屁たれたちの挽歌

屁たれたちの挽歌

last update最終更新日 : 2026-03-10
言語: Japanese
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概要

アクション

コメディ

ホラー

毒舌

復讐

ある日、大阪市内一体の携帯が一斉に鳴り、電話を取った全ての人間が石化する事件が起こった。石像たちは石化を免れた人々に襲い掛かり、あっと言う間に大阪市は石像によって制圧された。 難を逃れた藤原は、親友の健太郎たちと共に、市内に取り残された母と妹を救う為、市内に殴り込みをかける決意をする。 大阪を舞台にした、大阪人による闘いの記録。 B級映画を愛する栗須が書いた、突っ込みどころしかない馬鹿馬鹿しいコミックホラーです。 深く考えずに笑ってください。

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第1話

001 プロローグ

―深夜。

煙草をくわえ、白い息を吐きながら。

男はモニターを見ていた。

モニターには、数万枚に及ぶ一人の男の写真データが、BGMと共に一枚ずつ映し出されていた。

彼の名は岩崎雄介、32歳。

数百年に渡って続いてきた、大阪市内の外れにたたずむ神社の一人息子である。

雄介の部屋には壁、天井と所構わず、モニターに映っている男の写真がびっしりと貼られていた。

その異様な空間の中、写真をみつめながら雄介は細い目を更に細め、満足気な笑みを浮かべていた。

* * *

雄介がおもむろに、携帯のスピーカーをONにして番号を入力した。

しばらく呼び出し音が続き、やがて男の声が聞こえてきた。

「はいもしもし」

雄介は何も言わない。

ただじっと耳をすまし、その声を聞いている。

「もしもし」

無言のまま電話を切ると、雄介は満足気な表情を浮かべ、再び白い息を吐いた。

* * *

写真を眺めながらベッドに横たわっていた雄介は、ふと喉の渇きを覚え起き上がった。

本堂に続く長い廊下を歩いていく。

ひんやりとした板の上を、素足でゆっくりと歩いていく。

窓から外を見ると、少し風が出ている様子だった。

枝が騒ぎ、葉の揺れる音が心なしか大きく感じられる。

そして。

いつも聞こえる虫の声が聞こえないのが、少し気にかかった。

その時だった。

「……」

本堂の方から、灯りが漏れているのに気がついた。

こんな時間に何を……雄介は好奇心にかられ、足をしのばせながら本堂の中を覗いた。

* * *

雄介の目に、白装束を身に纏い、大幣〈おおぬさ〉を振りかざし、一心不乱に呪を唱えている父、雄二の後姿が入ってきた。

父の前には、護摩〈ごま〉で焚かれた火が赤々と燃え盛っている。

父の向こうには、決して開けられる事のなかった観音開きの小さな祭壇が開けられていた。

子供の頃、一度その祭壇を開けようとして、父にひどく叱られた経験があった事を雄介は思い出した。

父は一体何をしているのだろう……雄介の目が祭壇に釘付けになった。

祭壇の中に祭られている御神体。

それは勾玉〈まがたま〉の形をした、真っ赤な水晶の様な物がついている首飾りだった。

生まれて初めてその御神体を目にした雄介の鼓動は高鳴り、喉が急激に渇いていった。

日ごろ温厚な父が大幣〈おおぬさ〉を振りかざし、鬼気迫る様子で一心に祈祷している。

その父の祈りが最高潮に達した瞬間だった。

幻覚……?

