄介がおもむろに、携帯のスピーカーをONにして番号を入力した。
しばらく呼び出し音が続き、やがて男の声が聞こえてきた。
「はいもしもし」
雄介は何も言わない。
ただじっと耳をすまし、その声を聞いている。
「もしもし」
無言のまま電話を切ると、雄介は満足気な表情を浮かべ、再び白い息を吐いた。
* * *
写真を眺めながらベッドに横たわっていた雄介は、ふと喉の渇きを覚え起き上がった。
本堂に続く長い廊下を歩いていく。
ひんやりとした板の上を、素足でゆっくりと歩いていく。
窓から外を見ると、少し風が出ている様子だった。
枝が騒ぎ、葉の揺れる音が心なしか大きく感じられる。
そして。
いつも聞こえる虫の声が聞こえないのが、少し気にかかった。
その時だった。
「……」
本堂の方から、灯りが漏れているのに気がついた。
こんな時間に何を……雄介は好奇心にかられ、足をしのばせながら本堂の中を覗いた。
* * *
雄介の目に、白装束を身に纏い、大幣〈おおぬさ〉を振りかざし、一心不乱に呪を唱えている父、雄二の後姿が入ってきた。
父の前には、護摩〈ごま〉で焚かれた火が赤々と燃え盛っている。
父の向こうには、決して開けられる事のなかった観音開きの小さな祭壇が開けられていた。
子供の頃、一度その祭壇を開けようとして、父にひどく叱られた経験があった事を雄介は思い出した。
父は一体何をしているのだろう……雄介の目が祭壇に釘付けになった。
祭壇の中に祭られている御神体。
それは勾玉〈まがたま〉の形をした、真っ赤な水晶の様な物がついている首飾りだった。
生まれて初めてその御神体を目にした雄介の鼓動は高鳴り、喉が急激に渇いていった。
日ごろ温厚な父が大幣〈おおぬさ〉を振りかざし、鬼気迫る様子で一心に祈祷している。
その父の祈りが最高潮に達した瞬間だった。
幻覚……?
雄介がそう思うほど、一瞬の出来事だった。
護摩〈ごま〉で焚かれた炎がゆらめいたかと思うと、一気に立ち上ったのだ。
その炎が、何かを叫んでいる人の顔の様に見えた。
雄介は一瞬、体を貫かれたかの様な気持ちになった。
その感覚に恐怖し、目が見開かれた。
父は力尽きたかの様にうずくまり、肩で息をしている。
その異様な光景を前に、雄介の全身はじっとりとした汗に支配されていた。
雄介は震える足を奮い立たせ、その場から小走りに去っていった。
* * *
部屋に戻り、雄介は体を震わせながら布団に身を包んでいた。
しかし中々寝付く事が出来ない。
発泡酒と共に口にした精神安定剤も、今の雄介を落ち着かせることは出来なかった。
壁に貼られた男の写真を見つめ、動悸を抑えようとするが収まらない。
目を閉じると、あの炎で形作られた顔が浮かんでくる。
その幻像を打ち消そうとすればする程、鮮明に脳裏に浮かんできた。
雄介はあの炎に、恐怖の感情と共に、何かしら言い知れぬ安息感と力強さを感じていた。
否定すればする程、炎に魅了されている自分を感じた。
この震えは恐怖ではなく高揚なんだと、強く感じた。
やがていてもたってもいられなくなった雄介は、好奇心と惹かれる気持ちに背中を押されて起き上がり、再び本堂へと歩いていった。
* * *
父は既にいなかった。
広い本堂の中、小さな灯火を頼りに、雄介が恐る恐る祭壇に近付き、開き戸を開けた。
「……」
そこには先ほど見た、御神体が吊るされていた。
好奇心が彼を支配し、震える手でその御神体に触れようとする。
その時だった。
その御神体から、ひんやりとした妖気の様なものを感じ、雄介は慌てて手を引いた。
雄介が御神体を見つめる。
その真紅の勾玉〈まがたま〉は、自らが揺らめく様な妖しい光を発していた。
雄介は生唾を飲み込み、小さく息を吐いて御神体に触れた。
その時だった。
自分の中に何かが染み込んでくる様な感覚を雄介は覚えた。
―欲しい物をやろう―
一瞬、そんな声が聞こえた様な気がした。
雄介が驚いて辺りを見渡す。
しかし誰もいない。
本堂の中はひっそりと静まり返っていて、かすかに火のくすぶる音がしているだけだった。
雄介がもう一度、手にしたその御神体を見つめる。
―お前の欲しい物をやろう―
幻聴ではなかった。
御神体が自分に語りかけている。
雄介が確信を持った。
その真紅の勾玉〈まがたま〉は自らの意思を持っているかの様に、滑〈ぬめ〉る様に光を放っていた。
―手に入れてやる―
―手に入れてやろう!―
最早雄介はためらわなかった。
手に入れたいものがある。
たったひとつ、どうしても手に入れたい物がある。
静かにうなずいた雄介が、ゆっくりとその御神体を首にかけた。
その時。
雄介の体中に、言いようのない灼熱感が伝わってきた。
そして、まるで自分の細胞ひとつひとつが勝手に動き回っている様な、恍惚感にも似た刺激に支配された。
やがて雄介はがっくりとうなだれ、その恍惚感の中、意識がとぎれその場に崩れ落ちた。
* * *
どれくらい眠っていたのだろう。
しばらくして、ようやく妖しい眠りから覚めた雄介が目を開けると、そこには肩を震わせ自分を見下ろしている父、雄二がいた。