雄介がそう思うほど、一瞬の出来事だった。

護摩〈ごま〉で焚かれた炎がゆらめいたかと思うと、一気に立ち上ったのだ。

その炎が、何かを叫んでいる人の顔の様に見えた。

雄介は一瞬、体を貫かれたかの様な気持ちになった。

その感覚に恐怖し、目が見開かれた。

父は力尽きたかの様にうずくまり、肩で息をしている。

その異様な光景を前に、雄介の全身はじっとりとした汗に支配されていた。

雄介は震える足を奮い立たせ、その場から小走りに去っていった。

* * *

部屋に戻り、雄介は体を震わせながら布団に身を包んでいた。

しかし中々寝付く事が出来ない。

発泡酒と共に口にした精神安定剤も、今の雄介を落ち着かせることは出来なかった。

壁に貼られた男の写真を見つめ、動悸を抑えようとするが収まらない。

目を閉じると、あの炎で形作られた顔が浮かんでくる。

その幻像を打ち消そうとすればする程、鮮明に脳裏に浮かんできた。

雄介はあの炎に、恐怖の感情と共に、何かしら言い知れぬ安息感と力強さを感じていた。

否定すればする程、炎に魅了されている自分を感じた。

この震えは恐怖ではなく高揚なんだと、強く感じた。

やがていてもたってもいられなくなった雄介は、好奇心と惹かれる気持ちに背中を押されて起き上がり、再び本堂へと歩いていった。

* * *

父は既にいなかった。

広い本堂の中、小さな灯火を頼りに、雄介が恐る恐る祭壇に近付き、開き戸を開けた。

「……」

そこには先ほど見た、御神体が吊るされていた。

好奇心が彼を支配し、震える手でその御神体に触れようとする。

その時だった。

その御神体から、ひんやりとした妖気の様なものを感じ、雄介は慌てて手を引いた。

雄介が御神体を見つめる。

その真紅の勾玉〈まがたま〉は、自らが揺らめく様な妖しい光を発していた。

雄介は生唾を飲み込み、小さく息を吐いて御神体に触れた。

その時だった。

自分の中に何かが染み込んでくる様な感覚を雄介は覚えた。

―欲しい物をやろう―

一瞬、そんな声が聞こえた様な気がした。

雄介が驚いて辺りを見渡す。

しかし誰もいない。

本堂の中はひっそりと静まり返っていて、かすかに火のくすぶる音がしているだけだった。

雄介がもう一度、手にしたその御神体を見つめる。

―お前の欲しい物をやろう―

幻聴ではなかった。

御神体が自分に語りかけている。

雄介が確信を持った。

その真紅の勾玉〈まがたま〉は自らの意思を持っているかの様に、滑〈ぬめ〉る様に光を放っていた。

―手に入れてやる―

―手に入れてやろう!―

最早雄介はためらわなかった。

手に入れたいものがある。

たったひとつ、どうしても手に入れたい物がある。

静かにうなずいた雄介が、ゆっくりとその御神体を首にかけた。

その時。

雄介の体中に、言いようのない灼熱感が伝わってきた。

そして、まるで自分の細胞ひとつひとつが勝手に動き回っている様な、恍惚感にも似た刺激に支配された。

やがて雄介はがっくりとうなだれ、その恍惚感の中、意識がとぎれその場に崩れ落ちた。

* * *

どれくらい眠っていたのだろう。

しばらくして、ようやく妖しい眠りから覚めた雄介が目を開けると、そこには肩を震わせ自分を見下ろしている父、雄二がいた。

「ゆ、雄介……お前、何ということを……」

雄介が驚愕した。

しかしその心とは別に、強烈な衝動が体中に湧き上がってきた。

―殺せ!―

父の目に、雄介の姿が変貌していくのが映った。

それは最早我が子、雄介ではなかった。

勾玉〈まがたま〉が妖しげに光ったその時。

雄二が恐怖に目を見開いた。

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002 異変