「ゆ、雄介……お前、何ということを……」
雄介が驚愕した。
しかしその心とは別に、強烈な衝動が体中に湧き上がってきた。
―殺せ!―
父の目に、雄介の姿が変貌していくのが映った。
それは最早我が子、雄介ではなかった。
勾玉〈まがたま〉が妖しげに光ったその時。
雄二が恐怖に目を見開いた。
結局坂口の案が通り、3人は徒歩で藤原宅を目指した。先頭の健太郎はショットガンを手に、体にクロスで巻いている散弾を突っ込み、前方から襲ってくる石像向けて発砲し道を作る。腰にはダイナマイトが巻かれ、囲まれた時にいつでも使用できるようにしていた。坂口は十字架を掲げ、「悪魔の下僕たちよ! 立ち去れ!」そう叫ぶ。そして近付いてくる石像にニンニクを投げつけていた。最後尾を任された藤原はベレッタを手に、石像の足を狙って動きを止める。そうしてる内にようやく、当初の予定であった東三国にたどり着き、物陰に隠れて一息入れた。「ふうううっ……」健太郎と藤原が、汗だくになった頭を振って汗を飛ばす。「おえ、ちょい一服や」「そやな」健太郎と藤原がそう言って、煙草に火をつけた。時計は12時になろうとしていた。「う~ん」坂口は腕を組み、うつむきながらうなっている。「坂口さん、どないかしはったんですか?」健太郎がそう聞くと、坂口は眉間に皺を寄せてぽつりとつぶやいた。「おかしい。十字架も……ニンニクも効かん……」「はぁ?」「このモンスターには何が効くんやろか……」健太郎が溜息を漏らした。
粉々になった石像の残骸の中、直美が鼻歌を歌いながら陽気に突っ走る。「ルンルルン♪ ルンルルン♪」目の前に二体の石像が現れ、直美の行く手を遮る。「おおおおりゃああああああああっ!」直美はすかさず一体の顔面に正拳の三連打をかまし、ひるんだ隙にもう一体の石像に蹴りを見舞った。ボロボロと石像たちが崩れていく。顔面のなくなった石像に、直美は飛び上がって胸目掛けて膝蹴りを食らわした。「楽勝楽勝!」狂喜に瞳を輝かせながら、直美がひた走る。いきなり建物の陰から現れた石像がタックルをきめ、直美がバランスを崩して倒れた。「やるやん、石像」ニタリと笑った直美が、すかさずエルボーを頬に叩き込む。顔面に亀裂が入り、直美を掴んでいた腕の力が緩んでくる。それを直美は見逃さず、膝を何度も腹にぶち当てた。最後に腕を掴んで力任せに握ると、何と腕が粉々に砕けた。「ふうっ」一呼吸入れ、直美が立ち上がる。「動きもとろいし分散してるし、そやけど叩き壊す時の手応えはしっかりあって……やっぱ最高やんか!さあ、ほんだらいてこましてみよか。一遍してみたかったもんね。試さんと絶対後悔しそうやし」そう言って直美が柔軟体操を始めた。そうしている内に、不気味なうなり声と共に新たな石像が現れた。
「分かった。直美ちゃんはフリーの方がええんやな」建物の陰に隠れ、5人が作戦を練り直していた。「当然やん。こんなん、ペア組んだら足引っ張られるん目に見えてるもん。さっきの二人見て、よぉ分かったわ」「ほんだら……俺は藤原、お前と組むわ」「おぉ」「ぼ、僕は?」本田が泣きそうな顔で聞く。「心配すんな、お前は坂口さんと組んだらええ」「う、うん……分かった……」「坂口さんは、それでいいですか」「ああええよ、何とかなるやろ。それよりな、ひとつ問題があるんや」「え……なんですか、問題って」「聖水がなくなってしもたんや。最初に景気よぉ使いすぎた」「は、はぁ……」その時、本田のポケットから携帯が突然なった。健太郎が頭を抱える。「おえ本田、お前何考えとんねん。こんな所に携帯持ってきて、何に使う気やねん」「うん。あのね、宏美ちゃんと連絡取り合うんに持っててん」本田が携帯を手にする。「アホやめとけ、罠や罠や」「大丈夫やって。ほら、画面にも『宏美ちゃん』って出てるやろ」健太郎が止める間もなく、本田が話し出した。「はいもしもし、宏美ちゃん?」
「おえ本田、もうすぐやさかいにな、左に寄っとけ。ほんでちょっとスピード落とせ。そろそろやで……おえ本田っ! 聞こえへんのか! スピード落とせっちゅうとるんや! 左に寄れっちゅうとるんや!」「本田」藤原が本田の顔を覗き込むと、本田は唇を異様に歪ませながら笑っていた。「うひっ……うひひひひっ」「おい健、あかんわ。こいつ、完全に頭飛んどる」「な、何やと……」「うひひひっ……だ、誰にも負けへんで……ぼ、僕が一番速いんや……」東三国の標識が見えてきた。しかし本田は車線を変える事なく、そのままアクセルを踏み倒す。あっと言う間に東三国を通過した。「あ、あかん、キレとる……おい健、こんまま行ったら梅田まで行ってまうぞ」「んなアホな……」健太郎が頭を抱えた。「こんなん、頭吹っ飛ばしたらしまいやんか」言うか言わないか、直美がSIGを本田の頭に向けた。健太郎が慌ててそれを止める。「何すんのよ健太郎、こうでもせんかったらこいつ、止まらへんやろ」「いやいや直美ちゃん、それは最後の手段にさせてくれ」「ほんだらどないすんのよ」