  3年後。  * * * 「いい加減に出来んのか君は!」 大阪市内。オフィス街から少し離れた川沿いにある、「大沢商事」。 そこに勤務する藤原は、またいつもの事で課長から呼び出しを食らっていた。 説教が始まって10分。いつもの様に課長のボルテージは最高潮に達していた。 「どれだけ仕事が出来るのか知らんがな、君のその周囲に迎合しない態度は社の規律を乱すと言ってるんだ! いつもいつも好き勝手にルールを捻じ曲げて、一体何がしたいんだ君は!」 課長はそう怒鳴り、脂ぎった額から頭頂部をハンカチで一気に拭いた。 そしてぬるくなったコーヒーを飲み干すと、再び血走った目で藤原を見据えた。 「何度言えば君は携帯を持つんだ。今の時代、携帯を持っていない者なんてこの大阪市内でも君ぐらいのものだろうが。小学生でも持っとると言うのに、何を訳の分からんこだわりで持とうとしないんだね、ああんっ!」 ヒートアップしてきた課長は、辺りに唾を撒き散らしながら、恫喝にも近い言い草で藤原を攻め立てる。 それを涼しい顔でみつめながら、藤原がいつもの様に淡々と返す。 「ですから、勤務中の自分の居場所は常に報告してますし、帰宅しても家に固定電話があります。私が携帯を持たないことが会社に不利益を与えているとは、とても思えませんが」 「緊急の時と言うものがあるだろうが、社会人にはっ! 緊急の時、すぐに反応できる環境を整えておくのも社会人の責務だろうがっ!」 「緊急事態を作らない、と言う発想にはならないのですか? 確かに以前、課長が原因で先方
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004 銃撃戦
  「おえ! 本田っ! 出てこんかえっ! おるんは分かっとるんやぞっ!」  * * * 枚方市にある築50年の文化住宅、「青春荘」の二階。 電話はやばいとの合意の元、健太郎と藤原は車で直接、高校時代からの悪友である本田明の家に来ていた。 「だ、騙されへんぞ……お前ら石像人間なんやろ、絶対家には入れへんぞ……む、向こうに行けっ! 僕を怒らしたら怖いぞ!」 家の中から、本田の屁たれた声が聞こえる。 「おえ本田! 俺や、健太郎や! 藤原もおる! 大丈夫や、この辺にはまだ石像はおらん。ええからここを開けいっ!」 「う、嘘や、嫌や……向こう行け!」 本田の屁たれた声が、だんだんと泣き声に変わっていく。 「おえあかんわ、こんガキほんまにびびっとる。このクソ寒い中、アホみたいに外に立たしやがってからにこのボケ……こんままやったらきりない、管理人のとこ行ってマスターキーもろてきてくれ」 「分かった。そやけど健、言うとくけどキレるなよ」 「わぁっとるわぁっとる」 「ほんだらちょっと待っとけや」 そう言って藤原が、一階の管理人室に走っていった。 「そやのぉ……この窓叩き割ったらなんとか」 そう言って、健太郎が台所の小窓に顔を寄せた。 その様子を中から見ていた本田が、手にしたトカレフを躊躇なくぶっぱなした。
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005 ダークジェノサイト本田
  30分後。   「け、健ちゃんは石像人間より怖いわ……」 顔面血まみれの本田が、ぎこちない口調でそう言った。 藤原がその本田に気を配りながら、事の成り行きを話した。 しかし話が進むにつれ、本田の顔はまたまた蒼白となり、首を激しく振って拒みだした。 「い、嫌や嫌やっ! 僕、市内になんか行かへんよ、絶対行かへんよ!」 その言葉に、こめかみにバンドエイドを貼って藤原の説明を聞いていた健太郎が、荒々しく本田の胸倉を掴んで怒鳴りつけた。 「何ぬかしてけつかるんじゃわれはっ! 友達やろうがっ! 親友やろうがっ! おどれ、親友と家族の命がかかっとるんやぞっ! われの身ぃかばう時にはこんだけの事しくさっといて、何が嫌じゃボケっ! われ何か、親友の頼みが聞けんっちゅうんかっ!」 健太郎の唾が本田の顔中にかかる。 「そ……そんな事言うたって、ぼ、僕怖いもん……」 「お前には金玉ついとらんのかえっ!」 そう言って、本田の股間を鷲掴みにした。 「や、やめてやめて……潰さんといて……」 「……ったく、このふにゃけ男が……ぎゃあぎゃあぬかすなボケっ! お前も同志じゃっ! ええな、ついてくるんじゃ!」 自分より気合の入っていない男に対しては、健太郎は容赦がない。 組んでいた
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006 装備完了!
  10分後。   「おえ本田、お前を仲間に入れたったんは他でもない」 改めて健太郎が、やっと落ち着いた本田に向かって話を再開した。 藤原はまだ笑いのツボが取れきれず、時折肩を震わせていた。 「お前の持っとる銃や。あるだけ見せてみい。そん中で使えそうなやつを俺らが選ぶ」 「う、うん……」 本田が押入れの中から、大きなダンボールを引きずってきた。 箱を開けると、男なら誰もが憧れる金属とオイルの匂いが鼻をついた。 その匂いに、ようやく藤原も笑いのツボが取れ、好奇まじりの緊張感溢れる男の顔になった。 健太郎が手を入れ、無造作に物色を始める。 「なるほどなるほど、闇でトカレフは定番やのぉ……それと……何しろ石像と戦うんやからな、半端な武器では勝てん。もっとええもんは……おおっ、何やお前、ベレッタなんか持っとったんかえ」 「そやけどそれ、僕もまだ試射してへんやつばっかりなんやで。そんなんまで健ちゃんに渡さなあかんの」 「ひつこいやっちゃのぉお前は。何遍言うたら分かるねん。藤原の大事な大事な母ちゃんと妹を助ける為やないかえ。人助けにそんな訳の分からんこだわりは捨ててまえ」 「そやけど健ちゃんは、涼子ちゃんを助ける為だけに行くんやろ。なんで僕までついていかなあかんの」 「まだ言うんかえこのアホは……おぉそやのぉ、何ならお前、もうええわ。武器さえ手に入れたらこ
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008 ぷっつん少女直美
  ――なんちゅうええ女や!   憂いを帯びた大きな瞳は、それだけで男を虜にするに十分だった。 「な、なぁ藤原くん、あの哀しそうな眼差し……なんか吸い込まれそうにならへん?」 「お、おぉ……」 二人の視線は直美の体型へと移った。 スポーツジムのインストラクターをしている、無駄のない均整のとれた肉体。それでいて服の上からでも分かる豊満な胸が、女性としての妖艶さを醸し出していた。 黒髪ショートカットの彼女に、坂口がいなければその場で襲い掛かりたくなる様な衝動を二人は覚えた。 「直美ちゃん、久しぶりやないかえ」 そう言って健太郎が、直美の太腿を頬ずりしながらさする。 その時だった。藤原と本田は我が目を疑った。 「な……こ、この変態親父っ……!」 言うか言わないか、直美の憂いを帯びた大きな瞳が吊り上がり、素早くすっとしゃがみ込むと、膝蹴りで健太郎の顎を破壊した。 そして吹っ飛んだ健太郎の上に馬乗りになると、パンチの連打をボディに叩き込み、最後に立ち上がり全体重を乗せたエルボーをみぞおちに叩き込んだ。 「ぐえっ……」 この様を見ていた藤原と本田が、抱き合いながら言った。 「お……恐ろしい子やなぁ藤原くん……」 「お、
last update最終更新日 : 2026-03-08
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009 強行突破
  坂口が住む寝屋川から大阪市内に入る近道は、阪神高速守口線である。 しかしあえて健太郎は迂回し、再び高槻に戻っていた。 それは阪神高速から市内に入ろうとすれば、どうしても一度、わずかな距離であるが市街に出てしまうからであった。 街がどの様な状態か分からない以上、リスクは最小限に抑えたかった。 目的地である藤原の家に行こうとすれば、北からバイパスの新御堂筋を使った方が危険は少ないと健太郎は考えた。  * * * 国道171号線で、一旦車を止めた健太郎が言った。 「第一関門は新御堂筋〈しんみ〉やな」 早朝の肌寒い冷気の中、白い息を吐きながら健太郎が地図を開く。 どうして車にナビがついていないのかと聞いた本田は、既に左目の辺りに青い痣を作っていた。 藤原ほどではないが、健太郎も何でも便利になっていく流れに抵抗感を持っていたのだ。 ボロボロのページを開き、道を指でなぞる。 「ここには恐らく機動隊か、ないしは自衛隊がおるはずや。よそん所よりも抵抗が強いかも知らんが、そやけどここを突破するんが一番早いからな。一気に突破したろやないか」 「強行突破か」 「そや。ちょっと危険かも知らんけどな……最悪銃撃戦も覚悟しとかなあかん。迂回して市街に入って、無駄に石像と接触するんは避けたいからな。気合入れて行こやないか。そやけど、市内から外に出ようとするやつらには警察も目の色変えよるやろうけど、入っていく分にはそない大した抵抗はないかも知らん。ほんで一気に突っ走って東三国、ここで降りる。
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